佐々木恭子アナのスペシャルコラム
2008年世界難民の日記念シンポジウム「難民-ひとりひとりのドラマ/Refugees-TheHumanSide」に参加して
[2008年7月1日更新分]
佐々木恭子アナ スペシャルコラム
UNHCR駐日事務所スペシャル・サポーターの菊川玲さんやデモ君(ミャンマー難民)やベシアナちゃん(コソヴォ国内避難民TBC)も参加しました。
© 日本UNHCR協会
6月21日、難民シンポジウムに参加してきました。(6月20日は「世界難民の日」だそうです。)きっかけは、素敵な女性との出会いから。ガイアナ取材の前、現地で働いている日本人にコンタクトできないかどうか探しあぐねていたところ、日本UNHCR協会・事務局長の根本かおるさんをご紹介いただきました。
根本さんは、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の国内委員会の方で、ご自身も難民支援の最前線に携わっていたパワフルウーマンです。結局、ガイアナとは現在、難民の問題としては関わりがないということだったのですが、「今後、情報交換しましょう!」ということで、今回のシンポジウムもお声がけしてくださったのです。
これまでチャリティキャンペーンの支援国取材で貧困の現場を見てきたといっても、いわゆる難民キャンプなどの取材をしたことはありません。「何を語ればいいんだろう?」最初は不安だったものの、メディアの一員として話す機会を頂いたのは、とっても有意義な時間でした。
今回のシンポジウムのテーマは、「ひとりのひとりのストーリー」。「集団」、「個」として難民を見るのではなく、ひとりひとりの背景を知ってこそ、共感できる何かが生まれる。その通りだと思います。ドキュメンタリーを作るときも、それは鉄則ですから。今現在、世界には3000万人超の難民がいると聞いても、その数字の重さはよくわからない。やはり、誰かの顔が見えて、その人の思いを知ってこそ、問題として身近に感じられると思うのです。
緒方貞子氏、菊川怜さん、ミャンマーの難民で現在はファッションデザイナーとして活躍する渋谷ザニーさん、その他、NGO関係者の方々など、4時間半にわたってお話を聞きながら、胸に響く言葉、姿にたくさん出会いました。
中でも渋谷ザニーさんは、お父様が日本に亡命したのを機に、8歳で日本に難民としてやって来たそうです。まだ20代の若いザニーさんが語る言葉には胸打たれました。
「僕たちの家族の願いはただ一つ、一緒に住むこと、それだけでした。だから、幸運にも日本で暮らせることになったとき、ミャンマーに残された他の人たちの辛さを思うと、自分たちは一緒に暮らせるだけで十分だと思いました。自由のないミャンマーで生き続けなくてはいけない当事者たちが1番辛いのですから。どうぞ皆さん、世界の現実に目を向けてください。自分の家族、身の周りが一番大変なんだという方の気持ちもよくわかります。でも、世界を通して自分を見つけてください。自分はどこにポジションがあるのか、見つめてください。そうすれば、今、日本に住んでいる私たちが、自分の横にいる家族、友達にもう少し優しくなれるかもしれません。」
さらに、コソボ難民として大やけどを負い、顔も頭皮もケロイド状態になったベシアナちゃんの願いは、「髪を伸ばしてカールさせたい」それだけなのだという話も、NGOの方から聞きました。
家族と住みたい、女の子だから少しおしゃれをしたい。その思いは普遍です。個人のストーリー、思いを聞くと、遠い国で暮らす誰かも、置かれている状況は違えど、きっとわかり合えところがあると思えます。
© 日本UNHCR協会
では、個々のストーリーをどう発信するか。
私が参加させていただいたパネルディスカッションでは、メディア関係者、NGO関係者とともに、そういった議題で話し合いました。
私にとっておもしろかったのは、難民の問題を伝えるうえで大事なキーワードとして聞いた、「多様性・寛容性・共感」といった言葉です。だって、これって、まさに日本で熱心にHIVの啓蒙活動をしているゲイのリーダーが教えてくれた言葉だったのですから。人にはいろいろな事情があるという多様さ、その事情を受け入れる寛容さ、思いへの共感。
大学時代、一つのテーマを掘り下げると、どこから掘ったとしても、地下水脈はつながっているんだよ、と教えてくれた先生がいました。今になって、ようやくその意味がわかったような気がします。
難民もHIVも、特別視する必要はないんだとつくづく思います。みんな、生きる中で何かそれぞれ荷物を抱えている。体の病気、心の病気、介護、家族のこと・・・。その中で、普通に、同列で語れるようになるのがいいのではないかと。
きっと、どこか共感できることは、それぞれにあるはずですものね。難民だって、アフリカやヨーロッパの遠い国の話ではなくて、日本が諸外国に比べて、何故難民受け入れが少ないのか、足元からも考えていけるんだと思います。
ひとりひとりのストーリーを、どう自分のストーリーに引き寄せて考えていけるか。これまでも、これからも、私にとっては大きな課題です。試行錯誤していかなくてはっ!
文:佐々木恭子(フジテレビアナウンサー)