2021年12月31日。
小雪がちらつく大みそか、新年を心待ちに過ごすこの日、何かを必死に探している男性。
一体、何を探しているのか?
そして、凍てつく寒さの中、なんと朝5時半まで探し続けた。
果たして、男性の正体は?
実は、この飯塚さん、いなくなったペットを探し出すペット探偵。
家から逃げ出したネコの捜索をしていたのだ。
この日、発見することはできなかったものの、数日後、飯塚さんのアドバイスにより、飼い主が無事保護したという。
そう彼らペット探偵に休みは無いのだ。
飯塚さんが所属するのが、動物専門の探偵社ペットレスキュー。 代表を務める、藤原さんはペット探偵歴25年。 これまで3000件以上の依頼を受け、発見率は約8割。 その活躍からテレビドラマのモデルにもなった人物。
そんな藤原さんが、その才能を絶賛するのが、遠山敦子さん、25歳。 一昨年ペットレスキューに入社。 1年で100件以上の捜索にあたり、発見率は藤原さんと並ぶ約8割。 藤原さんが出演するテレビ番組を見て感動し、困ったペットを助けたいと弟子入りしたという。
そんな彼女に、この日、かつてない過酷なネコの捕獲依頼が舞い込んだ。
依頼を受けた翌朝、神奈川県にやってきた遠山さん。
依頼主は、一人暮らしで4匹のネコと暮らす佐野さん。
「お兄ちゃん」と名付けたネコが逃げ出してしまったため、探し出して欲しいという。
ネコに全く興味のなかったという佐野さんが、お兄ちゃんを飼い始めたのは2年前。 母ネコに連れられ、佐野さんの家にエサを求めてきた、生まれたばかりの子ネコだった。 やせ細る子ネコたちを心配し、捕獲器を使い保護。 飼い主を探す間、一時的に4匹の子ネコを飼うことに。 しだいに情が移った佐野さんは、子ネコをそのまま飼うことにした。
保護して以降、完全室内飼育だったという、お兄ちゃんが逃げ出したのは、2日前。 佐野さんは捕獲を急いでいた。 その理由とは…なんと、午後5時の飛行機で娘さんの住む北海道に引っ越すのだという。 お兄ちゃんは引っ越し業者など見慣れない人の気配に怯え、雨戸の隙間から飛び出して行ったのだ。
現在、午前8時。
飛行機の出発時刻を考えると捜索できるのは、たった5時間。
なんとか、北海道に一緒に連れて行かせてあげたい。
かつてない、時間との戦いも兼ねた捜索がスタートした。
お兄ちゃんの特徴は水色の首輪とサバトラ模様の毛。
まずは、近所を1軒1軒尋ね、許可を得て庭や軒下を見させてもらう。
室内で飼われていたネコが逃げてすぐの場合、初めて見る景色や人に怯え、半径100m以内に隠れていることが多いという。
ちなみに犬の場合は、道路伝いに走っていくため、道路に沿って探していくのが基本。
この時、絶対にやってはいけない行為があるのだが、お分かりだろうか? 飼い主が不安な気持ちで、いつもと違った声の感じで名前を呼んでしまうと、ネコは耳がいいので、不安になり、逆に出てこなくなってしまう。 やってしまいがちだが、焦って大声で名前を呼ぶのは、絶対NGなのだ。
そして、捜索開始から1時間。
近所の人から手がかりとなる貴重な情報が。
昨日の夜、斜め前の家の庭を歩くお兄ちゃんらしきネコを、目撃したという。
通常、怯えているネコは、しばらくの間、飲まず食わずでじっと隠れていることが多く、目撃されることは少ない。
もしお兄ちゃんだったとしたら、すぐに動いていることから、捕獲できる可能性が出てきた。
一刻を争う事態に、ネコ用の捕獲器を使うことを決断。 エサには、お兄ちゃんの好物だった鳥のささみを用意。 馴染みのある匂いで警戒心を解く作戦だ。
さらに、カメラを用意。 このカメラは動いたものに反応して30秒撮影する動物専用のカメラ。 近所の人が目撃したという場所に捕獲器とカメラを設置。 お兄ちゃんが現れるか様子を見ることに。
その間にも目視での捜索を続行。
時刻は午前10時、タイムリミットまであと3時間。
するとその時、遠山さんが走り出した。
お兄ちゃんと同じサバトラのネコを発見!
首輪はないものの、外れた可能性もある。
もしお兄ちゃんなら、捕獲器の場所を変えなければならない。
すぐに佐野さん宅へ。
写真を見せてもらい、お兄ちゃんか体の特徴で確認。
先ほどのネコと比べると、お兄ちゃんの尻尾は丸く短い。
残念ながら、ネコ違い。
時刻は、午前11時。
さすがの遠山さんにも、あせりの色が。
その時、尻尾が丸いサバトラを発見!
お兄ちゃんなのか?
すぐに写真で確認。
またもや、ネコ違い。
捜索を再開するも、4時間が経過。
佐野さんの出発時間が刻一刻と迫る。
捕獲器の中にネコがいる様子。
時間を考えると、これがお兄ちゃん捕獲のラストチャンス。
果たして?
残念ながら、三毛ネコだった。
ここで、ついにタイムリミット。
もはや、あきらめるしかないのか?
佐野さんは、さらに数日、お兄ちゃんの捜索をお願いし、他の兄弟ネコと共に北海道へ旅立っていった。
お兄ちゃんをなんとしても、佐野さんのいる北海道に連れて行ってあげたい。
2日後、捕獲器に仕掛けたカメラの映像をチェックすると…そこにはお兄ちゃんの姿が。
尻尾の形から、今回は間違いない。
しかし、捕獲器には入らなかった。
遠山さんが気になったのは、お兄ちゃんが子ネコの時に捕獲器で保護されていること。
捕獲器を嫌がる可能性を考え、遠山さんは作戦を変更。
ドロップ式の捕獲器で捕獲を試みる。
ドロップ式とは、四角いケージにつっかえ棒を立て、遠く離れた場所から紐で棒を倒し、捕まえるという仕組みだ。
お兄ちゃんは、佐野さんの家に戻ってきたがっている。
そう予想した遠山さんは、庭にドロップ式の捕獲器を設置。
もし失敗した場合、2度とその場所には近寄らない可能性が高いという。
通常は離れたところに待機するのだが、庭の幅が狭いため、今回は、仕方なくケージの目の前のリビングで待機。
お兄ちゃんは警戒心が異常に強く、家の前にある駐車場の人にも怯え、すぐに隠れてしまうほど。
気づかれぬように、遠山さんが覗けるのはわずか3cmの隙間。
見えるのは、ケージのエサの部分だけ。
午後6時、気温は3度。
電気が通っていない寒い部屋で、ひたすらお兄ちゃんを待つ。
2時間が過ぎた、その時!
ケージに近づくネコの姿が。
息を殺して待つ遠山さん。
やがて、気配が消えた。
すぐに外のカメラを確認に行く。 反対側のカメラに写っていたのは、首輪のついたネコ、お兄ちゃんだ。 カメラが切れるまで30秒間、家の中の様子を伺っていたようだ。
戻ってくる可能性が高いと判断した遠山さんだが、先ほどのお兄ちゃんの行動が気がかりだという。 明らかに、家の中を気にしていたお兄ちゃん、異常に警戒心が強く人の気配に敏感な性格。 カメラの赤外線にも反応することを考え、捕獲するまで、真っ暗のまま一切動かない作戦に。
4時間が経過、体は芯まで冷え切っていた。
すると、外のカメラがネコの動きを感知。
お兄ちゃんだ。
しかし、まだわずか3センチの隙間から除く遠山さんの視界には入ってきていないため、この時、彼女はカメラが作動したことにもお兄ちゃんが近づいてきたことにも気づいていない。
すると、ここで30秒が過ぎ、カメラは切れた。
果たして、お兄ちゃんは餌を食べるため、遠山さんの視界に入ってくれるのか??
その時だった!遠山さんが押さえたケージの下には…お兄ちゃんの姿が!
見事、お兄ちゃんの捕獲に成功!
そう、カメラが切れた直後、お兄ちゃんは遠山さんの除く視界3センチの隙間まで入ってきていたのだ。
すぐに、北海道の佐野さんに連絡。
そして翌日、朝一の便で北海道からきた、佐野さんがお兄ちゃんと再会。
安心した様子のお兄ちゃん。
無事、任務を終えた遠山さん。
だが、休む間もなく次の現場へ。
後日、送られてきた動画には、佐野さんに抱っこされ、リラックスするお兄ちゃんの姿があった。
遠山さんはこう話してくれた。
「やっぱり、ずっと家の中にいたネコちゃんが急に外に出たら、怖いだろうなとか、心細いというか。そう考えると早く見つけてあげたいなって、色んな人にペット探偵という仕事があることを知って欲しいなと。それを発信していけるような人になりたいなと思います。」