コロラド州に住むグレッグ・ウィックハーストさん、娘のイジーちゃんが1歳半の時、妻と別れたのだが、彼女はその後、娘の将来を見ぬまま亡くなった。
グレッグは様々な技能を学べる専門学校に事務員として勤務しながら、男手ひとつ、イジーちゃんを育てていた。
平日は、毎日仕事が終わると保育園にイジーを迎えに行き、一緒に帰宅。
朝晩の料理から、洗濯、掃除、それが毎日だ。
ひとり親だからと言って、娘に不自由はさせたくない。
父として、娘の身の回りの世話は全て、一人前に出来ていると自負していた。
だが、ある日のこと…近所の親子と偶然会った時、グレッグは気づいてしまった。
その女の子は可愛くヘアアレンジをしていたのだ。
当時2歳半のイジーの髪は、シャンプーなどの手入れが簡単だと言うこともあり、短く、せいぜい櫛で整え、伸びたらグレッグが切る程度だった。
男親だからって、娘の髪型を可愛らしく出来ないなんてダメだと思った。
そこでグレッグは…イジーの髪が伸びたのを機に、ポニーテイルに挑戦。
しかし、全くうまく行かず…マニュアル動画を参考にすることにした。
そして、グレッグが手にしたのは、掃除機。
彼が見たのは、こんな裏技動画だった。
あらかじめノズルにヘアゴムを巻き付けておき、ポニーテイルの形が出来たら、ノズルを引き抜き束ねる、という簡単な方法なのだが…ヘアゴムがゆるすぎて、掃除機に吸い込まれてしまい失敗。
娘のためなら何でもする! そう頑張ってきたつもりだったが…24歳でスキンヘッドにして15年、自分の髪すらセットしたことはない。
まさか、こんな挫折を経験するとは…彼にとっては最大の事件だった。
だが、諦められないグレッグが向かった先は、美容学校。
実は、グレッグが勤務する専門学校には様々な学部があり、美容部門もあったのだ!
そこで、娘のためにスタイリングを教えて欲しいとお願いしたのだ。
こうしてグレッグは、美容学部の優秀な生徒、アシュリーを紹介して貰い、彼女からスタイリングを習うことに。
アシュリーから3時間ほど教えてもらったグレッグは、帰宅後ついにイジー本人でチャレンジ!
すると…「パパ、グッジョブ!」と言ってくれた。
その日から毎朝イジーをモデルに独学で様々な髪型を研究した。
それからさらに技術を上げたグレッグさんは、ハートをモチーフにしたバレンタイン、アイデアが冴え渡るハロウィン、クリスマスなどそれぞれのイベントにちなんだヘアアレンジを考案した。
グレッグさんはこう話してくれた。
「美容師になったら良いのにと言ってくる人も何人もいましたが、私は美容師になりたいんじゃなくて娘の髪を結んであげたいだけなんです。」
彼が得たのは、ヘアスタイリングの技術だけではなかった。
「髪をまとめながら、一緒にテレビやダブレットを観たり楽しい時間を過ごしたことを思い出してくれたらいいなと思います。髪を結ぶことを通して築いた絆をね。」
そのことを伝えたかったグレッグさんは、SNSにイジーちゃんのヘアスタイリングの画像とそのやり方をアップしつづけた。
すると、多くの人々、特に父親たちから共感を呼び、フォロワーも激増。
さらに、テレビやニュースサイトなど様々なメディアにも取り上げられるようになったのだ。
わずか1年前まで、ごく普通の父と娘だった二人は、その名が全米に響き渡る有名な親子となった。
その後グレッグさんは、父親を対象にしたヘアスタイリングのワークショップを企画。
レッスンだけでなく、ドレスを身に纏ってのお茶会付き。
そこには、グレッグさんの想いが。
「私は他のお父さんたちも髪を結ぶべきだとは言いません。でも男親だって、やってみる価値はありますよ。好きだったら続ければいいし、嫌だったらやめればいい。子供と絆を深めて、そばにいられる方法が見つけられれば、それでいいと思います。」
イジーちゃんは現在9歳。
グレッグさんに髪をセットしてもらってもう6年になる。
イジーちゃんにとって、パパはどんな存在なのか?
「お父さんのことが大好きです。ずーっといつもそばにいてくれるから。お父さんが髪を結んでくれるときに、話したりするのが楽しいです。」
グレッグさんは、最後にこう話してくれた。
「『Perfect(完璧)』ではなくて良いので、『Present(そこにいる)』。子供ためにただそこにいること、私はそれが大切だと思います。子供にいつもそばにいると知っていてもらうことが。」