2月4日 オンエア
戦慄!謎の病発生★始まった恐怖の連鎖
 
 
photo  1993年5月14日。 異変はアメリカ・ニューメキシコ州のとある病院から始まった。 その日の朝、急死した男性が運ばれてきた。 原因不明の死の調査などを行う、医療調査局の職員が病院に駆けつけた。
 死亡した男性の名前はマイケル。 学生時代に出会った、2歳年上のロジーナという女性と結婚したばかりだった。
 
 
photo  職員が遺族から、亡くなった時の状況を聞くと… マイケルは2日ほど前から、頭痛と発熱を訴えていたという。 そして、この日の朝、妻の父親が運転する車に乗っていた時のこと… マイケルの病状が突然悪化、呼吸困難に陥り、そのまま命を落としていた。
 さらに、マイケルの妻のロジーナも10日ほど前から発熱と身体のだるさに襲われていたという。 そして…彼女もまた、突然呼吸困難に陥り、命を落としていたのだ!
 
 
photo  突然、2人の命を奪った謎の病。 しかし恐怖はこれで終わりではなかった。 実は…この1ヶ月前にも、30歳の女性が風邪のような初期症状のあと、呼吸困難で急死していたのだ。
 この女性の肺のX線の写真は…白い影に侵されていた。 そして、マイケルの肺のX線写真もまた、この女性と同じように肺が真っ白になっていたのだ! さらに、もう一つ共通していることがあった。 死亡した3人は全員、ナバホ族だったのだ!
 
 
photo  ナバホ族はアメリカ先住民最大の民族で、主にニューメキシコ、アリゾナなど、4つの州にまたがる広大な居留地で暮らしている。 人口はおよそ30万人。 ナバホ族の暮らしぶりは、普通のアメリカ人と変わらないが、アメリカ政府から自治国として認められ、独自の法律などを持っていた。
 わずか1ヶ月の間に、ナバホ族の3人の男女が同じ症状で急死している。 解剖を担当したマクフィリー医師は、危険な伝染病の可能性があるのではないかと疑った。
 
 
photo  3人に共通していた白い影… 実は、いずれの遺体も肺の中が水で満たされていたのだ! それがレントゲン写真に映し出された白い影の正体だった!
 彼らはその水によって溺れ、命を落としていたのだ。 肺の組織や、中の水を調べてはみたが…原因と思われる細菌やウィルスはわからなかった。
 そんな中…ナバホ族の居留地で、同じような症状で亡くなった人が他に3人いることが分かった。 亡くなった6人は、みなナバホ族の居留地に住んでいた。 しかし、ひと月前に亡くなった女性と、マイケルたちが住んでいた場所は160キロも離れていた。 また他の3人も…居留地内ではあったものの、みな遠く離れた場所に住んでいたのだ。 感染経路に見当はつかない…謎の病の正体は一体何なのか?
 
 
photo  彼らは念のため、世界最高峰の感染症研究機関であるアメリカ疾病予防管理センター、通称CDCに連絡。 遺体の肺の組織を送るとともに、協力を仰いだ。 だが、原因の特定が難航する中…新たな患者がでたのだ。 それは謎の病で急死したロジーナの兄だった!
 妹の葬儀のあと、インフルエンザのような症状が現れ、念のため肺のX線写真をとったところ…白い影が現れていた! さらに間もなく…彼の妻も体調を崩した。 X線写真に映し出された彼女の肺も、やはり白い影に侵され始めていた。
 マイケルの突然の死からおよそ2週間。 謎の病の感染者は他にも出現、25人に増え、死者は11人に上っていた。 一刻も早く原因をつきとめ、対策を講じる必要があった。
 
 
photo  恐れていた瞬間がやってきた。 新聞が謎の病をかぎつけ、大々的に報じたのである。 マスコミは、謎の病を『ナバホ・インフルエンザ』と名付け、センセーショナルに取り上げた。 病名の由来は患者のほとんどがナバホ族の人たちで、初期症状がインフルエンザに似ていたためだった。
 居留地の病院は不安に怯えたナバホ族の人たちで一杯になった。 付近に住む住民たちもちょっと体調を崩しただけで、得体の知れない恐怖に襲われることになった。
 
 
 さらにそんな中…いまだ謎の病の原因が分からずにいたため、自称霊能者やオカルト的な人間がこぞって自説を主張。 ナバホ族の感染病は細菌兵器による人体実験、ロシアがUFOから居留地に病原菌をばらまいた…などという、荒唐無稽な噂が飛び交った。
photo  さらに、ナバホ族の祈祷師・メディスンマンたちまでも、「今回の病気は天候の変化が原因だ」と言い出したのだ。 ナバホ族には、メディスンマンと呼ばれる祈祷師がいる。 メディスンマンたちは、古来より代々受け継いだ部族の知恵を生かし、病を取り除くために薬草を処方したり、儀式を行ったりしていた。
「暖冬のあとは、多くの人が死ぬ」というのが、メディスンマンたちの言い伝えだった。
 
 
photo  医療調査局の職員たちは原因究明に全力をあげていたが…事態はさらに悪化していく。 調査機関が病の原因をつきとめられないことに業を煮やし、居留地の知事が、メディスンマンに頼ると明言したのである! そして集められた彼らは4日間にわたり、祈りの儀式を行った。
 マイケルの突然の死から3週間。 医療調査局と並行して原因究明にあたっていたCDCの本部から、思いがけない報告が届いた。 亡くなった患者の肺の組織から検出されたウイルスが、CDCに保管されていたハンタウィルスとよく似ているというのだ。
 
 
photo  ハンタウィルスは、今から65年ほど前、朝鮮戦争に参加した国連軍の兵士3000人以上が現地で感染し、苦しめられたウィルスだった。 当時、およそ400人の命を奪ったことから、アメリカの医学関係者が今後の研究のためにとCDCにサンプルを残していたのだ。
 ハンタウイルスの感染源は、朝鮮半島の川の流域に生息する、ネズミだった。 その川が漢灘江(ハンタンガン)という名前だったことから、こう名づけられた。 感染の原因は、ウイルスを持つネズミの糞や尿。 それら排泄物が乾燥、飛散したものを人が吸い込むことによって感染する。
 ネズミ同士でも、同じようにして感染するが、人間のように発病することはない。 また人から人へと感染することはなかった。
 
 
photo  しかし不可解な事実があった。 これまでにヨーロッパやロシアなどユーラシア大陸では、ハンタウイルスの感染者が出たことがあった。 しかし…アメリカ大陸では、感染者はもちろんウイルスの存在も確認されたことはなかったのだ。 さらに、ハンタウイルスに感染した場合、腎臓が侵される。 だが、今回症状が現れているのは肺…腎臓ではない。
 だが…驚くべきことに、メディスンマンたちがこんな警告をしていた。
「ネズミが触れた服には気をつけろ」
 
 
photo  しかし本当に、メディスンマンの警告通りネズミが原因なのか? CDCとニューメキシコ州の保健当局は、ネズミを捕獲するワナを、謎の病で亡くなった人たちが住んでいた家の周辺に仕掛けた。 その結果、主に捕獲されたのは、居留地のネズミの大半を占める、シカネズミという小型のネズミだった。
 そして…捕獲したシカネズミから、亡くなった患者たちと同じウィルスが発見されたのだ! シカネズミが謎の病の感染源だったのだ。 また、このウィルスを保有するシカネズミは、数万年前からアメリカ大陸に存在していた可能性が高いことも明らかとなった。
 家の中に入り込んだシカネズミは、あちこちに糞や尿をまき散らす一方、それを身体にも付着させている。 ということは…シカネズミと接触した服にも、ウィルスの含まれている糞や尿が付着しているリスクがあるのだ! ナバホ族のメディスンマンの言い伝えは、正しかったのだ。
 
 
 しかしなぜ、今になって、突然感染する人が現れたのか? 実は…この年の春、シカネズミの数が例年よりかなり多かったことが判明。 その数、約30倍! シカネズミは1回に5〜6匹の子供を産み、またその子供たちはわずか5週間で生殖を始めるという。 本来なら自然に淘汰されるはずが、この春は餌が豊富だったため、爆発的にその数を増やしたのだ。
photo  メディスンマンたちの言い伝えに「暖冬のあとは、多くの人が死ぬ」というものがある。 実は、ニューメキシコ州は…この時、2年続いて暖冬に見舞われていた。 これによりシカネズミの餌になる松の実が豊作だっただけでなく、好物のバッタなどの昆虫も大量発生していたのだ!
 増えたシカネズミたちは、自然とともに暮らす、そんな昔ながらのライフスタイルを持つナバホ族の家にまで入り込み… 結果として、彼らがウィルスに感染する確率が高まったのだ。
 
 
photo  実際その後の調査で、この時の感染拡大以前にも、シカネズミからウィルスに感染したナバホ族の人たちが存在したことが判明した。 しかしそれは、居留地という特殊な地域でのことで、患者も散発的で非常に少なかったため、レアケースとして原因不明のまま、見過ごされてきた。 メディスンマンたちは、このウイルスのことは知らなかったが、謎の病をもたらしたのは、暖冬によって増えたネズミであることを見抜いていたのだ。
 その後、メディスンマンや保険当局の注意喚起によって感染者は減り… 餌を食べ尽くしたネズミも急激にその個体数を減らし、事態は終息にむかっていった。
 この時の犠牲者は、発端となったマイケルを始め全部で27人。 彼の義理の兄とその妻など、生き残った者もいたが…感染者48人のうち、半数以上が命を落とした。 その後も、アメリカではナバホ族の居留地だけでなく、様々な地域で感染が確認され、一昨年までの死者・感染者の数は合計600人以上に上る。
 
 
photo  ところで、ナバホ族を襲ったウイルスとは異なるが、ハンタウイルスは日本でも犠牲者を出している。 1960年代、大阪でドブネズミから感染、2人が亡くなった。 ここ30年以上、生活環境が改善したため、感染者は出てはいないが…13年前ハンタウイルスに感染したネズミが港で発見されているのもまた事実だ。 ワクチンはいまだ開発されておらず、ネズミとの接触をさけることが唯一の予防法である。 メディスンマンの警告は今もなお、生き続けている。