NONFIX過去放送した番組

「噂の真相」という雑誌をご存知ですか?
「人はそれをスキャンダル雑誌という」
こんなサブタイトルのもとに1979年に創刊された月刊誌です。
胡散臭そうな表紙、粗末なわら半紙っぽいページ、あぶないイラスト、盗撮風なグラビア。
中身も、有名人の下半身ゴシップ記事から政治家や官僚のスキャンダル記事、果ては皇室ものまで他の雑誌が絶対扱わないような危険な内容であふれています。
ブラックジャーナリズムだのカストリ雑誌だの噂の貧相などと、散々な陰口をたたかれるのもわかる気がします。
にもかかわらず「噂の真相」は公称20万部と、日本ではあの文藝春秋に次ぐ売り上げを誇っていました。が、この3月発売の4月号をもって休刊。25年の歴史に終止符が打たれました。
このような怪しげな雑誌を一体どんな人たちが、どのような考えで、どうやって作り上げているのでしょうか。こんな興味を持って私たちは編集部に潜入して、休刊までの日々を追いかけてみることにしました。

編集長は岡留安則さん、56歳。
他に類を見ないハードな雑誌を最初から最後まで作り続けた名物編集長です。
彼は、団塊の世代のまっただ中で育ち、学生時代は安保闘争に明け暮れた闘士でした。
「反権力、反権威」という看板を掲げて32歳で「噂の真相」を立ち上げ、その思想を崩さずに今日に至りました。彼のもとに集まった編集部員、記者はたったの7人。平均年齢も35歳という若さです。女子大生にしかみえないかわいい女性もいました。
2月の初め、「噂の真相」最終号の編集会議。スタッフからネタが出されます。
芸能人のゴシップや、有名作家の盗作疑惑など、裏付けもないような興味本位なネタばかり。
本当にこんなものを記事にしていいのでしょうか。
ただし、ネタの対象は公人、つまり政治家や官僚、役人など、そしてみなし公人(岡留さんの造語)早い話が芸能人や文化人などの有名人、に限るということ。
しかし興味本位とはいえ、この姿勢が重要な意味を持ってくることもあるのです。
以前「噂の真相」がスクープした東京高検検事長の愛人スキャンダルは、後に大手メディアも取り上げ大事件に発展しました。権力者が果たして権力者としての資質を持っているのか。スキャンダル取材を武器として、権力を監視する役割を「噂の真相」も担っていたのです。
実は、「噂の真相」の執筆者には大手新聞社の現役記者もいるんですよ。自分のメディアではとても書けないようなルポを堂々と書けるタブーなき雑誌だから、ということです。
ところで、清濁併せ持った編集方針は大きなリスクも抱えていました。
毎月のように届けられる抗議書類や内容証明の山。ときには民族主義団体の暴力に会うこともありました。もちろん裁判で係争中のものもたくさんあります。大手メディアが綿密な取材による正確な情報を元に記事を作るのに対し、「噂の真相」は二次情報や単なる噂レベルの話をそのまま記事にしてしまう・・・多くの批判も仕方のないことかもしれません。
ある日長野県知事の田中康夫さんが編集部を訪ねてきました。
自らの日常を赤裸々に暴露するペログリ日記を連載していた田中さん、「やってることは、噂の真相も長野県政も同じ……やましいことがあるから書かれるんだ」と意気軒昂。

2月中旬、最終号に向けての編集作業が滞っています。
岡留さんが、なかなかネタにゴーを出さないからです。
副編集長の川端さんは、実際に取材から執筆、編集までほとんどの実務を統括する、いわば岡留さんの右腕です。「20年以上ずっと危険な記事をびくびくしながら書いてきた」と言います。
裁判沙汰になれば弁護士と裁判対策もこまめにやらなければなりません。
「もう疲れた、人間が壊れているかも」とも言います。
そんな中でも岡留編集長はマイペース。独身の彼の日課は、夕方の5時に出社。新聞に目を通したり、記事のチェックや選別など少し仕事をして、それから会社の近所にある新宿ゴールデン街に繰り出します。
ここは岡留さんの原点ともいうべき場所です。ゴールデン街歴30年!毎夜この街に通うことで積み上げられた彼の膨大な人脈は、「噂の真相」の貴重な情報源でもあるのです。

最終号のネタが漸く固まってきました。有名芸能人の下半身スキャンダル、今が旬の美人作家のゴシップ、そして川端副編集長が執念を燃やす検察関係のスクープなど、ラスト噂の真相にふさわしいラインナップになりそうです。
編集部にアラーキーこと荒木経惟さんがやってきました。追悼別冊号に載せる編集部の写真を撮りに来たのです。彼も長年写真日記を連載していた噂真戦士の一人です。
「寂しくなるな……」

「噂の真相」休刊号が店頭に並んで間もなく、
新聞に「週刊文春出版停止仮処分」の文字が大きく踊っていました。
日本の保守化傾向が進む中、「噂の真相」という一冊の過激なスキャンダル雑誌が消えていきました。