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2023年11月15日

松任谷由実のデビュー50周年記念コンサート ライブレポート

岡村隆史(週刊ナイナイミュージック記者)

「ユーミン50周年」というライブを拝見して、この日僕は「悔しさ」と「勇気」がないまぜになったなんとも言えない気持ちで帰路についた。

「悔しさ」の由来はもちろん1ヶ月ほど前のアキレス腱の断裂だ。
あの日から僕は自分が、自分が思っているよりも年を取ってしまったこと、自分が思っているよりも体が言うことを聞かなくなっていることにショックを受け、「もう無理はできへんなぁ」という思いに駆られていた。
ところが、この日見たユーミンのステージは「まだまだそんなこと言っちゃダメよ!」と僕を鼓舞するがごとく、歌いっぱなし動きっぱなし。開演前にユーミンの楽屋にお邪魔するとストレッチ器具やトレーニング器具が並べられていて、ユーミンがアップをしていたのだが、その光景は2020年にスモール3というプロジェクトで苗場のコンサートに伺った時とまったく同じであった。つまりユーミンは3年前も今も、変わらず同じルーティンをこなしているのだし、それはきっと50年続けているのかもしれない。
思えば僕は何かを「継続する」ことがずっと苦手だった。お笑いライブも9回でやめてしまったし、体を鍛えることも番組で何か企画がある時にちょこっとやる程度で、ルーティンにしたことはない。「継続は力なり」というありふれた言葉は普段はそんなに響かないのだけれど、この日の僕にはズシンと刺さった。

そしてもうひとつの「悔しさ」。
それはアクロバットパフォーマーのメンバーがロケ終わりに僕のところにやってきて、「僕、めちゃイケで踊っている岡村さんを見てダンスを始めたんです!僕の憧れです!」と言ってくれたのだ。とても嬉しかったのだけれど、もしかして彼は今日僕に会えるのを楽しみにしていてくれたのかもしれない。なのに僕は足をガチガチに装具で固定されロクに動けない。「あの時の踊っていた人と全然ちゃうやんけ!」とガッカリさせてしまったのではないか、という気持ちからくる「悔しさ」だった。

この大きい2つの「悔しさ」は同時に僕に前を見る「勇気」もくれた。
ステージを縦横無尽に駆け回るユーミンを見て、足の装具が外れる12月20日までリハビリをちゃんと頑張ろう、まだまだ僕は老ける年じゃない!という気持ちになったし、僕に憧れてダンスを始めたという彼が今や日本最高峰のエンターテインメントと言われるユーミンのステージに立っていることが誇らしく、いつか彼に負けないダンスを踊れるように復活するんだ!という決意が湧いてきた。

50年というキャリアは、とてつもないことだと改めて思う。
ユーミンはライブの本番前だといってもピリピリした雰囲気は出さず「全然大丈夫ですよ」「楽しみましょうね」といつも声をかけてくれる。
スモール3のロケの時、紅白歌合戦の時、そして今日もそうだった。
その懐の大きさ、相手を迎え入れる器を僕も学びたいと心から思った。

矢部浩之(週刊ナイナイミュージック編集長)

地元の友人にユーミンの熱心なファンがいて、「ユーミンのライブ凄いで!」と噂では聞いていたのだが、初めて見るユーミンのライブは「凄いで!」では足りないほど、想像のさらに上をいく「モンスター級のエンターテインメント」だった。

ライブレポートでは「一体何が、どう凄いのか」を分析、解明しないといけないと思うのだが、僕は照明の機材のことやテクノロジーのことなど専門的な知識がないのでそれが叶わない。ただ自分なりに分析するとしたら「視覚的、映像的にひとときも飽きることがないエンターテインメントに仕上げているところ」なのではないかと思った。

今回のセットは海賊船で、若い船乗りのモノローグと共にライブは進行していく。
冒頭「WANDERERS」でいきなりアクロバットパフォーマーの空中演技に驚かされ、スタンド席にまで熱さが伝わってくるほどの炎の噴射。「リフレインが叫んでる」でその熱気を引っ張ったまま盛り上がっていくのかと思いきや、「TYPHOON」からのしっとりと聴かせるゾーン。そのしっとりゾーンも視覚的な工夫が凝らされていて、「Delphine」ではレーザー光線が海面を表現。その海面をイルカのようにパフォーマーたちが泳いだと思ったら、上空にはドローンのイルカが浮遊している。「うわ!あそこ見て!」「あっちにはイルカがおるで!」と休む間もなく観客を驚かせてくれる。スローテンポな曲だからといって演出は決して手を抜かない。そのしっとりゾーンから一転、「LOVE WARS」でドラゴンが動き始めた時には、リハーサルで見せていただいたにも関わらず「きたーーー!!」と叫んでしまった。ピークはやはり「真夏の夜の夢」だったと思う。居ても立っても居られない、というのはまさにこのことで、全員総立ち。ずっと僕の視界に入っていたガタイの良いコワモテのおじさんもノリノリで踊っていた。

今回僕は、“ユーミンをステージまで誘導する”という大役を仰せつかったので、普通は立ち会えないリハーサルにも立ち会わせてもらった。
この「The Journey」というツアーはこの日まで既に40公演以上を終えていて、そろそろゴールも近いというのに正隆さんはリハーサルで演出に変更を加えていた。
本番まであと2時間という頃に、正隆さんの指示からパフォーマーたちがアイディアを出し合い、動きに変更を加え、ユーミンもそれに合わせて動きを覚える。「もう40回同じことをやってきたんだから今日も同じで良いじゃない」とはならないのだ。もしかしたら何度か見ているお客さんにさえ気付かれないぐらいの小さな変更だったのかもしれないが、飽くなき探究心で「より良い」を目指す。
正隆さんのリハーサルでの指示を聞きながら盗めるものは盗みたい、と思った。

僕らもお笑いの世界ではそれなりにキャリアを積んできて、「自分たちのフィールド」に相手を招くというシチュエーションが多くなってきた。しかし、今回のように「相手のフィールドに自分が行く」という機会は学ぶことが本当に多い。自分たちの発想にはないもの、自分だったらそこまでできないと思うこと、それを目の当たりにする機会をいただいていると感じる。

僕の誘導がなくてもユーミンはステージへ上がれたと思うが、正隆さんからいただいた最高のプレゼントである「敬礼」にユーミンへの思いを込めて、誠心誠意つとめさせていただきました。ありがとうございました。

秋元真夏

中学生の時、音楽の授業で「春よ、来い」を歌い、「夢をくれし君の 眼差しが肩を抱く」という表現に惹き込まれたのを今でも覚えている。中学生という多感な時期に、この曲を聴きながら目を閉じると、自分の大切な人が私に寄り添ってくれて不安な気持ちを救ってくれるような気持ちになり今でもよく聴く大切な曲となった。

ライブを拝見するのは今回が初めてだった。
中学生のときに出会ったユーミンさんの楽曲。何年経ってもその当時の気持ちに戻ることができる歌詞の数々が、ライブでは何倍も胸に突き刺さった。
オープニングで「心のまま」を生のユーミンさんの声で聴いた瞬間、初めてライブに行ったのになぜか懐かしさを感じる不思議な感覚に陥った。
「WANDERERS」「リフレインが叫んでる」など冒頭の盛り上がるブロックからスローテンポな「TYPHOON」へと、ガラッと変わる空気が大好きだった。さっきまでは力強く会場を包み込んでいたユーミンさん。そこから一転して、白いカーテンの奥で「TYPHOON」を歌うユーミンさんは、触れたら壊れてしまうのではないかと思うほど儚く繊細な姿だった。あの、一瞬にして会場の空気を変え、惹きつける力が、50年間も愛され続けている理由の一つなのだろう。

もう一つ強く心に残ったシーンは、バンド、コーラス、アクロバットチームとの掛け合いだ。ユーミンさんのライブなのだから、私はもちろんユーミンさんが最初から最後まで主役であるものだと思ってライブを観始めた。しかし、場面ごとに一緒にライブを作り上げるチームにスポットライトを当てていて、そんなところにもユーミンさんの懐の広さ、かっこよさを感じた。そして、チームの全員が本当にユーミンさんを愛して、あの空間を作っていることを観客側が感じられるところがとても素敵だった。

本番前にお会いした時も、ライブ直前にも関わらず記者の私たちを盛り上げてくれ、笑顔にしてくれる姿に、気づいたら心の中で「大好き!」と叫んでいた。
ライブという言葉では収まらない最高のエンターテインメントを体験した。50周年を迎え、まだまだ走り続けるユーミンさんをずっと見続けていたい。