4月30日 オンエア
まるで映画!推理作家と死刑囚 疑惑の殺人事件を追え
 
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アメリカ・ヴァージニア州、ベッドフォード。 今回、訪れたのはその地に住むアメリカのミステリー作家であり、ノンフィクションライターのダイアン・ファニングさん。 優れたミステリー作家に贈られるエドガー賞にノミネートされる一方、有名紙ニューヨークタイムズでは犯罪ドキュメントのリーダーとも称されるなど、これまで数多くの事件を取材してきたダイアンさんだが、今から18年前、なんと実際に起こった殺人事件の真相に警察よりも先にたどり着いてしまったというのだ。

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きっかけは、作家のダイアンが偶然、テレビで目にしたとあるドキュメンタリー番組。 番組では、その5年前の1997年に全米で話題になった殺人事件を取り上げていた。

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事件が起きたのは、イリノイ州ローレンスビルの住宅街。 夜明け前の午前4時半…突然、隣人宅に飛び込んだのは、ジュリー・レイ・ハーパー。 10歳になる息子ジョエルと2人暮らしをしていた。 隣人に、知らない男が家に入ってきて、息子のジョエルがいなくなったと、助けを求めた。

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その後、すぐに警察が到着、ジュリー宅の家宅捜索が行われた。
すると…床に血のついたナイフが落ちていた。 さらに…寝室のベットの脇から、ジョエルの遺体が発見された。

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警察はジュリーが落ち着くのを待ち、事情聴取を開始。
息子のジョエルの悲鳴を聞いて、ジュリーが部屋へ向かうと、突然知らない男が掴みかかってきたという。 ジュリーは逃すまいと、必死にしがみついた。 すると、男はジュリーの顔を殴って逃げたという。

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警察は、まず彼女の目撃証言をもとに似顔絵を作成。 それをもとに聞き込みを開始した。
すると、街で怪しい男を見かけたという目撃者が現れた。

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目撃者によれば、家族と近所の食堂にいたとき…見知らぬ男が入ってきたという。 男は彼の11歳になる息子に近づき、「俺が怖いか?」と言った。 息子が怯えると、男は「そうだ。そうやって、みんな俺を怖がるべきなんだ」と言って、その場を立ち去ったという。 しかしその後、その男性以外にこの男の目撃情報は得られず、似顔絵捜査は暗礁に乗り上げた。

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また、他の手段でも犯人の足取りをさぐったが、家の中や周辺を含め、足跡や指紋など犯人の痕跡は一切見つからなかった。 しかし、人が殺されたのは間違いのない事実。 懸命な捜査は続き、事件から3年後、ついに犯人が逮捕された。
その人物は…なんと殺されたジョエルの母親ジュリーだった! 実は、当初から警察は不審な点がいくつかあると、彼女に疑惑の目を向けていたという。 その理由は、外部からの犯行である痕跡が全くなかったから。

疑惑1 凶器

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もし殺人を犯すために誰かが押し入ってきたなら、自分で凶器を用意してくる可能性が高い。 だが、発見された凶器のナイフは、元々ジュリーの家にあったものだった。 これに対し、犯人が凶器を持たずに他人の家に押し入るのは不自然と、警察は疑っていた。

疑惑2 痕跡

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事件が起きたのは夜明け前で視界は悪く、ジュリーと格闘の末に慌てて逃走したのであれば、指紋や足跡が必ず残っているはずだと警察はみていた。 だが、鑑識がどんなに調べても、人が出入りした物証は全く出てこなかったのだ。 これらの事実から警察は、唯一の目撃者であるジュリーの証言に疑いを持ち始めた。

疑惑3 傷

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ジュリーが犯人ともみ合って出来たという傷。 事件当時、彼女は警察にその傷がどうやって付いたのか、ひとつひとつ明快に説明したという。 しかし、犯人と無我夢中でもみあったはずなのに、記憶が鮮明すぎるのは明らかに不自然と警察は判断。 またジュリーの証言を元に描いた似顔絵に似た男も、見たという情報が1件だけあったものの、その後 他に見たという人は全くみつからず、目撃者の勘違いの可能性が圧倒的に高かった。

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こうしてジュリーに対する疑惑がどんどんと膨らんでいく中で、さらに警察はジュリーの元夫からも驚くべき証言を得ることになる。 ジュリーは子どもを望んでおらず、中絶しようとしていたというのだ。
やはり 限りなくジュリーが怪しい…そう判断した警察は事件から3年後、ついにジュリーを逮捕。

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彼女は犯行を否認し続けたが、その真実は裁判で争われることになった。 するとその裁判で、元夫が行なったある証言によって、事件は全米が注目する一大ニュースとなっていく。
事件が起こったのは1997年10月の13日だったのだが…昔から彼女は13という数字に固執していたというのだ。 実は夫婦の結婚式も13日、またジョエルの出産も、わざわざ陣痛を早めて13日にしたというのである。

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13という不吉な数字に捕らわれた悪魔の母親、そんなキャッチーなフレーズにマスコミは食いつき、この事件をセンセーショナルに報道。 その結果、世間の声もジュリーに対する厳罰を望む論調になっていった。
裁判の結果、ジュリーは息子殺しの罪で懲役65年を言いわたされた。

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これが、判決後に放送された、ダイアンの見たドキュメンタリー番組の内容だったのが… 様々な殺人事件を追いかけてきたダイアンには、証拠について納得できない点がいくつかあったという。
その後、ダイアンは独自に事件の調査を開始。 だが、調べれば調べるほど、違和感は大きくなるばかりだったという。

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そこで、ある人物に意見を聞いてみようと考えた。 その人物とは、以前本の執筆のため刑務所に出向き取材を重ねていた、大量殺人鬼、トミー・リン・セルズ! この時、彼女はこの大量殺人鬼に相談の手紙を書くことにしたという。

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一体なぜ、ダイアンは大量殺人鬼に相談することにしたのか?
ダイアンさんは、こう話してくれた。
「以前 私は本の取材のために、20回ほど彼と面会したり手紙でやりとりをしたことがありました。彼は絶対的なサイコパス。殺人をすることで人の生死をコントロールできる感覚に酔いしれていました。怒りやすい面がある一方、自分を失わない冷静な面もあったんです。」

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1987年、セルズは客人として招いてくれた家族4人をハンマーやバットで撲殺。 全米を震撼させたこの事件は、当時未解決となったが、1999年には 別の殺人事件で逮捕され死刑判決が下った。
20年に渡り、老若男女問わず、彼が手をかけた人数は判明しているだけで70人以上。 まさに、最悪の大量殺人鬼だった。

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彼女が違和感を感じていたのは、外部からの侵入の証拠が何も出てこないことがかったことだけで、内部の人間が犯人として逮捕されているというのが、大きな理由の一つとだった。 もしもセルズのような殺人に慣れている人物なら、きっと証拠を残さずに犯行を行うことも可能だと考えたからだった。

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1991年アカデミー賞を総なめした、映画・羊たちの沈黙。 FBIの新人捜査官クラリスがある殺人事件を解決するため、独房で過ごす猟奇的殺人犯レクター博士の元を訪れ、助言を受けることに。 レクター博士の言葉を信じたクラリスは、事件を解決するというストーリーなのだが…
ダイアンはまさにこの映画と同じように、大量殺人鬼であるセルズに見解を求めることにしたのだ。

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手紙を送ってから数週間後、ついにセルズから返信が届いた。 黄色い便箋には、文字がびっしり書かれていた。 だが実は、そのほとんどは事件と全く関係のないことで埋め尽くされており、問題の事件についての記述は、たったの3行だけ。 しかも、その3行もダイアンの質問に対する答えではなかった。

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しかし、その3行にはダイアンを震わせるには十分なある言葉が記されていたのだ。 数週間前、ダイアンが送った手紙には、事件の日付や場所などの固有名詞は書かれていなかった。
だが…セルズからの手紙には、こう書かれていた。 『ひょっとして、その事件ってのは、俺が起こした事件の2日前の13日のこと?』

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そう、確かにジョエルが殺害されたのは10月の13日。 そして、セルズのいう『俺が起こした事件』は、おそらく 1997年の10月15日に彼が少女を絞殺した事件のことを指している。 そうなると、日付だけでなく年号まで完璧に一致する。 つまり、この手紙が意味することとは?

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ダイアンがセルズの面会に訪れると…セルズは5年前の事件について全てを語りはじめた。 それは犯行の数日前…セルズは、偶然 買い物をするジョエルとジュリーに遭遇。 その時、自分に敬意のない態度をとったとして、追いかけて家を突き止めた。 そして…後日、深夜家に押し入って、息子のジョエルを殺害したという。 あまりに身勝手で、理解不能な犯行だった。

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こうしてセルズによる具体的な自供により、真相にたどり着いてしまったダイアンだったが…それは同時に、投獄されているジュリーが冤罪だということも示していた。
だが、彼女を救うには裁判のやり直しが必要で、さらなる裏付けを取るために、ダイアンはジュリーの弁護団と協力して本格的な調査を開始。

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まず、セルズの若い頃の写真を入手。 その顔は、ジュリーの目撃証言を参考に描かれた似顔絵にそっくりだった。 そしてセルズの写真を事件当時近所の食堂にいた、あの目撃者に見せてみると…セルズを、あの時見た男に間違いないと証言してくれた。

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また さらに調査を進めると、実はセルズは事件から数日後、ジュリーの家からほど近い高速バス発券所で…ウィネマッカ行きのチケットを買っていた。 そこは事件のあった街から、バスで40時間以上もかかる場所。 そんな場所を目的地とする客はほとんどいないため、売り場の係員がセルズのことを覚えていた。 こうしてもう1人、新たな目撃者を見つけることにも成功したのだ。

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その後、ジュリーの弁護団は、集めた証拠をもとに裁判のやり直しを請求。 そして、最初の有罪判決から4年がたった 2006年、再審が認められると、陪審員はジュリーは有罪ではないと判断。 ついに彼女は釈放された。

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だが、その一方で、今回のジョエル殺人の件でセルズ自身が起訴されることはなかった。 その理由は 公には明らかにされていないが、すでに死刑が確定していたことで、いたずらに裁判を長引かせたくなかったという説や、警察や検察が自分たちのミスを認めたくなかったという説が有力だ。
結局、セルズはジョエル殺害の件について公の場で裁かれることなく、2014年に死刑が執行された。

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最後にダイアンさんは、こう話してくれた。
「セルズがあの事件で裁かれることはありませんでしたが、アメリカには今も大量殺人鬼が潜んでいる。だから、私はこれからも研究を続けることで、未来におきるかもしれない事件を防ぎたいと思っています。」