9月20日 オンエア
操縦不能!? 悪夢のフライト
 
 
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 アメリカ・アラスカ州にあるコールドベイ。 この街にある小さな空港、コールドベイ空港にある滑走路では、ワシントン州シアトル行きのリーブ・アリューシャン航空8便が離陸態勢に入ろうとしていた。 機長は25年の飛行経験がある、ベテランパイロット、ジェームズ・ギブソン。 副操縦士は機長よりもひと回り以上若い、ゲーリー・リントナー。 そして、航空機関士として、ジェラード・ローリンが乗務していた。
 70席ほどの客席があるリーブ8便だが、この日は平日ということもあり、乗客は10名と少なめだった。 乗客のほとんどは、アラスカで釣りを楽しんだ人達。 大自然を満喫し、帰途についていた。
 14時23分、テイクオフ。 機長たちにとって、コールドベイとシアトルの区間は、毎週飛行している慣れ親しんだルート。 フライトは5時間の予定だったが、この日に限って、それは悪夢の時間へと変わる。
 
 
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 ジェームズ機長が操縦するリーブ8便は、プロペラが付いた4基のエンジンを搭載する航空機。 回転するプロペラによって推進力を得て飛行している。 その機体に異変が起きたのは、離陸からおよそ30分後、高度5800メートルに達した時だった。 機体が振動し始めたのだ。
 機関士のジェラードは、キャビンアテンダントのウェンディと共に機体に異常がないか、客席の窓から目視による確認を行うことにした。 すると…突如としてプロペラの1つが落下! その直後に起こった大きな衝撃により、機内は一気に不安に包まれた。
 複数のエンジンで飛ぶ機体の場合、そのうちの1つが停止したとしても、推進力は完全になくならないため、飛行は可能である。 そのため、ひとつのプロペラを失ったリーブ8便も、この時点では墜落の心配はなかったのだが…この後、予想だにしない事態が次々に起こる。
 
 
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 少し遡り、プロペラ落下前のコックピット、状況を知らない機長たち… 突如衝撃が襲ったと思った次の瞬間、突然 気圧が急減し、霧が発生! 機内は一瞬で真っ白になった! さらに、機内の温度も急激に低下していた。
 ジェームズ機長は、機体から空気が漏れていると推測。 飛行機の内部は、金属の板で密閉され、外の空気が遮断された状態にある。 そのため、空気が薄く気温が低い上空にあっても、機内を『人が過ごしやすい気圧・温度』に保つことができる。 しかし、起こる確率は低いが、例えば『窓ガラスが割れた』場合などは、密閉空間ではなくなってしまう。
 
 
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 この時、空気は『密度の高い方から密度の低い方へ』、つまり『気圧が高い方から低い方へ』流れるため、内部の空気は外へと漏れ出していく。 すると機内は空気の密度が低い状態、すなわち、気圧が低下した状態になるのだ。 さらに空気には、気圧が低くなると、温度が下がるという性質もある。 そのため機内では温度も低下。 これにより空気中に含まれていた水蒸気が凝固し、霧が発生した。 機長は、霧の発生を見て、旅客機のどこからか空気が漏れ出していると推測したのだ。
 その後、機内の空気が外部へと逃げ続け、霧となった水分が拡散されたため、わずか数秒で霧は消えた。 だが、気圧が下がったことで、酸素マスクが自動的に落下。 酸素マスクの落下で不安に包まれた機内に、アラスカ上空5800メートルの外気が流入。 機内の温度はさらに下がり、氷点下に達した。
 
 
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 さらに!なぜか操縦桿が全く動かなくなり、旅客機はコントロール不能に! 客室から戻った機関士・ジェラードはプロペラが外れたことを機長たちに報告。 外れたプロペラが機体に穴を開けた可能性が高いと考えられた。
 現状 動いているプロペラは3基。 左の翼の第1、第2エンジンのプロペラ。 そして、右の翼の第3エンジンのプロペラ、当然2基のプロペラが稼働している側の方が推進力がある。 そのため、左右の揚力のバランスが崩れ、機体は右に10度傾きながら旋回していた。 真っすぐに立て直すためには、第1か第2エンジンのプロペラを止めればいいようにも思える。 だが、この段階では、なぜプロペラが外れただけで、様々な問題が発生したのか分からず、原因が判明するまでは止める判断をしない事に。
 
 
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 一方、客室では…酸素マスクのつけ方が分からず、乗客たちがイラついていた。 その時、キャビンアテンダントが目にしたのは…恐ろしい光景だった。
 この時、第4エンジンはプロペラが外れただけで、モーター自体は動いていた。 しかし、何らかのトラブルが発生しているエンジンをこのまま稼働させ続ければ、火災が起きる可能性があった。 飛行機には、各エンジンの出力を完全にオフにするスイッチが存在する。 たとえ、ひとつのエンジンを完全に停止させても、飛行することに問題はなかったため、機長は第4エンジンを緊急停止。
 
 
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 乗客の生命線となっている酸素マスク。 マスクには機内に積み込まれたボンベから酸素が送られているのだが、実は、この酸素量には限界があった。 一般的にボンベの量は、そのフライトが到達する最高高度から酸素マスクがなくても呼吸ができる高度3000メートルに降りるまでにかかる時間分×乗客乗員の人数。 予備として、その2%をそこに足した量と決められている。
 この基準に基づいて搭載されたリーブ8便のボンベ量では、およそ7分しか酸素を供給できなかったのだ。 この時、リーブ8便は高度5800メートルを飛行していたため、酸素マスクが必要なくなる3000メートルまで、あと2800メートル高度を下げなければならなかった。 通常、7分あれば十分3000メートルまで下げることは可能だったのだが…コンクリートに刺さったかのように操縦桿はピクリとも動かなかった。
 
 
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 高度を下げるために機長が真っ先に考えた手段、それは…自動操縦に切り替えることだった。 飛行機には操縦桿を手で操作して動きをコントロールする手動操縦方法と、スイッチやダイヤルを操作して飛行機の動きをコントロールする自動操縦方法の2つがある。 手動の場合、操縦桿を左右に動かすことで、左右の翼の補助翼が動き、進む方角をコントロールする。 また操縦桿を前後に動かす事で、最後部にある水平尾翼が動き、高度をコントロールする。
 一方、リーブ8便に搭載されていた自動操縦は、ターンノブと呼ばれるつまみを回すことで、補助翼に信号が送られ、高度を調整できる。 手動操縦と自動操縦をコントロールするためのケーブルは機体の同じ場所に配置されているが、関連性は全くなかった。 つまり、手動操縦のケーブルが何らかのトラブルで故障したため、操縦桿が動かなくなっていたとしても、自動操縦のケーブルが無事であれば、問題なく作動するはずだった。
 
 
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 手動では埒があきそうにない、ジェームズ機長は自動操縦に切り替えることに。 まず試みたのは、補助翼による角度の調整。 すると…機体は水平に戻った。 そして、高度を下げるために調整、順調に高度を下げている、その時だった! キャビンアテンダントのウェンディがコックピットに報告にやってきた。
 あの時、彼女が目にしたもの、それは…客室の床に開いた50cmほどの穴だった! そのことを機長に報告しに来たのだ。 しかし、機長はひとまず、酸素マスクが必要なくなる高さまで、そのまま高度を下げることに専念することにした。
 高度が下がったことにより、酸素マスクは必要なくなり、機内の温度も上昇した。 しかし、リーブ8便が生還するためには、大きな問題が残っていた。
 
 
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 自動操縦のダイヤル操作によって、方角や高度はコントロールできた。 だが、着陸のために必要な、きめ細やかな操作はやはり操縦桿でなければ難しかった。 つまり、手動操縦の機能が回復しない限り、着陸はほぼ不可能だったのだ。
 機長たちは、これまでの異常事態の原因を次のように推測した。 高度5800メートルの地点で、プロペラが機体の下部に激突し、穴を開けた。 機内の空気は床材によって上は客室、下は貨物室に区切られている。 普段なら密閉された機内で2つの空間の気圧は均等に保たれている。 言い換えると、床材を空気が同じ力で押し合っている状態だ。
 
 
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 しかし、機体の下部に穴が開いた事によって、空気が外に逃げ、下の空間の気圧は低くなった。 つまり、上の客室とのあいだに気圧の差が生じてしまったのだ。 これにより、空気が床材を押す力は、上の方が強く、下の方が弱くなった。 床材は上空で、気圧の差に耐えられるように作られたボディとは違い、急激な気圧の変化に耐えられる強度ではない。 そのため、上の空間の空気が床材を強い力で押し、客室の床がくぼんでいった。 結果、床に大きな穴が開いたのではないか。
 
 
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 また、50cmほどの穴が開いたことにより、機内の気圧は急激に下がり、突如として濃霧が発生した。 空気が漏れ出した直後は、外からの吸引力も働く。 幸い穴の近くには誰もいなかったが、もしこの時 誰かが近くにいたら、外に吸い出される可能性もあった。
 機長らはこの床材のくぼみこそが、リーブ8便を制御不能にしてしまった原因だと考えた。 実は床材の下には、飛行機をコントロールするための様々なケーブルが通っている。 しかし、床材がくぼんだことで、それらのケーブルは押しつぶされ、圧迫された状態に。 操縦桿と補助翼、水平尾翼はケーブルで繋がっているため、それらが圧迫されたことで、操縦桿は固定されたたままピクリとも動かなくなったのではないか?
 
 
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 その直後!さらなる追い打ちをかける緊急事態が! スロットルレバーも制御不能になってしまったのだ! スロットルレバーとは、エンジンの出力を調整するもの。 出力を上げてスピードを出したり、出力を下げてスピードを落としたりする。 スロットルレバーのケーブルは、機体の下部に張られていた。 よって、プロペラの衝突により、ケーブルが切断されたと考えられた。
 スロットルレバーケーブルが切断された場合、その段階から出力を変えられないシステムになっていた。 したがって、切断された瞬間にだしていた時速370キロから減速できなくなっていたのだ!
 
 
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 通常、着陸は時速およそ240キロで行う。 着陸は、飛行操縦の中でもっとも繊細な動きが要求されるため、自動操縦でなおかつ通常より130キロも速い状況で行えば、大惨事につながる可能性があった。 また、緊急着陸方法として、エンジンを全て停止し、グライダー状態にする選択もあるが、その状態で着陸することは相当な危険を要するものであった。 ジェームズ機長は緊急事態宣言を出した。
 第4エンジンのプロペラが外れてから、緊急事態宣言まで時間にしてわずか5分… 制御不能な機体、穴の開いた客室、様々な異常事態に陥ったリーブ8便。 果たして、生還できるのか!?
 
 
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 後に行われた事故調査の報告書によると、プロペラが外れた原因は2つあった。 1つは、取り付け部分の金属疲労。 もう1つは、プロペラを回すために必要なギアボックスという装置が何らかの原因で破損したこと。 その影響でプロペラが外れてしまったという。 いずれにしろ、事前の整備不足が原因だった。 さらにその後の調査で機体にあいた穴、動かなくなった操縦桿、操作不能になったスロットルレバー等、機体に起きた様々な不具合の原因は、機長の推測通りだったことが判明した。
 
 
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 リーブ8便が戻っていたコールドベイ空港の滑走路は、およそ1800メートル。 減速しない限り、とび出てしまう距離だった。 運輸局員からは、リーブ・アリューシャン社のオペレーションセンターがある、アンカレッジ国際空港に向かうように指示がだされた。 アンカレッジ国際空港では不測の事態に備え、様々な準備が始まっていた。
 そして、プロペラ落下から約3時間半後の18時30分、リーブ8便はアンカレッジ国際空港の上空に到着。 万が一、着陸時に出火しても最小限に食い止められるよう、旋回しながら燃料を減らし、なんとか手動による操縦を取り戻すことができないか試行錯誤していた。
 
 
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 オペレーションセンターに現れたのは、飛行機のことを知り尽くした航空エンジニアだった。 彼の名はジョン・ミントン。 まず彼は、自動操縦を切ることを指示した。 操縦桿は動くがコントロールができないなら、ケーブルは切れている可能性が高い。 しかし、操縦桿が動かないのであれば、切断されているのではなく、ケーブルが圧迫されているだけ。 つまり、操縦桿を力一杯押し続ければ、少しずつだが、ケーブルが床材を押し上げ、隙間が生まれることで徐々に動くようになる可能性があった。
 しかし、今、自動操縦は効いているが、切った後にまた戻せるのか? 機体の状況を把握しきれていない現状では、100%の確証などなかった。
 
 
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 だが、生還するためには、やるしかなかった。 自動操縦を切り、ジェームズ機長とゲーリー副操縦士、2人で操縦桿を動かそうと試みた。 実は、機長と副操縦士の前にある操縦桿は連携していた。 つまり、2人で力を合わせ同時に操縦桿を動かせば、2人分の力が伝わるようになっていた。 そして…!わずかだが動いたのだ!
 機長たちは旋回をしながら、何度も操縦桿を前後に動かし続けた。 すると、ケーブルと床材の隙間は徐々に広がり、力はいるが自動操縦よりは繊細な操縦ができるほどに回復した。
 
 
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 しかし、リーブ8便にはまだ大きな問題が残っていた。 速度を落とさなくていけなかったのだ。 そのためには、エンジンを止める必要があった。 どのエンジンを切るのか…それは慎重に選ばなくてはならなかった。
 実は、4基のエンジンには、スピードの調整以外に発電機を動かすなど、それぞれに別の役割がある。 バランスを考えれば、第1エンジンを切ることが適切だが、車輪を起動させるなどの油圧系統の発電機を動かしていたため、着陸時のことを考えると、切るわけにはいかなかった。
 そこで、ジョンは少しでもスピードを弱めるため、第2エンジンの停止を指示。 しかし、残る2基のエンジンの出力はそのまま、多少スピードが落ちたとはいえ、時速287キロは、着陸できるスピードではなかった。
 
 
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 コールドベイ空港を離陸して、およそ6時間、スピードは287キロのまま、操縦桿は動かせるが、通常より力が必要な状態だった。 計り知れないプレッシャーの中、ジェームズ機長は着陸を試みる!
 プロペラ機は着陸の際、プロペラの角度を進行方向に平たい面が向くように変える。これにより推進力が落ちると同時に空気抵抗が増大し、減速するのだ。 しかし、この操作を行うのもスロットルレバー。 ケーブルが切断された状態のリーブ8便では、不可能な操作だった。
 
 
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 そこで機長は、ギリギリまで2基のエンジンを稼働し、着陸に入ると同時に停止。 推進力を一気に失くすことで、オーバーランを回避しようと考えた。 しかし、エンジンをオフにすると、油圧系統の電源も切れてしまうため、タイヤのブレーキが効かなくなってしまう。
 ジェームズ機長は、エンジンを切った後、緊急用のブレーキで機体を止めようと考えていた。 緊急用のブレーキは車でいう、サイドブレーキのようなもの。 油圧式ブレーキよりも性能は弱かったが、エンジンを稼働し続け、推進力が弱まらない状態よりは、止まる可能性が高いと機長は判断したのだ。
 
 
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 そして、いよいよ運命の瞬間がやってくる。 空港には救急車や消防車をはじめ、多くのマスコミも詰めかけていた。 危機的状況の中、着陸を試みるリーブ8便。
 その一部始終をカメラが捉えていた。 20時13分。通常より47キロ速い287キロで滑走路に進入。 しかし、滑走路の着陸範囲に上手く合わせられず、断念。
 20時27分。14分後、2度目のトライ。 今回はスピードを抑えるため、滑走路への進入角度を変えた。 これにより17キロ減速でき、270キロで進入できた。
 緊急ブレーキは後輪にのみかかるため、摩擦により出火。 20時33分。タイヤが擦れた事でバランスが崩れ、滑走路からはみ出し、停止。
 
 
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 当時の映像には、着陸後の機体の姿も。 そこには、プロペラが外れた第4エンジン、そして機体にあいた大きな穴も鮮明に映し出されていた。 危機的状況だったにも関わらず、1人の死傷者も出すことなく、着陸に成功したリーブ8便。 地上に降り立った3人のクルーの姿もカメラには収められていた。
 そして数ヶ月後、機長らは、その勇気ある行動を称えられ、当時の大統領、ロナルド・レーガンから表彰を受けた。 6時間にも及ぶ試練のフライトから生還したリーブ8便。 それは上空と地上のクルーの勇気と連携が生んだ大逆転の軌跡だった。