6月23日 オンエア
全英騒然! 実録ミステリー事件簿
 
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イギリス・デヴォン州沖で、今から26年前のこの日、1隻の漁船の網にとんでもないものがかかった。 引き上げられたのは男の死体だった。
通報を受けた警察がすぐさま現場に駆けつけた。 担当となったのは、この6日前に着任したばかりの新人刑事・クレナハンだった。

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分かっていることは、遺体は50歳から60歳くらいの男性で… 右手の甲に小さなタトゥーが入っており、右手首には防水タイプの高級腕時計をしているということ。 そして…なぜか男性の装着していたベルトが、ねじれた状態になっていたのだ。
これは事件なのか?事故なのか? 男の死体は、直ちに検視官によって調べられた。

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その結果…男の死因は溺死だったが、後頭部を含め数カ所に傷があることがわかった。 いずれの傷も致命傷ではなく、海に落ちた時に岩か何かにぶつけたものと考えられた。 この辺りの船を全てチェックしたところ、行方不明になっている船も人もいなかった。 そのため、船の操縦を誤って海に落ちたという可能性も低かった。
遺体が発見されたのは、岸からおよそ10キロも離れた場所だった。 海洋学者によれば、天候や潮の流れから考えても、岸からこんなに遠くまで遺体が流されてくることはないという。

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事件か事故か、この時点では何もわからず、結局事件性が強いと確認できるまで、本格的な捜査は始められないと判断するしかなかった。
だが、新人刑事のクレナハンだけは、どうしてもこの謎の遺体が気になったという。 遺体の身元を割り出すべく、クレナハンは通常業務の合間をぬって連日必死に聞き込みを続けた。

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そして、ついに遺体の身元が判明した。 遺体が身につけていた高級時計には、ひとつひとつに固有の製造番号が刻まれていた。 その番号をメーカーに問い合わせたところ、およそ30年前にロナルド・プラットという男が購入していたことが分かったのだ。 さらにその後、名前を頼りに歯の治療記録を探し出すと…死んだ男は、確かにロナルド・プラット(51歳)であることが確認された。

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しかし、ここである問題が…治療記録に書かれていた彼の住所は、遺体が発見された場所から実に400キロ以上も離れたエセックス州だったのだ。 そのため、上司からは 現地まで行く許可すら降りなかった。
そこでクレナハンは、自分の代わりに捜査をしてくれるよう、エセックス警察に協力を求めた。 電話に出たのは、気難しいことで知られているベテラン刑事・レッドマンだった。

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新人刑事の熱意にほだされ、レッドマン刑事はプラットの家を訪ねた。 すると…そこは、すでに空き家になっていた。
不動産会社に問い合わせると、プラットはすでに転居していた。 だが、彼宛てに届けられた郵便物が転送されるように登録していた人物がいることがわかった。 それが…デイビッド・デイヴィスという人物だった。

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不動産会社から彼の住所と電話番号を聞いたレッドマンは、早速電話をかけ、プラットについて話を聞きたいと告げた。 すると、デイヴィスが署まで来てくれることになった。
デイヴィスとプラットは親友だったという。 プラットは、3年前に新しい事業を起こすと言ってフランスに行ったという。 その際に、もし家を出た後に郵便物が届いたら、預かっておいてほしいと頼まれたのだという。

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他にも話を聞いたが、デイビスの話からは有力な手掛かりになる情報は得られなかった。 そして元々この件での捜査に前向きでなかったデヴォン州の地元警察は、捜査を完全に打ち切る方針を固めた。
だが、新人刑事のクレナハンにだけは、どうしてもこの一件がただの事故とは思えなかった。 根拠となるものはなかったが、無理を言ってレッドマンに最後の調査を頼み込んだのだ。

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そして後日、レッドマンは今度は出向いてもらうのではなく、以前不動産会社から聞いていたデイヴィスの住所を直接尋ねてみた。 現地へ到着すると、その住所には家が2軒並んでいた。 どちらにも表札がなく、迷ったレッドマンは手前の家を訪ねた。 出てきた女性にこの家も隣の家もデイヴィスの家ではないと言われた。 さらに、隣の家はプラットの家だというのだ! プラットは3年前に引っ越してきて、それからずっと住んでいるという。

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死んだはずのプラットが生きている? だが、歯の治療記録から、あの遺体はロナルド・プラット本人であることは判明している。
残された可能性はひとつしかない、あの家には誰かがプラットになりすまして生活している。 そして、その誰かはおそらく…デイビッド・デイヴィス。

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しかし、プラットは最近まで生きていた。 それなのに3年間も気づかれずに彼になりすますことはできるのだろうか?
ディヴィスは、3年前にプラットはフランスに行ったと証言していた。 ディヴィスの証言はもはや、信用できるものではなかった。 だが、確かにもしもプラットが海外へ移住していれば、この国で彼に成りすまして生活することはさほど難しくない。

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そこでクレナハンたちは、再びプラットの身辺を調査。 その結果、彼と親しかった女性を見つけることができた。
すると…プラットは3年ほど前からカナダで生活していたという。 彼の右手のタトゥーはカナダの国旗のものだったことをクレナハンは思い出した。

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プラットは子供の頃、カナダにいたことがあり、カナダに戻って暮らしたいというのがプラットの夢だったという。 そして、ある時、その彼の夢を後押しする人が現れた。
その人とは…デイビッド・デイヴィス。 デイヴィスは、カナダ行きのチケットを渡し、カナダでの仕事も紹介した。
デイヴィスは最初からプラットになりすますために彼をカナダに追いやった可能性が高い。 クレナハンはそう睨んだ。 だが、一体なぜ別人になりすます必要があったのだろうか?

なんとエセックスからは400キロ離れている、遺体が発見されたデヴォン近郊の港にデイヴィスのヨットがあることが判明した。 さらに、デイヴィスの携帯電話の通話記録と位置情報を入手すると…遺体が発見される8日前、7月20日にデイヴィスがデヴォンの港近郊で携帯電話を使用した事実が判明した。
これは7月20日にデイヴィスがヨットを使用した可能性が高いことを意味していた。

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遺体が発見されたのは28日だが、プラットがしていた時計は自動巻きで、遺体が発見された時は22日を示していた。 自動巻きの時計は腕の動作に合わせ自然とゼンマイが巻かれ、針が動く。 だがその一方で、腕を動かさなければ、一定の時間の後、針は静止する。 さらに、もし動かさずに水中に置いていたら、2日ほどで時計は止まるという。
つまり、プラットは7月20日に死んだと推定できる。

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さらに、クレナハンは、プラットのベルトの捩れを鑑識に調べてもらっていた。 あのねじれは、ベルトの内側に何らかの力が加わったことでできたことだと判明していた。 プラットを沈めるために、ベルトに重りか何かを付けたのではないかと考えられた。
実は遺体を引き上げた網には、同時に重さ5キロほどのイカリが引っ掛かっていた。 だが、引き上げた漁師は、警察が現場に来る前にそのイカリを友人に譲っていたことがその後行われたクレナハンの聞き込み捜査によって明らかになったのだ。 発見されたイカリからはプラットのベルトのものと思われる革の繊維が検出された。

そして遺体発見からおよそ3ヶ月後、ついにデイビッド・デイヴィスは殺人容疑で逮捕された。 しかし事件はこれで終わりではなかった。 この後、さらに驚くべき事実が判明する。
なんと、デイビッド・デイヴィスという名も本当の名前ではなく偽名。 男の本名は…アルバート・ウォーカー。 そして国籍もイギリスではなく、あのプラットを追いやった、カナダからの逃亡者だったのだ。

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デイヴィッド・デイビスを名乗り、イギリス人として生活していたアルバート・ウォーカー。 ウォーカーはカナダの田舎の貧しい家に育ち、ずっと金持ちになることを夢見ていた。 やがて投資会社を立ち上げると、顧客に嘘の儲け話を持ちかけ、実に数百万ドルを荒稼ぎ。 しかし事件の6年前、ついにカナダ警察から指名手配される。

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そんなウォーカーが、警察の追跡から逃れるために行ったこと、それが…他人になりますことだった。 顧客の1人だったデイビッド・デイビスという男のIDを盗み、カナダからイギリスに逃亡。 しかし、国際指名手配されている身、デイビッド・デイヴィスという名で逃亡していることが、いつ警察にバレるかわからない。

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そんな不安に苛まれていた時だった。 天性の詐欺師だったウォーカーの網に引っかかった人物こそ…プラットだった。
彼がカナダへの移住を計画していると知り、接近。 そして…昔の仲間を使い、実際に仕事も斡旋。 プラットを国外へ追いやることに成功した。 その後、渡航前に盗んでおいたIDでまんまとプラットになりすましたのである。

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そんなウォーカーと一緒に暮らしていたのは、カナダで詐欺を働いていた時にできた実の娘。 ウォーカーは彼女に自分の妻を演じさせていた。 これも妻帯者である方が周囲から疑われにくいという用心深さからだった。

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ところが、それから3年後…プラットがイギリスに戻ってきたのだ! プラットを名乗る彼にとっては致命的なことだった。
もし『なりすまし』がバレれば、カナダでの詐欺の罪までもが明るみに出てしまう。 追い詰められたウォーカーに残された道はただひとつ。 そして…プラットをデヴォンに誘い出し、犯行に及んだ。

これが事件の全容だった。 そしてプラット殺害から2年後、イギリスの裁判所でアルバート・ウォーカーには、終身刑の判決が下された。 その7年後、アルバート・ウォーカーはカナダに移送され、現在もブリティッシュコロンビア州にある連邦刑務所に収監されている。