今年の3月、全米が注目する、ある裁判が行われた。
そして今も、まだ騒動は続いている。
一つの事故をきっかけに次々に浮かび上がる不審な死亡事故。
そして、ついに起こる…凄惨な殺人事件。
その中心には小さな街を支配するある家族の存在があった。
100年4代続く名門一家、全米が注目した“死を呼ぶ一族”の真相に迫る!
全ては今から4年前、アメリカ・サウスカロライナ州の田舎町、ハンプトンから始まった。
その日、弁護士のマークはある依頼を受け、ビーチ夫妻の自宅を訪れた。
「どうしても、マロリーの、娘の無念を晴らしてやりたいんです。」
その年の2月、午前2時頃。 1台のボートが河川を航行していた。 乗船していたのは、ボートの持ち主であるポール、マロリーとその恋人であるアンソニーほか、友人3名の計6人。 全員同級生で年齢は19歳だが、大量の飲酒をしていた。 飲酒した段階で、ボートに乗るべきではないと思っていたが…ポールがどうしても川に出ると聞かず、仕方なく5人も付き合っていた。
酔ったポールは障害物に気が付かず、衝突。
6人は水中に投げ出された。
5人は自力で水中から浮上。
怪我をしていたものの命に別状はなかった。
だが、マロリーだけ姿が見えなくなっていたのだ。
911に通報後、間もなく警察や消防が現場に到着。
ボートを運転していたポールは、父・アレック、母・マギー、兄・バスターの4人家族。
だが、この家族、普通ではなかった。
ハンプトンの名士…『マードック家』。
一家は死を呼ぶ一族として、地元で恐れられていたのだ。
マードック家は、今から100年以上前にこの土地で弁護士業を始めた。
以来、弁護士のみならず、歴代の地方検事なども輩出する名門一族に。
弁護士であるアレックの兄や祖父が巨大法律事務所を経営、そこでアレック自身も弁護士として働いていた。
アレックの自宅は、広大な敷地に建てられている。
趣味の狩猟のために犬舎で多数の犬を飼うなど、裕福な暮らしを送っていた。
ボートでの事故後、マロリー以外の5人はすぐに病院に搬送された。
通常、自らの飲酒運転が原因で事故を起こした上に、人一人が行方不明になっているとなれば、警察に連行され、事情聴取などが行われるはず。
しかし、なぜかポールは逮捕される事なく、退院後、すぐに自宅へと帰っていた。
そして、事故から一週間後、マロリーは遺体で発見された。
ポールの容疑は過失致死に切り替わった。
しかも、その後の調べで事故前日、防犯カメラにポールが兄の身分証明書を使用し、酒を購入する姿や…ボート乗り場付近のバーで酒を飲む様子が記録されていたことも判明。
こうした明らかな飲酒の証拠があるにも関わらず、ポールが逮捕されることはなかった。
それどころか、ポールの父・アレックと祖父は、ボートを運転していたのが、ポール以外の人物の可能性があると主張していた。 マードック家は地元随一の権力者で、警察との繋がりもあり、ポールが飲酒運転をしていた事実をもみ消そうとしていた。 マロリーの両親は、なんとかポールに責任を取らせたいと、マーク弁護士に依頼したのだ。
マーク弁護士は事故のことを調べ始めた。
だが、捜査を担当した警官らは、何も話そうとしなかった。
さらに、マロリーの恋人のアンソニーも「悪いけど、この件に関しては何もしゃべりたくない」と言ってきた。
そして、こうも言ってきた。
「オレだって、ポールに罪を償わせてやりたいさ。けど…誰も証言しやしない。噂があるんだ。マードック一族は…人を消すって。」
それは、ボート事故の4年前、路上で横たわる遺体が発見された。
死亡していたのは19歳の若者。
死因は、頭部への外傷と判明。
警察は交通事故死と判断、しかし不可解な点がいくつもあった。
ひき逃げ事故にも関わらず、遺体発見現場周辺に自動車の破片などが何も発見されなかったこと。
車に轢かれた場合、衝撃で体が引きずられ服が破けるなどするものだが、その痕跡が全くなかったこと。
それでも交通事故死との結論を変えない警察に納得がいかなかった被害者の母は、マスコミに情報提供を呼び掛けた。
すると、警察の元に驚くべき目撃情報が。
それは、アレックの長男であるバスターが犯行に関わっているという情報だった。
しかも、目撃情報は1件だけではなく、幾つもあった。
だが、この目撃情報があったにも関わらず…バスターが警察の事情聴取を受ける事はなかった。
警察は事故という判断を変える事はなく、真相は闇へと葬られた。
それだけではない…ボート事故の1年前、とある家で家政婦をしていた女性が玄関先へと続く外階段で転んだとの通報があった。
通報したのは…アレック・マードックの妻、マギー。
そう、この家政婦は、20年以上の長きに渡り、マードック家に仕えた人物である。
病院に緊急搬送された彼女にアレックが付き添い、医師と警察に事故の状況をこう説明した。
「階段を上がる途中、飼っている猟犬が彼女の足の間を走り抜け、それに驚いて転げ落ちたんです。」
2週間後、意識が戻らないまま、家政婦は死亡。
警察は、事故で負った頭部損傷によるものと判断した。
だが、この事故にも疑問が残った。
転げ落ちた階段はわずか7段。
彼女は当時57歳。
脳には激しい損傷を負っていたという。
57歳の女性がこの高さから転げ落ち、脳に命を失うほどのダメージを受けることなどあるだろうか?
さらに、肋骨も折れていた。
事故死という結論に疑問を持つ警察官もいたが…上層部からストップがかかり、それ以上の捜査が行われることはなかった。
マーク弁護士は、ポール・マードックを罪に問うため、ボートの破損状況や5名が負った怪我など、客観的証拠を徹底的に集め、検証。
そして…事故から2ヶ月後、過失致死の罪でポールを訴えた。
これでようやくポールは起訴された。
この事実は、地元紙を中心に報道もされた。
しかし…第一回公判後、間もなく彼は5万ドルの保釈金を支払い、自由の身となった。
さらに、いつまで経っても第2回公判が開かれることはなかった。
これはポールに判決が出ないよう、露骨な引き伸ばし工作が行われたことを意味していた。
マードック家の権力は想像を遥かに超えていた。 一家はここ100年近く3代に渡り、近隣5つの郡を管轄する裁判所で、法務官と呼ばれる検察のトップとなる人物を輩出。 やがてこのサウスカロライナ州5郡一帯は、通称『マードック郡』として知られるように。 ポールの父、アレックは一弁護士でしかない。 しかし、このマードック家の権力を使うことで、息子の事故を闇に葬ろうとしたと考えられた。
そして、ポールの裁判が開始されないまま…2年の歳月が流れた。
マーク弁護士は、ポールの父のアレックに対し、民事訴訟を起こし、1000万ドル(日本円で当時 約11億円)の慰謝料を要求することをマロリーの両親に提案した。
未成年であるポールの酒癖の悪さは周囲では有名で、それをアレックは野放しにし続けていた。
さらに、ポールには支払い能力がない事もあり、親の責任としてアレックを訴える事にしたのだ。
マーク弁護士「あのアレックが1000万ドルを払うなんて、ありえないことだと誰もが思うでしょう。しかし メディアがこのニュースを報じ、多くの人の目に触れるようになれば、額の大きさから注目を集めることはできます。アレックを訴えたのは 彼に責任があると思ったから。ポールは悪いしつけの産物だと感じたからです。」
しかしマークの思惑は外れ、民事訴訟の提訴がメディアで報じられることはほとんどなかった。
そんな中、マークとアレックは民事訴訟の今後に関して話し合いの場を持つことに。
示談にするのか、裁判で争うのか、双方の意見が交わされる場面で…アレックは驚くべき返答をしてきた。
「何をやってもムダだ。うちには金がない」
広大な敷地に住み裕福な生活を送っているのは、誰が見ても明らか。
そのため、マーク弁護士もマロリーの遺族も、『金欠』だとは信じなかった。
そこでマーク弁護士はある手に打って出る。
アレックの財務記録を開示する必要があると裁判所に訴えたのだ。
だが、アレックの財産開示の判断が下される3日前、思いがけない事件が発生する。
マードック家の敷地内にある犬舎の前で、アレックの妻・マギーと、次男であり ボート事故を起こしたポールが何者かに銃殺されたのだ。
事件を担当したのは、サウスカロライナ州全体を管轄する捜査機関、彼らはすぐさまアレック・マードックへの事情聴取を行った。
アレックの証言によると事件当日の状況は次の通り。
午後5時頃、アレックは法律事務所から帰宅。
その後、家族3人で夕食を共にした。
夕食後、マギーはポールと共に、自宅から自動車で行かなくてはいけないほど離れた場所にある犬舎に向かった。
アレックは、テレビを見ているうちに寝落ちしていた。
目を覚ますと…マギーとポールの姿がどこにもなかったという。
それから1時間以上経った午後10時過ぎ、犬舎に行ってみたところ…2人が倒れていたのだ!
捜査官らは直ちに現場に急行。
パトカーの車内で、通報したアレックから、遺体発見時の状況について話を聞いた。
アレック「車からポールが見えました。何か悪いことが起きたと分かりました。走って(車から)出ました。とても悪い状況だとすぐ分かりました。息子があっちに見えポールを仰向けにしようとして状況が飲み込めました。」
捜査官「マギーには触りましたか?」
アレック「はい、2人とも触りました。できるだけ触らないようにしましたが2人の脈を取ったりはしました。」
2人の遺体は複数の銃弾を受け、惨殺と呼べるほど、ひどい損傷を負っていた。
死亡推定時刻は、午後8時30から9時頃と判明。
さらに…ポールは散弾銃、マギーはライフルとそれぞれ別の銃で撃たれている事がわかった。
そのため、『犯人は二人組』の可能性も考えられた。
捜査官たちは、マードック家に強い恨みを持つ者の犯行と考え、ポールが起こしたボート事故の関係者だけでなく、過去の事件まで遡り調査を行った。
転落死した家政婦や、ひき逃げ事件で亡くなった若者の遺族など、動機を持つ可能性がある人物は徹底的に当たった。
だが、その3件の関係者ついては全員シロとの結論に至った。
そして、浮上した容疑者、それは…アレック・マードック、その人だった。
なぜ彼に、妻と次男を殺した容疑がかけられたのか?
アレックの自宅の中には、多くの猟銃が保管されていた。
アレックは狩猟が趣味だったため、猟銃を持っていること自体は不自然なことではない。
しかし…捜査が進む中で、マギーとポールの殺害に使われた銃の型が絞られ、それがアレックの部屋からなくなっている銃の型と一致したのだ。
さらにこの頃、夫婦関係の悪化から、妻・マギーがアレックと離婚し、巨額の慰謝料を請求しようとしていたという情報も浮上。
また、ポールはボ―ト事故以外にも頻繁にトラブルを起こしており、その都度 アレックが揉み消すなど、手を焼いていた事も判明。
マスコミは、アレック・マードックが、ポールとマギー殺害事件の容疑者として浮上していることを一斉に報道。
今や、サウスカロライナ州の田舎町は全米の注目の的に。
連日、事件のニュースが報じられた。
しかし、アレックと長男バスターは、メディアの報道を真っ向から否定。
さらにマギーとポール殺害事件に関して、情報提供者に10万ドルの報奨金を出すと発表した。
そんな中、マギーとポールが殺害されて3ヶ月が経った9月4日、驚くべき通報が入る。 アレックから何者かに銃で撃たれたのだ。 幸い、怪我は頭部の表面だけという軽症だった。 しかし殺人事件の容疑者として、疑惑の渦中にいたアレックが銃撃されるという、予想外の展開に報道はさらに加熱。
しかし、ここから事態はさらに意外な展開をみせる。
まず、アレック銃撃事件の3日後。
マードック家が経営する法律事務所がある発表を行った。
それは…弁護士であった、アレックの解雇。
その理由は『金銭の不正流用』。
翌日、この不正流用を受けて、サウスカロライナ州弁護士会がアレックの弁護士資格の一時停止を発表。
そして銃撃事件から10日後、さらに驚くべきニュースが…アレック銃撃事件の鍵を握る人物として、カーティスという男が逮捕されたのだ。
その容疑は『自殺幇助』。
この逮捕の裏には、アレックが捜査官に語ったある告白があった。
それは…自分を殺して欲しいと、知人であるカーティスに依頼したというのだ。
さらに、動機については…
彼は20年来、麻薬性鎮痛薬である、オピオイドの依存症に陥っていたという。
オピオイドは多幸感をもたらすため、痛み止めとして処方される薬を服用するうち、やめられなくなる者が続出。
近年アメリカで社会問題化している。
膝の古傷をきっかけに依存症になったアレックは、カーティスに頼んで、これを闇ルートから大金をはたいて購入。
その額は、1週間で500万円を超えることもあったという。
ジャーナリストのピラー・メレンデスさんはこう話してくれた。
「名家に生まれた彼は家や車、趣味の狩猟道具などに必要以上に多額のお金を注ぎ込みました。マードック家らしく振舞わなければという考えに囚われていたのでしょう。その上、薬物にも手を出したため、出費が嵩んだ。そんな生活を維持するための手っ取り早い解決策が事務所のお金に手をつけることだったのでしょう」
だが、横領に気付いた事務所から追求を受ける結果に。
この時、アレックの父は、病を患い入院を続けていた。
事務所のトップである兄は、弟の不正を許さず、アレックは精神的に追い詰められていた。
さらに殺人の疑惑が自分に向けられていることが拍車をかけた。
追い詰められたアレックは、ひとり残される長男・バスターのため、多額の生命保険を掛け、カーティスに自分を殺害するよう依頼した。
そう告白したのだ。
これによりアレックも、他殺を偽装したとしてにより逮捕されたのだが…それに対し、カーティスはアレックを撃っていないと主張。 カーティスによれば、アレックに現場に呼び出され、『自分を殺して欲しい』と依頼されたのは事実だという。 だが、それを断ったという。 しつこく懇願してくるアレックを驚かせようと、カーティスは空に向かって発砲。 アレックは驚いてその場に倒れ、後頭部を擦りむいただけだという。
どちらの言い分が正しいのか、捜査が進められたが…その最中にもう一つ、マードック家の家政婦が事故死した件についてもある疑惑が浮上。
それは、彼女の死に対し、保険会社が支払った保険金430万ドルをアレック・マードックが騙し取ったというもの。
しかも、この家政婦は、事故が起きる数日前、アレックが隠し持っていたオピオイドの錠剤を発見。
心を痛めた彼女は、マギーやポールに相談していたというのだ。
保険金目当て、もしくはオピオイド依存を知られたため、アレックが家政婦を殺した可能性も浮上した。
捜査官たちは懸命に捜査を行った。
絶大な権力を誇り、これまで決して罪に問われなかったマードック家を裁くために。
事件発生から、およそ1年後、ついにアレックは、妻・マギーと次男・ポールの殺害容疑で逮捕・起訴された。
そして今年1月、裁判が始まった。
アレック側は、無罪を主張。
殺害したという物的証拠が何一つないというのが理由だった。
裁判開始2日目。
検察側がある人物を証人として呼んだ。
それは事件当日、アレックからの通報を受け現場に急行した捜査官だった。
彼女は、あの日パトカーの車内で、遺体発見直後のアレックから事情を聞いていた。
この事情聴取の際、アレックは警察に対し、はっきりとこう語っていた。
「二人とも触りました。できるだけ触らないようにしましたが、二人の脈をとったりはしました。」
だが…この車内での映像を見ると、身体などに血液が付着していないのが分かる。
しかしこれだけでは、有罪を証明する決定的な証拠とまでは言えない。
そこで検察は、事情聴取の際、アレックが捜査官に語った次の供述に注目した。
午後5時頃仕事から帰り、ポールと犬舎に行った。
その後、自宅に戻り、家族で夕食を摂った。
10時過ぎになっても2人が家に戻らなかったので、心配になって犬舎に行ったところ2人の遺体を発見した。
夕食後から10時過ぎまでは犬舎には行っていないと証言。
その証言に関して、検察はある男性を証人として法廷に呼んでいた。
ポールの長年の友人でアレックとも面識がある人物だ。
彼が警察に語ったところによれば…午後8時40分頃、ポールから電話がかかってきた。
この時、ポールは犬舎にいたのだが、電話口からアレックの声が聞こえたという。
だが、これだけでは、決定的証拠とはいえない。
しかし捜査官たちは、ある物に望みを託していた。
それは…ポールのスマートフォン。
だが、スマートフォンにはロックがかかっている。
ポールが設定したパスワードを入力しないと、開く事はできない。
実は、スマートフォンメーカーは、たとえ犯罪捜査の為であっても、セキュリティ保護の観点から、基本的にロック解除には一切協力しない。 そのため、アメリカの警察のサイバー捜査部門には、自動的に様々なパスワードを入力し、ロック解除を行うソフトウェアが存在。 これを使って解除を試みるも、セキュリティ上、一日に試せる回数は最大でもわずか145回。
一年後、ようやく解除に成功!
中には、驚くべき動画が残されていた。
その映像はポールの友人が出廷した裁判で流された。
それは犬の動画だったが、音声にはポール、マギーと共にもう一人誰かの声が入っていた。
音声解析の専門家もこの声はアレックのものであると断定。
アレックの嘘が暴かれた瞬間だった。
これによりアレックは、夕食後、犬舎に行き…8時40分以降に妻マギーとポールを殺害。
10時過ぎに自ら通報したと考えられた。
そして今年の3月、ついに判決が下された。
陪審員は、アレックが二人を殺害したとして『終身刑』との評決を下した。
同じく弁護士であるアレックの兄は、事件とは距離を置く立場を貫き、冷静に裁判の行方を見守った。
しかし、法曹界の名門一族に生まれたアレックは、なぜ闇に堕ちていったのか?
実は、アレックが勤めていた弁護士事務所の同僚によると、彼はあまり有能な弁護士とは言えない存在だったという。
ピラー氏「長年、この地域で絶大な権力を持ち、法をも支配していたマードック一族は、法律事務所をまとめる立場でもありました。周りは優秀な親族ばかりの中、代々、引き継がれてきたものを守らなければいけないという、大きな重圧を感じていた。そして彼は おそらく、そのプレッシャーに負けたのです。」
ついには薬物に手を出し、自ら破滅の道を歩むことに…
法を支配するマードック家の権力を利用し、自分と家族の犯罪をもみ消そうとしたアレック・マードック。
多くの住人たちは、恐怖で声をあげることさえためらうほどだった。
ちなみにカーティスに依頼した自殺偽装事件、ひき逃げ事故と処理された若者の事件、マードック家の家政婦の転落死に関しては、今現在も捜査が続けられている。
闇に葬られかけていた一連の事件は、全容解明のため向け動き出した。
そのすべてのきっかけとなったのは…愛娘の無念を晴らすため、声を上げたマロリーの両親の勇気だった。
マーク弁護士「マロリーの両親は、娘さんの死を無駄にしないため、そして、ボート事故の責任を追及するため、正義を求めて闘いました。この100年以上、一度も起きたことのないことを起こしたのです。それがなければ 、アレックは今も権力の座にいたでしょう。」
なお、裁判の中で、アレックは自ら証言台に立ち、夕食後に犬舎に行っていないと嘘をついた事、資金の不正流用に関して認めた。 だが…マギーとポールを殺害した事に関しては、頑なに無罪を主張。 現在、控訴しており、裁判は続くと予想される。
マードック家という恵まれた家に生まれ、自身も祖父や父同様、弁護士の道を歩んだアレック・マードック。
広大な敷地に大きな家、側から見れば何不自由のない生活を送っているように見えた。
しかしその生活は決して裕福なものではなかった。
ボ―ト事故で民事裁判を起こされた時…「何をやってもムダだ。うちには金がない」と言ったアレック。
この言葉を、マーク弁護士は当初、信じることができなかった。
しかしその後の調べで、アレックは弁護士になりたての頃から、報酬が手に入っても、すぐに使い切る浪費癖があったという。
ゆえに、いつもお金に困っていた。
借金の理由は薬だけではなかったのだ。
彼をここまで追い詰めたものはなんだったのか?
ピラー氏「アレックは、自分の名前が持つ力を強く意識していたと思います。しかしだからこそ、マードック家の名を貶めるわけにはいかない、名に恥じぬ生活を送っていると、世間に見せつけなければならないと強く思ったのだと思います。しかしそれを守るために、彼は20年もの間薬に溺れ、事務所のお金にまで手を出した。最終的にマードック家の名前そのものが彼を破滅へと追いやる一因となったのだと思います。」
そんな彼の嘘を暴く決定的証拠となったのが、あのスマートホンに残された動画だった。
なぜ彼は嘘をついたのか?
アレックはのちの裁判でこう語っている。
「薬の影響もあり、頭が働いておらず理性があったとは思えません。現場にいなかったと嘘をつきました。すみません。」
今回の事件を振り返って、ジャーナリストのピラー氏は最後にこう語る。
「権力のある一族や人物に対して発言することは、常に非常に難しいことだと思います。しかし、勇気を持って声を上げた人がいて、その声に耳を傾けた人がいた。そして捜査機関も懸命な捜査を行いました。すべてのピースが揃ったからこそ、この事件は解決へと向けて、大きく動き出すことができたのです。」
アメリカの小さな街で、100年以上に渡り絶大な権力を誇っていたマードック家。 しかし長い間、街を蝕んできた悪しき慣習に今ようやく変化の兆しが現れ始めている。