12月8日 オンエア
旭山動物園に密着 常識を覆す展示!人気の秘密に迫る
 
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年間300万人の入園者数を記録する大人気の動物園、北海道旭川市旭山動物園。 この日本最北の動物園では、本格的な冬の到来を前に 冬支度が行われている。

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飼育員が総出で大きな網を持ち池の中へ。 一体、何が始まるのか?
すると…なんと、捕まえたのは鳥!
その後も次々にキャッチしていく。 実はこれ、「ととりの村」と名付けられた池で飼育されているガンやカモなどの鳥を、越冬舎と呼ばれる室内に移す作業。 寒くなり池が凍ってしまう前に、飼育員総出で約120羽以上いる鳥を移動させるのだ。
捕獲を開始して1時間、無事、鳥たちを室内に移した。

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真冬にはマイナス20℃を下回る日もある旭川。 そんな厳しい季節を目前にした旭山動物園では、この1年、多くの動物が出産、子供が成長していった。
旭山を一躍人気動物園に仕立て上げたのが、坂東園長が考え出した行動展示。 動物本来の習性を見せる展示方法だ。
実はこの行動展示によって、他の動物園とは一線を画す親子関係が見られることがあるという。

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それは今から13年前のこと。 野生では 枝やつるを伝って、木から木へ移動し生活するオランウータン。 その習性を活かせるよう、旭山には高さ17メートルの位置にロープを張り、彼らが空中散歩を楽しめるような施設があるのだが…メスのリアンとオスのジャックの間に生まれた、待望の赤ちゃん、モリトはとても臆病な性格だった。 2歳になっても空中散歩に行こうとしない。
すると、その時…母のリアンに連れられ、モリトが17mの鉄塔にあがった。 母親の助けを借り、2歳にして初めて空中散歩をしたモリト。 本来、オランウータンの子供は、こうした自然での生き方全てを母親から学ぶ。 行動展示によって野生と同じような親子関係が生まれたのだ。

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常に動物本来の習性、感性を尊重しながら飼育を行う。 今年9月、そんな旭山動物園の理念が試される出産があった。
5歳の若いオスライオン、オリト。 2歳のメス、イオと4月に同居を開始すると、すぐに交尾が確認され…5ヶ月後、出産したとみられる様子が映っていた。

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担当飼育員は、3年目の若山さん。 4月にもうじゅう館担当になった若手飼育員だ。
「(出産が)すぐにわからなくて、とりあえずでも黒い影 動いているな。ちっちゃいのが動いているなっていう」

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ライオンの出産の場合、通常、寝室の横に真っ暗にした産室を作る。 そして母はそこに3週間ほどこもり、子を産む。
この時、育児放棄をして、赤ちゃんを食べてしまうことも珍しくないという。 そのため、赤ちゃんが産室の外に出てくるまでは安心できない。
だが…赤ちゃんが出てきた、しかも3頭。

ライオンはネコ科で唯一、オトナのオスと数頭のメス、そしてコドモ達で構成される、プライドという群れを作って暮らす動物。 野生では、メスは一時 プライドを離れ、安全な巣穴で出産。 子供が歩けるようになったら、プライドに戻ってくる。 そしてプライドの中で子供たちは成長。
3年ほど経つと…成長したコドモたち、特にオスはプライドから追い出される。 しかし、プライドを出たオスは、そのままでは子孫を残せない。

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坂東園長「オスは力を蓄えてくると、(よそのプライドの)オスを追い払う。その時に小さな子供がいると全部殺してしまう。そうしたらすぐに(メスに)発情が回帰するので、その1ヶ月以内に交尾をして、それで今度自分たちの子供ができる。だから(野生の)一連の行動なんだと思う。」
本能で自分の子供でないと判断すれば、オスライオンは 我が子であっても殺してしまう危険があるのだ。 そのため日本の動物園の多くは、オスが子供を襲う危険を考え、オスと子供達を別々に展示しているという。

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坂東園長「メスと子供だけでいても、野生じゃないわけだから、オスに守られる必要がないと言えばないですよね。だから一緒にしないという手は確かに何も起こさないという考えでいうと考え得ることにはなりますよね。だけど多分ずっと培ってきている本能的な感性の流れで言うと、自分の交尾した相手がわかってるはずなんですよね。やっぱり動物を主人公にして考えた時に、一緒にしてあげるべきなんだろうなと思ってます。」

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ライオンがライオンらしく群れで生活するために、旭山動物園の挑戦が今始まる。
まずは、まだ寝室しか知らない子供たちを、オリトと暮らす場所、放飼場へ出すことから始まる。 もし子どもたちが外へ出ることを恐れてしまったら…日にちが経てば経つほど、成長した姿を見たオリトが 自分の子供と認識せず、襲う危険が高まってしまう。

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10月21日、オリトがいない間に 子供たちを外へ出してみる。 果たして、怖がらずに外へ出られるか? 外に繋がるシュートを開けてから程なく…1頭が外を覗き込むように出てきた。 さらにもう1頭も。 2分後、ついに3頭目も顔を出した。 子供たちは初めての屋外に大はしゃぎ。 1か月以上、外に出ていなかったイオものびのびしている。 30分外で遊んだ赤ちゃんたち。 オリトと同居する第1関門は無事、クリア。

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この日以来、1週間以上かけて、ゆっくり外の環境に慣らしていったのだが、坂東園長はある不安を抱いていた。
実はオリトとイオが同居を始めたのが、今年4月。 初対面ではオリトの激しい攻撃により、イオは負傷したという。 1か月後には交尾をするまでになったものの、不安の原因は2頭で過ごした時間の短さにあった。
坂東園長はこう話してくれた。
「ペアとしていたのは数ヶ月。イオの方はまた出産準備から今までの間1ヶ月以上、オリトとは会っていない状況なので、ずっと(一緒に)いた期間というのは少し短め。プライドの群れとしてリーダーとしてオリトがいて…イオがちゃんと(リーダーの)存在として認めながらいるという部分がしっかりできているかどうかというところに(不安が)あるかもしれないですね。」

野生のライオンの場合、子連れの母は本能でタイミングを見計い、プライドに戻る。 そのため、子供が父親と会っても、まず事故は起きない。
しかし…動物園では、出産のためにメスを隔離するタイミングや、オスに会わせる時期を飼育員が決める。 ライオンが本能で行う一連の行動のタイミングや時期を飼育員自身が判断しなければならないのだ。 ゆえに危険は避けられない。

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しかし絶対にミスは許されない。
オリトがイオや子どもたちを認識できるよう最善策を考えた。 これまで鉄板だった寝室の扉を網状のものに変え、通路越しにお互いがみえるように改善。

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そして、11月5日。 ついにオリトと子供たちを合わせる日がやってきた。
この日は、飼育員総出で不測の事態に備える。 四方を囲む飼育員には、威嚇用の爆竹を配った。
飼育員「爆竹です。喧嘩があった時にはこの爆竹でびっくりさせて引き離す」
対面を果たしているとはいえ、それは扉越し。 放飼場では飼育員が子どもを守ることはできない。

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まずは、オリトを先に放飼場へ。 父・オリトが近くにいない瞬間を見計らって、イオと子供たちを外へ。
気づいたオリトがシュートへ向かう。 すると、イオがオリトを威嚇。
子を持つ母は、オスをも圧倒する姿勢で立ち向かうという。 オリトを遠ざけたすきに、子どもたちを呼ぶイオ。
果たして、オリトは 自分の子供と認識しているのか?

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その時、イオが後ろに気を取られた。 子供たちに近寄るオリト。 気づいたイオが、あわてて威嚇し、遠ざけた。
その後は、興味津々の赤ちゃんたちがオリトに近づくたびに…イオが威嚇して父親を遠ざけることが続いた。

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どうやらオリトは、自分の子供であるということは認めているようだ。 オリトが子どもを襲う最悪な事態には至らなかったものの、イオは子どもを守るのに必死。 プライドを作れるのか、先行きは全く不透明だった。 こうして、約1時間の対面は終了した。

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そして、翌日。 この日も先に出ているのは、オリト。 イオと子供たちが外に出る気配を感じると、すぐに覗き込みに行くが…昨日と同じ威嚇を受ける。
さらに、この日は子供とは関係なしに、終始、イオがオリトを執拗に威嚇し続けることが続いた。 その時だった…イラだったオリトの攻撃で倒れ込む1頭の子供。 しばらく動かなかったものの、無事なようだ。 いつもは後に残るオリトが、シュートが開くと、イオと子供を残し寝室へ。

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この状況に坂東園長は…
「ちょっとイオの方が オリトを許容しないという部分が…オリト自体を認めないとなると、オリトの側も子供を認めないといういうようになっていく可能性もある。何か排除したくなってしまうような心理になる。そうなったらメスと子と、オスを交代展示というのも当然考えなければならない状況にはなりますよね」

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旭山動物園の理念を実現する、ライオンのプライド作りは失敗してしまうのか?
運命の同居3日目。 この日もイオがオリトを執拗に威嚇し、排除しようとしていた、まさにその瞬間だった。 これまでは逃げていたオリトが一歩も引かず、立ち向かい、イオを威嚇し返したのだ。

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なんとこの行動を境にイオは威嚇を止めた。 子供がオリトとじゃれあっても見守るだけ。 水飲み場に落ちた子供を共同で助け上げるまでに、関係性が一変した。 オリトが子供に向けるその眼差しは、まさに父親そのもの…若山さんにも自然と笑みがこぼれる。 覚悟と信念を貫き通した旭山動物園に、野生さながらのライオンのプライドが出来た瞬間だった。

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オリトと子供たちが同居を初めて3週間。 そこにはオリトを、ボスとして認めたような振る舞いをみせるイオの姿があった。
飼育員の若山さんも訪れる人に、こんな彼らの姿を見てもらいたかったという。
「オリトとイオも子育ては初めてなので。初めての子育てというのも、今しかないものなのでそういったことも含めて、群れとしての成長も見てほしいですね」

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旭山動物園が目指す、動物園の在り方、またそれに伴う使命と責任とは。
坂東園長はこう語る。
「動物側の主体性というんですか、本人たちの意思というのもすごく大切なんですよね。こっちがどうしたいではなくて、相手がどうしたいかを僕らが具体化してあげられるかという組み立て方、考え方がベースにはあるので、その個体が(子供殺す)ことをしてしまったとしても、起きてしまったことは言い訳はできないですけれども、それは認めざるを得ないことなのかな。何を具体化していく場所なのかというのは、しっかりと持たなければいけない。だからライオンはライオンらしくというのは、そう簡単に放棄していいものではないな。例えばオスメス子供たちというのにこだわるということを放棄していいものではないなというのは自分は思っています。」