あらすじ
<第4回> <第5回>

<第4回> 「一本饂飩(うどん)」
 火付盗賊改め同心木村忠吾(尾美としのり)が豊島屋で、一本うどんと呼ばれる名物の太打ち盛りうどんで軽く一杯やっているところに、総髪の巨漢寺内武兵衛(石橋蓮司)が入ってくる。この店は初めてという武兵衛に忠吾は一本うどんを勧め、あれこれこれ話しかける。
 そこへ与市(山西惇)という男が後から来て、「由井屋の方は」と言いかける。はっと目配せをする武兵衛。のんびりしているようで忠吾も鋭い。「通りがかりに入った店になぜ後から人が来るのか。それに由井屋といえば評判の大店」と武兵衛を問い詰める。
 それがいけなかった。ホロ酔いで店を出た忠吾は、何者かに棍棒で殴られて気絶する。武兵衛は盗賊。与市はその手下で、この二人は男色関係にあった。
 忠吾は小舟で運ばれ、大川に近い一味の隠れ家の穴蔵に投げ込まれた。なぜこんなことになったのか分からない忠吾に一味の一人が、「お頭はお前に惚れた」と言い、与市は嫉妬の目で見る。自分が男色の餌食になると想像して愕然とする忠吾である。
 その日忠吾は、長谷川平蔵(中村吉右衛門)に誘われてうまい鮑をご馳走になることになっていた。食いしん坊の忠吾が忘れる訳がない。翌朝になっても帰らない忠吾に平蔵は「何かあった」と直感。全力で探すように部下に命じた。
 穴蔵の忠吾は、何とか突破口を開こうと必死だ。「自分は盗賊で、それも大物のお頭たちとの間をつなぐ裏稼業だ」と言って、有名な盗賊の名前を次々とあげたりするが、うまくゆかない。最後には、ともかく穴蔵の中に人がいることを示そうと、褌をはずして蔵の窓から外に出すが、落ちて川を流れて行ってしまう。
 哀れ忠吾の褌は、まるで一本うどんのように水面を流れた。それを見た人々は、「褌の川流れだ」と言って笑った。それが忠吾の命を救ったのである。
 平蔵は部下の同心、密偵たちに忠吾の足取りを徹底して探るように命じていた。相模の彦十(江戸家猫八)は、おまさ(梶芽衣子)から、大川のほとりで長いうどんのような褌が流れたという話を聞いて、忠吾がよく行っていた豊島屋のことを思い出した。店を訪ねると、忠吾が行方不明になった日にも来ていたことが分かった。
 どんなに小さな手がかりでもたぐろうという平蔵の方針で、店で忠吾と話していた男、つまり武兵衛のことを探し始めた。豊島屋で働くお静(酒井雅代)を連れて歩き回り、ついに武兵衛のその家と素性を割り出した。仕事は算法者、今でいう経理士だ。平蔵は武兵衛が、大店の帳簿を見ながら押し込みに入る準備をしていると見た。
 しかし、それだけでは武兵衛を捕らえることは出来ない。一計を案じた平蔵は、おまさにお静の格好をさせて、武兵衛の家の前に張り込ませる。出て来た武兵衛と与市を尾行すると、二人は豊島屋の女がつけて来たと思い、おまさをつかまえる。それこそ後ろ暗いことをしている証拠。平蔵が姿を現わして名乗り、斬り合いの末武兵衛を倒した。
 こうして忠吾は助け出された。ただ、助けられた時に褌をしていなかったことで、さんざん仲間にからかわれたが。

<第5回> 「闇の果て」
 大川を小舟で行く密偵の小房の粂八(蟹江敬三)と伊三次(三浦浩一)は、下ってくる舟の中に知り合いの浪人藤田彦七(船越英一郎)がいるのを見て声をかけた。
しかし粂八はその舟に、左の目に眼帯をかけた大男、渡辺八郎(岡崎二朗)がいるのを見て顔をそむけた。渡辺は冷酷で凶悪な盗賊だった。
 彦七は、神田の裕福な袋物問屋和泉屋に手習いの出稽古をして生計を立てていた。そのことを聞いた長谷川平蔵(中村吉右衛門)は、渡辺が彦七を使って和泉屋に押し込む計画だと確信し、厳しい顔になった。
 彦七にはおりつ(野村真美)という女房がいて、お弓(池本愛彩)という十歳の娘もいた。だがおりつは貧しさを嫌って男と上方へ逃げた。彦七はおみね(井上ユカリ)という後妻をもらったが、そのおりつが再び戻ってきた。おりつの体が忘れられない彦七は、吉兵衛(桶浦勉)という男に紹介された家でおりつを抱いた。
 そこに渡辺が屈強な浪人たちを連れて現れ、おりつを連れ去った。残った彦七も、渡辺が舟に乗せてどこかへ連れて行った。粂八と伊三次が会ったのはその途中だったのだ。  その後、彦七は十日ほど行方不明になった。粂八はお弓から、彦七が再びおりつと会っていることを知らされた。お弓は実の母だがおりつを嫌い、おみねになついていた。ある日、彦七は突然おみねとお弓が待つ家に戻って来た。
 粂八は彦七を船宿「鶴や」に呼び、もてなした。「鶴や」には隠し部屋があり、中から平蔵が様子をうかがっていた。行方不明になった理由は語らないまま彦七は、生活のために再び和泉屋で手習いの稽古が出来るよう取りなして貰いたいと、粂八に頼んだ。
 平蔵は、彦七がおりつのことで渡辺に弱みを握られ、和泉屋への引き込み役を強要されていると見た。和泉屋の主人は碁が好きで、彦七と碁を打つのを楽しみにしていたことから、彦七の復帰は叶った。和泉屋の近くに盗賊改めの見張り所が設けられ、同心たちが監視を始めた。
 夜更け。和泉屋の前に屋台のそば屋。そば屋は渡辺配下の吉兵衛である。和泉屋から彦七が出て来る。吉兵衛は彦七に、和泉屋の絵図面を渡し、次の稽古日の夜くぐり戸の桟を外しておけば、おりつを返し、五十両の報酬を出すと言う。
 翌朝、吉兵衛を尾行した同心は、人家もまばらな川沿いの新開地にある一味の隠れ家を突き止めた。隠れ家には、おりつもいた。監禁されているわけではなく、渡辺と同じ部屋に。おりつは上方にいる時から渡辺の女になっていたのだ。
 平蔵は一味を捕らえる機会をうかがったが、気になるのは彦七のことだった。人が良くて気の小さな男に限って、時に思いもよらないことをするからだ。その予感は的中した。
 思い詰めた彦七は粂八を訪ねて、二十五両の金とお弓のために買ったかんざしを託し、自分は旅に出ると言った。二十五両は絵図面を渡した半金だった。
 彦七は単身隠れ家に行き、油をまき火を放つ。燃える上がる炎の中に渡辺とおりつの姿があった。彦七を見たおりつは「逃げて」と言って、自分は炎の中に飛び込む。渡辺が彦七を斬った。そこに平蔵以下盗賊改めが到着し、平蔵が渡辺を一刀のもとに斬り伏せた。
 「あそこで死ぬのが、藤田彦七の運命だった」と言う平蔵は、自分の金も加えて四十両をおみねとお弓に渡した。


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