はい!美術タイトルです

タイトルデザイン:山形憲一

Vol.4

手書き全盛時代の達人③
山形憲一デザイナー

岩崎光明 プロフィール

1982年よりフジテレビタイトルデザイン室でタイトルデザイン、イラストなどの制作を担当。
代表作は「邦ちゃんのやまだかつてないテレビ」「ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!」
「ダウンタウンのごっつええ感じ」「世にも奇妙な物語」など。
この連載では主にアナログ時代のタイトルデザインについてご紹介します。
題名の“美術タイトル”(略称は美タイ)は河田町フジテレビ時代の名称。美術タイトルは報道以外の全番組を担当していました。
報道番組の写植などを制作する“報道タイトル”は報道部にあり、役割は全く違っていました。

大胆・繊細・オシャレ!
山形デザイン大特集!!

1986年タイトルデザイン室にて

タイトルデザイナーのレジェンド第三弾は私の師匠でもある山形憲一さんを大特集!取材を口実に久しぶりに差しで飲み会。河田町時代のフジテレビやタイトル室界隈のお話をたっぷりうかがってきました。“楽しくなければテレビじゃない”といえば1980年代のフジテレビのスローガンですが、このフジテレビウェーブにシンクロした山形さんの人気は絶大でʼ80年代からʼ90年代にかけ多くの名作タイトルデザインを残しました。
1967年、山形さんのタイトルデザイナーとしての第一歩はタイトル室のアルバイトから始まりました。セザンヌやゴーギャンなど後期印象派を好み、画家を目指し浪人していた頃に、知り合いを通じてタイトルデザインの仕事を紹介されたのがきっかけでした。最初は「こんな細かい文字を書くのか!?」と躊躇したこともあったそうです。当時は学園紛争真っ只中、武蔵野美術短期大学に通っていた山形さんでしたが、二年間の学生生活で通算一年ほどしか授業を受けることができなかったといいます。
卒業後はきっぱりと油絵とは決別しフジテレビタイトル室へ。当時のタイトルデザイナーはフリーの契約者であり、人気デザイナーとなれば収入もなかなかよかったそうで、そんなところも魅力に感じたそうです。「フリーのデザイン屋ってことだね。気楽なんだよね、一人でできるから。本来はある程度したら後進の指導とか何とかしなくちゃいけないけど…」と語る山形さん。画家やフリーデザイナーといった組織に縛られない仕事に憧れていたのかもしれません。

’80年代に大ブレイク!

山形デザインの魅力は肩の力の抜けた軽快さ。山形さんのタイトルデザインを抜きに1980年、1990年代のフジテレビの番組を語ることはできません。“軽チャーっぽい”、それが山形デザインなのです。

1981年

やっぱり僕の中で傑作は『101回目のプロポーズ』と『ひょうきん族』だね。何というか感覚で作っちゃって、「あとでひょうきん族って『ぴあ』に似てるね」とか言われたことあるけど、そういうの全然頭になかったから俺は俺で気に入ってた。「(デザインの意図は)ここに物干し竿があって、虹が出ていて、物干しにおむつからズボンからぶら下がっている」というのは後付けで。何かで聞かれた時にそう答えたことあるけど、作っている時はそんなこと考えてない(笑)。デザイン的にどこかでカチっとしたいんだよね。(山形)

1985年

1988年

1985年

1997年

1983年

1974年

1986年

1983年

1990年~

1983年

1986年

1983年~

1987年

1986年

1983年

山形さんのデザインは大胆なレイアウトとバランス感覚を併せ持つ。無造作に積み上げたようでいて絶妙なバランスで均衡を保つおもちゃの積み木のよう。流行も敏感に取り入れたデザインは印象深く、見ただけで懐かしい映像が脳内にフラッシュバックしてきそうです。

■鍛えられた王プロデューサーの番組

1981年

王さんには鍛えられたね。毎回毎回サブタイトルを作って、深夜までいると必ずやって来て、鉛筆書きのラフを見せて「こうしてくれ、こうしてくれって。」(山形)
王東順さんは多くの人気番組を生み出したフジテレビの名プロデューサーです。プロデューサー自らデザイナーのところまで出向いて発注するのは当時でも珍しく、番組にかけるこだわりを強く感じたそうです。

以下3点も王プロデューサー担当番組のタイトルデザイン

1991年

1987年

1984年

ドラマタイトルデザイン集

『6羽のかもめ』は山形さんが初めて担当したドラマタイトル。番組は今も語り継がれる倉本聰脚本の伝説のドラマ番組。第一回はキャストのテロップも山形さんの手書き文字です(二話以降は写植文字)。若かりし山形さん、流石いい仕事をしています。興味のある方はぜひご覧ください。DVDボックスはポニーキャニオンより発売中。

■初めてのドラマタイトル

1974年

これは何種類か書いてる。タイポスって書体が昔あって。それがちょっと近いな。あとはポップな感じでそっちが決まったらいいなというのを作ったんだけど、しっかりぴしっとした線が欲しいというんでこの形になった。(山形)

※タイポス:1970年代に流行した写植書体。

■筆の勢い

1978年

筆で100枚ぐらい書いた中から5~6枚をピックアップして見せた。演出家からは「これがいいんで、この感じでもうちょっと書いてくれます?」と言われたけど、そうするともう駄目なんだよね。形を作っていっちゃうから。これはみんな勢いで書いてるから…。(山形)
筆文字というのは同じものは二度と再現できない一期一会の出会い。

■シェルブール文字

1991年

これも勢いで書いた。さっさかさっさか!チョチョっと直して、下にフランス語の写植を打ってもらった。(山形)
演出家との打ち合わせでʼ60年代の洋画ポスターの手書き文字風にデザインすることに。ドラマは大ヒット!「山形さん!また“シェルブール文字”でお願いします!」。演出家の希望で後に同じスタイルのタイトルが続きました。こんな文字をさっさか書けるようになりたいものです。この作品も山形さんのお気に入りの一つ。

※『シェルブールの雨傘』…1964年のフランス映画。“シェルブール文字”とは演出家の命名。ʼ60~ʼ70年代の映画ポスターでよく使われた斜体がかかった手書き文字を総称しているとのこと。

■シェルブール文字のタイトルたち

1989年

1992年

1992年

1993年

1995年

1996年

1990年代のフジテレビドラマタイトルといったら山形さんの手書きタイトルを思い出される方も多いのでは。『ニューヨーク恋物語』は少しスタイルが違いますがこれもドラマの雰囲気が伝わってくる素敵なデザインですね。

1988年

これもゴテゴテに作ったね。
ちっちゃいと分からないけど、デコボコの紙に描いているからガサガサした感じがそのまま出てる。(山形)

■名作ドラマの数々

あの番組もこの番組も山形さんのデザインだったんですねー。

1989年

1991年

1997年

1998年

1992年

1993年

1989年

1991年

1997年

1996年

1996年

1993年

1989年

1989年

1989年

1987年

1999年

2000年

1988年

1996年

1984年

CGタイトルのはじまり

■曲線はやめてください

1984年

CG担当の人がタイトル室に来て「『ひょうきん族』を作ったの誰?『なるほど!ザ・ワールド』を作ったの誰?」。「僕です」って言ったら打ち合わせに来いって。「『スーパータイム』のタイトルを作ってください」って言うんで何種類か作った。逆の斜体で曲線をいっぱい使って『スーパータイム』とデザインした。そしたら「あのー、CGで作るんで曲線やめください」って、そういう時代だった。(山形)
ʼ80年代にはフジテレビでもCGを使ったタイトル制作が始まった。しかし技術的な制約も多く、CGで作りやすいようにデザインを変更することも珍しいことではなかったのです。

■報道・情報番組のタイトル

1987年

1991年

1992年

1983年

1994年

1998年

1988年

1983年~

1970年代末

手書きテロップ

生放送のスーパーテロップは鉄筆で文字割りをしたら、さらさらっと一気に書き上げます。時間にしたらほんの数分でしょうか。角ゴシック系の文字は先端をブラックで若干の修正をしますが、『フリースタイル』と言われた手書き文字では修正はほとんどしませんでした。画像ではわかりにくいかもしれませんが、山形さんの『フリースタイル文字』に修正跡はありません。

「なるほど!ザ・ワールド」

「なるほど!ザ・ワールド」

「なるほど!ザ・ワールド」

番組名不明
※フリースタイル

「オレたちひょうきん族」

「オレたちひょうきん族」
※フリースタイル

■修正ナシで書き上げるフリースタイル文字

「TVグラフィティ」
※フリースタイル

「TVグラフィティ」
※フリースタイル

「TVグラフィティ」
※フリースタイル

「TVグラフィティ」
※フリースタイル

「TVグラフィティ」
※フリースタイル

『TV グラフィティ』のテロップエピソードは「Vol.1アナログ時代のタイトルデザイン~スタジオカメラマン大活躍のフライングテロップ」を御覧ください。

「フリースタイル文字」は各デザイナーそれぞれスタイルがあり、丸ゴシック風の文字、ペン書き風の文字、少し角ばったものや筆のタッチを生かしたものなど、文字を見れば誰の担当番組か一目瞭然。番組にはタイトルデザイナーの個性が色濃く現れていました。山形さんのフリースタイルはコミカルで柔らかくとても親しみの持てる字で、ネットでは今でも山形さんの手書き文字のファンを名乗る方がいるほど。『なるほど!ザ・ワールド』『珍プレー好プレー』『NG大賞』の下位置スーパーがなんとも懐かしいです。

『TVグラフィティ』は私が山形さんのアシスタントとして、仕事のノウハウを教えていただいた思い出深い番組です。毎週土曜日のお昼に生放送される番組で、テロップの原稿は前日の午後から準備が始まります。この番組はその週の芸能情報を紹介するもので、前日にほぼテロップの発注は終了していました。仕事が終わると深夜になることが多く、終電や深夜のタクシー利用がほとんどでした。放送当日にも急な仕事が入ることがあり、放送の2時間前にはスタンバイしなければなりませんでしたが、仕事終わりに飲みに行くのがルーティンでした。
当時、私も山形さんも自宅が荻窪近辺で方向が同じだったため、荻窪の行きつけの居酒屋まで深夜のタクシーで直行したことも懐かしい思い出です。お酒好きな山形さんには飲みの誘いも多く、私が仕事に慣れてくると「今日は写植のK君と制作会社のA君と一緒に飲みに行くから、あとはよろしく!」なんてニコニコ顔で出かけてしまうことが多くなってきました。しばらくして山形さんから正式に番組を任されることになった私は、担当番組を持った喜びとともに生番組のテロップを一人で担当する責任を強く感じたのでした。

カラーテロップの背景イラスト

カラーテロップは、ベースもそのまま TVに映るので背景画を描いて使うことが多く、「来週は~をお送りします」といったテロップの発注が来たときには、抽象的な模様の背景画がよく使われました。山形さんが描きためておいたテロップ背景イラストの中から、何点かご紹介します。バラエティー番組予告、サスペンスドラマの予告、音楽番組にも使えるバリエーションが揃っています。

次々に楽しいデザインを生み出し、フジテレビタイトルデザインの一時代を築いた山形さんは、作品通りの飄々とした明るいお人柄でした。「ガタさん」「ガッタマン」と多くの仲間から慕われた山形さんでしたが、2013年に惜しまれつつ退職されました。テレビの現場では、手書き文字に代わりフォントの使用が一般的になりました。フォントも多種多様なデザインが揃い、色とりどりに縁取られたテロップが毎日テレビの画面を華やかに飾っています。若い視聴者には信じられないかもしれませんが、テレビには手書き文字の時代があり、フジテレビには手書き文字の達人が何人もいました。テレビをつければ、味のある「フリースタイル文字」をたっぷりと堪能することができたのです。山形さんの新作文字を見ることはできませんが、CS放送やネットで、飄々として味わいのある山形さんの手書き文字を探してみてください。フォントとはまた違った温かみを感じることができると思います。山形さんの「フリースタイル文字」の大ファンでもあり、アシスタント1号でもある岩崎がお送りしました。

〈山形憲一〉1947年 埼玉県出身。
武蔵野美術短期大学卒業。
フジテレビ在籍期間:1967年~2013年

山形憲一:ドラマタイトルデザインリスト
  • 日本のおんな
  • 日蔭の女
  • 午後の恋人
  • 6羽のかもめ
  • 風子
  • 女の河
  • 女たちの家
  • 結婚のとき
  • 火の航跡
  • 過ぎし日のセレナーデ
  • この胸のときめきを
  • ハートに火をつけて!
  • 君の瞳に恋してる!
  • あなたが欲しい
  • ワイルドで行こう!BORN TO BE WILD
  • 君が嘘をついた
  • 抱きしめたい!
  • 君の瞳をタイホする!
  • 恋のパラダイス
  • 弟よ!
  • 愛しあってるかい!
  • キスより簡単
  • ニューヨーク恋物語
  • おヒマなら来てよネ!
  • 恋愛結婚の法則
  • not so パーフェクトラブ!
  • 救命病棟24時
  • Over Time ‒ オーバータイム
  • 眠れる森
  • じんべえ
  • 神様、もう少しだけ
  • 恋はあせらず
  • ブラザーズ
  • WITH LOVE
  • 成田離婚
  • ひとつ屋根の下
  • みにくいアヒルの子
  • 僕が僕であるために
  • バージンロード
  • 3番テーブルの客
  • 翼をください!
  • Age,35 恋しくて
  • 世界で一番君が好き!
  • この愛に生きて
  • 陽のあたる場所
  • 都合のいい女
  • あすなろ白書
  • 素晴らしきかな人生
  • じゃじゃ馬ならし
  • ひとつ屋根の下
  • 並木家の人々
  • 誰かが彼女を愛してる
  • パ★テ★オ
  • 親愛なる者へ
  • 愛という名のもとに
  • 結婚の理想と現実
  • 東京ラブストーリー
  • この世の果て
  • グッドモーニング
  • すてきな片想い
  • ピュア
  • ドク
  • 恋人よ
  • お願いデーモン!
  • 素顔のままで
  • 目を閉じておいでよ
  • おいしい関係
  • ロングバケーション
  • 101回目のプロポーズ
  • ラブストーリーは突然に
  • 愛と青春の宝塚~恋よりも生命よりも~
  • 水曜日の情事
  • スタアの恋
  • ラブジェネレーション
  • 涙をふいて
  • やまとなでしこ
  • お見合い結婚
  • JJ ma-ma!
  • HERO

昔風の予告テロップを作ってみました。
背景イラストは山形デザイナー作