<第1回> <第2回> <第3回>


<第1回>
 うららかなある春の日。杉立八重子(鈴木京香)は、そのアパートの前に立った。「メゾン・アフリカ」。ここから新規一転、新しい生活をスタートさせるのだ。甘い言葉でプロポーズしながら結婚まで至ることのなかった男との8年前の恋。そして1年前。ライスシャワーを浴びながら幸福の絶頂を迎えた結婚式の日。汚職が発覚し、あえなく連行された新郎。
 八重子は、忌まわしいそれらの過去と決別し、今この場所から歩き出そうとしていた。
 途中、計ったように引っ越しトラックの前に現れて、同じアパートの住人、丸山みづほ(室井滋)が乗り込んできた。
 商店街で惣菜屋『おかずの丸ちゃん』を夫(國村隼)と営んでいるという。
 みづほは頼みもしないのに、アパートまで車を誘導してくれるらしかったが、実は八重子の理由ありの様子に興味津々だったようで、矢継ぎ早に八重子に質問を浴びせてきた。「仕事は?公務員?ピアノの先生?看護婦さん?」。
 まともに答えるのもうんざりの八重子は、「男で失敗して会社もやめました」と投げやりに返した。これで、八重子の素性が決まった、いや決められた。
 “不倫。職業、元スッチー!”。
「1階はうちだけ。隣は空き家。3階は、真上が女優の卵、その隣に経営コンサルタントがセカンドルームとして借りてる」。
 終始ペースをみづほに握られ、古くてガタがきているアパートの案内までされると、ようやく八重子は解放された。
 『メゾン・アフリカ』で迎える始めての夜。
 荷物の整理をする八重子の手がふっと止まった。握られてるのは一本のビデオテープだった。“タイトル『アフリカの夜』。監督・木村礼太郎。日が沈むとヘッドライトの光は濃厚な闇の中にただ空しく漂い、何も照らしださない。そしてその先には圧倒的な夜があるだけだ”。
 それは8年前、八重子にプロポーズした男の残したものだった。
 片付けの手をとめ、しばしテープを感慨深けに見つめる八重子で……とその時だった。ポツリ…突然2階から水が滴り落ちビデオを、そして部屋全体を濡らし始めたのだ。「うっそー」情けない思いで上を見上げて、八重子は3階へと飛び出して行った。
 「そんなことは大家にいってよ」。バスローブ姿で現れた女優の卵・相沢有香(松雪泰子)は、不機嫌に言い放った。勢いに負けて部屋に戻った八重子を襲ったのは、さらにひどくなった水漏れのシャワーだった。
 翌朝。水漏れの事を八重子はみづほに聞いてもらっていた。
 だが、みづほは夕べ起こった火事が放火だったらしいことを顔見知りの警官・佐々木(梅垣義明)と話し込みそれどころではない様子。しかも、あろうことか大家は不在がちだし、管理人も居ないことを思い付くと八重子に管理人になってはと言い出してきたのだ。「どうせ無職じゃん」。
 意地になって就職活動にいそしむ八重子。しかし、現実は厳しくなかなか職は見つかりそうにない。あきらめてふらりと入ったパチンコ屋で八重子は有香と鉢合わせ、当然話しは水漏れの一件になった。水道屋が来るまで我慢してほしいとう八重子に、女優だから銭湯にはいけないと一歩も引く気配のない有香は、それならばと、八重子の部屋の風呂に入ることを勝手に決めてしまうのだった。
 風呂上がりの有香は、どこまでも厚かましく朝風呂も入りたいからと合鍵を要求、あきれ返る八重子を尻目に本棚の物色などをはじめた。そしてそこに『アフリカの夜』のビデオを見つけた。
「このアパート選んだのは、この影響?」。ビデオを持ち上げ尋ねる有香に、
「…それと商店街の感じかな」サラリと答えた八重子。結局ふたりは、みづほからお裾分けされたコロッケで夕食を共にすることになった。
 食卓の話題は、八重子には北海道といい、有香は長崎と聞いている、どうも辻褄の合わないみづほの素性のこと。「心の病気?単なる嘘つき?」。
 部屋に戻った有香は、恋人の礼太郎(佐藤浩市)に八重子から貸りてきたビデオを見せながら、「映画撮ったことあったなんて知らなかった」と言った。
 下の住人が偶然持っていたもの。礼太郎はそれ以上ビデオの持ち主のことは気にかからなかった。
 数日後、家庭教師に挑戦するも一日で首になってしまった八重子を待ち受けていたのは、多数決で『メゾン・アフリカ』の管理人に決まったという一方的な言い渡しだった。「どうして…」呆然とする八重子。さらに、そんな八重子の困惑をあおるような電話が、「会いたい!もう一度、あの教会からやり直そう」。それは結婚式の日、警察に連行された新郎・火野史郎(松重豊)からのものだった。

<第2回>
 八重子(鈴木京香)が『メゾン・アフリカ』に引っ越してきて間もないある晩のことだった。地下のランドリーから洗濯を終え部屋に戻ろうとした八重子は、エントランスで礼太郎(佐藤浩市)の姿を発見、足を止めた。忘れもしない8年前自分にプロポ−ズした男がそこにいるのだ。その視線に気が付いた礼太郎も、また懐かしそうに八重子をみつめ返してくる。
 そこへ、「レータ、キー!」と礼太郎が忘れた車のキーを届けに有香(松雪泰子)が現れ、続けて半年前八重子とは結婚式まで挙げながら別れた恋人・火野史郎(松重豊)までもが八重子との復縁を迫り出現してしまう。
 礼太郎のとっさの処置で史郎は追っ払われたが、有香は八重子と礼太郎との間に不穏なものがあると感じた。
 しかし、この冷戦の修羅場を目撃して一番憤慨していたのは礼太郎の妹・緑(ともさかりえ)だった。「まさかあの女とできてるなんて…」。
 有香を快くおもっていない緑は、「パパにチクッてやる」と脅かし、たくらみの表情で礼太郎を見るのだった。
 その頃、さっきの騒ぎで軽いけがをした八重子は、有香と一緒にみづほ(室井滋)の部屋にいた。みづほは、手当てを痛がる八重子に「こんなの心の痛みに比べたらなんでもない」と言いきかせ、帰り際に「よく効くから」と和歌山にいた頃つけていたという塗り薬を分けてくれた。だがここで、「和歌山に居たの?」と敏感に反応した有香と八重子。
 みづほは、「…オヤジ行商してたからねと」慌てて取り繕ってみせたのだったが。
 翌日。塾の講師選考試験に出かけようとしていた八重子を有香の悲鳴が止めた。ベランダから顔を出して「遅刻しそう!」と有香はそこから降りてこようとしている。聞けばドアが接着剤で固められ開かなくなっているという。
 八重子は、自分も遅刻ギリギリであるのに有香に協力、なんとか送りだしてやるのだが、結局試験には大幅に遅れ、またもチャンスを逃がすことになりそうだった。
 その夜、パチンコ屋で会い一緒に帰っていた八重子と有香は、前に歩く礼太郎と若い女を見つけ、近付いていった。
 会社で秘書をやってるというその女は、「アフリカに行くゥ」としなだれかかっている。そんな礼太郎を睨みながらも「今日は大変なことがあったのォ」と負けじと甘える有香。
 これを聞いた礼太郎は、その場のノリもあってか、アフリカでのパーティーを提案。みづほ夫婦に、緑も呼んで、八重子の歓迎意味もこめたパーティーが開かれることになった。おかずの『丸ちゃん』の残りものなどが並べられ、それなりに盛り上がるパーティー。そして話題の中心はといえば、テレビのニュースが伝える、十五年前福井で、夫を殺して逃げている犯人のことだった。
 時効目前。犯人は整形をして逃亡中という。

<第3回>
 その朝。八重子(鈴木京香)は、いつものように朝食を作り食卓についていた。昨夜のパーティーのことなど全く気に留めてもいないふうで、ただ残高の減って行く貯金通帳を眺めてはタメ息をついている。
 そこへ、突然有香(松雪泰子)がやってきて、夕べの礼太郎の行動は酔った上でのことレータは何も覚えてないとわざわざ謝り始めたのだ。
どうやら二人の親密そうな場面を見たことが気に入らなかったらしい。
 さらに有香は、八重子のきちんとした朝食にもなんくせをつけはじめ「この形式にこだわる感じ、キチッと誇り高いスタイル。絶対にレータとは合わない」などと言い放つと、さっさと立ち去っていった。
 そこへ、曙塾から八重子を講師として採用するとの知らせが入った。
国語だけは満点だったので…と。異例の処置に、採用をほぼあきらめていた八重子は、即刻塾へ出向くことになった。
 同じ頃、3階の礼太郎の部屋でも夕べの八重子との出来事が話題になっていた。緑(ともさかりえ)は、強引に八重子を押し倒していたなどと話しをエスカレートさせ、礼太郎に伝えたのだ。
「俺ホントにそんなことした…?」。半信半疑、でも心配そうに聞く礼太郎。 
 数日後。「おかずの丸ちゃん」に立ち寄った八重子は、みづほ(室井滋)から、管理人を引き受けてくれたら月5万の家賃と持ち掛けられ断ることができなかった。そこへ客としてやってきた本間直人(沢木哲)。家庭教師の八重子を襲った高校生だ。直人を見るなりおびえる八重子を見てみづほは、「あのガキの3倍は生きてるんだから、自信を持ちなさい!」と言って聞かせるのだった。
 しかし、八重子は講師として教壇に立った初日に塾で直人と顔を合わせることになった。八重子はみづほの励ましのことばを思い出し、目一杯気を張って、反抗的な生徒たちをいさめたが、あまりの緊張で気を失ってしまった。担架で運ばれる八重子を心配そうに見送る生徒たちに混ざって火野史郎(松重豊)と礼太郎の姿があった。
 その頃、「おかずの丸ちゃん」で働くみづほの身の上に、ちょっとした変化が現れていた。弁当を配達した先で見た凶悪犯指名手配のポスターに、そして帰る途中通り過ぎた交番のポスターの中にあるかつての自分の写真。これらのものすべてがジワジワとみづほの精神を追いつめはじめていたのだ。
 『メゾン・アフリカ』に帰ったみづほは、箪笥から着物を持ち出すと、縫い付けてあった1万円札を外し、それを持って礼太郎の部屋を訪れた。「あたしにもしものことがあったら、お父ちゃんに渡して」と金を礼太郎に託したみづほ。「前にもそんな事いってたけど、どういうこと?」。不思議そうに尋ねる礼太郎。と、その時だった「丸山みづほさんおられますか?」。警察がドアの前に立ったのだ。咄嗟にベランダを乗り越え、階下にダイビングを試みたみづほは、裸足で全力疾走していた。その姿を偶然見掛けた八重子と有香は「やはり何かある」と顔を見合わせる。
 そして、二人の思った通りみづほの行く手に、佐々木巡査(梅垣義明)と二人の刑事が立ちふさがった。


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