希望の光・・・
ユニセフ・ミャンマー事務所代表 ファン・アギラール さん
 息子のザ・ユを足元で遊ばせながら、カイ・カイは、山のせせらぎから届く、水晶のように澄みきった水でバケツをいっぱいにします。以前のカイ・カイなら、水を汲むために小川まで歩いて行かなければならず、それは一日に2時間もかかる大仕事でしたが、今は、外で激しいモンスーンの雨に打たれることもなく、ぬくもりのある家の中で過ごすことができます。カイ・カイの村では、ついこの間、竹のパイプを使った重力流式の給水システムができ、小川の水を村へ引き込めるようになったのです。

 FNSチャリティキャンペーンによる日本の皆様のご支援のおかげで、カイ・カイの暮らしは、この2年間でずいぶんと良くなりました。カイ・カイの夫は、近所の人たちと協力して、竹や、森から取れる様々な材料を使って、すぐ近くにトイレを建てました。それからというもの、皆は昨年までのようにひんぱんに病気にかかることがなくなりました。トイレができたおかげで、カイ・カイの家族も家の中や家のまわりの衛生水準をそれまでよりもずっと高めることができたのです。
 カイ・カイは今、妊娠8カ月で、赤ちゃんが生まれるのを楽しみにしています。次は女の子がいいな、と思っていますが、今度のお産は、前の時よりもずっと楽なはずです。基礎保健の訓練を受けた「補助看護助産婦」という新しい保健員が、新品の医療品がいっぱいに詰まった鞄を抱えて、村にやってきたのです。訓練は、FNSチャリティキャンペーンからの寄付を資金として、政府とユニセフの指導のもとに行われたものです。そしてこの保健員は、カイ・カイの学校時代の友だちです。彼女が出産を助けてくれれば、愛情以外には医療器具も何も持っていないお姑さんや叔母さんに付き添ってもらうよりは、はるかに心強いでしょう。前のお産の時、カイ・カイは息子のザ・ユともども、危うく命を落とすところでした。地元の保健センターは、一番近い所でも歩いて半日はかかりました。カイ・カイは、ガタガタのひどい道を、夫が借りてきた荷車の後ろに乗せられて保健センターに向ったのでした。出産費用の支払いには何カ月もかかりましたが、それでも、生きて帰って来られただけ、幸いなことでした。
 このような話は、ミャンマーの僻地にある国境地域では、幾度となく繰り返されてきました。FNSのご支援で、ユニセフは、険しい山脈に囲まれ、情報網やインフラから隔絶された村々に暮す、何千もの人々の生活の改善に取り組んできました。このような地域では、出産時の母子の死亡率は、ミャンマーの都市部よりもはるかに高いのです。このような地域に暮す人々は、とても貧しく、教育も満足に受けられません。医療施設は、大抵、ぼろぼろの掘っ建て小屋も同然で、医療物資もほとんどなく、モンスーンの時期には浸水するような有り様です。十分な訓練を受けた医療スタッフも不足していて、一人が数多くの村をかけもちしなければならないので、いつも手薄で、いざという時に間に合わないことさえあります。更に悪いことに、村の水源はとても遠くにあり、しかもその水は不衛生で、病気を伝染させ、時にはマラリア蚊のすみかになるのです。

 その結果として、下痢や肺炎、マラリアや栄養不良が、特に幼い子どもに非常に多く見られます。僻地の多くでは、出産前の専門的なケアは皆無に等しく、出産時にも、専門的な訓練を受けたことのない、昔ながらの付添婦が付き添うだけです。そのため、出産には危険が伴い、難産になることも非常に多いのです。
 カイ・カイの住むカヤ州のような所では、ユニセフは地域社会と協力して、自分たちの健康のニーズについてよく調べること、知識に基づいて判断を下すこと、そして積極的に改善のための行動を起こすことなどを家庭に指導しています。もしもFNSチャリティキャンペーンのご支援がなければ、カイ・カイの夫はトイレの建て方を知らなかったでしょうし、友だちも基礎保健や助産婦の訓練を受けられなかったでしょう。そして、カイ・カイ自身も、8カ月のお腹を抱え、今だに何キロもの道を歩いて、水を汲みに行っていたに違いありません。

 ユニセフは、状況がより悪い国境地帯全域で、多くのイニシアチブに焦点をしぼって、そこに暮す人々の生活を改善するための支援をしてきました。補助看護助産婦420名の訓練の他にも、基礎保健に必要な医療資材を100の地元保健センターと、400の支所に供給しましたし、予防接種キャンペーンを27の町で実施し、1997年だけでも、3歳以下の子ども4万人を、結核、ジフテリア、百日咳、破傷風、はしか、ポリオから守ることができました。また、妊娠出産年齢の女性9万3千人以上に対しても、破傷風の予防接種を行いました。キャンペーンは、1998年には更に、その他の21の町にも拡大され、同様の結果を得ることができました。
マラリアは、ミャンマーでは人々の命を奪う最も危険な病気とされています。ですからユニセフは、マラリアによる被害が最も大きい地域の一つであるにも関わらず、これまで何の対策も支援も得られなかったカヤ州に対して、マラリアの予防・管理計画を立てました。まもなく、カイ・カイのような女性たちには、殺虫剤を染み込ませた蚊帳が支給され、その使い方を習い、自分自身や家族を病気から守る術を身につけることでしょう。医療施設には、診断や治療に役立つ薬品や顕微鏡がやってくるでしょう。

 カイ・カイの夫は、村で行われたデモンストレーションに参加して、トイレの建て方を知りました。FNSチャリティキャンペーンからの資金のおかげで、3つの州に住む人々が、衛生の改善や、水源の守り方、トイレの建設方法などについて学ぶことができました。他の村でも、カイ・カイの暮らしを改善してくれたものと同じ、重力流式給水システムが設置されることになっています。
以上のような活動はすべて、国境地帯全域にわたって行われた調査に基づいています。この調査も、FNSチャリティキャンペーンを通じて、日本の皆様からご支援いただいた資金を当てさせていただき、実現したものです。活動には、その対象となる地域の地元NGOも協力しています。なぜなら、地元のNGOは、そこに暮す人々の信頼を得ているからです。信頼関係は、かつて国境地帯の民族グループと中央政府との対立に苦しんだ、ミャンマーのような国では、なくてはならないものなのです。

 1998年度のFNSチャリティキャンペーンで集められたご寄付はこれから、様々な分野のユニセフ活動に利用されてゆくでしょう。保健の分野では、基礎保健の訓練を行い、更に200名の補助看護助産婦を育成します。地元のNGOの協力を得て、地域住民の参加を促し、集団的な鉄分補給キャンペーンにも着手します。マラリア予防や殺虫剤付蚊帳の使用を推進し、国境地域全域で、清潔な環境を保つための活動や、「全国衛生週間」なども実施する予定です。今後、ユニセフはカイ・カイのような家族の栄養、あるいは教育の状態を改善するためのプログラムを立案し、子ども“全体”に焦点を当てた活動を進めてゆきます。
子どもはミャンマーの未来であり、ミャンマーの真の「宝石」です。日本の皆様や”チャリティキャンペーンの皆様は、ミャンマーの僻地の子どもたちとその家族の自尊心を高め、尊厳を保ち、また、希望を与える上で非常に重要な役割を果たしてこられました。私どもは、皆様方に心より感謝申し上げますとともに、これまでの成果を誇りにされ、今後ともユニセフを通じ、ミャンマーの子どもや女性に「希望の光」をお与えくださいますよう、心よりお願い申し上げます。

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