アンサング・シンデレラ×医療・薬剤監修

ドラマではお伝えできなかった医療部分、
医学的、薬学的な根拠を徹底深掘り!!
本作品の薬剤師監修に解説をして頂きました!

『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』
ドラマ史上初となる、病院薬剤師を主人公にした新しい医療職・舞台を医療ドラマとして楽しんで頂けましたら幸いです。


『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』をきっかけに「病院薬剤師の活躍を多くの人に知ってもらえる絶好の機会だ!」と考え、役者さんへの医療指導、画面に映るさまざまな背景や使用される薬剤の1つ1つの細部に至るまで徹底的にリアリティー(現実性)とクオリティー(品質)にこだわってドラマ監修に携わって参りました。

医療監修・薬剤師監修をするにあたり、どんな背景を考慮しながらドラマを作り上げてきたか、そこにはどんな医学的・薬学的根拠が潜んで判断されているのかを、視聴者の皆様への深い理解と学生さん達への良い医療教材の一助となるように解説を加えることとしました。

第1話 医療解説

第1話に登場する主な病気は

の3つです。

1型糖尿病

1型糖尿病は、膵臓のβ細胞で作られる「インスリン」というホルモンが分泌されなくなる病気です。主に、自分自身の細胞を標的にして攻撃してしまう自己免疫学的機序により生じます。2型糖尿病の原因は、過食、運動不足、ストレスなどにより発症しますが、1型糖尿病の場合は、ウイルス感染の関与も言われていますが、詳しい原因は完全には解明されていません。インスリンは、食べ物をエネルギーに変える過程で、ブドウ糖を筋肉や脳などの細胞の中にとりこむために必要なホルモンです。インスリンが不足すると血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が高くなり「高血糖」になります。インスリンは、睡眠中や空腹のときにも絶えず分泌される『基礎分泌』と食事を摂るたびに直ちに分泌されます『追加分泌』に分かれます。ドラマの中に出てくるインスリン注の投与のシーンは、この『追加分泌』に対応するためのインスリンを投与する服薬指導となります。インスリン注の正しい投与方法・タイミング投与単位数の設定を間違えていないか、注射薬なので感染的観点から消毒などの指導も必要となります。投与のタイミングも、食事の直前に投与しないと投与したインスリンだけが先に効いてしまい血糖値が低くなる「低血糖」に陥ってしまいます。ドラマの中で奈央ちゃんが倒れてしまうシーンがありましたが、これはインスリン注を投与した後に食事を何も摂らなかったために「低血糖」を起こしたためでした。低血糖の症状は、血糖値(BS)がBS≦70(mg/dL)の初期症状で汗をかく、顔色が青白い、手や指が震える、BS≦50(mg/dL)であくびや頭痛、BS≦30(mg/dL)で意識障害、けいれん、昏睡といった症状が出現します。低血糖で倒れて意識障害の奈央ちゃんの表情は正に、冷や汗、顔が青白く、意識障害となっていたと思います。
また、インスリン分泌のコントロールが上手くできないと「糖尿病ケトアシドーシス」という危険な状態となります。はき気、嘔吐、腹痛、大きく深い呼吸、意識障害(昏睡)などの症状が現れます。

スズメバチのアナフィラキシーショック

アナフィラキシーショックとは、アレルゲン等の侵入により全身性にアレルギー症状が惹起され生命に危機を与え得る過敏反応に血圧低下意識障害を伴うものと定義されています。
アナフィラキシーの原因は牛乳、小麦、そば、ピーナッツなどの食べ物が最も多く、続いて蜂、薬物となっています。
日本では蜂刺されによるアナフィラキシーショックで年間20人ほどが亡くなっているのが現状です。
蜂などの虫に刺された場合に、蜂毒に対するアレルギー反応がない場合、局所症状は数日で改善します。しかしながら、蜂に一度刺されて蜂毒に対する抗体ができている場合は、再度蜂に刺された後5~10分以内にアナフィラキシーを起こすことがあります。今回、患者さんである峰田さんの友人は恐らく過去に蜂に刺されたことがなく、蜂毒に対する抗体がない為に軽症だったのでしょう。その一方で峰田さんは、過去に蜂刺されがあった為、抗体を保有しており、アナフィラキシーショックになってしまうという場面でした。

救急の初療中に一向に薬物治療で改善が見られず深刻さが増しチーム全体が焦る中、みどりが患者さんの持ち物を確認し、ポケットから降圧剤であるβブロッカーのビソプロロール錠の殻を発見し、救命の豊中医師へ「患者さんはβブロッカーの服用の可能性があります」「グルカゴン注を!」と提案する。
起死回生のグルカゴン注ですが、グルカゴン注は通常、血糖上昇作用が主で低血糖時の救急処置薬ですが、強心作用(心拍出量や心収縮力が増加)も併せ持つ薬剤です。カテコラミン注は、β刺激後にcAMPが上昇し、強心作用を発揮しますが、グルカゴン注はβ刺激を介さずに直接cAMPを上昇させ強心作用を発揮します。βブロッカーは降圧剤であると同時に交感神経の遮断薬なので、交感神経刺激薬のアドレナリン注が効きにくくなります。一方、グルカゴン注はβ刺激を介さずに直接強心作用を発揮するのでβブロッカー内服中に使うと有効なのです。このため、βブロッカー服用の峰田さんに、みどりは通常の強心薬のカテコラミン製剤であるアドレナリン注ではなくグルカゴン注を提案したのです。
また、アドレナリン注の用量(お薬の量)ですが、アナフィラキシーショックから心停止となり、アドレナリン注の用量が変わっていることにも注目です。アナフィラキシーショックの場合の用量は『通常0.3mgのアドレナリン注を筋肉内注射』ですが、状況が一転、心停止となると1mgのアドレナリン注を静脈注射』の用量となります。ガイドラインでも、アナフィラキシーショックに対してアドレナリン 0.01mg/kg筋注(最大量 小児:0.3mg、成人:0.5mg)必要に応じて5~15分毎に再投与を推奨しています。また、アナフィラキシーにより心停止に至ってしまった場合は,CPR,酸素投与,静脈ルートの確保が治療の基本となり、アドレナリン1mg(小児では0.01mg/kg)を3~5分おきに 静脈内/骨髄内投与というような投与法を推奨しています。

HELLP(ヘルプ)症候群

HELLP症候群(HELLP syndrome)とは、妊娠後期または分娩時に生じる母体の生命に危険を伴う一連の症候を示す状態です。Hemolytic anemia(溶血性貧血)、Elevated Liver enzymes(肝逸脱酵素上昇)、Low Platelet count(血小板低下)の3大徴候を伴い急遂分娩または帝王切開に移る場合があります。初期の症状として頭痛(30%)、視力障害、不快感(90%)と、吐気・嘔吐(30%)、上腹部の痛み(65%)等を呈します。妊娠高血圧症候群を伴うことが多く、その後に子癇を発症する場合も多く、緊急性の高い疾患です。

今回、妊娠高血圧症の矢島詩織さんを林先生は、HELLP症候群の初期症状の1つの上腹部痛を単なる胃潰瘍と臨床的に判断し、プロトンポンプ阻害薬(PPI)を処方しました。PPIの副作用の1つに肝機能障害がある為、HELLP症候群の3大徴候の1つの肝逸脱酵素上昇(AST、ALT上昇)を薬剤の副作用の1つと捉えて治療し臨床経過を診ていました。

■医師の診断行為
診断はあくまでも医師しかできないと医師法で定めてられています。
従って、みどりも薬剤師である以上、診断行為は許されません。しかし、患者の副作用1つ1つを疑い、患者の訴えや症状に耳を傾けていたからこそ、医師にその症状が副作用とは違うと進言しHELLP症候群に行きついたシーンでした。私達薬剤師も、副作用を疑う半面、その症状が病状とどう異なるのかも現場で確認している作業の1つです。

ドラマはあくまでもエンターテイメント、フィクションであって現実のコピーを作っているわけではありません。そのドラマと言うエンターテイメントにリアリティーを与えることによって、質の高いドラマとなり、人々は共感し感動するのだと思います。今後もそのような、ドラマの医療監修となるよう努めて参ります。

第2話 医療解説

第2話に登場する医療・薬学的解説シーンは

の3つです。

医療用麻薬の厳格な保管管理

通常、お薬は『普通薬』、『劇薬』、『毒薬』、『麻薬』、『向精神薬』、『覚せい剤原料』のような保管管理区分に分けられます。それぞれの保管方法は異なり、表示方法も異なります。特に麻薬は、通常の医薬品と異なりその保管・管理は厳格かつ正確な保管管理が求められます。これは『麻薬及び向精神薬取締法』により規定され、適正使用を期するため、施用の制限、管理義務、保管義務、記録義務等を課しているからです。ドラマのシーンにも登場したように、麻薬の保管は、頑丈な鍵のかかる専用の金庫で保管しなければなりません。近年は鍵ではなく指紋認証顔認証へと認証技術が進化しており注射の金庫は顔認証でした。また、麻薬管理者である販田薬剤部長は、施設で施用した麻薬及び譲受・譲渡した麻薬について、その麻薬の品名、数量及び年月日を記載した帳簿(麻薬管理帳簿)を作成し、これを2年間保存する必要があります(第39条第1項)。帳簿への記載は交付毎とされ、定期的に帳簿残高在庫現数を確認しなければなりません。ドラマでは販田部長が「昨晩の在庫確認までは合致していたから、夜間から早朝に誰かが出したはず・・」のように速やかにその在庫把握が可能な管理体制がどの病院でもとられています。
ただし、今回のように未使用の麻薬があった場合は帳簿へ正しく払出・返却の記載をし、虚偽がないように説明しなければなりません。そして、麻薬管理者は院内で発生した『事故』『紛失』に関しては、速やかに、「麻薬事故届」「麻薬廃棄届」として必要な事項を取り纏めて都道府県知事に届け出なければならなりません(第35条第1項)。これらが適切に管理されているか立入検査として、都道府県の薬務課職員または健康福祉センター職員が定期的に確認し、必要に応じて各厚生局の麻薬取締部が確認に来ることがあります。
実際の医療現場では、「1日の業務が終わって在庫確認したら1本合わない為に徹夜で探したよ~」などが本当にあります。数の数え間違い、帳簿への記載ミスだったら良いですが・・・。それくらい厳格な取り扱いがされているからこそ、臨床の現場では安心して使用できるのです。

クラリスロマイシンの飲み方

子ども用の粉薬は味に工夫がされている場合が多く、「イチゴ」「オレンジ」「バナナ」「ヨーグルト」のように子どもが好きそうな匂いが添加されています。特にマクロライド系抗菌薬であるクラリスロマイシン主薬苦味周囲を甘いドライシロップでコーティングしてあるドライシロップ製剤です。薬剤は苦みを感じさせないように、中性の口腔内で溶けずに、酸性の胃で溶けるように設計されていますが、ドラマの中で登場したように、オレンジジュースなどの有機酸に溶かすと、酸によりこのコーティングが剥がれてしまい、苦くて飲みにくくなります。オレンジジュース以外にも同様な理由で、りんごジュース、グレープフルーツジュースも苦味が出ますし、乳酸であるヨーグルト・乳酸飲料、その他酸性のスポーツ飲料・イオン飲料なども苦味を発現するので注意が必要です。苦味を感じにくくする製剤改良の研究が重ねられ、現在では、水で服用すれば、苦味を感じにくい製剤となりました。酸性であるのはジュースばかりではなく、薬も存在します。ドラマの中でも登場したもう1つのお薬として去痰薬カルボシステインと言うお薬がありました。このカルボシステインは酸性の薬剤で、pHは2.76です(カルボシステイン自体は苦みはありません)。クラリスロマイシンカルボシステインを混ぜると、この酸がコーテングを剥がしてしまってすごく苦くなり、お子さんが薬嫌いになることがあります。
クラリスロマイシンカルボシステイン別々に混合し分包し服用時混ぜないで別々に服用するよう服薬指導が必要です。一緒に処方されたときは、先にクラリスロマイシンを飲ませてから、一度口を水で濯ぐなどし口の中にクラリスロマイシンが残らないようにしてから、次にカルボシステインを飲ませるようにするのが正しい飲み方です。カルボシステインをドライシロップ(粉薬)ではなく、水剤液体のお薬)ならばこのような苦味は発現しません。また、この薬の苦味をマスクするのが刈谷、みどりイチオシの起死回生のチョコレートアイスでした。アイスクリームは、舌を冷やし、味覚を鈍らせて、一時的に神経を麻痺させて苦味を感じにくくします。アイスクリームは口当たりがよく、食欲のない子どもにも食べさせやすいという利点もあります。この他にも苦味を回避する食品として、練乳、ピーナツクリーム、ココアパウダーなどがありますが、1歳未満の赤ちゃんにはハチミツは避ける必要があります。乳児ボツリヌス症の原因となる菌が含まれている可能性がある為です。薬を何かに混ぜてからあげる場合は一回づつ作るようにし、混ぜたものを作り置きするのはやめましょう。作り置きすることで薬本来の味が溶け出してしまって逆に飲みにくくなったり、成分が変質して効き目がなくなってしまうこともあります。酸性条件で苦味が発現する薬にクラリスロマイシンの他にも、アジスロマイシン、エリスロマイシン、トスフロキサシン、デビペネムなどがあります。昔から言われているように「良薬口に苦し」という言葉があるように、薬は元々あまり美味しいとは言えないものが多く、子供用の粉薬は飲みやすいように、味や香りに工夫が施されていることが多いのです。
私達薬剤師も多くの後発医薬品の中から1つの薬剤を採用し、患者さんに提案する際には「味」という評価基準を加味して、薬を選択することをしています。同一成分の後発医薬品の中でも上記の様な酸性条件下での苦味の発現は、各々の薬品で異なり、添付文書からでは分かりません。実際に、自分の味覚などの五感をフル活用し、よい後発品を選ぶことも薬剤師の役割なのです。だから味見オタクのみどりは正にこの象徴とも言える姿なのです。小児のお薬の飲ませ方で悩んだら、何でもおかかりの薬剤師さんに相談してみると良いですね。

下痢止めのロペラミド錠の過量服用による心室性不整脈

止瀉薬の分類では、系統別に収れん薬である天然ケイ酸アルミニウム、塩化ベルベリン、次没食子酸ビスマス、タンニン酸アルブミンがあり、乳酸菌製剤ではラクトミン、ビフィズス菌製剤、耐性乳酸菌製剤などがあります。ロペラミド塩酸塩は、麻薬に似た構造骨格をもち、消化管のオピオイド受容体に作用して消化管運動を抑制し、止瀉作用(下痢止め)をもたらします。過量服薬ではQT延長・Torsade de Pointes・重篤な心室性不整脈・心停止などの重篤な副作用を引き起こす。実は、このロペラミドの過量服用は、アメリカの米食品医薬品局(FDA)からも意図的なロペラミドの過量服用による致死性心イベントが報告され警告が出されています。
患者さんの大宮清さんが、術前化学療法のシスプラチン投与の支持療法の止瀉薬として処方されていたロペラミドの服用を隠そうとして、トイレで大量に服用し重篤な心室性不整脈で倒れるシーンでした。このように、止瀉薬として適切な用量で服用していれば問題ない薬剤も、一気に大量に服用すれば取り返しのつかないことにもなります。ここで、起死回生の拮抗・解毒薬であるナロキソン塩酸塩注がみどりより提案されました。実は、このナロキソン塩酸塩注は、麻薬の拮抗・解毒薬が本来の役割の薬剤です。麻薬の過量投与により呼吸抑制の症状が現れた際に拮抗薬として臨床現場で使用されています。上述にもあるようにロペラミド錠は麻薬と似た構造骨格を持つことから、これらを大量に服用したと推測したみどりは麻薬の過量投与と同様の対処法であるナロキソン注を提案したのです。実はちゃんと、ロペラミドの添付文書の過量投与の対処方法に「中毒症状がみられた場合にはナロキソン塩酸塩を投与する」との記載があります。救命の初療で原因不明の心室性不整脈の治療に難渋する中、みどりが原因物質を特定し、正しい拮抗・解毒薬を提案し投与したから一命をとりとめられたシーンでした。原因不明の心室性不整脈の薬物治療にリドカイン注、アミオダロン注が登場したのも注目です。
お薬の表面に英字や数字が刻まれた刻印がありますが、これはお薬を判別する薬剤の識別コードです。薬剤の1つ1つが判るように刻まれている英数字は、薬の一包化の判別服用薬剤を同定する際に欠かすことのできない識別コードです。今回は薬が欠けてしまい、識別コードが判別不能で、一部しか存在せず苦戦し、「識別コードが●●で始まり、ほんのりと甘く、でも苦みのある」と言うみどりのセリフですが、最後も『薬の味見オタクの味覚』に救われたシーンでした。

第3話 医療解説

第3話に登場する主な医療・薬学的解説シーンは

の2つです。

腎臓病とその治療

腎臓の役割

腎臓の役割は主に5つあります

  1. ① 有害な老廃物をこしとる
  2. ② 体内の水分や電解質バランスを調節する
  3. ③ 血圧を調節する
  4. ④ エリスロポエチン(赤血球の産生を促すホルモン)を分泌する
  5. ⑤ 活性型ビタミンD3(骨をかたくするビタミン)を作る

 腎臓は、約100万個のネフロンという単位からなり、腎小体と、腎細管の2つからできています。
 腎小体は、有害な老廃物を血液から取り除いて尿として排出するため、生体に有用なものと不要なものとに選り分けるフィルターの役割をしています。 腎小体は1個の腎臓に100万個以上存在する直径0.2mmほどの球形で、毛細血管の固まりである糸球体とこれを包むボーマンのうとからなります。
 腎細管とは、糸球体より集合管にいたるまでの、尿の素が通り再吸収・分泌などを受ける組織のことをいいます。ここで尿の素から、水分、塩分などを再吸収し、体内の水分やイオンバランスを調節しています。再吸収を受けた尿は腎盂(じんう)に集まり、輸尿管をへて、膀胱に送られ排泄されます。
 その他、腎臓はレニンという酵素(血液中のタンパク質と反応して強力な血管収縮作用をもつアンジテンシンⅡとなり血圧を上げます)を産生し、血圧の調節を行なっています。また、エリスロポエチンを分泌し、赤血球を作るよう骨髄に働きかけます。骨にカルシウムを沈着させるために必要なビタミンDを活性型ビタミンD3に変える働きをしています。


腎臓病になると

腎臓病になると、5つの役割に障害がでます。

  1. ① 老廃物がたまる
  2. ② 水分、電解質バランスが崩れる
  3. ③ 血圧が上昇する
  4. ④ 貧血になる
  5. ⑤ 骨がもろくなる

 老廃物や余分な水分がたまるため、体にむくみが出たり、だるくなります。またイオンバランスが崩れ、からだは酸性に傾き、吐き気や嘔吐、食欲不振などの原因となります。また、腎臓の血流量が減少するため、レニンの分泌が過剰となり血圧が上昇します(今回、新田さんが校庭を走っている途中で倒れたのも、「③血圧が上昇する」ことが原因と思われます。)。また、エリスロポエチンの分泌量が減り、赤血球を作るための指令がいかず、貧血になります。さらに、活性型ビタミンDзが作られないと小腸からのカルシウムの吸収が妨げられ、血中カルシウム濃度が低下し、骨がもろくなってしまいます。
 慢性糸球体腎炎とは、何らかの原因で糸球体に炎症が起こることによりフィルター機能が低下し、生体に有用なタンパク質や血液が尿中に(少なくとも1年以上)出てしまう慢性腎臓病です。病気が進行すると、上記に示した様に、5つの役割に障害がでてくるようになるため、薬物療法が重要となります。さらに進行すると腎不全となり、透析療法が必要となります。


治療法

透析

 腎臓の機能が正常の10%以下に低下すると、尿から老廃物や水分が適切に排泄されなくなり、尿毒症や水分過多による心不全等になりやすくなります。機能が低下した腎臓の代わりに、有害な老廃物や余分な水分・塩分の排泄を代行してくれる治療法が透析です。「①老廃物がたまる、②水分、電解質バランスが崩れる」を改善します。ただし、透析は腎臓の機能を回復させる治療法ではありません。そのため、生涯続ける必要があります。透析療法には血液透析と腹膜透析の2種類の治療法があります。

血液透析

 自分の腎臓の代わりに人工腎臓のフィルター(ダイアライザー)を介して、血液から老廃物・余分な水分を取りのぞく治療法です。1回の治療で概ね4~5時間の治療時間を要します。それを週3回(月・水・金もしくは火・木・土)通院して行います。医療機関で治療を行うため、時間的拘束はあるものの、医療者にお任せで治療を受けることができます。治療中は血液を血管から毎分200mL程度取り出してダイアライザーに通す必要があるため、治療開始前に手術を行い、「シャント」という特殊な血液回路を腕に造ります。本ドラマで登場した新田さんは、慢性腎臓病が進行し、腎不全となったため、この血液透析を受けていました。

腹膜透析

 お腹の中のスペースを包んでいる膜(腹膜)にある毛細血管と腹腔に注入した透析液を介して、老廃物・余分な水分を取り出す治療法です。自宅で自身の手技により行えるため、通院は月に1回程度です。そのため時間的拘束が少なく、行動範囲の制約も少なくなります。治療開始前には、予め腹腔内に透析用の管を手術で入れておく必要があります。現在、国内には約32万人の透析患者がおり、97%の方は血液透析を行っています。腹膜透析は活動の自由がありますが、自身で手技を行なわなければならず、腹膜の機能が低下すると血液透析に移行しなければならないため、3%程度の普及となっています。


食事の管理について

 カップ麺には、ナトリウムやカリウム、リンが大量に含まれていることがあるため、②水分、電解質バランスが崩れます。透析患者さんではできるだけ摂取しないほうが良いと思われます。また、新田さんは、眠気を紛らわすためにカフェインの多い栄養ドリンクを飲んでいたと思いますが、その他、リンやカリウムが多く含まれており、糖分も含まれています。また、カフェインには利尿作用があり、体内の血液の流れに影響を及ぼすため、摂取しないほうがよいでしょう。このように、慢性腎臓病の患者さんは透析や薬物療法だけでなく、日常の食事管理も重要となります。

トローチに穴が開いている理由

トローチは、口やのどの細菌を殺したり増殖を防いだりする目的で使用します。効果が持続するよう、ふつうの錠剤より硬く作られており、徐々に溶けるような製剤設計がなされています。かみ砕いたり、飲み込んだりせず、できるだけ長く口の中に含んで溶かします。
このように、トローチは長時間なめるようにつくられているお薬ですので、誤って飲み込んでしまっても息が詰まらないよう、真ん中に穴をあけています。

第4話 医療解説

第4話に登場する医療・薬学的解説シーンは

の3つです。

添付文書と疑義照会

 添付文書とは医療用医薬品の取り扱い説明書で、「患者さんの安全を確保し、医薬品の適正使用を図る上で、最も基本的で重要な公的文書」(医薬品医療機器総合機構)と定義されています。 「理屈ばかり、上から目線で何を言っているかよくわからない」ことを「能書きを垂れる」と表現することがあります。この「能書き」は添付文書中の「効能効果(どの病気に効くか)」「能」「書」が由来と言われており、それほど、理詰めで細かいことが書かれています。薬剤師はこの添付文書記載内容のすべてを理解していなければいけません。添付文書は医薬品の箱に同封されていますが、記載内容は改定されることもあります。薬剤師は厚生労働省から発出される最新情報を知っていなければなりませんし、古い添付文書を見て、医師からの質問に答えてしまうとチグハグした疑義照会の回答となってしまうため、最新版の添付文書の情報を確認しておく必要が薬剤師にはあるのです。
 処方箋には主に以下のことが書かれています。氏名、生年月日、性別、医療機関名、連絡先、処方医 ・薬の名前・薬の形(錠剤、カプセル剤など)、薬の服用量、1日に飲む回数、服用時間、処方日数、ジェネリック医薬品への変更など薬剤師はまず受け取った処方内容をすべて確認し、疑わしい点がないか調べます。まず、処方箋の書式記載上で上記の点に不備が無いか(印鑑漏れなど)を確認します。次に医学・薬学的な観点からお薬手帳や患者との会話から、飲み合わせや生活習慣等から、処方内容に疑義がないかを再確認します。内容に疑義があり、薬剤師の判断では解決できない場合には医師に直接電話などをして確認します。これが疑義照会で、「添付文書記載どおりの適正使用が行われているか」を医師と薬剤師が協議して確認するということです。今回アジスロマイシンの疑義照会時にみどりが「いいの?ハク」「疑義照会でしょ」「添付文書にも書いてあるよ」と不満げに話しています。これは医師の経験よりも、公的文書である添付文書の方がエビデンス(根拠)があるから、羽倉にきちんと疑義照会をする必要性があることを先輩薬剤師のみどりが羽倉に諭しているシーンです。
 「疑義照会」は何度もドラマで出てくる言葉ですが、薬剤業務では最重要キーワードです。薬剤師法第24条「薬剤師は,処方せん中に疑わしい点があるときは,疑わしい点を確かめた後でなければ,調剤してはならない。」(中略)と記載されています。そう、調剤してはいけないのです!また、処方した医師も、保険医療養担当規則第二十三条2(処方せんの交付)より「保険医は、その交付した処方せんに関し、保険薬剤師から疑義の照会があった場合には、これに適切に対応しなければならない」とされており、『処方する医師』と『調剤する薬剤師』の双方に責任があるのです。
疑義照会をしないで調剤した場合、「薬剤師法違反」となり、薬剤師には注意義務違反(過失)が認められ,損害賠償責任を負うことになります。また、刑事責任行政責任に問われる可能性も否定はできません。羽倉は「アジスロマイシンの用量(服用する量)として500mgでは多すぎるので300㎎ではないか?」と疑義(疑わしい)を照会(問い合わせ)しています。それは添付文書の用量(小児)にはアジスロマイシン 10mg/kg/日として、患者さんの体重が30kgなので、計算上アジスロマイシンの適正な処方量が300mgでなければならないところ500mgでは投与量が多いと判断したのです。

医師が処方した処方箋を、薬剤師の専門的な観点からダブルチェックをすることによって医薬分業がなされ、複数の目を通す第三者の目を通す)ことによって薬物治療の安全性が高められているのです。皆様も処方箋を薬局に提出後、薬剤師が「処方医に確認することがあるので少々お待ちください」と話すことがありますが、その理由の多くがこの疑義照会です。待ち時間が長くなることで気分を害される患者さんもいますが、薬剤師が患者さんの安全を守っている証拠ですので、寛容に受け止めて頂き、少しお待ち頂ければと思います。
最近では後発医薬品(ジェネリック)剤型の変更に一部、医師に疑義照会することなく、薬剤師の判断で調剤できる場合も制度上可能になりました。これは事前に医療機関と地域の薬局で取りきめができており、薬剤師が勝手に判断しているわけではありません。(事前包括合意に基づく取り決め)

アジスロマイシンの過量投与による耳鳴りと投与量の許容範囲

 アジスロマイシンの添付文書には「小児は1kgあたり10mg1日1回3日間経口投与。1日500mgを超えないものとする」と記載されています。30kgの患者ですと「10mg×30kg=1日300mg」が適正な投与量なのに対して、今回問題となった処方は500mgであり、1.7倍の薬剤が投与され「過量投与」となります。
添付文書には「本剤の過量投与により聴力障害を起こす可能性がある」記載されています。発現機序は不明ですが、症例としてはいくつか報告されており、多くの場合、アジスロマイシンを中止した後に聴力障害は回復しています。
処方医である池松医師は「いままで何十年もその処方で問題なかったし、許容範囲だから大丈夫だ」と答えていますが、この「許容範囲」が問題なのです。前述したようにアジスロマイシンには体重1Kg当たりの投与量が決められており、その用量以外では「多くても少なくても認めない」、つまりこの薬剤には許容範囲がない、ということになります。一方、許容範囲が認められている薬剤もあります。ドラマでも何度か出てきたロキソプロフェンでは「1回60mg、1日3回経口投与。年齢、症状により適宜増減する」「適宜増減(テキギゾウゲン)」が記載されていると、許容範囲を認めています。さらに、龍一がドラマで服用しているテルミサルタンでは「40㎎を1日1回経口投与するが、年齢・症状により適宜増減し、1日最大投与量は80㎎までとする。」となっており、こちらもある程度の許容範囲を公的に認めていることになります。薬剤の中の多くが用量の記載に『適宜増減』が付いていますが、中には『適宜減量』用量を減量することしかできず、増量が出来ない薬剤も存在しています。
アジスロマイシンと言う抗菌薬はマクロライド系抗菌薬と言う分類の薬剤ですが、そのお薬の効き方は少し特殊であり、1日1回3日間投与により、有効濃度が約7日間持続することが判っています。従って薬物治療の安全的な観点から、医師が誤ってアジスロマイシンが3日以上の連続した処方をしていないか、また、服薬指導時に患者さんの手元にある余ったアジスロマイシンを誤って服用して4日以上服用することがないように薬剤師は確認作業を行っています。また、このマクロライド系抗菌薬は第2話でも登場した、オレンジジュースで服用すると苦味が出てしまう抗菌薬なので、お子様の服薬指導には更に時間を要してしまいます。

ポリファーマシー(多剤併用)

 直訳すれば『Poly(多くの)』 + 『Pharmacy(薬)』ですが、長寿高齢化に伴い、多様な疾患を背景に持つ患者が、多くの薬(多剤)を服用(併用)することにより、薬の飲み合わせの悪さ副作用なとどの有害事象が生じることです。
高齢者の中には現疾患によって10種類以上の薬剤を処方されている場合も珍しいことではありません。また、服用時間(朝・昼・夕)ごとにまとめて分包(一包化)することで何の薬剤を服用しているか本人も家族も理解していない場合があります。処方薬の種類を減らすには服用回数1日3回の薬剤よりも、服用回数が1~2回の長時間作用する薬剤を選ぶ糖尿病高血圧等では2~3種類の薬剤が一つになっている配合剤を検討する、同種同効薬を見直す(胃薬、整腸剤等)ことにより服用する薬剤数を減らす、という方法により、医師と薬剤師が協議することもあります。既に症状が改善され治った疾患にも関わらず『Do処方』(前回と同じ処方をする)によって不要な薬剤が処方され続けてしまうと言うことが現在の医療現場で問題になっています。また、これは医療費を増大させ、不要な医療費を圧迫している要因の1つでもあります。
 ポリファーマシー(多剤併用)が発生してしまう背景として、急速に進む日本の高齢化があげられます。特に高齢者加齢による生理的な変化によって、肝臓や腎臓の機能が低下(肝機能・腎機能低下)しており、薬物を体内から排泄するのに時間を要し、一般の成人とは薬物の反応や効果の度合いが異なる場合がある点や、複数の薬を服用していることも多い点などから、薬物有害事象のリスクが高いのです。高齢者は様々な疾患に罹患し、複数の医療機関にかかり薬が処方されていることは珍しくありません。複数の医療機関を受診し、単一施設で処方される薬が2~3種類だとしても、受診先が増えるごとに薬も足されていくため、結果的にポリファーマシーが発生しやすい環境になります。また、薬の副作用や有害事象を抑えるために新たな薬を処方し、その新たな薬の副作用を抑えるためにまた別の薬を処方……というように薬物有害事象新たな薬で対処し続ける「処方カスケード」もポリファーマシーを形成する可能性が高いとして問題となっています。服用する薬剤が増えると、お薬の飲み合わせ(相互作用)やより過量投与になる危険因子が増えることになります。特に、高齢者では6剤以上の薬剤を服用していると有害事象を発症する確率が高いことがわかっています。また、その有害事象としては、意識障害、低血糖、肝機能障害、電解質異常、ふらつき・転倒が多いことが調査の結果、判明しています。

 複数の医療機関を受診して、院外処方で異なる薬局で薬を貰い、お薬手帳も薬局ごとに違う場合には、チェックが難しくなることに時々遭遇いたします。また、入院時には「持参薬」として、紙袋や箱に詰め込まれた大量の未使用のお薬が持ち込まれることも珍しくありません。薬剤師はその薬剤を鑑別し、院内で処方される薬剤と飲み合わせや重複等をチェックします。その時に最も役立つのが「お薬手帳」です。
羽倉龍之介の父・龍一のように医者でも、ポリファーマシーの悪影響を知らず、自分の判断で薬剤を調整する患者さんが時々見受けられます。妻から手作りのお薬手帳を見せてくれたことで、薬剤による一過性の認知症症状をみどりとハクが疑いました。
医師である父に「ポリファーマシーのせいかもしれない」と伝えても、龍一は聞く耳を持たなかった。そこでみどりとハクは徹夜でDI室に籠もり、必死に文献を探し、エビデンスのある文献を見つけたのです。医師である父に認知症の原因(物忘れ、靴下が左右逆)がポリファーマシーであることを理解してもらうには、特にこのようなアプローチは「息子としての薬剤師の存在意義」医師である父親に受け入れてもらいたかったからなのです。疑義照会でも触れたように、薬剤師もこのように第三者の目の違った観点から医療を安全に実施できるよう、薬物治療がより向上するよう日々努力している一旦をご理解頂けたら幸いです。

お薬手帳については、葵みどりのお薬講座でも説明していますのでご覧ください。
(葵みどりのお薬講座参照
https://www.fujitv.co.jp/unsung/okusuri/index.html

第5話 医療解説

第5話に登場する医療・薬学的解説シーンは

の3つです。

アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)・人生会議とは

 誰でも、いつでも、命に関わる大きな病気やケガをする可能性があります。命の危険性が迫った状態になると、約7割の方が、医療やケアなどを自分で決めたり望みを人に伝えたりすることが出来なくなると言われています。従って、常日頃から万が一の時に「本当はこんなんはずじゃなかった」とならないように備えておくこと、自分の大切にしていること、どのような医療やケアを受けたいか・受けたくないかについて、自分自身で考えたり、家族や大切な人たちと話し合ったりすること「アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning:ACP)」と言います。また「人生会議」とは、アドバンス・ケア・プランニングの愛称です。平成30年3月に人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスガイドラインの改訂版が厚生労働省から出され、亡くなるまで治し続ける医療から、亡くなるまでどうより良く生きるかをあらかじめ考えて、最期までどう自分らしく生きるかを考えていく医療への転換を図るものであり、時代は正に医療が「治す医療」から「支える医療」へと変革しつつあります。
 類似した用語にアドバンス・ディレクティブ事前指示 advance directive;ADは、患者あるいは健常人が将来判断能力を失った際に、自分自身に行われる医療行為に対する意向を前もって示すことである。リビングウィル(living will;LW)は、医療行為に関して患者が医療者側に指示をするものであり、「将来意思決定能力がなくなったときに,生命維持治療をしてほしいか、してほしくないかについて主治医や家族に知らせる指示書、書類と定義されている.ACPは,これらAD、LWの双方を包括する概念であり、LW作成には医療チーム、訓練を受けたアドバイザーから十分な説明を受け、ご家族を含めた話し合いを繰り返し、よりよい選択をすることを推奨します。この相談過程をACPと言います。心臓、肺の機能が停止した際に、気管挿管、人工呼吸器、心臓マッサージ、昇圧剤の使用等に関して事前にどのように対処するかについて DNR :Do Not Resuscitate「蘇生するな」から、最近では DNAR:Do Not Attempt Resuscitate「蘇生を試みるな」と言う用語を用いつつあります。DNR には「蘇生できる可能性があるのに治療するな」というイメージがあるのに対して、DNAR は「蘇生の可能性はもともと低いので蘇生を試みることを控える」という意味が込められています。
 自身の最期をどのように迎えるのか?辰川秀三さんが「最後はどう生きるかってことは自分が決めること」と言って抗がん剤で治療することを本人は決断しました。また、家族と腹を割って話し合った結果、「おじいちゃんと一緒にやりたいことリスト」を作成し、自宅で一緒に過ごしながら、「家族で写真を撮る」「樹里と散歩をする」「樹里と星空を見る」「野球観戦する」を1つずつ実現し、『とにかく家族と楽しく過ごす』と言う目標が秀三さんにとってのACPでした。また、その後「抗がん剤治療はしない」、「延命はしないで欲しい(DNAR)」と言うのも秀三さんのACPでした。「治す医療」から「支える医療」へと変革しつつある中、薬でどこまで治療することが出来るのか薬と医療の限界点がどこまであるかを模索し、見極めながら薬剤師は日々奮闘しています。くるみが「薬は病気を治すためにあるんじゃないんですか?ただ、命を延ばすだけの薬を出す為に私達はいるんですか?」と言うセリフがありましたが、正にくるみもACPを通じて患者さんと真正面から向き合い、成長した点だったのではないでしょうか?がん領域においても専門薬剤師が存在し、抗がん剤のスペシャリストとして現場で活躍していますが、日々こうした臨床上の局面、難問にも立ち向かっていけるように研鑽している姿をご覧頂ければと思います。

抗がん剤について

 がん治療には、基本的に『手術療法』『化学療法(抗がん剤治療)』『放射線療法』の3種類があり、これを『三大療法』と呼んでいます。近年、これらの3大治療に加え『がん免疫療法』第4の治療として注目されています。日本では、これまで手術ががん治療の中心にありましたが、近年は化学療法や放射線療法が進歩し、がんの種類やステージ(病期)によっては手術と変わらない効果が認められています。また現在のがんの治療は、手術、放射線、薬物療法(化学療法)などいくつかの治療法を組み合わせる集学的治療が主流になっています。薬物療法に使われる薬剤には、殺細胞障害性抗がん剤、分子標的薬、ホルモン剤、免疫チェックポイント阻害剤などがあります。

□ 殺細胞障害性抗がん剤
がん化学療法は、抗がん剤を用いてがん細胞を障害する治療ですが、がん細胞だけでなく、正常・悪性を問わず、どの細胞にも区別なく遺伝子の複製や機能を直接障害し、正常な細胞にも影響が及ぶことがあります。また、抗がん剤は系統分類別にシスプラチンなどのプラチナ製剤パクリタキセルなどのタキサン系ビンカアルカロイドのような微小管作用薬5-FUやその誘導体などの塩基誘導体シクロホスファミドなどのように遺伝子にくっついて歪めて複製できなくするアルキル化剤エトポシドのようにDNA合成する酵素を阻害するトポイソメラーゼ阻害剤、など作用機序や薬の効き方によって分類されています。
 抗がん剤は全身の血液を通じて、散らばったがん細胞に作用させることができます。また臓器別に適応は異なりますが、手術の後に用いられ手術で取り切れなかった微小ながん細胞を叩き、根治を目指すための治療方法とし補助化学療法手術の前に用いることで腫瘍をある程度小さくしてから手術をする補助化学療法などがあります。そのほか、根治が望めない場合でも、QOL(Quality of Life)を維持しながらがんとともにできるだけ長く生きることを目的とする姑息的化学療法に用いられます。
 がん細胞に対する殺傷能力に優れる一方、腸や皮膚、毛根、骨髄など、活発に増殖する正常細胞にも影響が及びやすいというデメリットがあります。主な副作用に、下痢、吐き気・嘔吐、脱毛、骨髄抑制(白血球減少症、好中球減少症、血小板減少症、赤血球減少症)などが挙げられます。下痢止めや吐き気止めの薬などの適切な支持療法や日常生活における工夫により、これらの辛い副作用を和らげ、副作用と上手く付き合いながら治療を継続していくことが重要です。

□ 分子標的薬
分子標的薬は、がん細胞に多く見られたり、がんの増殖に関係したりする分子(タンパク質など)に標的を定めて開発された、正に『がん細胞を狙い撃ち』にする薬剤である一方、従来の殺細胞障害性抗がん剤と比べて、正常な細胞への影響が少ないため副作用がほとんどないとされていますが、薬剤ごとに特徴的な副作用が知られていますので、注意が必要。代表的なものが、がん細胞の表面に多く存在し、細胞の増殖に関わる上皮成長因子受容体(EGFR)と呼ばれるタンパク質を標的としたものや、HER2(ハーツー)、ALK(アルク)、ROS1(ロスワン)、mTOR(エムトール)、CDK4/6(シーディーケーフォーシックス)、BCR-Abl(ビーシーアールエイブル)、CCR4(シーシーアール)、VEGF(ブイイージーエフ)といった分子を標的とする分子標的薬が既に販売されています。

□ ホルモン剤
ホルモン療法は、がんの成長を促すホルモンの分泌を抑えたり、ホルモンががん細胞に作用するのを抑えたりすることで、がんの増殖を阻害する治療法です。主に、乳がんや子宮体がん、前立腺がんなどの治療に用いられます。

ちなみに、『がん』と『癌』の違いですが、平仮名の『がん』には、肉腫、白血病や悪性リンパ腫などが含まれます。一方、漢字の『癌』は癌腫と同じで、肺癌、胃癌などに用いられ肉腫や悪性リンパ腫は含まれません。ひらがなの『がん』は悪性腫瘍全体を示すときに用いられ、上皮細胞から発生するがんに限定するときは、漢字の『癌』という表現を用いることになります。ですので、がん薬物療法認定薬剤師は全てのがんを対象とするので、平仮名の『がん』です。

緩和ケアについて

 がんなどの、生命を脅かす病気に冒されている患者さんの身体苦痛を和らげ、自分らしい生活を送れるようにするケアがあります。それが『緩和ケア』です。緩和ケアは、がんの治療中から、どの施設、または在宅医療でも受けられます。世界保健機関(WHO)は、緩和ケアを下記の様に定めています。

・痛みや、そのほかの苦痛となる症状を緩和します。
・生命を重んじ、自然な流れの中での死を尊重します。
死を早めることも、いたずらに遅らせることもしません。
心理的、およびスピリチュアルなケアも含みます。
・死が訪れるまで、患者さんが自分らしく生きていけるように支えます。
・患者さんの治療時から、患者さんと死別した後も、ご家族を支えます。
・患者さんやご家族に、心のカウンセリングを含めたさまざまなケアをチームで行います。
生活の質(クオリティ オブ ライフ:QOL)を向上させ、患者さんの前向きに生きる力を支えます。
・病気の初期段階から、外科手術、化学療法、放射線療法などと連携しながら行ないます。

 皆さんは、『緩和ケア』という言葉に、どのようなイメージを持っていますか?「がん治療ができなくなった方への医療」「がんの終末期に受けるもの」と思っている方がまだ多いようですが、それは間違いです。緩和ケアは、「がんの治療」と一緒に始めます。
 また、「緩和ケア」に重点を置くと、「積極的な治療をやめた」「見放された」と思う患者さんやご家族もいらっしゃいますが、それも間違いです。緩和ケアを受けると、以下のようなメリットがあります。

苦痛を伴う身体的な症状(痛み、吐き気、倦怠感など)が緩和され、がん治療に取り組む力がわいてきます。
患者さんやご家族の不安や心配事など、心のつらさをやわらげるために医療チームがお手伝いをしますので、精神的なつらさが緩和されます。
社会的な問題(お仕事の問題など)についても、医療チームが患者さんと共に考えていきます。
 患者さんががんと共に生きることを可能にする医療-それが『緩和ケア』です。

第6話 医療解説

第6話に登場する医療・薬学的解説シーンは

の3つです。

月経困難症 と 子宮内膜症

 月経困難症は一般的に『生理痛(月経痛)』と呼ばれ、毎回生理痛を経験している人が3割存在し、女性全体の8割以上の人が一度は生理痛を経験していると言われています。痛みは月経開始後24時間で最大となることが多く、2~3日後に軽減する傾向があります。個人差環境要因(仕事内容、精神的ストレス等)によって、その症状や痛みの継続期間は大きく異なります。腹痛や腰痛が強いため鎮痛剤が必要となり、仕事や学校を休む必要があります。このような場合は『月経困難症』と判断します。下腹部痛、頭痛、腰痛などの痛みだけでなく、悪心、便秘、下痢など多種多様な症状がみられます。
 月経困難症は「機能性」「器質性」の2種類に分かれます。機能性月経困難症ホルモン分泌によるものです。排卵が起こると卵巣から卵胞と黄体、2種類の女性ホルモンが分泌されます。黄体ホルモンは子宮の内側(子宮内膜)にあり、月経時に剥がれ月経痛の原因になる物質を増やします。具体的には子宮内膜の内にプロスタグランジンF2α(強力な筋層刺激物質であり血管収縮物質)というホルモンを増加させ、これが子宮を収縮させて腹痛腰痛悪心の原因となります。痛みは子宮収縮虚血から生じると考えられており、子宮収縮の延長と筋層への血流の減少とも関連していると考えられています。器質性月経困難症子宮内膜症子宮腺筋症、筋腫など生体組織の異常によるもので、患者の遠野倫さんが最終的に診断された「子宮内膜症」はこれにあたります。20代~30代の比較的若い女性に多く良性の疾患ですが、疼痛過多月経などのため日常生活の質を低下させたり、不妊症の原因になったり、様々な弊害を起こす疾患です。
 患者の遠野倫さんは生理痛に端を発した「月経困難症」の診断で「ヤーズ」という薬剤を服用していましたが、症状が良くならず再診外来で「子宮内膜症」の確定診断となり、効果がある「ジエノゲスト」に薬剤が変更になりました。くるみが「子宮内膜症の痛みに効くお薬ですし、症状が改善すると思います」と、ヤーズとの違いを説明していますが、診断名によって薬の説明も異なって来ます。
 また、ピル(pill)は本来、英語では〈錠剤〉〈丸薬〉を意味します。ピルは『排卵をストップする』ことから『避妊薬』として普及していますが、本来は治療薬として開発されたものです。経口避妊薬が世界的に普及するにつれて、一般的には『ピル=経口避妊薬』と理解されています。21日 又は 28日分が1シートにセットされた、女性ホルモン治療薬を指し、月経困難・子宮内膜症の治療薬でもあり、月経に関連した様々な治療薬として処方されています。
 病気は薬だけの力では良くならないこともあります。生活習慣であったり、食生活から来る病気の素因もあることから、薬剤師のくるみは「生活改善をすることがまず大事です。月経困難症は他の人に理解してもらいにくく、孤独で辛い病気だと思います。だからこそ、自分自身でも体調の変化に気を付けて、きちんと病気と向きあって下さい。」と諭しました。医療者が全ての患者さんの病気に罹患し、患者さんの気持ちを理解することは到底不可能です。しかし、今回のように薬剤師のくるみが患者さんの病気の本当のところを知ろうと努力し、信頼関係を取り戻そうと必死に悩みに真剣に応えたからこそ、患者の遠野倫さんは心を開いたシーンでした。患者さんを救う本当に必要な薬とは・・・実は薬自体ではなく、先輩薬剤師のみどりが常日頃から諭す、「患者さんに寄り添い、患者の生活のことまで理解すること」の重要性を、まさに後輩薬剤師のくるみが学び継承し、成長出来たシーンでした。

お薬と健康食品、サプリメントとの相互作用

 飲み合わせ、食べ合わせが悪い組み合わせがあることは古来から言われています。例えば「天麩羅と西瓜」は油の多い天麩羅と、水分の多い西瓜を一緒に食べると、水と油は混ざらず、消化不良を起こすので良くないと言われていますが、科学的根拠は希薄で、食べる時間をずらせば避けられるでしょう。しかし、薬の飲み合わせは、薬であろうと食事だろうと、多くの場合時間をずらしても影響を避けることはできません。薬は血液の中で成分濃度が上がらないと効果がでないことが多く、薬物血中濃度の持続時間は1時間から1週間など薬剤ごとに実に様々なので、服用時間をずらしても影響は変わらないのです。
 セント・ジョーンズ・ワートSt John's Wort : SJW、和名:セイヨウオトギリソウ)は、日本では、不眠更年期症状うつ症状を改善するなどに効果があるとして、健康食品、栄養補助食品、サプリメント又はハーブティー等の中に含まれていることがあります。 SJWを含有する製品を摂取することにより、薬物代謝酵素誘導され、カルバマゼピン(抗てんかん薬)、フェノバルビタール(抗てんかん薬)、ジゴキシン(強心薬)、シクロスポリン(免疫抑制薬)、テオフィリン(気管支拡張薬)、ワルファリン(血液凝固防止薬)、ジソピラミド(抗不整脈薬)、アミオダロン(抗不整脈薬)、経口避妊薬(ピル)などの効果が減弱することが報告されています。通常、薬は体内に入ると『代謝酵素』で分解されて解毒されますが、その一部の「代謝酵素」の働きを促進する成分が、SJWに含まれています。そのため、SJWの成分が「代謝酵素」の働きを促進すると、薬の分解が早まり、薬の効果を弱めてしまいます(SJWに含まれる成分が、薬物代謝酵素であるチトクロムP450、特にサブタイプであるCYP3A4及びCYP1A2の薬物代謝酵素を誘導することにより薬物代謝が促進され、薬剤の効果が減弱します)。これらに挙げた医薬品以外についても、SJW含有食品の薬物代謝酵素誘導により影響を受ける可能性があることから、医薬品を服用する際にはSJW含有食品を摂取しないことが望ましく、医師・薬剤師と必ず相談し薬物治療方針についてよく話し合いましょう。また、服薬指導の中で、常時服用している健康食品やサプリメントがないかを薬剤師が伺うのは、実はこういったお薬との飲み合わせである薬物相互作用(お薬の効果を増強させたり、減弱させたりする)を事前に防止する為に必要だからなのです。ドラマ中では、薬剤師のくるみが患者の遠野倫さんのインスタグラムの中で映っていたハーブティー(SJW含有)の摂取があることに気付き、薬剤の低用量ピル(Low dose estrogen-progestin:LEP製剤)のヤーズ配合錠卵胞ホルモン(エストロゲン:E)と黄体ホルモン(プロゲスチン:P)の2つの有効成分が配合されたEP配合剤)との薬物相互作用(作用減弱)が疑われた為、ハーブティーの摂取を中止するよう促しました。遠野倫さんは薬剤を使用する前に医師・薬剤師に服用しているサプリメントを正直に申告していれば、SJWの含有製剤の服用中止を促したり、違う薬剤を提案、選択していることになったでしょう。

多剤耐性菌 と クロストリジウム・ディフィシル腸炎

 クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)は、2016年にクロストリジウム属からクロストリディオイデス属 (Clostridioides difficile) へと表現型、化学分類学、系統発生学による分類に基づいて変更となり、クロストリディオイデス・ディフィシル感染症(CDI)へと呼び名が新しく変更となっています。『クロストリジウム』は、ギリシア語で 『紡錘』を意味するkloster (κλωστ?ρ) から、『ディフィシル』はラテン語で『困難』を意味するdifficileから命名されました。
 クロストリジウム・ディフィシル腸炎(Clostridium difficile colitis:CD腸炎)とは、芽胞産生性偏性嫌気性細菌であるクロストリディオイデス・ディフィシル(Clostridioides difficile) の異常増殖の結果として生じる大腸炎です。クロストリジウム・ディフィシル関連下痢症 (C. difficile associated diarrhea: CDAD) と呼ばれる炎症性下痢症の原因です。発症原因は、抗菌薬の投与等で正常な腸内細菌叢が撹乱されて菌交代症が生ずる事で発症すると考えられています。正常腸内細菌叢を掻き乱す事によって、C. difficileは増殖することを助長されるのです。この菌の特徴としては熱等に耐性を持つ芽胞を形成し、アルコール系の手指消毒液(消毒用エタノール)や通常の消毒剤では殺菌されません。また、芽胞は環境下で長時間生存する特徴を有しています。従って、CDIを取り扱う際には、石鹸を用いた流水による手洗いが大原則となります。CD腸炎の発症は抗菌薬のニューキノロン、セファロスポリン、クリンダマイシンの使用と相関しているとされています。また、他の薬剤との併用では、胃酸抑制薬の使用に相関していることが報告されており、ヒスタミンH2受容体拮抗薬の使用では、CDIの増加率のリスクは1.5倍に、プロトンポンプ阻害薬の1日1回の使用で1.7倍それを超える頻度での使用で2.4倍に増加すると報告されています。
 一方、多剤耐性菌とは、「多くの抗菌薬に耐性を獲得した菌」のことです。感染症に罹っても抗菌薬を使えば、菌は死滅し回復します。たとえ菌がある抗菌薬に耐性を獲得したとしても、他の抗菌薬を使って治療することが可能です。しかし、多剤耐性菌に感染してしまった場合、使える抗菌薬の種類は限定され、治療が困難になります。正に、いろんな薬が効かなくなって人類滅亡となる『薬が効かない医療を襲う脅威』です。例としては、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)、ペニシリン耐性肺炎球菌(PRSP)、基質拡張型ベータラクタマーゼ(ESBL)産生菌、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、カルバペネム耐性腸内細菌科細菌(CREなどがあります。
小川早苗さんは「熱が38度で頭痛、腹痛、下痢」の症状で単なる膀胱炎の感染症を疑い入院、レボフロキサシンと言う広範囲に効く抗菌薬を処方されましたが、症状は一向に良くならないことから、副薬剤部長の七尾は多剤耐性菌に感染しているのでは?と疑問を持ち、副薬剤部長の瀬野と薬剤師のみどりが原因を突き詰めて行って頭に浮かんだのが「クロストリジウム腸炎」でした。
 今回、単なる急性上気道炎にも関わらず医師へ心のよりどころとして安心材料のために出されたペニシリン系抗菌薬のスルタミシリン(Sultamicillin)がきっかけでCDADを発症した患者の小川早苗さんでした。私達も風邪を引いたからと抗菌薬をもらいに病院に行っていませんか?そもそも風邪などウイルスによる感染症に抗菌薬は効きません。抗菌薬は主に細菌に対して効果があるものであり、不適切な使い方により、その抗菌薬が将来効かなくなることがあります。いま、世界中で抗菌薬の効かない耐性菌が増加しています。抗菌薬の不適正使用による耐性菌増加が深刻化し、いよいよ国際社会全体で取り組みが始まりました。特定の種類の抗菌薬が効きにくくなる、または効かなくなることを、「薬剤耐性(Antimicrobial resistance:AMR)」と言います。日本でも平成28年(2016年)4月に取りまとめた「薬剤耐性(AMR)対策アクションプラン」に基づき、薬剤耐性対策に取り組んでいます。平成28年(2016年)に開催されたG7伊勢志摩サミットでも薬剤耐性(AMR)が議題に取り上げられ、G7首脳が薬剤耐性(AMR)対策の強化を掲げました。抗菌薬を処方する医師側にも、『1枚の処方箋には医師のモラルが試される』一方、患者として治療を受ける私達にも、抗菌薬は、必要な場合(目的)に、適切な量を、適切な期間、服用することが求められています。膀胱炎でのレボフロキサシン、急性上気道炎でのスルタミシリン。適正な抗菌薬使用をよくよく考えさせられるものでした。

第7話 医療解説

第7話に登場する医療・薬学的解説シーンは

の3つです。

くすり(テオフィリン) と たばこ の相互作用(テオフィリン中毒)

 現在販売されている煙草(たばこ)には様々な種類があり、私達が普段目にする機会が多く、最もメジャーで代表的な『紙巻たばこ』、たばこの葉をたばこの葉で巻いた最も歴史が古く現在でも愛好者が多い『葉巻』、パイプにたばこ葉を詰めて喫煙するタイプの『パイプ』、紙巻たばこが主流になる前に日本では江戸時代から親しまれた『キセル』、水パイプという喫煙具を用いて喫煙するたばこで中東を中心に古くから親しまれている『水たばこ(シーシャ)』、鼻や口に直接たばこを含み、たばこの味・香りを楽しむ煙の出ないたばこで「嗅ぎたばこ」と「噛みたばこ」がある『無煙たばこ』、たばこ葉を使用せず、装置内もしくは専用カートリッジ内の液体(リキッド)を電気加熱させ、発生する蒸気(ベイパー)を楽しむ製品の『電子たばこ』、最近ではたばこ葉を使用し、たばこ葉を燃焼ではなく加熱させ、発生する蒸気(たばこベイパー)を愉しむ製品の『加熱式たばこ』などの新しいたばこがあります。
 日本たばこ産業(JT)が2018年5月に実施した「全国たばこ喫煙者率調査」によると、全国の喫煙率は男女合計で17.9%、その内訳は男性が27.8%女性が8.7%でした。
 成人男性の喫煙率は、年々減少し続けていますが、諸外国と比べると、未だ高い状況にあり、約1,400万人(男性)が喫煙していると推定されています。近年,喫煙による身体への有害作用が活発に議論されるようになり,禁煙を試みる人口が増加しています。禁煙は健康維持あるいは生活習慣病の予防対策としても非常に良いことでありますが、ある種の薬を服用している人では薬の服用量を調節しなければならない場合があります。
 喫煙は健康に致命的な影響を与え、高血圧症、狭心症、末梢血管障害、脳血管障害、消化性潰瘍など各種疾患との関連性が指摘され、更に肺癌、咽頭癌、胃癌、食道癌等の危険性が上昇します。しかし、相互作用に関しては、喫煙期間、喫煙量、たばこの種類などと医薬品が臨床効果にどの程度まで影響するのかまだまだ十分な情報があるとは言えません。
 また、喫煙自体が喘息悪化させるので、喘息患者さんは禁煙すべきです。たばこ(喫煙)テオフィリンの代謝促進し、半減期を短縮させ、薬物クリアランスを上昇させることにより、テオフィリンの薬物血中濃度低下します。一般的な目安として、1日20~40本の喫煙歴では非喫煙者の2倍量のテオフィリンが必要とされ、血中濃度モニタリングを行い増量や投与間隔の短縮設定などが必要となります。従って、喫煙者が急に禁煙し、そのままの用量のテオフィリンを服用し続けると、テオフィリン中毒になることがあり、テオフィリンの減量が必要となります。
 喘息の原因として当然たばこも挙げられます。しかし、現実には古賀議員のように、なかなか禁煙できず、電子たばこを吸うことで、禁煙した気になっている方も数多くいます。電子たばこにはニコチンが含有されているものと、そうでないものが販売されており、ニコチン含有電子たばこを吸うことはニコチン摂取から考えると、紙たばこを吸うことと同等となります。
 古賀議員が服用していたテオフィリンは、極めて典型的な喘息治療内服薬で気管支拡張,肺血管拡張,呼吸中枢刺激,気道の粘液線毛輸送能の促進等の作用により,気管支喘息等の諸症状を改善し、抗炎症作用も示します。また、テオフィリンは特定薬剤管理指導対象薬剤であり、有効濃度域中毒濃度域が近接している薬剤で、いわゆる匙(さじ)加減が難しい薬剤である為、薬物血中濃度を測定しながら治療を継続する薬剤です。ドラマ中で、みどりが「検査の結果、テオフィリンの血中濃度が上がっていました(=29.7μg/mL)」とテオフィリン中毒を患者の入院生活から推測して原因を追究できたシーンでした。ちなみに、通常成人の場合、テオフィリンの有効血中濃度(治療)域5~15(μg/mL)であり、中毒濃度域25(μg/mL)以上とされています。29.7μg/mLあった古賀議員はまさに、動悸めまいなどのテオフィリン中毒症状が出ていたことになります。
 テオフィリン中毒は、消化器症状(特に悪心、嘔吐)や精神神経症状(頭痛、不眠、不安、興奮、痙攣、せん妄、意識障害、昏睡等)、心臓・血管症状(頻脈、心室頻拍、心房細動、血圧低下等)、低カリウム血症その他の電解質異常、呼吸促進、横紋筋融解症等の中毒症状が発現しやすくなります。なお、軽微な症状から順次発現することなしに重篤な症状が発現することがあります。
 古賀議員の秘書の鴨居さんのセリフで「最近、動悸めまいの症状が出ています。何度か苦しそうに胸を押えることがありました」は前述のテオフィリン中毒症状をみどりが察知した場面でした。
 みどりは、通りすがりの古賀議員にたばこの匂いが無いことを察知し、テオフィリンとたばこの相互作用を予見し、みどりは「古賀議員は喫煙本数を減らしていましたが、それを医師に伝えていなかったので処方量は増えたままなのに、代謝量が減り、テオフィリンの血中濃度が高くなって中毒を起こしてしまっていたんです」とテオフィリン中毒の原因を説明づけました。
 テオフィリンの添付文書には禁煙によりテオフィリンの中毒症状があらわれることがある。」喫煙によりテオフィリン血中濃度が低下すると考えられる」と記載されています.これは、たばこのタール中に含まれる多環芳香族炭化水素の薬物代謝酵素であるチトクロームP450 分子種のうち CYP1A2,CYP2E1 強く誘導することに起因します。古賀議員は電子たばこですが、ニコチン含有の可能性が高く、喫煙と同じ状態だったのでしょう。入院中、喫煙本数を減らし、禁煙と同じ状態になったため、テオフィリンの血中濃度が上昇し、テオフィリン中毒になった、ということをみどりは見抜いたのです。薬剤師は薬だけでなく、食品や嗜好品、日常生活状況(日焼や化粧等)からも飲み合わせや副作用の原因を探りますので、今回の電子たばことの相互作用も薬剤師ならではの視点でした。また、みどりは「禁煙も続けて下さい。禁煙を続ける前提で薬の量を調節しています」と今後の患者の日常生活のことや薬物治療継続の重要性も諭したシーンでしたね。

気管支喘息 と 薬物治療

 『喘息』とは正式には『気管支喘息』と言います。気管支喘息は慢性の気道炎症を本態とし,変動性を有する気道狭窄(喘鳴,呼吸困難)やで特徴づけられる疾患」(ガイドライン2018)と定義され、一般的な説明としては『急に空気の通り道となる気管支が狭くなってしまい、「ヒューヒュー」「ゼーゼー」が始まり、呼吸が苦しくなる状態(いわゆる発作)を繰り返す病気』です。
 気管支喘息は以前、発作時の呼吸困難を和らげるための気管支拡張吸入薬(β刺激薬)を多用していましたが、今では「気道の炎症を抑える」ことが大事なので、抗炎症薬であるステロイド薬の吸入発作時ではなく定期的に吸入を行います。
今回古賀議員は、内服薬のテオフィリンと吸入薬を併用して治療していました。

 現在販売されている吸入薬は、系統別に成分で以下の4つに分類されます。

◇ ICS:inhaled corticosteroid(吸入ステロイド薬)
 喘息治療の第一選択薬です。強力な抗炎症効果があります。

◇ LABA:long-acting β-agonists(長時間作用性β2刺激薬)
 気道に存在するβ受容体を刺激し、気管支平滑筋を弛緩させ、気道を拡張する(広げる)お薬です。効果が長時間続くため、発作の予防に用います。

◇ SABA:short-acting β-agonists(短時間作用性β2刺激薬)
 LABAよりも速やかに効果が現れるお薬です。喘息の発作時に使用します。

◇ LAMA:long-acting muscarinic antagonists(長時間作用性抗コリン薬)
 COPD治療の第一選択薬です。気道に存在するムスカリン受容体(M3受容体)にアセチルコリンの結合を阻害することで気管支収縮を抑制し、気道を広げるお薬です。
 近年では、上記を組み合わせて治療する為、アドヒアランスを向上させるため合剤が存在します。

 また、吸入薬には大きく分けて3種類の形体があり、お薬によってデバイス(吸入器具)が異なります。

◇ DPI:dry powder inhaler(ドライパウダー吸入器)
 お薬は粉末状になります。息を吸うことでお薬が供給されるため、しっかりと深く吸入する必要があります

◇ pMDI:pressurized metered-dose inhaler(加圧式定量噴霧吸入器)
 ボンベの底を押すと、1回分の吸入薬がエアゾール(霧状のガス)として噴霧されるタイプです。
 噴霧ガスとしてエタノールが使用されています。吸入する力が弱い方でも使用できますが、タイミングよく息を吸いながらボタンを押す必要があります。

◇ SMI:soft mist inhaler(ソフトミスト吸入器)
 噴霧ボタンを押すと、1回分の吸入薬がエアゾールとして噴霧されるタイプです。pMDIとは違い、吸入ガスは使用しません。

 患者さんの病態、手先の器用さ押す力握れる力、薬を吸う力の強さや弱さに応じて上記のデバイスを使い分けて処方されているのです。

 喘息患者の中にはNSAIDsの内服によって喘息発作が誘発される患者さんがいます。成人喘息患者の約10%にこのような症状があると報告されており、以前は『アスピリン喘息』と呼ばれていました。アスピリン以外のNSAIDsでも症状が誘発されることから、現在では『NSAIDs過敏喘息』という名称になっています。症状はNSAIDs服用後30分~数時間以内に発症します。NSAIDs過敏症はアレルギーではなく、アラキドン酸カスケードのリポキシゲナーゼ経路活性化によるロイコトリエン異常産生によるものと考えられています。COX-1阻害作用によって症状が誘発されるため、多くの患者さんではCoxibsアセトアミノフェンは安全に使用できます。古賀議員が骨折で入院されて来ましたが、今回は痛み止めにロキソプロフェンのNSAIDsではなく、安全なアセトアミノフェンが処方されていたのもこの為です。

小児がん の 急性骨髄性白血病(AML) と 急性リンパ性白血病(ALL)

 白血病とは血液をつくる過程の未熟な血液細胞である骨髄芽球に何らかの遺伝子異常が起こり、がん化した細胞(白血病細胞)が無制限に増殖することです。白血病は、がん化した細胞が、もし成熟したら「何」になっていたか?によって分類されます。成熟したら「リンパ球」になる細胞ががん化した場合「リンパ性白血病」。リンパ球以外の白血球、赤血球、血小板になる予定である骨髄系の細胞ががん化した場合は「骨髄性白血病」となります。
白血病の分類の一つが『急性』『慢性』および『リンパ性』『骨髄性』の分類です。骨髄の中にみられた白血病細胞を調べた結果によって、骨髄中の細胞全体の中で白血病細胞(芽球)が30%以上を占めるものを急性白血病とし、30%未満のものを骨髄異形成性症候群に分類します。
急性白血病のうち、ペルオキシダーゼ染色陽性芽球3%以上なら急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)3%未満なら急性リンパ性白血病(acute lymphoblastic leukemia:ALL) と分類します。ドラマ中では、心春ちゃんがAML、みどりの妹がALLでした。
急性白血病は急性に経過し、未治療なら、患者さんは数ヵ月内に死亡しますが、慢性白血病は未治療でも数年の慢性経過をとります。急性白血病と慢性白血病のがん化機構は全く違っていますので、急性の病気が慢性化するというのとは違います。
また、通常「骨髄穿刺(マルク)」といわれる検査によって、骨の中に太い針を刺して骨髄液を吸引し、薄く延ばした標本を色素で染色後に顕微鏡で検査して、白血病細胞の形により、いくつかの種類に分類します。白血病細胞に様々な検査を行い、結果は後日わかるものが多いので、まずは治療をはじめ、その結果によって治療の強さを調整します。このようにして、病気の細胞の「てごわさ」によって治療の強度を調整すること(層別化)が、白血病の治療でとても大事だと考えられています。
AML治療の内容によって多少異なりますが、入院が必要な治療期間は7~9か月です。この期間はずっと入院しているのではなく、治療と治療のあいまに外泊にいくことや、一時的に退院して自宅で過ごすことができます。ただ、治療中の多くの期間は治療薬の点滴をしているか、もしくは白血球が減って免疫が弱い状態になっていることが多いため、ほとんどの期間を病院で過ごすことになります。
急性骨髄性白血病(AML)の治療には抗がん剤が用いられます。従って白血球(ばい菌と戦う血液の細胞)が減少し、白血球の減少している間は免疫力が低下しているため、外泊に出ることはできません。熱が出た場合はたとえ元気であっても重篤な感染症になってしまう可能性があるため、抗菌薬を早めに使うことになります。また、免疫力の低下している状態が長く続くニューモシスチス肺炎(カリニ肺炎)という肺炎になってしまうことがあるため、予防するためにST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム)という薬を週に3日飲むことが必要です。みどりが心春ちゃんに「週3回のST合剤は欠かさず飲む。過度な運動と外出は禁止。油断しちゃダメだからね」と伝えていたのは、このニューモシスチス肺炎予防のための内服予防薬の服薬指導でした。
数十年前までは、小児の白血病はほとんど治らない病気でしたが、薬の適切な使い方や支持療法などの進歩によって、長期生存率は向上しました。例えば小児の急性骨髄性白血病であれば全体の約60~70%が長期生存することが期待されます。
しかし、逆に言えば、白血病の治療は100%治る段階までまだ到達しておらず、完璧な治療に至ってはいません。なるべく高い確率で治し、かつ副作用を最小限にとどめるためには、白血病細胞の性質をよく調べて分類をし、その特徴にあった薬の組み合わせと量で治療をすることがとても重要です。
 小児がんは細かい用量のチェックやがんの専門知識が必要とされ薬剤師の力量の見せ所となります。

第8話 医療解説

第8話に登場する医療・薬学的解説シーンは

の3つです。

在宅医療 と 薬薬連携

 在宅医療とは文字通り、患者の自宅に医師、薬剤師、看護師等が訪問して医療を行うことで、外来・入院に次ぐ『第3の医療』と言われています。医師が定期的に診察する「訪問診療」と、患者さんの体調不良時に診察する「往診」に分けられ、両者を組み合わせながら、24時間365日、ご自宅での療養生活を支えていきます。がん在宅医療等では上記の訪問診療と往診、さらに訪問看護や薬剤師による訪問サービスを組み合わせ、広範囲な対応が可能となっています。
 薬剤師が行う在宅訪問医療サービスには「居宅療養管理指導(介護保険)」「在宅患者訪問薬剤管理指導(医療保険)」の2種類があります。40歳未満医療保険のみ使用可能ですが、40歳以上では要介護認定を受ければ、介護保険を使うことができます。保険の種類により名称は違いますがサービス内容に大きな差はありません。処方箋調剤だけでなく、処方医の指示に基づき作成した薬学的な管理計画により患者さん宅を訪問し、薬歴管理、服薬指導、服薬支援、薬剤の服薬状況・保管状況及び残薬の有無の確認などを行い、訪問結果を処方医に報告することまでを含む業務です。対象者が要介護認定を受けている方の場合は、ケアマネジャー(介護支援専門員)にも訪問結果の概要を情報提供します。笹の葉調剤薬局の仁科薬剤師がみどりと小野塚に「訪問した結果については、担当の医師や訪問看護師、ケアマネジャーに報告して情報を共有します。」と説明しているのはこのことです。
 訪問する頻度お薬を持参するときはもちろん、服薬状況を確認するためや、すでにお届けしてあるお薬をお薬カレンダーへ配置するために、お薬を持参しないで訪問する場合もあります。また、患者さんの生活のリズムや無理のない服薬回数にするためのお薬の選択について処方医に提案することもあります。
 荒神泰子さんのような、余命いくばくもない全身転移の終末期のがん患者さんに対しては、患者さんの希望やACP(第5話)に応じて在宅で麻薬(モルヒネ等)や他の鎮痛剤、鎮静剤を使用した鎮痛・鎮静療法が行われます。薬剤師が訪問し、その服用や保管の状況を確認し、指導することもあります。『笹の葉調剤薬局』は、在宅医療に特化した薬局で、在宅医療を学ぶためにみどりと小野塚は、様々な患者さんの家を回りながら研鑽を積むこととなりました。みどりや小野塚は、この研修を通じて在宅医療における薬剤師業務を経験することとなりましたが、病院薬剤師とドラッグストア薬剤師の両者にとって、とても貴重な経験となりました。退院後、患者さんが自宅でどのような医療を受けるのかを知っている病院薬剤師は、退院時の服薬説明にも深みが出ることでしょう。また、在宅医療を通じて『最後まで看る覚悟』という、笹の葉調剤薬局の仁科が志している信念を、みどりはこの研修を通じて確実に継承し、病院へ戻っても実践していくこととなります。
 現在、『在宅療養支援認定薬剤師』という、認定専門薬剤師の資格があります。在宅療養を必要としている患者さんに薬剤師の専門性を活かした医療・介護を提供し、在宅支援チームの一員として国民の保健・医療・福祉に貢献できる薬剤師が取得できる制度です。

 薬薬連携とは病院・診療所の薬局剤師と、保険調剤薬局(院外)剤師連携して情報を共有し、患者さんに安心で継続した薬物療法を提供するために連携することです。
 院外処方箋を出す側の病院薬剤師受ける側の保険調剤薬局の薬剤師が連携するのは、一見当たり前のことに思われるかもしれません。しかし、院外処方の疑義照会内容についての問い合わせ先は処方医師であり、病院薬剤師ではありません。医療連携では、かかりつけの開業医が自施設では行えない手術や検査、入院が必要なときには病院に紹介状を書くことがよくあります。しかし、保険調剤薬局と病院の薬剤部が紹介状のようなものを介して連携している病院―薬局はごく一部です。患者さんの薬物療法に関わる背景、副作用・アレルギー歴や服薬状況について連絡を取り合うことで、病院・診療所と保険調剤薬局が同じチームとなり薬物治療のサポートが可能となります。
 病院・診療所の薬剤師は、医療機関と保険調剤薬局との薬物治療について橋渡し役としての業務が求められています。例えば、抗がん剤の点滴注射の治療は、薬剤の進歩によって以前よりも外来で行うこと(外来通院治療)が圧倒的に増加していますが、病院内での注射薬情報はおくすり手帳や院外処方箋に記載されないことも多く、院外処方箋を受けた保険調剤薬局では相互作用情報がわからないことがあります。外来通院治療を行う上で、患者さんへの適切な抗がん剤治療の薬剤情報提供とその安全性、副作用管理を確保していくために、病院地域の保険調剤薬局との情報共有は不可欠ですが、保険調剤薬局において治療内容を知る術が処方箋しかなく、薬物治療の全体像を知ることは困難です。
 薬薬連携を実践することで、かかりつけ保険調剤薬局の薬剤師が、注射薬抗がん剤の治療スケジュール(レジメン内容)の把握副作用の確認、注射薬と内服薬(のみぐすり)の相互作用等をチェックすることができるようになります。何か問題点があれば、かかりつけの保険調剤薬局の薬剤師から当該施設の薬剤部へ問題点の情報をフィードバックすることで、主治医にその情報を伝えることができ、次回の診察に反映することができるようになります。

せん妄 と 鎮静

 せん妄とは、何らかの原因で脳が機能不全を起こすことによって生じる軽い意識障害です。意識がぼんやりとした状態となり、場所や時間の感覚が鈍くなったり、動き回ったりします。皆さんも、熟睡中に急に起こされたら、一瞬自分がどこにいてどういう状況なのかわからなくなりますが、その状態に近いのがせん妄です。せん妄の症状ですが、不穏な状態が問題になりやすい「過活動型」活動水準が低下する「低活動型」活動水準が正常に近かったり、急速に変動したりする「活動水準混合型」に分けることができます。主に次のような症状が見られます。

◇ 注意力の低下
 ・話題が次々と変わってしまう
 ・周囲の物の整理ができない、点滴などの管を無意識に抜いてしまう

◇ 昼と夜の感覚が鈍くなる
 ・寝る時間と起きる時間が不規則になる
 ・昼間に眠り、夜は眠れない

◇ 場所や時間の感覚が鈍くなる
 ・自分が今いる場所がわかりにくい
 ・今日がいつかわかりにくい
 ・昼夜の区別、時間がわかりにくい

◇ 行動の変化
 ・落ち着きなく何度もベッドから起き上がる
 ・どこかへ行こうとして、その行為を繰り返す
 ・逆にほとんど動かなくなる
 ・怒りっぽくなり、時には荒っぽくなる

◇ 幻覚が見える
 ・実際にはいない人が見える
 ・実際にはない物が見える
 ・部屋の中に虫がいるように見える

◇ 話していることのつじつまが合わない
 ・過去のことを現在のことのように話す
 ・現実とは違うことを話す

 がん患者さんのせん妄にはさまざまな要因が関与しています。がんの脳転移、髄膜炎などによって中枢神経系が障害されるとせん妄が起こりやすくなります。また、痛み、便秘など不快な身体症状も、せん妄の重篤化を促進します。さらには、オピオイドなどの鎮痛薬睡眠薬もせん妄の引き金になります。再発や進行がんの患者さんはどうしても治療薬の種類や量が多くなり、せん妄が起こりやすくなります。せん妄の薬物治療では、抗精神病薬が推奨されており、妄想幻覚興奮に関与している脳内ドパミン神経を遮断する薬が使われます。以下にせん妄が起きている患者さんへの対応方法を示します。このように、せん妄では心理面でのケア生活の工夫が大切です。

◇ 場所、時間の感覚を取り戻す工夫
 ・時計やカレンダーを見えるところに置く
 ・日付や時間を会話の中に盛り込む
 ・馴染みのあるものや家族の写真を置く

◇ 会話の工夫
 ・つじつまの合わない話でも否定しないようにする(患者さんは否定されるとかえって苦痛を感じることがあるため)

◇ 環境を整える工夫(昼夜のメリハリをつける)
 ・昼間は日光を取り入れて室内を明るくし、適度な運動や刺激(テレビ、会話など)を取り入れる
 ・夜は静かにして、スポット照明をつける

◇ 安全面の工夫
 ・ナイフ、はさみ、ライターなどを患者さんの周囲に置かないようにする
 ・ベッドを低くする

◇ 口腔ケアの工夫
 ・口の渇きが強いことが多いのでこまめに口の中の手入れを行う
 ・荒れていれば医師に相談する

 近年の医療の進歩にもかかわらず、がん患者さんの一部では、緩和ケアを積極的に行っても緩和できない苦痛を伴うことがあります。このような苦痛を「治療抵抗性の苦痛」といいます。「治療抵抗性の苦痛」として頻度が高いものはせん妄呼吸困難ですが、痛み精神的苦痛も治療抵抗性となることがあります。
 苦痛を緩和するために鎮静薬を投与することは「苦痛緩和のための鎮静」と呼ばれ、治療抵抗性の苦痛に対する手段の一つとされています。鎮静薬とは、一般的には脳の神経に作用し興奮鎮静する薬物をさします。具体的には、ドラマにも登場したベンゾジアゼピン系の麻酔導入薬であるミダゾラム(注射薬)、同じくベンゾジアゼピン系睡眠薬であるフルニトラゼパム(注射薬)ジアゼパム(坐薬)、ブロマゼパム(坐薬)バルビツール系睡眠剤であるフェノバルビタール(注射・坐薬)があります。鎮静は、投与方法によって以下の2つに大別されます。

◇ 間欠的鎮静
 鎮静薬によって一定期間(通常は数時間)意識の低下をもたらした後に、鎮静薬中止して、意識の低下しない時間を確保しようとする鎮静です。

◇ 持続的鎮静
苦痛に応じて少量から調節する鎮静(調節型鎮静)
 苦痛の強さに応じて苦痛が緩和されるように鎮静薬を少量から調節して投与する方法です。
深い鎮静に導入して維持する鎮静(持続的な深い鎮静)
 中止する時期をあらかじめ定めず深い鎮静状態とするように鎮静薬を調節して投与する方法です。

 最期の迫られる命の判断の中で、荒神寛治が選んだ決断は、「苦痛緩和のための鎮静」でした。鎮静剤を投与すれば意識が薄らいでしまうかもと予測される中、結婚25周年の記念日に「手品で泰子を喜ばせたい」と願う寛治と泰子さんご本人のために、みどりと小野塚は泰子さんと寛治のACPを受け入れ実践したシーンでした。

ステロイドの副作用(成長障害)

 アトピー性皮膚炎外用薬としてよく使われるステロイド薬「怖い薬」と誤解されることもありますが、医療の場では『命を救う薬』として様々な大事な場面で使われる欠かすことの出来ない薬です。
 ステロイドとは、もともと体内の副腎(腎臓の上部)でつくられているホルモンで、このホルモンがもつ作用を薬として応用したものがステロイド薬(副腎皮質ステロイド薬)です。ステロイドの効果は「炎症を抑える(抗炎症作用)」で、剤形には外用薬、内服薬や注射薬などもあり、様々な病気の治療に使われています。ステロイド外用薬は、局所(塗った部分)の炎症を鎮める作用に優れており、湿疹・皮膚炎を中心に、皮膚疾患の治療に幅広く用いられているお薬です。小児のアトピー皮膚炎に代表されますが、作用の強弱(strong←→weak)により塗る場所である部位範囲が異なり、自己判断で塗布するのを勝手中止したり塗る量を増やす思わぬ副作用が生じる場合があります。
 アレルギー性鼻炎で増田さんが常用している、セレスタミン?にはステロイド薬のベタメタゾン抗アレルギー(ヒスタミン)薬のd-クロルフェニラミンマレイン酸塩が配合されている薬剤で、鼻炎皮膚炎などによく処方される薬剤です。
くるみが「セレスタミン?錠にはステロイドが含まれています。ステロイド含有の薬は効果が高い分副作用に注意が必要で、子供が長期間使用すると免疫力が落ちたり肥満低身長になるともいわれているんです」とアレルギー性鼻炎の患者の増田さんに諭すセリフがありました。服薬指導している際に、高い頻度で薬をもらいにくる増田さんを不思議に思い、また同じ疑問を抱いた瀬野の指示通りに患者さんの生活を調べてみることになった。すると、出産を控える妻が入院中のため、幼い息子の翔太の面倒と家事(掃除・洗濯など)を増田さん一人で抱えており、家の掃除が疎かとなったことが原因でハウスダストアレルギーが悪化し目のかゆみを訴える翔太に、ついつい親なら誰もがやってしまう可能性がある間違った服薬の仕方である自分の判断で勝手に「自分の処方された薬剤を子供に分け与えてしまう」という危険な薬の使い回しをしてしまいました。お薬の情報提供用紙や様々な注意書きに「他人にお薬を渡さないで下さい」「薬はお子様の手の届かない涼しい場所に保管して下さい」があるのはこういった事象を防止する為なのです。セレスタミン?錠の添付文書には「小児等への投与:幼児・小児の発育抑制があらわれることがあるので、観察を十分に行い、異常が認められた場合には、減量又は投与を中止するなど適切な処置を行うこと。」と記載されています。ステロイドの成長障害(発育抑制)については様々な説が言われていますが、骨の縦軸方向への内軟骨性骨化を阻害してしまい、成長障害を起こすと考えられています。瀬野が「実際に私はステロイドによって成長抑制がかかってしまったお子さんに対応したことがあります」と言っているのは、薬剤師が長期間患者さんの病状を見守ってきた証拠です。「ステロイドが子供の成長ホルモンに影響することが周知されたのは10年ほど前で、それ以来、医師や薬剤師、大勢の医療従事者たちがその弊害を必死に防いできたからです」と諭すセリフは、まさに多くの医療者が今日までこういった「薬の適正使用」に努力し、副作用出現防止に尽力してきたからなのではないでしょうか。「これからの未来の患者さんの薬物治療を守る仕事・努力」も私達医療従事者に課せられている大事なミッションなのです。

第9話 医療解説

第9話に登場する医療・薬学的解説シーンは

の3つです。

オーバードーズ(overdose:OD)=薬の過剰摂取 と 重複診療

 オーバードーズ(overdose:OD)とは、向精神薬(抗うつ薬、 抗不安薬、睡眠薬、抗精神病薬)などの薬を、決められた1回用量を超えて服用することです。ODの症状は、薬の種類によっても異なりますが、薬の効果が強く現れ過ぎたり副作用が出たり腎臓や肝臓などの内臓にも大きな負荷がかかり、場合によっては死に至る可能性もあります。最近の調査では、ODで救急搬送された患者さんが使用していた薬の9割はベンゾジアゼピン系と呼ばれる抗不安薬・睡眠薬で、主な薬として、フルニトラゼパム、エチゾラム、ブロチゾラム、ゾルピデムなどがあったと報告されています。ODは、日本語では『過剰摂取』、『過量服薬』とされます。意図的なODは、自殺企図を意味することがあります。OD患者の動機として「OD」と「自殺」との繋がりが指摘されているものの、即座にODを自殺行動と判断すべきではないとされています。では、どうしてODしてしまうのか?ODの動機とは何か?「とにかく辛い気分から逃げるために薬をどんどん飲んでしまう」、「毎回後悔するが、鬱になるとやってしまうなど、OD患者の動機としては「辛い感情から解放されたかった」という理由が最も多く「死にたかった」という理由を上回っていることが報告されています。このように、ODの背景には、「苦痛を緩和させたいという目的」があり、これはリストカットなどの自傷行為とも共通する心理です。その他「自分が絶望している様子を見せたかった」「自分が本当に愛されているのかを確かめたかった」という動機からODをする若者もいるとされています。こうした動機を踏まえると、ODという自らの身体を傷つける行動は、死ぬためではなく、自身が抱えている様々な「生きづらさ」への対処行動、あるいは、周囲に発したメッセージと捉えることができます。ODから誤嚥性肺炎、横紋筋融解症、急性腎不全などを発症することもあり、後遺症が残るなどの身体的な危険性もあります。また、OD後に、そのままずっと眠ってしまい、寝たまま数日間片側の腕が圧迫されて壊死上肢(腕)を切断するに至ったケースも中には存在します。薬剤師は、服薬指導の場面において服薬状況や患者の様子から、患者の異変に気がつくことがあります(気づき)。その際は、患者に声をかけ、患者の話を傾聴し、悩みを抱えた患者に寄り添うことが求められます(係わり)。さらに、必要な支援に患者を繋いでいくことが求められる役割でもあります(つなぎ)。ドラマ中では、出張で留守にしがちな陽菜の夫の謙介は育児を陽菜に任せきりにしてしまい、両親も他界し、頼れる人がいなく、育児ノイローゼとなり、抗不安薬を飲むようになっていました。育児に疲れ、育児ノイローゼの辛い感情から解放されたく緩和させたく生きづらさの回避行動からODを繰り返し、周囲にそのメッセージを発していたのだと推察されます。陽菜は、心が弱いからではなく、生きることに必死だったが故の選択がODだったのです。『心の弱さ』という言葉だけでは片付けることができない薬の多量摂取のOD。そこには様々な患者さんの生活の様々な背景が起因しています。患者に寄り添う医療を実践しているみどりは、服薬指導の中で気づき、係わり、つなぎを大切にしていました。みどりは、陽菜と謙介と結菜の家族を見放さず寄り添い、もがきながらも立ち上がろうとする陽菜を、服薬指導の中で特に係わりを大切にしていました。
また、陽菜がODの原因薬物となったロラゼパムですが、ベンゾジアゼピン系抗不安薬です。ベンゾジアゼピン(benzodiazepine:BZD)受容体作動薬とは、GABAA受容体における神経伝達物質のγ-アミノ酪酸(GABA)の作用を強め、鎮静、睡眠導入、抗不安、抗けいれん、筋弛緩の特性の向精神薬です。短時間型、中間型、長時間型の作用に分類されます。短時間中間型作用のベンゾジアゼピンは不眠症の治療に、長時間型のベンゾジアゼピンは不安の治療のために推奨されています。2017年03月にPMDAより医薬品適正使用の発出文書として、ベンゾジアゼピン受容体作動薬を催眠鎮静薬及び抗不安薬として使用する場合は、①漫然とした継続投与による長期使用を避ける②用量を遵守し、類似薬の重複処方がないことを確認③投与中止時は、漸減、隔日投与等にて慎重に減薬・中止を行うこと の注意喚起が発出されています。これらBZD薬剤を常用、連用している患者さんが投与量の急激な減少投与の中止をすると痙攣発作、せん妄、振戦、不眠、不安、幻覚、妄想等の「離脱症状」があらわれることがあるので、投与を中止する場合には、徐々に減量することが肝要です。乳糖によるプラセボ(偽薬)の治療は上記③や急激な減量をすることによる離脱症状を回避するための治療の一環でした。また、陽菜が、もう1つ持っていたゾピクロンは睡眠薬です。2016年09月14付で、「麻薬、麻薬原料植物、向精神薬及び麻薬向精神薬原料を指定する政令」を一部改正し、新たに3薬剤(ゾピクロン、エチゾラム、フェナゼパム)が第三種向精神薬として指定されました。投薬日数(処方日数)の上限についても、抗不安薬のエチゾラム、睡眠薬のゾピクロンは向精神薬に係る診療報酬上の投薬期間の上限として30日にすることに変更になりました。現在、薬物依存、過剰摂取抑制の観点から医薬品の適正使用に関する法規制も変わりつつあります。
 重複診療(受診)とは、同じ疾患で異なる医療機関を複数診療(受診)することを言います。
 医療機関を転々としてしまうと、それまでの治療は中断し、次の医療機関ではまた最初から検査をやり直さなくなりません。また、病気の治療開始を遅らせて、かえって病気を悪化させ、長引かせてしまうことが懸念されます。重複診療で必要以上の薬剤を処方されたり、複数の医師から処方された薬剤を服用するのは非常に危険です。更に重複診療は、いたずらに医療費を増やしてしまいます。たとえば、同じ症状で1日に2つの医療機関にかかった場合、患者さんはわずかな費用を負担するだけですみますが、加入している健康保険組合には2つの医療機関から費用請求がまわってきますそれぞれの医療機関では、同じ症状に対しては同じ診察が行われますから、通常の倍の額が請求されることになるわけです。厚生労働省のHPでも「同じ病気で複数の医療機関を受診することは、控えましょう。医療費を増やしてしまうだけでなく、重複する検査や投薬によりかえって体に悪影響を与えてしまうなどの心配もあります。今受けている治療に不安などがあるときには、そのことを医師に伝えて話し合ってみましょう」と国民に注意喚起を促しています。

重複がん と 遺伝性腫瘍

 異なる臓器にそれぞれ原発性の癌が存在するものを『重複癌』同一臓器内に同じ組織型の癌が多発するものを『多発癌』同一臓器内に異なる組織型の癌が存在する場合を『重複癌』と呼称することもあります。「多発癌」「重複癌」とをあわせて『多重癌』と定義されています。また、類似した用語に『転移性がん』がありますが、これはある臓器で発生したがんが、リンパ管血管を通じて別の臓器に転移して出来たがんのことです。
 血縁のある家族の中で発生している人が多いがんを「家族性腫瘍」と言います。家族性腫瘍は、食生活や生活環境といった環境要因によっても引き起こされ、遺伝によるものだけではありません。一方、家族歴の有無にかかわらず、持って生まれた遺伝の影響を強く受けて発生するがん「遺伝性腫瘍」です。1つの病的な遺伝子の変異が親から子へ伝わることにより遺伝的にがんに罹患しやすくなり、その素因をもとに発症する疾患です。遺伝性腫瘍には、リンチ症候群、家族性大腸ポリポーシス、遺伝性乳がん・卵巣がん、リー・フラウメニ症候群、網膜芽細胞腫などがあります。ドラマ中では、薬剤師の瀬野が吐血し倒れた後、精密検査の結果、肺癌(非小細胞肺癌)、食道癌、副腎癌を発症し、重複癌であることが判明しました。問診票を瀬野が記入する際にためらった家族歴の欄は、母の佐緒里のことが脳をよぎったからでした。
 2019年は、「がんゲノム医療の幕開け」とも言われています。2019年6月、「がん遺伝子パネル検査」の保険適用が始まりました。「がん遺伝子パネル検査」は、これまでの遺伝子検査のように特定の遺伝子の異常だけを狙うのではなく、がんに関わる数十から数百もの遺伝子を一度に調べ、患者さん一人一人のがんがどのような遺伝子異常から起こっているのかを突き止め、それに応じて最適な治療を探そうという遺伝子情報に基づくがんの個別化治療の1つです。これまでのがん治療は大腸や胃、肺などの臓器ごとに使う抗がん剤を決めて患者に投与していました。ところが同じ臓器のがん細胞でも「細胞の個性」といえる遺伝子の違いで抗がん剤の効果や副作用が大きく異なります。遺伝子検査から薬の投与前に効果が期待される患者だけに薬を投与する治療が「がんゲノム医療」です。「がん遺伝子パネル検査」の対象となるのは、「標準的治療が終了し、他の治療を検討している」「標準的治療がない」「原発不明がん」「希少がん」「小児がん」などの場合です。また、がん遺伝子パネル検査を受けて、自分のがんに合う薬の使用に結びつく人は全体の10%程度といわれています。検査を受けたからといって、すべての人に最適な治療が見つかるとは限らないのが現状です。
 一人一人の遺伝子情報や、体質、生活環境、ライフスタイルにおける違いを考慮して、疾病予防や治療を行うことである個別化治療・プレシジョンメディシン(Precision medicine/精密医療)が進歩し実現されることが期待されています。しかし、その一方で、治療選択にはまだ限界があることも事実です。私達薬剤師や医療従事者も医療のテクノロジーの進歩を患者さんの治療に活かせるよう努力して参ります。

セロトニン症候群

 セロトニン症候群(serotonin syndrome)とは抗うつ薬(特に SSRI Selective Serotonin Reuptake Inhibitors:選択的セロトニン再取り込み阻害薬)などのセロトニン(5-HT)作動性抗うつ薬の大量投与や、多剤併用時に発現することが多いため、それらの抗うつ薬を増量したり、他の抗うつ薬を追加した場合に疑う必要がある疾患です。
 うつ病になると、脳の神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの機能が低下し、神経細胞と神経細胞の間の情報がスムーズに伝わりにくくなっています。抗うつ薬は、脳内の神経細胞からいったん放出されたセロトニンやノルアドレナリンが、再び神経細胞に取り込まれるのを抑えて、神経細胞と神経細胞の間のセロトニンやノルアドレナリンの濃度が増えるように働きます。現在主な治療薬にはSSRISNRINaSSAがあります。

SSRI(Selective Serotonin Reuptake Inhibitors 選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
 脳のセロトニン再取り込みを阻害することでセロトニンの量を増やして抗うつ効果を発揮します。

SNRI(Serotonin noradrenaline Reuptake Inhibitorsセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
 脳の神経伝達物質のセロトニンノルアドレナリン両方の再取り込みを阻害することで各々の量を増やし、抗うつ効果を発揮します。

NaSSA(Noradrenergic and Specific Serotonergic Antidepressantノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)
 SSRIやSNRIとは異なる作用でセロトニンノルアドレナリン放出を促進させます。

 セロトニンの再取り込みを阻害することで不足しているセロトニンを増やすのがSSRIですが、セロトニン作用を有する薬剤(トリプタン系薬剤、トラマドール、フェンタニル、リネゾリド、セイヨウオトギリソウ(セント・ジョーンズ・ワート)含有食品)と併用するとセロトニンが過剰になり、セロトニン症候群を発症することがあります。
 症状としては、セロトニン系の薬物を服用中に出現する副作用で、精神症状(不安、混乱する、いらいらする、興奮する、動き回るなど)錐体外路症状(手足が勝手に動く、震える、体が固くなるなど)自律神経症状(汗をかく、発熱、下痢、脈が速くなるなど)が見られることがあります。薬の飲み始め服用量が増え始めた頃に、急に精神的に落ち着かなくなったり体が震えてきたり汗が出てきて脈が早くなるなどの症状が見られた場合は、疑うことが必要です。セロトニン症候群の原因薬剤は抗うつ薬が最も多く、特に一般にSSRIフルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン)で起きることがほとんどです。特に、抗うつ薬を複数併用している他の薬と同時に服用している場合に起きやすいので注意が必要です。 セロトニン症候群が疑われた時は、お薬手帳やお手持ちの薬を持参して救急医療機関を受診してください。セロトニン症候群の場合は、通常服薬を中止し、安静にすればすみやかに軽快しますが、もしそうで無かった場合は、薬を急にやめることがかえって危険なこともありますので、必ず専門家にご相談ください。
 セロトニン症候群の鑑別疾患として挙げられるものには、悪性症候群、甲状腺クリーゼ、脳炎、中枢性抗コリン薬中毒、抗うつ薬の離脱症候群などがありますが、最も問題となるのは悪性症候群との鑑別です。一般に、セロトニン症候群に特徴的なのは不安・焦燥・興奮などの精神症状です。頻脈発汗血圧変動などの自律神経症状両症候群に共通して認めますが、筋強剛などの錐体外路症状は悪性症候群に頻度が高いです。セロトニン症候群に身体的な特徴の症状は、ミオクローヌス反射亢進であり、悪性症候群ではその出現頻度は低いです。悪性症候群の血液検査では、血清 CK 値の上昇白血球の増加は頻度が高いです。治療の基本は、原因薬剤の中止補液体温冷却などの保存的な治療です。セロトニン症候群は一般に予後は良く70%の症例は発症 24 時間以内に改善するといわれています。しかし、高熱呼吸不全腎不全などを呈し死亡に至る症例も存在します。重症例に対しての薬物治療は、非特異的 5-HT 受容体遮断薬であるシプロヘプタジンです。本剤は抗アレルギー薬として本邦で使用されており 1 日 12 mg まで投与できるが、セロトニン症候群では 1 日 24 mg 程度まで使用されています。悪性症候群の治療薬として認可されているダントロレンセロトニン症候群にも有効との報告もあります。また、ダントロレンがセロトニン症候群を悪化させることはないため、悪性症候群かセロトニン症候群か鑑別の困難な症例に対してダントロレンを使用する意義はあるものと思われます。ドラマ中で、救急の豊中医師は、初療の中で「発熱、手足のこわばり、発汗も多い、左手がけいれん、頻脈、何が原因なの?」と病気の原因探索をしている中、薬剤師の瀬野は、錐体外路症状(手足の震え)、自律神経症状(発汗、発熱、頻脈)を臨床推論し、患者さんの所持品より「昨日よりパロキセチン錠(SSRI)を服用しています。服用日時からもセロトニン症候群が疑われます」と提言し、原因薬物からけいれんを止める為の対症療法としてのジアゼパム注、鑑別診断で除外診断できない悪性症候群も考慮し、ダントロレン注40mg(初回用量)の指示を豊中医師は瀬野にしたのはこのような理由からでした。

第10話 医療解説

第10話に登場する医療・薬学的解説シーンは

の3つです。

治験について

 医薬品における『治験』とは、ヒトに使用しても安全であり治療効果が予測される薬の承認を国から得るために行われる試験で、治療を兼ねた臨床試験のことです。薬は生体にとってはもともと異物であり、様々な研究、審査の過程を経なければ、効果がないばかりか、毒にもなってしまいます。国が認めた厳しい基準をクリアしないと製造販売承認されることはありません。
 製薬会社は新薬を発売するために、10年以上もの長い開発期間200~300億円を投資して新薬が誕生します。治験をクリアし、国が認めた化学物質だけが『医薬品』として販売されます。製薬会社は開発した医薬品が安全で有効であることを、治験を通して証明し、国に申請しますが、そこにさまざま利害関係が絡んでくると、公正な治験、審査が行えなくなってしまいます。
 治験は「ヘルシンキ宣言」に基づく倫理的原則と、「医薬品の臨床試験の実施に関する基準(Good Clinical Practice:GCP)」を遵守して行われています。「ヘルシンキ宣言」とは、ヒトを対象とする生物医学的研究に携わる医師のための勧告で、医学の進歩のためには人体実験が必要なことを認めた上で、被験者の利益は科学と社会への寄与よりも優先されるべきという原則を打ち出しています。
 また、治験実施にあたり、日本では「医薬品の臨床試験の実施に関する基準(GCP)」という厳しいルールが定められています。GCP(Good Clinical Practice)とは、医薬品の臨床試験実施の際に、企業や医療機関が守るべき基準をまとめた省令で、これにより、治験に参加される方の利益が損なわれることがないよう、安全な手続きで治験は進められます。GCPで定められているルールの具体例

・治験を実施するときは、治験内容国に届け出ること
・治験審査委員会で安全性・有効性・倫理性を調査・審議すること
・被験者は、十分な説明を行い文書による同意が得られている者のみとすること
重大な副作用が見つかった場合は、ただちに国に報告すること、
などがあります

 薬の原料となる化学物質を、動物実験などを行い有効性や安全性を確認し、安全で有効なものと確認されたものに関して、ヒトに対しての有効性と安全性が調べられます。治験は、治療を兼ねてはいますが、その時点ではまだ有効性や安全性が確認できているわけではないので、必ずしも最適な治療法ではありません。有効性や安全性が科学的に証明された治療が、標準治療です。「治験薬=最良ではない」ということを含んでいることを理解し、治験に参加することが大切です。その一方で、標準治療が確立していない、または薬の耐性ができ、効果が期待できる薬がなくなった患者さんにとって治験は、新しい治療選択肢となる可能性もあります。
 治験は基本的に承認されるまで3つの段階に分かれます。

第Ⅰ相試験健康な方を対象とし、薬の安全性を確認。
第Ⅱ相試験限られた人数患者さんに実際に薬を投与し、
 用法・用量、服用時期等を確認
第Ⅲ相試験:第Ⅰ・Ⅱ相で調べたデータを元に有効性非劣性(劣っていない)を確認

しかし、抗がん剤の治験は少し異なり、

第Ⅰ相試験少数の患者さんを対象に有効安全に使える薬の用法・用量、投与方法(効果的な使い方である投与量、投与間隔、投与期間など)を確認。

第Ⅱ相試験がん種病状を特定したより多くの患者さんを対象に、第Ⅰ相で確認された有効で安全な投与量や投与方法で、薬の有効性安全性を確認。

第Ⅲ相試験さらに多くの患者さんを対象として行われます。既存の薬治療(標準治療)偽薬(プラセボ)などと比較して、有効性安全性(副作用が許容される範囲内であるか)で優れているかを確認。

 抗がん剤の場合は毒性が強いことが多く成人ボランティアの健康を害してしまうことがあるため第I相試験からがん患者を対象に行われます(通常、第Ⅰ相は健康な人が被験者)。

 薬が治験を経て国から承認され販売したら終わりではありません。治験は、症例数も十分ではない上、患者背景も限られているため(ある一定条件の患者集団)、日常診療で使用されて初めてわかる薬の作用や潜在的な副作用も出てきます。こうした情報の収集と報告を義務化したのが『製造販売後調査(Post Marketing Surveillance:PMS)』と言います。

 

治験は、こうしたいくつもの段階を経て得られたデータを国が審査し、薬は承認されています。
瀬野に治験を説明する際に、
羽倉「こんなの無理に決まってるじゃないですか」
刈谷「リスクが高い第Ⅰ相の治験なんてやりたがらない医師が多いし、なにより治験審査委員会に審査を依頼しても、うちの病院じゃ設備や体制も不十分で承認されない」と言うセリフがありました。
抗がん剤の第Ⅰ相試験はがん専門病院や特定機能病院(高度医療の提供、高度の医療技術の開発及び高度の医療に関する研修を実施する能力等を備えた病院)で行われることが多く、検査体制や倫理的配慮、そして安全な体制で実施されている現状があります。それ程がんの治験薬、しかも第Ⅰ相試験を行うことにはリスク(患者の容体急変にも対応できる医療体制の準備等)があります。

治験を病院で正式に行うかどうかを決めるのは治験審査委員会(Institutional Review Board:IRB)です。治験実施機関(病院)が治験を実施する際に、厚生労働省に届け出た治験デザインを審査する中立的な組織で、治験の倫理性、安全性、科学的妥当性を審査する委員会です。
IRBには様々な職種の委員で構成され、患者さんの人権保護安全確保を目的に、患者さんの目線からも公正に審議できる以下の委員から構成されています。

専門委員医師、看護師、薬剤師など医学等の専門知識を有する人
非専門委員医学等の専門知識を有しない人
外部委員医療機関(及び、治験審査委員会の設置者)と利害関係のない人

専門委員の外科部長から
「被験者は、萬津総合病院の薬剤部の人間ですよね。この治験は仲間を助けたいと言う、個人的な思惑から行われようとしているんじゃないですか?」とのセリフがありました。
これは、公平公正な治験に「個人的な感情で、この人を救いたい、というのは倫理上許されない」が故の意見です。副腎がん、というまれながんへの治験薬を必要としている患者さんは確かに少ないかもしれませんが、そういう患者さん(副腎がん患者)にとってはこの治験がうまく行けば、命を救える薬が登場することになり、その一筋の光明が治験なのです。
 現在、「新型コロナウイルスワクチンの治験」の話題がよく出ていますが、ワクチンの治験は「通常の治験」とは異なります。通常の治験は、対象となる病気に罹患している「患者さん」被験者になりますが、ワクチンはどの試験相でも「健康な人」被験者になります。ワクチンのほとんどは健常人対象で、乳幼児対象のワクチンも多いことから、慎重な安全性評価が必要です。また、通常の治療薬と異なり、新型コロナワクチンの場合、全国民への接種になりますので、接種されるワクチンの安全性を、限られた症例数の治験結果から判断するリスクへの対応はとても重要です。

 このように、薬は多くの人の協力による治験の過程を経て誕生します。七尾副部長は治験審査委員会で、「治験薬を使っても助からなかった患者さんもいらっしゃいました。ですが、そうした大勢の方たちの無念を糧に、治験は繰り返され、新しいくすりが開発されてきました。皆さんの大切な日常を守るために、そして人類の未来のために、私は、今回の治験が必要だと考えます」というセリフがありました。治験に理解、協力していただける患者さん一人一人の思いが新薬の将来へと繋がり、未来の病気に苦しむ患者さんを助けることに繋がるのです
 私達はケガをしたり、病気になるとを飲んだり、使ったりして治します。おそらく、のお世話になったことのない人はいないでしょう。による病気の治療や予防は、20世紀後半から目覚ましい進歩をとげており、それまでで治らなかった病気も治るようになってきました。現在も多くのが開発され、様々な病気の治療に使われています。それでも、全ての病気が治るようになった訳ではありません。病気を治すために、新しいの誕生を待ち望んでいる患者さんが沢山います。今、私達が使っている多くの過去の先人達の協力によって誕生したもので、いわば「先人からの贈り物」といえます。これから誕生するは、次の世代の未来へ受け継がれていく貴重な財産です。『治験薬』は、『未来に病気で苦しむ患者さん達への贈り物』なのです。

ジェネリック医薬品(後発医薬品)

 ジェネリック医薬品(GE)とは、先発医薬品(新薬)の独占的販売期間(特許期間及び有効性・安全性を検証する再審査期間)が終了した後に発売される、先発医薬品と同じ有効成分効能・効果、用法・用量原則同一であり、先発医薬品に比べて低価格な医薬品です。
 GEとは、欧米では医師が薬を処方する際に、銘柄名を記載するのでなく、generic name(一般名、成分名)を処方せんに記載することが多いために「generics (ジェネリック医薬品) 」と呼ばれており、“世界共通の呼称”となっています。以前「GEは先発薬品よりも安い分、効果が弱く、副作用頻度が増加する」などという誤解があり、処方医師にも偏見誤解がありました。
 しかし、GEは主に「規格及び試験方法」「安定性試験」「生物学的同等性試験」の項目で承認審査され、これらの内容が先発医薬品と同等であることを示すことによって、有効性・安全性に問題がないことが確認され承認されています。増加の一途を続ける日本の社会保障費を少しでも抑えようと政策でもGEの処方頻度を増加させる制度が充実し、現在では、一般名処方により患者さんの希望でGEが容易に選択できるようになりました。GEは先発医薬品の長年にわたる臨床使用経験(有効性・安全性等)を踏まえて開発・製造され、先発医薬品に比べ研究開発費が少なくてすむため、低価格での提供が可能となります。GEは、通常年2回承認され、6月12月に薬価基準収載されます。特許の存続期間出願から約20年で、医薬品の場合は安全性等を確保するための試験の実施や国の審査等により特許権の存続期間の侵食があるため、最大で5年間延長が認められます。その間、特許出願者(通常は先発医薬品を研究開発した製造販売業者)が独占的に製造販売できる権利を有します。しかし、特許期間満了によって、その有効成分製法などは国民の共有財産となるため、ジェネリック医薬品を製造販売できるようになります。
 漫画家の丸岡が薬代の支払いを心配しているので、くるみはGEを勧めました。
丸岡「でも、ジェネリックって本物より良くないんじゃ」
くるみ「同じです。効能・効果にはまったく遜色がありません」
 こういう会話は以前、薬剤交付時によくありましたが、最近ではGEの信頼性が浸透してきていますので、GE=粗悪品などということを議論することはあまりなくなりました。
 GEには『オーソライズド・ジェネリック(Authorized Generic:AG)』『ユースフルジェネリック=改良型ジェネリック』と呼ばれるものがあります。AG「許諾を受けたジェネリック医薬品」という意味ですが、新薬メーカーから許諾を得て製造した、原薬添加物および製法等が新薬(先発医薬品)と同一のジェネリック医薬品や、特許使用の許可を得て、優先的に先行して販売できるジェネリック医薬品です。つまり、先発品と原材料や添加物や製法が全く同じで名前が違うGEで、先発品を販売していた会社の関連会社が販売することが多いです。
 「ユースフルジェネリック(改良型ジェネリック医薬品)」は、先発品ではできなかった部分を後発品メーカーが改良し販売しているジェネリック医薬品です。既存製品に比べて「使用しやすい」「調剤しやすい」「服用しやすい」などの工夫がある改良製品です。例えば、口腔内崩壊錠フィルム錠ゼリーなど先発品にはない剤形があるGEは重宝されます。さらに、大きくて飲みづらい錠剤小型化するGEもあります。いずれも患者さんが飲みやすく、安価である医薬品は患者の服薬遵守率向上に寄与します。

急性心筋梗塞(Acute myocardial infarction : AMI)

 日本人の死亡原因の第2位を占める心臓病。 その約半数が、 冠動脈の内腔が狭くなることで起こる「心筋梗塞」「狭心症」などが原因です。治療法が進歩しているにも関わらず、急性心筋梗塞では約30%の人が死亡しており、その多くは発症後短時間の死亡で、命にかかわる病気の1つといえます。心臓は、血液を全身に送るポンプの働きをしています。ポンプとして働くために、心臓の筋肉(心筋)自身も、酸素栄養を必要とします。その血液を供給するのが、心臓を取り囲むように広がっている「冠動脈」と呼ばれる血管です。この冠動脈で、血管壁が硬くなる「動脈硬化(アテローム性動脈硬化)」が進行して、血管の内腔が狭くなるのが「狭心症」完全に詰まってしまうのが「心筋梗塞」です。血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)などが血管壁にたまると、プラークというこぶの原因となります。このプラークの被膜が破れる血栓が生じますが、その血栓が冠動脈の内腔を詰まらせると、血液が流れなくなり、心筋が壊死してしまいます。この状態を「心筋梗塞」といい、胸が締めつけられる痛みが続く冷や汗がひどくなり意識を失う30分以上発作が続く安静または薬の使用でも発作が改善しない、などのような症状が生じます。

 心筋梗塞が疑われたら、「問診」で症状を詳しく聞きます。さらに「心電図」心臓の電気的な活動の状態を調べたり(ドラマで丸岡さんは、STの上昇という心電図の異常が認められていました)、「心エコー」心臓の動きを見たり「血液検査」心臓の筋肉の壊死の有無を調べます。また、病状をより詳細に確認するために、「CT(コンピューター断層撮影)」「心臓カテーテル検査(心カテ)」によって冠動脈を撮影したりします。お薬手帳などで、服用薬を確認することも重要です。悪玉コレステロールが血管にたまらなくするような薬や、「狭心症」のお薬を服用しているようでしたら、「心筋梗塞」を疑います。ドラマに登場した丸岡さんも、ロスバスタチン(悪玉コレステロールが血管にたまらないようにする薬)ニコランジル(狭心症のお薬で、冠動脈などの血管を拡張し、血流量を増やすお薬)を服用していました。
 「狭心症」や「心筋梗塞」は、命にかかわる病気です。狭心症の病状によっては心筋梗塞を防ぐための治療が、心筋梗塞では、命を救うための早急な治療が必要です。治療は冠動脈の血流を再開したり、血流を改善するために行われます。主な治療法として、「カテーテル治療法」、「バイパス手術」、「薬物治療」の3つあります。

○ カテーテル治療法
 カテーテル(直径数mm程度の軟らかい管)を用いる治療法を「カテーテル治療」といいます。カテーテル治療にはいくつかの方法がありますが、現在、最もよく行われているのは「ステント治療」です。カテーテルを使用して、「動脈硬化」などで狭くなっている部位に、「ステント」と呼ばれる金属製の網状の筒を留置し、血液の流れを改善する治療法です。この治療では、ほぼ確実に狭窄した血管を広げることができます。

○ バイパス手術
   血液が流れにくくなった血管の代わりに、血液が流れるように迂回路(バイパス)となる血管をつなぎ合わせる手術です。以前は、心臓の動きを止めて、「人工心肺装置」を使用して手術をしていましたが、現在は心臓を動かしたまま行うことが多くなっています。

○ 薬物治療
 胸の痛みがある場合には、冠動脈を広げて血流を改善し、心臓の負担を軽減する作用がある「硝酸薬」が用いられます。硝酸薬には、発作を予防するために普段から用いる持続性のもの(硝酸イソソルビドなど)と、発症したらすぐに使って発作を抑える即効性のもの(ニトログリセリン)とがあります。ニトログリセリンを用いてもまだ痛みがある場合には、医療用麻薬の塩酸モルヒネ注を用います。症状が緩和した後、心筋梗塞の予防のために、カルシウム拮抗薬β遮断薬などを用いることもあります。両薬剤ともに、心臓を少ない力で動かすようにして、心臓の負担を減らすお薬です。血液を固まりにくくし、血栓が出来るのを防ぐ抗血小板薬も、心筋梗塞の予防には重要なお薬です。代表的なくすりとして、アスピリンクロピトグレルプラスグレルなどがあります。既往に「胃潰瘍」がある人は、出血を予防する為に胃薬を一緒に服用することがあります。また、抗血小板薬を用いると、稀に副作用で肝機能障害血小板や白血球の減少などが現れることがあるので、定期的に血液検査などでチェックすることが大切です。なお、カテーテル治療の際や退院後は、一般的にアスピリン他の薬を組み合わせた2剤が用いられます。

第11話 医療解説

第11話に登場する医療・薬学的解説シーンは

の3つです。

妊娠 と 薬

 『妊婦は薬を飲めない』、『薬を常用している人は妊娠できない』、『薬を飲んだ後に妊娠が判明したので中絶を考えている』「妊娠と薬」に関して、このような誤った認識を持っている方は多く、医療関係者の中にも今現在でもいらっしゃいます。「添付文書に『妊婦に危険』と書いてあった」という理由で、妊婦が急性症状(風邪やインフルエンザ等)罹患時に、薬剤を処方せず、母体状態が悪化してしまい、妊娠の継続が不可能になることさえあります。日本では妊娠と薬に関して、今から約60年前の『サリドマイドの薬害』があったため、このような認識が今でも蔓延っています。
 「サリドマイドの薬害」とは、1958年に、「麻酔性のない安心な鎮静催眠剤」としてサリドマイドが販売され、つわりの吐き気止めにも使用されました。妊娠初期の女性が服用し、新生児四肢奇形が発生したことから、サリドマイドが催奇形性を有することがわかり、販売が中止になりました(サリドマイドが奇形を引き起こすのは、胎児の手足の末端の血管新生が阻害されて十分に成長しないためであると考えられています)。妊娠初期サリドマイドを服用したことにより、全世界で死産も含めると約5,000~10,000例、日本でも309例の奇形による被害者が発生し、大規模な薬害となりました。アメリカでは、FDA(食品医薬品局)の審査官がサリドマイドの毒性・副作用に疑問を抱き、販売を認可しなかったので、9名の被害者に食い止めることができました。当時の日本では不十分な動物実験で、しかも、当時は海外で使用されている有名医薬品については簡易な審査で良いとの慣習があり、サリドマイドはわずか1時間半の簡単な審査で承認されたようです。以上のように、サリドマイドの薬害が人々に強烈な印象を与えた歴史的な背景と経緯により「妊婦は薬を飲めない」と思われている原因となった事例です。
 妊娠と薬に関しての大原則は、薬物を服用していない放射線を浴びていない遺伝性の疾患もない健常妊婦でも約1~2%の出生児に何らかの奇形が生じる。その後にわかる内臓奇形を含めると、少なくとも3~5%程度の出生児に何らかの先天的異常が生じると考えられている」です。つまり、薬を使用することで「3~5%の確率で起こる先天的奇形が増えるのか?それとも、変わらないのか?であり、大切なのは「薬を服用しなくても奇形は起こりうる」ということです。
 薬の胎児への悪影響は、奇形が生じてしまう「催奇形性」と、発育や機能を悪くする「胎児毒性」があります。薬が原因で奇形を生じるのは確率的には極めて稀ですが、服用した薬剤の種類妊娠週数によって奇形のリスクが異なることはサリドマイドの薬害からも得られた事実です妊娠中でも慢性疾患のある女性は薬を飲み続けなければ、妊婦本人の体調が崩れてしまい、妊娠の継続が困難になることがあります。例えば、重い喘息を患っている妊婦が、服薬を中断すると喘息発作を起こし、低酸素状態となり、へその緒を通じて胎児に酸素が送られない状態が続き、母子ともに危険な状態に陥ってしまうことになります。
 千歳は、てんかんの持病があるので、妊娠中でも抗てんかん薬の服用を続けるか、判断はとても難しい問題です。「てんかん診療ガイドライン2018」では、「リスクの少ない妊娠出産を実現するため可能な限り計画的な妊娠・出産を勧め抗てんかん薬中止が困難な場合は、非妊娠時から催奇形性リスクの少ない薬剤を選択し、発作抑制のための適切な用量調節を行っておくことが望ましい」抗てんかん薬の継続の必要性を説明しています。また、妊娠中に服用する抗てんかん薬は①単剤、②最低限の投与量、③催奇形性の少ない薬剤の選択する、④血中濃度に注意すること を推奨しています。妊娠中はてんかんの発作を起こさないように、出来る限り最小限の薬剤で、有効な血中濃度を維持し、コントロールすることが重要であり、専門の医療者達と綿密な事前の打ち合わせが非常に大切です。
 千歳が妊娠35週で服用していたデパケンR(バルプロ酸ナトリウム徐放錠:VPA)「他の抗てんかん薬よりも奇形発現率が高いので投与はなるべく避け、必要な場合は徐放錠600mg/日以下を目指す」と考えられています。妊娠中にどの抗てんかん薬を服用するかについては「てんかんを持つ妊娠可能年齢の女性に対する治療ガイドライン」で、以下の説明をしています。抗てんかん薬(antiepileptic drug:AED)の奇形発現頻度は、単剤投与でプリミドン(PRM)14.3%、バルプロ酸valproate(デパケンVPA)11.1%、フェニトイン(PHT)9.1% 、カルバマゼピン(CBZ)5.7% 、フェノバルビタール(PB)5.1%の順で低くなることがわかっています。PRM400mg以下で奇形発現は無く奇形を有する児の90%CBZ400mg、PHT 200mg以上を服用していた場合です。
 VPAは投与量、血中濃度に依存して奇形発現率が増加するため、投与量は1,000mg/日以下血中濃度は 70μ g/ml 以下とすることが望ましい(600mg 以下の被曝では奇形は観察されず、1,000mg 以上での奇形頻度は 29.8%であった)。VPA 徐放剤の血中濃度の日内変動は VPA のそれより明らかに少なく、高い血中濃度を避けるためには VPA が必要な症例では徐放剤が望ましいとされています。
 服薬の中断が不可能な症例では、妊娠前からAEDはできるだけ単剤にし、trimethadione(TMD)は投与せず、VPAが必須な症例では徐放剤を用いるAED量は妊娠前から必要最小限の投与量にしておくことが望ましいのです。
 千歳が服用しているデパケンR(VPAの徐放性製剤)の妊婦への投与に際し、添付文書には「片頭痛発作の発症抑制:妊婦には禁忌 てんかんの治療:妊婦には原則禁忌」と記載されています。
 さらに添付文書には「妊婦又は妊娠している可能性のある女性には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」、「妊娠中にやむを得ず本剤を投与する場合には、可能な限り単剤投与することが望ましい。[他の抗てんかん剤(特にカルバマゼピン)と併用して投与された患者の中に、奇形を有する児を出産した例が本剤単独投与群と比較して多いとの疫学的調査報告がある。]」と記載されています。『治療上の有益性>投与上の危険性』ですが、薬のリスクが発現することは妊婦に限ったことではありません。妊婦ではない人が、かぜ薬、便秘薬、痛み止めを服用する時にも、起こりえるので、この表現をどうとらえるかが大切です。
 薬剤師の中には、こういう情報を専門に扱う『妊婦授乳婦認定・専門薬剤師』という資格制度があります。また、妊娠・授乳と薬に関しては専門の相談窓口を設置している病院が北海道から沖縄まで2020年度には55施設あります。自分で解決できない場合にはこのような専門薬剤師や施設を利用するのも良策です。
 また、ドラマで星名が服用していたリトドリン錠は、子宮の筋肉に働きかけてその収縮を抑え(β刺激作用)、お腹の張りや腹痛、出血など切迫流・早産治療薬に使用されています。その副作用として、β刺激作用による動悸(ドキドキ感)、頻脈ほてり指や手のふるえ頭痛吐き気があります。

授乳 と 薬

 『授乳(母乳) と 薬』の問題は、『妊娠と薬』の場合と全く異なります。
 妊娠時には「生まれるまでの奇形性」が主ですが、授乳時には「薬剤が母乳を介して新生児に移行する薬剤の作用」が主になります。
 授乳と薬に関して専門に扱っている国立成育医療研究センターでは、「薬は母乳中に移行しますが量は非常に少なく、赤ちゃんに影響する可能性は低いので、母乳をあげるために薬をやめる必要はありません。主治医と相談しながら決めていくことが大切です」としています。また、母乳は、栄養面で優れている ・感染症を予防免疫機能神経発達を促す」、「子宮収縮を促す ・お母さんの乳がん卵巣がん発症リスクを減少させる」糖尿病などの予防につながる」ことがわかっています。
 母乳を中止して、人工栄養に変更した場合の有害事象(アレルギーなど)の報告は多数認められます。ミルクは人工物であり、調乳過程成分の安全性については薬物と同様に検証が必要です。少しの薬剤が含まれていても、母乳の安全性は人工乳よりもはるかに勝る、という報告もあります。
 むしろ、薬物を使用しないことで母体の健康が維持できなければ、健康な育児が提供できず乳児の健康が脅かされる可能性もあります。授乳中の女性に薬物投与リスクの理由で、母乳を中止することは極力さけるべきです。また、母乳が絶対と言うことも母親にとっては劇中同様大きなプレッシャーにもなりますので、慎重な判断が必要であり、医療者とよく協議すべきでしょう。
 千歳の母である世津子はしっかり者ですが、神経質な面もあり、千歳が服用していたデパケンの授乳婦情報も確認していました。
 「デパケンを飲んでいたら、母乳は無理ですよね。添付文書にも授乳を避けるよう書いてありました。」デパケンRの添付文書、授乳婦への注意には「授乳婦に投与する場合には授乳を避けさせること。[ヒト母乳中へ移行することがある。]」と記載されており、この記載通りにするのであれば、授乳はできないことになります。
 しかし、授乳と薬剤については添付文書以外にも様々な情報があります。

デパケンの成分であるバルプロ酸の情報として、
 ・WHO(World Health Organization:世界保健機関)の授乳と母体の薬物療法に関する報告では「乳児の副作用を監視することで授乳可能」
 ・日本でよく使用される大分県「授乳と薬剤研究会」では、「授乳は安全、乳児への薬剤の有害事象の報告なく、薬剤の有害事象が疑われるときは母乳を一時休止など考慮すれば授乳期の使用は問題ない」
としています。

 みどりは、「デパケンを服用していても授乳は可能です」と母の世津子に答えました。これは、現実的には他のデータやエビデンスを尊重する場合もある、という意味でもちろん、その背景には医師との確認があっての発言です。妊婦・授乳婦専門/認定薬剤師は、このように多くの情報から分析し、目の前の患者さんに適合する薬物治療方針を多角的に捉え、提案できる専門の能力を備えた薬剤師が臨床の現場で活躍しています。
 添付文書には、「授乳を中止」と記載されていることが多いのですが、授乳婦に薬を投与して、乳児に影響が出るか、という研究はできませんので、科学的裏付けが乏しい場合が多いのです。
 みどりが「添付文書は妊婦授乳婦にとって現実に即していないことも多いんです」と言ったのは、この「科学的裏付けが乏しい」という意味です。
 授乳婦「薬を飲むか」を悩まれたときには乳児への影響だけではなく、我慢をして薬を飲まないと、自分の病気が悪化することになり、子育て出来なくなってしまいますので、自己判断せずに、妊婦・授乳婦に詳しい専門の薬剤師に相談してください。

薬剤の適応外使用について

 緊急時のリトドリン注が病院に在庫がなく子宮筋弛緩作用を目的に、喘息治療薬である気管支拡張剤のテルブタリン注適応外使用するシーンがありました。ドラマでも医療解説でも、保険医療は添付文書に書かれている効能・効果(適応)を守らなければいけないとしてきました。
 添付文書の効能・効果は、前回説明した臨床試験の結果承認されますが、「適応外使用」とは医師の経験学会のガイドライン海外での適応承認症例報告などの理由で「添付文書の効能・効果に書かれていない病名にその薬剤を使用すること」。ドラマの中では、

みどり「テルブタリンはありますか?」
道場「喘息に使う気管支拡張剤ですが、子宮筋の弛緩作用もあります。葵さんお願いします!」

 急な破水により、子宮収縮を抑える為に本来は、リトドリン注を使いたかったのですが看護師が破損し、待ったなしの緊急事態!!院内に手持ちの在庫がないので、同効薬で似たような効き目のある代替え薬を探すことになりました。
 リトドリン注は、β刺激作用(交感神経の一部)により、子宮収縮を抑制して、早産・流産をさせないようにする薬剤です。一方、みどりが機転を効かせた代用の薬剤のテルブタリン注の効能・効果は、気管支平滑筋を弛緩して気道を拡張させる作用のある気管支喘息の治療薬であり、子宮収縮抑制の適応はありませんしかし、テルブタリン注のβ刺激作用は気管支平滑筋に対して弛緩作用がある他に、子宮平滑筋の弛緩作用もあることからβ刺激作用という点ではリトドリン注類似薬なのです。β刺激作用は多様な平滑筋(気管支、血管、胃腸管、子宮、膀胱壁など)を弛緩させます。テルブタリン注は正式には気管支拡張薬として使用されますが、同時に子宮収縮抑制作用を有するため、早産予防に使用できることになります。
 しかし、切迫早産の治療に使用した際に、母体に重篤な循環器系の副作用死亡例が認められた報告があり、米国FDAは、テルブタリン注早産の予防および長期(48~72時間を超える)治療目的として、入院・外来のいずれでも使用すべきはないと警告しています。
 実は、日本では古くから子宮収縮抑制剤として非選択的 β 受容体刺激薬であるイソクスプリン(ズファジラン?や、β2受容体刺激薬であるテルブタリン(ブリカニール?が用いられていました。その後、1986 年に同じくβ2受容体刺激薬塩酸リトドリン(ウテメリン?が保険適応となり、そして 2006 年に硫酸マグネシウム(マグセント?「切迫早産」への保険適応追加となった経緯があり、古くは適応外使用子宮収縮抑制テルブタリン注は臨床現場で使用されていました。
 テルブタリン注 (ブリカニール?注)のインタビューフォーム(添付文書を補完する医薬品解説書)の海外の情報には、イギリスで「合併症のない早産の管理」の効能・効果が認められており、その理由として「経口投与は早産を抑えることを目的に最初に実施してはならないブリカニール注の静注もしくは皮下注で子宮収縮が管理された後に、経口投与による維持療法を実施する。経口投与は、主治医が妊娠の継続が望ましいと判断している期間は継続する。」とのエビデンスまで記載されていますので、破水後の子宮収縮抑制を要する緊急事態に、しかも、通常に使用できるリトドリン注がなく、そのリトドリン注の代用として、苦肉の策としてテルブタリン注の代用を起用するしかなかったのは致し方なかったと考えられます。
 しかし、適応外使用にあたっては、これまで様々な事故や不幸な事例があったことから、医療の現場での使用には、現在厳格に「各医療施設での倫理委員会の申請と承認」、「患者さんへの十分な説明同意が必須」、「患者さんの同意書の取得」が必須となっており、みどりが従事するクリニックにおいても同様であり、くれぐれも注意が必要です。また、薬剤師から適応外使用を推奨することは災害などの緊急事態を除いてまず通常ありませんし、然るべき上記の手順と承認を得てから使用することとなっています。現在、病棟担当薬剤師は、患者さんが使用している薬物治療に、こういった適応外使用がないかを確認し、安全に薬物治療が遂行出来ているのか把握するのも重要な病棟薬剤師の役割の1つになっています。
 保険適用される公知申請品目に関する情報について厚生労働省では、「医療上の必要性の高い未承認薬・適応外薬検討会議」(以下、検討会議)を設置し、欧米では使用が認められていますが、国内では承認されていない適応等について、学会等から要望された品目に対し、医療上の必要性を評価するとともに、公知申請への妥当性も確認しています。また、薬事・食品衛生審議会では、検討会議が作成した公知申請への妥当性に関する報告書に基づき、事前評価を行っており、この事前評価が終了した段階で、当該薬剤の効能・効果 又は 用法・用量は、薬事承認を待たずに保険適用されることになります。これらの医薬品を使用する際には、保険適応後、承認されるまでの間公知申請への妥当性に係る報告書の内容を読み、また、承認後には併せて審査報告書を読んで、適正に使用することになっています。最新の添付文書については、WEBのページ上部の「安全性情報・回収情報(医薬品、医療機器等の情報を調べる)のボタンから検索して、見ることができます。

【最終話の監修を終えるにあたって・・・】

 『アンサング・シンデレラ 病院薬剤師の処方箋』は皆様にとってどのような作品となりましたでしょうか?もちろんドラマというエンターテインメントである以上、様々なご意見があって然るべきと思いますが、少なくとも薬剤師の端くれとしましては、多くの方々に「薬局・薬剤部の業務内容」のこと、「病院薬剤師の活躍」のことを広く知って頂けた貴重な機会という意味で、非常に意義深いものであったと思っています。薬剤師人生でこのような貴重なお仕事にほんの僅かでも関われたことを誇らしく感じ、携わる機会が巡ってくるとは夢にも思っていませんでしたので、とても光栄なことだと感じております。
 スポットライトの当たることの少なかった病院薬剤師の仕事(まさに医療者の縁の下の力持ち)に焦点を当てて取り上げて頂き、原作者の荒井ママレさん、医療原案の富野浩充さんをはじめ、関係者の方々に改めまして深く御礼申し上げます。また、新型コロナ感染症の感染防止に最大限の配慮を払いながら、安全に撮影を継続できましたプロデューサーの野田悠介さんをはじめ、スタッフクルーの皆様には日夜細部に至るまで薬剤師の仕事を描写頂き、そして長期間に渡る撮影本当にお疲れ様でした。病院薬剤師は、薬を通して患者さんの命への尊い責任感と強い使命感の下、今もこれからも病に悩んでいる患者さんと一緒に悩み、苦しみ、葛藤し合いながら仲間と共に必死に頑張って参ります。患者さんの薬の向こう側にそれぞれの大切な日常があって、これからも患者さんそれぞれの未来が続いていくよう、そして大好きな『アンサング・シンデレラ』の名を汚すことのないよう薬剤師は患者さんと日夜向き合い活躍して参ります。今後とも変わらぬご声援の程よろしくお願い致します。

薬剤師監修・医療解説者一同