10月31日 オンエア
女子銀行員 2億円横領事件
 
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今からおよそ40年前のこの日、関東近郊の銀行でとんでもない事態が起きていた。 この日、本店からの抜き打ち調査が行われ、一人の女性行員によるおよそ2年に渡る横領事件が発覚したのである。 総額 なんと2億円、現在の価値にして約3億8千万円。 一体彼女は、2億もの大金を何に使っていたのか? そして、この事件には誰もが予期せぬ、アンビリバボーな結末が待っていた。

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2億円の横領容疑で逮捕されたのは、三田香苗。 銀行に入社して5年あまりの23歳の女だった。
香苗は取り調べに素直に応じた。 そして…フィアンセを守るために2億もの金を横領したと供述。

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当時の新聞や雑誌などの報道によると、香苗がフィアンセの石村と出会ったのは、逮捕される2年前の夏のことだった。
香苗はこの日、同僚のかおり(仮名)と一緒に夏休みを利用して東北旅行に出かけていた。 その時、声をかけて来たのが石村だった。 友達のかおりは、男に無関心だったが、旅先での思いがけない出会いに香苗の気持ちは高ぶっていた。 真面目な性格で、学生時代は勉強と部活に明け暮れていた香苗、骨太で丸顔という外見にコンプレックスもあり、男性に対してほとんど免疫がなかった。

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関東にある高校を卒業した香苗は、学校の推薦で地元の銀行に入社した。 真面目な仕事ぶりは行内でも高く評価され、周囲からもすぐに信頼されるようになったという。
目的地に到着するとそこで石村と別れた。 ひと時の出会いと別れ…それだけのはずだった。

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だが、旅先で香苗は石村と会っていた。 実は、列車に乗っている時、かおりが席を立った隙に、石村に宿泊先の電話番号を聞かれた香苗は、こっそり連絡先を渡していたのだ。 そして出会ってすぐ、二人の恋は急速に発展していく。 これまで、恋愛とは無縁だった香苗にとって、この出会いは、まさに運命のように思えた。

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ところが、石村は、もし二人が付き合うなら、ある秘密を打ち明けないといけないと言い出した。 なんと石村は、『国際秘密警察官』だと言うのだ! そこで国家レベルの金融調査を行なっているため、自分の素性は絶対にバレてはいけないのだという。 もしバレたら、命を狙われると!
石村の話は、常人には信じがたいものだったが、インターネットもない時代、いくら胡散臭い話であっても、それを確かめる術はない。 彼女は石村の話を完全に信じきっていた。

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そして、秘密を打ち明けられてから間も無く…香苗は石村に150万円もの金を渡していた。 実は、東北旅行から戻って来た数日後、二人は初めてのデートをし、そこで男女の関係になった。
すると…石村は香苗に結婚を考えていると告げた。 さらに、組織は家庭を持つことを禁じているため、結婚をするためには組織を抜ける必要があるという。 そして、組織を抜けるための金が必要だと言うのだ。

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その後も、香苗と石村は、デートや旅行を重ね、愛を育んでいった。 石村との結婚、それが香苗の生きがいになっていた。
しかし、そこに至るには、まだ高いハードルがあった。 石村は、仲間への口止め料や政治家への工作資金など、組織を離れるために5000万円も必要だと言い出したのだ。

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当時、香苗が務めていた銀行は、定期預金を担保に最高1000万円を貸し付けていた。 貸し付け係をしていた香苗は、このシステムを利用。 偽の定期預金の講座を作成し、それを担保に銀行からお金を引き出す。 そして、架空の客に貸し付けるフリをして横領。 5000万円を工面するために、彼女はそれを何度も繰り返した。

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この時、香苗には結婚への焦りもあった。 18歳で銀行に入社した時には、女性の同僚が15人いたが、たった2年の間に次々と寿退社。 石村と出会った頃には、4人だけになっていた。 何としてでも、早く石村と結婚したい…それが、彼女が横領を続けた動機だった。

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だが、香苗の願いも虚しく、石村はそれ以降も何だかんだと理由をつけては金を無心した。 香苗は3回に1回は断っていたのだが…二人の結婚のため、そう言われると逆らえず、お金を工面し続けた。 それから間も無く、銀行で抜き打ち検査が行われ、彼女の横領が発覚。 2年の間に香苗が石村に渡した総額は…2億1190万円にものぼっていた。

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香苗の逮捕から数日後、警察の必死の捜査で石村の素性が判明した。 石村というのは偽名で、本当の名は佐々木真一(仮名)。
しかも、香苗と出会う前に佐々木はすでに結婚していた。 東京を拠点にろくに定職にもつかず、プラプラしながらギャンブルに明け暮れていた。 しかも、金が尽きて強盗を働き、逮捕された前科もあった。

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そんなろくでもない男ではあったものの、人の心を読むことと、口だけは抜群に上手く、女性にとてもモテたという。
その才能を活かし、近づいたのが…香苗だった。 彼女が銀行の貸し付け係をしていたのは、ラッキーな偶然。 恋愛経験のない香苗は、いとも簡単に騙されてくれた。

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直ちに、佐々木の逮捕に向けて作戦が決行された。 場所は市内のボウリング場。 佐々木から連絡を受けた香苗が、ここ出会う約束を取り付けたのだ。
約束から15分遅れで、佐々木がようやくボウリング場へとやって来た。 しかし…多くの捜査官たちが張り込むボウリング場、その不穏な空気に気づいた佐々木は、突如引き返し、猛スピードで逃走。

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逮捕に失敗した警察は、佐々木の行方を追うために、その身辺情報を徹底的に洗い直した。 すると、佐々木には香苗以外にも何人か愛人がいたことが発覚。
そして、その中に一人だけ、山下高子(仮名)の行方が分からないという。 佐々木はこの女と一緒に逃げている可能性があった。

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女が捜査の網に引っかかったのは、佐々木が逃走してから、およそ1カ月後のことだった。 お金を引き出しに銀行にやって来たのだ。 しかし、その通帳はセキュリティコードに引っかかった。
係員はすぐに警察に通報。 関東近郊の銀行に現れた女は、間も無く逮捕された。

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彼女の名は、山下高子(仮名)。 高子は捜査官の取り調べに素直に応じた。
当時の新聞や雑誌記事などによると…高子は元々、銀座でホステスをしていたという。 その時に出会ったのが佐々木だった。
佐々木はこの時、香苗から巻き上げた金で、独自の予想を掲載した競馬新聞を発行する会社を興していた。 しかし、そんないかがわしい新聞は売れるはずもなく、会社の利益は全く上がらなかった。 にも関わらず、銀座のクラブで豪遊していたのだ。

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香苗とは違い、スタイルも良く、ハーフ顔の高子を佐々木はとても気に入っていた。 佐々木は、香苗から巻き上げた金を使って、高級マンションの一室や六本木に店など、まさに夢のような世界を高子に与えた。 彼女は完全に佐々木の虜になっていた…はずだった。
だが、恋愛経験のなかった香苗とは違い、ホステスをしていた高子の勘は鋭かった。 つき合い始めてすぐ、佐々木がついていたウソが全部バレてしまったのだ。

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佐々木は、高子に許してもらえなければ死ぬと言い出した。 そんな佐々木を見た高子は…彼にほだされ、自分が佐々木を守っていかなければと思ったという。 母性本能をくすぐるのは、天賦の才だったのかもしれない。 たとえ見せかけの社長だと分かっても、妻や愛人がいると分かっても、金がだまし取っていたということが分かっても…高子は佐々木を愛し、共に逃亡することを決めたのだ。

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高級マンションや六本木の店を処分する暇もなく、この時の所持金は、二人合わせて59万円だった。 そのお金で、警察の目をくらますため、数日おきに泊まる場所を変え、日本各地を逃げ回った。
しかし、逃亡生活も1カ月を過ぎると…所持金はほんのわずかなものになっていた。 そこで、口座からお金をおろそうとしたのだが…銀行口座をマークしていた警察に彼女は取り押さえられた。

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高子が銀行へ行ってから3日後、佐々木は高子が逮捕されたことを知った。 高子は警察に、佐々木とは駅で別れたと供述。 さらに、佐々木はいつも白いTシャツを着ていると供述していた。 だがそれは、佐々木の逃走を助けるためのウソだった。 高子は捕まってもなお、佐々木のために尽くしたのである。

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しかし、それから1カ月後の9月。 東京に戻っていた佐々木は、五反田駅前で職務質問され、そのまま逮捕された。 ボロボロの青いポロシャツ、無精髭が伸びきり、所持金はわずか250円だった。

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佐々木逮捕の報せは二人の女たちにも知らされた。 男の言葉を信じて守ろうとした女と、男の本性を見てもなお 守ろうとした女。 しかし、佐々木の逮捕を聞いた二人の女の言葉は、驚くほど対照的なものだった。 高子は「あの人が生きていて本当に良かった」と言い、一方、香苗は「あいつを必ず死刑にしてください!」と言った。

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のちの裁判で、佐々木には懲役8年、香苗には懲役3年6カ月。
そして、逃亡を手助けした高子には、懲役10カ月、執行猶予3年の判決が下された。