<第4回> <第5回> <第6回>


<第4回>
 塾で教壇に立った初日、気を失い病院に運ばれた八重子(鈴木京香)は礼太郎(佐藤浩市)の車で『メゾン・アフリカ』に戻ってきた。
 そんな二人を待ち受けていたのは、自分の荷物を運び込む緑(ともさかりえ)だった。「これからここで一緒に暮らす」と宣言する緑には礼太郎の止める声も聞き入れられない。
 緑は、ランドリー・ルームから部屋に戻ろうとしていた有香(松雪泰子)にも手伝ってもらい荷物を運び続けた。そして、思ったより親切な有香に対し、「お礼にレータのこと教えてあげる」というと、「八重子と礼太郎は昔の恋人だったかも?」とか「有香とは距離を置きたいといってた」などと有香の気持ちを逆立てるようなことをわざと聞かせたのだった。
 心おだやかでいられるはずもない有香は、直後に尋ねてきた礼太郎を「CMの仕事が入ってロケに行くから、しばらく会えないかも」と素っ気なく返してしまった。
 その頃、八重子は礼太郎との車中での会話を思い出していた。
「8年前、雨が降っていなかったら僕たちは結婚していたと思う。
あの時、映画を撮ってもてはやされ、次回作を期待されていた僕は結局それを作ることができなかった。だから、あの時は雨が降っていてよかったのだ」そんなことを礼太郎はいった。そして最後に「あのアパートで僕は君をまっていたような気がする…」とまでいった。
 八重子は、呆れ返ってしまったが、なんとなく心にひっかかるものをその時感じたのも確かだった。
 そこへ塾からの連絡が入った。「連絡するまで来ないで欲しい。クビということではありませんので」と相手は言った。しかし、八重子は落ち込んだ。
 みづほ(室井滋)は、そんな八重子の姿を見つけると一緒に飲み行こうと誘いだした。
 その時八重子は初めて、はっきりとした素性と過去の事件のことを話した。「穏やかに暮らしたくてここに来ただけなのに……今はすっかりパワーも落ちてしまった」と。しかし、この時みづほが言ってくれたことばを八重子はおそらくずっと忘れないと思った。
「自分の人生の責任は自分でしか取れないの。だから自分がしあわせになるために闘うことを恥じることはない…強くなんなさい!」。
 数日後、八重子は塾から呼び出しを受けおそるおそる出向いてみた。
しかし、塾での八重子の立場は好転していた。『肝の座った美人先生』と評判を呼び、大きな教室での講義が任されることになったのだ。
 思いがけないことに張り切る八重子。だが、そんな八重子にまたしても魔の手がのびてきたのだ。1年前の事件のことで執拗に八重子を追いかけ回した日刊ゴールドの記者・堀田が現れ、再び八重子をつつきはじめたのだ。塾を出てからも追いかけてくる堀田。八重子はたまりかねて「おかずの丸ちゃん」に逃げ込んだ。
 みづほは、堀田がタブロイド紙の記者と知ると、「こんな奴にびひってんじゃないよ」と八重子を引っ張りだした。「興味本位で書くならどうぞ。私はもう負けませんから」。勇気を出して立ち向かった八重子。しかし、それでも堀田は「強くなったんだ。こりゃおもしろい」と懲りない。
 だがこれを見たみづほは言った。「殺す…書いたら殺す…」。
「……!」八重子は形相の変わったみづほをじっと見つめていた。

<第5回>
 その朝、みづほ(室井滋)は、店の前を不機嫌そうに出勤する八重子(鈴木京香)の姿を見掛けた。「なに、怒ってんの?」と聞くと「ぜんぜん怒ってません」との答え。だがあきらかにその表情は怒っている。
 実は、夕べ突然礼太郎(佐藤浩市)が部屋にやってきて、ビールをかっくらい、好きなことを言うと八重子の言う事はろくに聞かず、そのまま寝入ってしまったのだ。あげく、ミニスカパブの名刺をバラ撒き、携帯電話も鳴りっ放しでだ。何しにきたの?礼太郎に振り回された一夜を過ごし、八重子は完璧に不機嫌だった。
 しかし、みづほも早朝から銀行員が店に来て、元金の返済をしつこく迫られていた。おまけに巡査の佐々木(梅垣義明)が、警察が作ったという夫殺し犯・亀田伸枝のテレカなどを置いていった。福井県警は、時効を2か月後に控え、いよいよ大かがりな捜査に乗り出したらしい……。店の借金のことは夫の良吉(國村隼)が毅然とした態度で切り抜けたもの、みづほのいつバレるかの気掛かりは強くなるばかりだった。
 そして夕方。仕事を終えて『メゾン・アフリカ』に帰ってきた八重子を、緑(ともさかりえ)が待ち伏せしていた。礼太郎が、八重子の部屋に泊まったことを知った緑は、八重子を魔性の女呼ばわりし、沖縄にいっている有香(松雪泰子)が帰ってきて、このことを知ったらどうなるかな?などと迫った。
 そして、翌日。礼太郎は沖縄から帰ってきた有香を空港で迎えることにした。しかし、スタッフたちに囲まれて華やかにほほ笑む有香を見た礼太郎は、声も掛けずその場を後にしてしまった。
 有香はそんな礼太郎に気が付き、「どうしてあの時声を掛けてくれなかったの?」と詰め寄った。礼太郎は、「邪魔したくなかった。近付きがたかった」といった。それを聞いた有香は、仕事をしてる私には近付きたくないということ?だったらこの先レータだけのために生きる!とレータに抱きついて言った。でも、礼太郎は、「有香が望んでる人生は男のために生きる人生じゃないだろう」と諭すように返すのだった。
 その夜、八重子は有香の訪問を受け、礼太郎はみづほの相談を受けていた。有香は、礼太郎に言われたことを話すと、もう礼太郎とはダメかも知れないし、この際だから仕事にかけてみるのもいいかなというのだった。そして、八重子には「もしレータが本気で好きなら、不退転の覚悟で臨みなさい」と言うのだった。
 一方、みづほは、銀行と対決する方法を礼太郎に相談していた。しかし状況は悪く、裁判に持ち込むことできそうもない。「お父ちゃんとも仲良く。あの街とも仲良く、丸ちゃんも守って生きようなんて所詮無理なのかな…」。みづほのこの落胆ぶりには礼太郎も驚いた。だから、「あなたは何を捨て、何を守り、どこへ行こうとしているのかな?」なんて言葉が口をついて出てしまったのだ。「欲しいもの全部手に入れて、みんなしあわせになれればいいのに…そうもいかないんだね……」みづほはポツリとこう返した。
 その数日後…。

<第6回>
 「みづほ(室井滋)が、いなくなった…」。ある日、みづほの夫・良吉(國村準)が八重子(鈴木京香)の部屋にやってきてポツリと言った。
 その日の朝『おかずの丸ちゃん』でみづほを見掛けていた八重子は、ケンカでもしたのかと思ったが、どうやらそういうことでもないらしい。良吉は八重子が何も知らないことに気付くと、「気にしないで下さい」と言い残し、そのまま帰って言った。だが八重子はみづほが以前自分に言い聞かせるように言ってたことを思い出し、みづほが本当にどこかに行ってしまったのではと直感したのだった。そして、その直感は当たっていた。
 みづほは、とある田舎町に来ていた。着の身着のままタクシーに乗り、東京駅から目的もなくたどり着いた町。みづほは、着物を脱ぎ捨て洋服に着替えて髪もおろし、別人のようになっていた。ビシネスホテルが当面の落ち着き先。そして、町のスナックで働き、生活費を稼ぐつ
もりだった。湯川安奈。新潟出身が新しい嘘の素性だった。
 その頃『メゾン・アフリカ』に伊沢と加藤という二人の刑事が八重子のもとを尋ねていた。史郎(松重豊)が検察庁から逃亡。当然八重子に会いにくるはずだから、身の安全のため一時どこかに身を寄せてはというのだ。
 しかし八重子は、もう史郎にひるむつもりはないし、管理人としてここを離れることはできないと、有香(松雪泰子)と緑(ともさかりえ)の前できっぱりと断ってみせた。
 それから八重子のみづほ捜索が始まった。タクシーに乗るのを見たという緑から「みづほの行動日記」を見せてもらい、探偵のごとく足取りをたどってみる。
 だが有香は、単なる夫婦げんかで、あのオカンが店をいつまでもほったらかしでいるはずない。すぐに帰ってくるといった。
 実際、有香の携帯には、みづほからの連絡が入ってた。それは、「あんた、私が誰だか知ってる?」と尋ねてきて、「丸ちゃんのオカンでしょ」と答えるといった不可解なものだったが、有香はとにかく『アフリカ』にみづほは帰ってくると信じているようだった。
 しかし、あるスナックに、持ち前の人当たりのよさで潜りこんだみづほには、帰るつもりは無いようだった。八重子も、みづほが途中タクシーから捨てたと見られる配達用のカゴを発見したとき、もう『丸ちゃん」には戻ってくるつもりはないのかもと考えていた。
 だが、実はこの時みづほには、何かやり残してきたことがあるような感じがしていたのだ。それが何であるのか、どうしても思い出せずにいたのだが…。 
 ある日八重子は、礼太郎(佐藤浩市)から「消えた彼女が探して欲しいと思っているかどうかは疑問だな。無理やり探しだすことが本当の親切とは言えないんじゃないか?」と言われた。確かにそうかも知れなかった。でも、自分を励ましてくれた人にありがとうも言えないで別れるのはさびしいと、八重子思った。
 それから数日後…。


戻る


[第1-3回] [第4-6回] [第7-9回] [第10-11回]