君が想い出になる前に
#1 消えてゆく愛
CM撮影現場で、きびきびと働くスタイリストの佐伯奈緒(観月ありさ)。やりがいのある仕事をてきぱきとこなし職場の仲間からの信頼も厚い奈緒は、充実した毎日を送っていた。奈緒は、仕事終わりに職場に迎えに来てくれた広告代理店で働く恋人の結城和也(玉山鉄二)と2人で自宅でのんびりと食事をしていた。奈緒の住む自宅は、姉、美穂(森口瑤子)夫婦の持ち物。3年前から海外に転勤になった姉の家族が帰ってくるまでの間、留守番も兼ねてただで住まわせてもらっていたのだ。その夫婦がいよいよ帰ってくる。
奈緒にとって姉の美穂は、一番の理解者だった。一流大学を出て大手の商社に勤務、9年前に職場の上司と結婚し、かわいい息子もいる。「順風満帆っていうのはお姉ちゃんみたいな人生のことを言うんだろうなあ」。ただ、義兄の光彦(椎名桔平)のことはあまり知らなかった。結婚式で会ったきりなのだ。
「もうすぐ出なくちゃいけないんだろ」和也がマンションのパンフレットを取り出した。「えーっ。広すぎるよ…和也まさかこれって…。」和也を見る奈緒。「2人の家のつもりなんだけど」これを期に結婚しようというのだ。その日は奈緒にとって最高の日になった。
翌朝、風邪をひいた様子の和也に奈緒が温かいコップを差し出した。「蜂蜜ミルク。風邪気味のときお姉ちゃんがよく作ってくれたの。」そのとき、突然電話が鳴った。
「…お姉ちゃんが…嘘…。」突然の訃報だった。
空港に向かった奈緒と和也に対応してくれたのは、義兄が働く伍代物産の阿久津順子(木村多江)。3人はドライブ中に立ち寄ったドライブインで物取り目的の強盗に襲われたらしい。姉は銃で撃たれて即死だったという。夫の光彦は意識不明の重体、ちょうどそのとき現場から離れていた息子の祐輔(広田亮平)は難を逃れて無事だった。
頭に包帯を巻いた光彦が空港から息子の手を引いて出てきた。もう一方の手には遺骨を抱えて。しかしどことなくうつろな瞳…。「襲われたときのショックで、何も覚えていないんです。」順子は無表情に説明した。
奈緒は2人をマンションに連れて行った。姉と義兄が過ごしてきた思い出のマンション。息子のことすら思い出せない光彦だが、ここに帰ってくれば、何か思い出すかもしれない。「あなたが住んでいた家です。覚えてませんか。」しかし光彦は何も思い出せない。奈緒はそんな光彦に対して、辛く当たってしまう。「記憶がないからってそれが何だっていうのよ。あなた生きてるじゃない…。」「すいません」うつむく光彦。「わかってる。あなたのせいじゃない。」奈緒はその場を立ち去ってしまう。
奈緒の父、佐伯正治郎(小野武彦)が上京してきた。「俺は最初からお前なんかとの結婚には反対だったんだ! 転勤の話だって、こっちに何の相談もなく美穂たちを連れて行きやがって! お前と一緒にならなければ美穂がこんな目にあうことは…。」正治郎は、孫である祐輔を自分の家、山梨に引き取ると言い出した。
奈緒の仕事のピンチヒッターとして、富田ちひろ(加藤あい)に仕事が回ってきた。
しかし素直には喜べないちひろ。彼女は和也に淡い思いを抱いていた。
美穂の葬儀の日。大勢の弔問客と花で囲まれた立派な祭壇。会社が仕切る葬儀なのだが、規模の大きさに光彦の会社での立場がうかがい知れた。そして喪主として光彦が挨拶をする。たどたどしい棒読みであったが、「私の愛する妻」で言葉を詰まらせてしまう。「鬼の目にも涙ってヤツだな」弔問客はそう思ったが、光彦は、「愛する妻」という文字に詰まっていたのだ。
「私はこの人を愛していたんでしょうか…?」弔問客が去ったあと誰もいなくなった葬儀場の祭壇の前で、光彦は奈緒に語りかけた。「私はただ息をしているだけだ。自分が何者ですらわからない自分に生きている価値などあるのでしょうか?…」苦渋に満ちた表情の光彦。
葬儀も終わり正治郎が祐輔を連れて山梨へ帰るという。そのとき祐輔がおなかが痛いと言い出した。奈緒が祐輔のためにとマグカップにホットミルクを注ぎ蜂蜜をいれかき混ぜていると、その様子を見ていた光彦がつぶやいた。「…蜂蜜ミルク。」
はっとする奈緒…。
奈緒にとって姉の美穂は、一番の理解者だった。一流大学を出て大手の商社に勤務、9年前に職場の上司と結婚し、かわいい息子もいる。「順風満帆っていうのはお姉ちゃんみたいな人生のことを言うんだろうなあ」。ただ、義兄の光彦(椎名桔平)のことはあまり知らなかった。結婚式で会ったきりなのだ。
「もうすぐ出なくちゃいけないんだろ」和也がマンションのパンフレットを取り出した。「えーっ。広すぎるよ…和也まさかこれって…。」和也を見る奈緒。「2人の家のつもりなんだけど」これを期に結婚しようというのだ。その日は奈緒にとって最高の日になった。
翌朝、風邪をひいた様子の和也に奈緒が温かいコップを差し出した。「蜂蜜ミルク。風邪気味のときお姉ちゃんがよく作ってくれたの。」そのとき、突然電話が鳴った。
「…お姉ちゃんが…嘘…。」突然の訃報だった。
空港に向かった奈緒と和也に対応してくれたのは、義兄が働く伍代物産の阿久津順子(木村多江)。3人はドライブ中に立ち寄ったドライブインで物取り目的の強盗に襲われたらしい。姉は銃で撃たれて即死だったという。夫の光彦は意識不明の重体、ちょうどそのとき現場から離れていた息子の祐輔(広田亮平)は難を逃れて無事だった。
頭に包帯を巻いた光彦が空港から息子の手を引いて出てきた。もう一方の手には遺骨を抱えて。しかしどことなくうつろな瞳…。「襲われたときのショックで、何も覚えていないんです。」順子は無表情に説明した。
奈緒は2人をマンションに連れて行った。姉と義兄が過ごしてきた思い出のマンション。息子のことすら思い出せない光彦だが、ここに帰ってくれば、何か思い出すかもしれない。「あなたが住んでいた家です。覚えてませんか。」しかし光彦は何も思い出せない。奈緒はそんな光彦に対して、辛く当たってしまう。「記憶がないからってそれが何だっていうのよ。あなた生きてるじゃない…。」「すいません」うつむく光彦。「わかってる。あなたのせいじゃない。」奈緒はその場を立ち去ってしまう。
奈緒の父、佐伯正治郎(小野武彦)が上京してきた。「俺は最初からお前なんかとの結婚には反対だったんだ! 転勤の話だって、こっちに何の相談もなく美穂たちを連れて行きやがって! お前と一緒にならなければ美穂がこんな目にあうことは…。」正治郎は、孫である祐輔を自分の家、山梨に引き取ると言い出した。
奈緒の仕事のピンチヒッターとして、富田ちひろ(加藤あい)に仕事が回ってきた。
しかし素直には喜べないちひろ。彼女は和也に淡い思いを抱いていた。
美穂の葬儀の日。大勢の弔問客と花で囲まれた立派な祭壇。会社が仕切る葬儀なのだが、規模の大きさに光彦の会社での立場がうかがい知れた。そして喪主として光彦が挨拶をする。たどたどしい棒読みであったが、「私の愛する妻」で言葉を詰まらせてしまう。「鬼の目にも涙ってヤツだな」弔問客はそう思ったが、光彦は、「愛する妻」という文字に詰まっていたのだ。
「私はこの人を愛していたんでしょうか…?」弔問客が去ったあと誰もいなくなった葬儀場の祭壇の前で、光彦は奈緒に語りかけた。「私はただ息をしているだけだ。自分が何者ですらわからない自分に生きている価値などあるのでしょうか?…」苦渋に満ちた表情の光彦。
葬儀も終わり正治郎が祐輔を連れて山梨へ帰るという。そのとき祐輔がおなかが痛いと言い出した。奈緒が祐輔のためにとマグカップにホットミルクを注ぎ蜂蜜をいれかき混ぜていると、その様子を見ていた光彦がつぶやいた。「…蜂蜜ミルク。」
はっとする奈緒…。