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『高次脳機能障害』をご存知ですか…?映画『ガチ☆ボーイ』製作の舞台裏

[2008年3月3日更新分]

織田雅彦(フジテレビ映画制作部プロデューサー) 緊急コラム

皆さんは「高次脳機能障害」という言葉をご存知ですか…?
事故や脳血管疾患で脳にダメージを受けたことによって、記憶、思考、注意力、言語といった知的な機能(高次脳機能)に支障をきたす障害のことを言います。約30万人がこの障害を抱えて生活していると推定されていますが、まだ社会的な認知も低く、正確な数字の把握すら出来ていないのが現状です。また外見からは障害が分かりにくいため(極端な場合は自分で自覚がないまま)、周囲から理解されず(例えば記憶障害の場合、重要な約束をすっぽかしてもまったく悪びれていない様子などを誤解されて)職場やコミュニティで孤立していくケースが多いと言います。




今回制作にあたった映画『ガチ☆ボーイ』は、事故でこの「高次脳機能障害」を負った主人公の大学生が、一晩寝ると翌朝には前日あったことをすべて忘れてしまうという設定になっています。そんな自分に絶望して生きる望みを失いかけていたが、学生プロレスと出会い、アタマでの記憶を失った代わりに、カラダに刻み込まれた傷やアザ、そして筋肉痛、仲間と繰り返し練習した数々の技をカラダが無意識に覚えていることに希望を見出し、生きる喜びを取り戻していくというストーリーです。

脚本制作段階から、意識したこととしては、上記のような設定を含めた障害の描き方が、この障害を負っている当事者やその家族、そして周辺の人を含めてこの障害を良く知る人が見てもスムーズに受け入れられるものであるかどうかということです。

またもう一つ意識したこととしては、障害そのものや、当事者を必要以上に暗く描きすぎないということです。これは個人的なこだわりもあるのですが、以前ドキュメンタリーの分野で仕事をしていたとき、障害者の家族から言われたある一言が、いまだに心に残っているからです。

「障害をことさら重苦しく、そして美化して描かないで下さい」
取材をする側の我々は、つい障害が困難にぶつかり苦闘する様にドラマ性を感じ、必要以上にその様を美化して描きがちです。しかし障害を持つ本人やその家族の日常は、われわれと同じように些細なことで喜び、笑い、怒り、悲しむことで成り立っています。その中のほんの一部分が、障害を負っていることで違うやり方だったり、ちょっぴり不便で工夫が必要だったり…。生活の大部分は障害を意識せずに暮らしているのにもかかわらず、生活そのものに大きな影を落としているように見えてしまうドキュメンタリーが以前は多く見受けられましたが、今ではその描き方も実に多様になってきています。

もちろんこの映画はドキュメンタリーではなくエンターテインメントのソフトなので、娯楽作品として楽しめることは第一優先として考えるのは当然ですが、こういったこだわりもあって、作品全体の雰囲気を明るい笑いに包まれた楽しい青春群像劇にしたかったのです。

しかし映画が公開されて、この障害を知らない多くの人に、もし誤解や偏見を与えるとしたら、それは作品のリアリティという面だけでなく、ソフト制作の倫理という点でも失格ということになります。

この障害を抱えながら前向きに生きる、アスリートの石井雅史さん(35)にこの映画を観てもらうということは、我々のこれまでの映画作りの方向性が正しかったのか、それとも間違っていたのかが分かるだけに、緊張する瞬間でした。

石井雅史さんは幼い頃から自転車が大好きで、高校卒業後は競輪選手に。デビュー2戦目早くも勝利を挙げるなど将来を有望視される選手だった。しかし2001年7月、一般道で練習中に自動車と正面衝突、なかなか意識が戻らず死の淵を彷徨った。当時、婚約してわずか一週間だった妻の智子さんは、婚約者のあまりにひどい姿に、言葉を失った。

リハビリを繰り返し、杖の力を借りてようやく歩けるようになった。しかし事故以前の記憶がしっかりしているにもかかわらず、事故以後の記憶は、曖昧で自分に起きたことなのか、いつ起きたことなのか、実感が持てないままだった。

診断は「高次脳機能障害」。記憶が曖昧なだけでなく、集中力もなく、何事もやる気が起きない。自分の一生はこのまま、暗闇のトンネルがずっと続くのかと思うと、どんどん暗くなっていった。

そんなとき、ふと目にした自転車。足に障害が残り、歩くときは杖を手放せない。平衡感覚も以前のようには戻らないままなのだが、自転車に触っただけで落ち着く。思い切って主治医に相談をしてみると、いくつかの条件がつきながらもOKが出た。

事故後初めて自転車に乗ったときは、何もかも忘れて夢中になってペダルを漕いだ。アタマの記憶は曖昧かもしれないけど、カラダは覚えている。ここから彼の奇跡は始まった。リハビリの効果も上がり、記憶力も良くなってきた。足りない記憶を様々な方法で補うことも出来た。なによりも生きる張り合いが違う。明るくなり、何事にも前向きに取り組むことが出来た。

高校時代や競輪選手時代の仲間に支えられながら、2006年から障害者自転車競技に出場し始めた。日本記録を更新し世界選手権に出場した。2007年の大会では金メダルを獲得した。世界記録だった。何よりもすごいのは、その記録は競輪選手時代を上回るものだった。 石井雅史、35歳。北京パラリンピックの金メダル最有力候補である。

試写には、石井さんご本人と妻の智子さんが、足を運んでくれました。
上映前、パンフレットなどで知った映画の内容は「まるで自分のことのようだ」と言っていた石井さん。上映が始まると、明るい場面では笑い、そして隣の智子さんと目を合わせ、そしてまた笑い、終盤のクライマックスでは、何度も涙をぬぐう姿が印象的でした。

上映終了後、映画のメガホンをとった小泉徳宏監督(27)と対面してもらいました。石井さんは監督が余りに若いので驚いた様子でしたが、すぐに打ち解けて、率直な感想を述べてくれました。
「メモを持ってバスに乗り、電車に乗るシーンを見て、リハビリに通っていた頃のことを思い出しました」石井さんが言うと「メモをなくして約束をすっぽかすとこなんか、少し前の主人を見るようです」と奥さんも相槌を打ちます。思っていた通り、主人公がまるで自分のことのようだったこと。カラダが覚えている記憶によって自分も目覚めたこと。映画から元気をもらったこと。気持ちよく帰ることが出来ますと…話は尽きません。

そして最後に、この障害を抱えている人はもちろんですが、一人でも多くの人にこの映画を見て欲しい。面白かったですからね、と言ってくれたときは、本当にうれしくて涙が出そうでした。

もちろん、石井さんと智子さんが作品に共感してくれたからといって、障害を持つ人すべてが、その家族すべてが満足してくれるとは限りません。石井さんは、この障害が少しでも社会に知られるように、少しでも理解が進むようにと積極的に様々な取材を受けてくれています。この障害を題材にした映画が出来るということだけで、少し我々に優しい見方をしてくれているのかもしれません。
面白かったかどうかというエンターテインメントの面も含めて、今後も様々な人の意見に耳を傾けていきたいと思います。

なお、石井さんが試写に訪れたときの様子は「映画『ガチ☆ボーイ』メイキングスペシャル~「物語」と「現実」が交わる瞬間」で放送されます。フジテレビでは3月8日(土)午後2時30分~午後3時放送が予定されています。FNS各局等でも放送されますが、放送日時、時間に関しましては、お手数ですがFNS各局のホームページ等でご確認下さい。
また『とくダネ!』2月28日(木)の放送でも一部紹介されました。

文:フジテレビ映画制作部プロデューサー 織田雅彦

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