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LIVE2007ニュースJAPAN (月曜~木曜23時30分~23時55分 金曜23時58分~24時23分放送)

[2007年9月3日更新分]

岩澤倫彦ディレクター(フジテレビ報道センター所属)緊急コラム


市立札幌病院・救命救急センター
夜明け前、救命救急センターに搬送されてきた患者は、激しく後頭部を損傷していた。おびただしい量の出血。瞳孔は開き、意識は全くない。バイタルサインは危険領域に入っている。緊急手術で頭蓋骨を円形状に切開すると、ダメージを受けた脳がまるで風船を膨らますように盛り上がってきた…。

この修羅場を撮影しながら、まず助からないだろうと僕は感じていました。しかし、一ヶ月後に患者は歩いて退院していったのです。人間の生命力は想像を超えていました。

小型のビデオカメラを持って市立札幌病院・救命救急センターに密着取材したのは、今年5月。取材中に脳死状態になった患者がいました。人工呼吸器によって、ゆっくりと上下する胸の動き。その姿は、ただ深く眠っているとしか見えません。しかし、現代の医学では脳死状態からの回復はない、とされています。もし家族が脳死状態になったら、臓器提供について自分はどのような判断を出すのだろう…。生と死が交錯する現場で戸惑いながら、僕は救命救急医・鹿野恒さんの仕事を追いました。

救命救急センターと臓器移植。あまり知られていませんが、この二つは密接に結びついています。ドナーとなる人は、救命救急センターで最期を迎える場合が多いからです。鹿野医師は数年前から、亡くなった患者の家族に対して臓器移植に対する意思を必ず確認するようにしています。そのうち臓器提供に至った患者は7割。実は一部の救命救急の現場では、臓器提供の意思確認をタブー視する風潮があります。そのなかで、なぜ鹿野医師は従来の慣習を打破できたのでしょうか?


救命救急医・鹿野恒さん
「22.2%」、これは市立札幌病院における心停止患者の生存率です。全国平均「7.1%」に対して約3倍。これは『脳低温療法』と『PCPS(人工心肺装置)』による蘇生技術の高さによるものです。「最高水準の徹底した救命医療を行っているからこそ、患者家族が納得できる説明が可能なのです」と語る、鹿野医師。

いっぽう、全国の救命救急センター(201施設を対象)に行った番組の独自調査では、『脳低温療法』を実施していると回答したのは57%、『PCPS』は63%。ここから浮かび上がってくるのは、深刻な医療格差です。つまり不測の事故に遭った場合、搬送された救命救急センターが『脳低温療法』を実施していないために死を迎える、という事態が起こりえるのです。この結果、臓器提供の意思を確認されたとしても、納得した結論を出せるのか疑問です。

高額な募金による渡航移植、フィリピンで実質的な臓器売買を行う日本人、そして『病気腎移植』。臓器移植をめぐる問題の根底には、現在の臓器移植法に問題があるとする意見が強まっています。国会も法改正に向けて動き出しました。与党から二つの改正案が提出され、次の国会で審議入りする見込みです。主なテーマは、『家族同意のみで脳死ドナーを可能にする』と『脳死ドナーの年齢制限を撤廃』。これに対して、生命倫理学者や患者団体、障害者団体から強い懸念が示されています。

いま、法改正だけに議論が集中している臓器移植。そして、移植を望む患者側のみが注目される風潮。しかし、最も重要な鍵を握っているのは、死を迎える患者と家族に向き合う救命救急の現場なのかもしれません。

文:岩澤倫彦(フジテレビ報道センター所属 ディレクター)

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