6月25日 オンエア
暴走列車が町に激突!爆破テロ?★時速100kmで脱線の謎
 
 
photo  カナダ東部に位置するケベック州、ラック・メガンティック市。
人口およそ6000人の田舎町がある惨劇の舞台となった。
 それは、今から2年前の7月…大爆発が真夜中の住宅街を襲った。 原因は、原油を積んだ貨物列車の脱線だった。 のどかな田舎町は一瞬で火の海に。 死者47名という前代未聞の大惨事となった。
 
 列車事故で記憶に新しいのが、先月、アメリカのフィラデルフィア近郊であった脱線事故。 ワシントン発、ニューヨーク行きの長距離列車が脱線後横転し、8人が死亡、負傷者は200人を越えた。 原因はスピードの出し過ぎ。 制限速度、時速80キロのカーブに倍以上の時速170キロで進入していたことが判明した。
 
photo  カナダの事故も、制限速度 時速25キロのカーブに時速101キロで進入し脱線していることから、同様に運転士のスピードの出し過ぎが原因かと思われた。 しかし 調査の結果、ブレーキをかけた形跡は一切なかった。 一体どういうことなのか?
 捜査にあたった警察は犯罪の可能性もあると発表。 カナダ史上最悪の被害を出した列車脱線事故、大惨事の裏に隠された真相とは? 事故から2年…驚愕の事実が浮き彫りになる。
 
 
photo  脱線を起こしたのは、1週間前にアメリカ・ノースダコタ州を出発し、10日間かけてカナダ東端にある製油所に向かっていた72両の貨物列車。 鉄道会社MMAが運行する全長1.4キロ、総重量1万トンもの巨大列車だった。 タンカーに積まれた原油の量は、770万リットル…一般的な小中学校にある25メートルプール14杯分にも相当する原油が、寝静まったラック・メガンティックの町に襲いかかったのだ。
 
 
photo  調査を担当したのは、航空事故や鉄道事故の原因究明を担う国家機関、カナダ運輸安全委員会、通称TSB。 調査官たちはまず業務の全てを統括する、鉄道運行マネージャーのジョンから話しを聞くことにした。 すると…事故が起きた時間は、本来なら列車はラック・メガンティックより12キロ手前のナントにある 停車場に置かれていたはずだという。 停車場とは、列車を一時的に停めておく場所のこと。 ナントにある停車場は丘の上にあり、列車が停まるための待避線と呼ばれる線路が1本だけ敷かれていた。
 
 実は、事故を起こした列車は 10日間かけて運行するため、ところどころで列車をとめ、運転士が交代していたという。 さらに…あの日、列車は夜11時に停車し、翌朝 新しい運転士が来ることになっていた。
 事故が起きた時間、貨物列車に運転士は乗っていなかったのだ。 原因は運転士のスピードの出し過ぎではなかったのだ。 しかも、列車の乗務員は運転士1人だけだったという。
 
photo  そこで調査員の2人は、停車場まで運転していた運転士、トーマス・ハーディングを聴取。 トーマス・ハーディングは30年以上運転士を勤め、今回の路線も過去に100回以上運転したとこのあるベテラン運転士だった。
 事故があった日の午後10時50分、列車は運転士の交代のためナントに到着した。 報告を受けたのは、160キロ離れた町にある運行司令室だった。 運行司令室とは、列車の運行が正しく行なわれているか監視する部署である。
 
 
photo  乗務員の交代などで 貨物列車が長時間停車する場合、安全のため2種類のブレーキをかける。 1つは、運転席で捜査する単独ブレーキ、この列車では5両の機関車で作動。 エンジンの力で空気を送り、車輪にブレーキシューという部品を押し当て止めるもの。
 もう一つは、各車両についているハンドブレーキ。 車輪にブレーキシューを押し当てるのは、単独ブレーキと同じだが、1両ずつ人の手で締め上げる必要がある。
 トーマスの証言によると、単独ブレーキを作動させたあと、いつもと同じように、1両目から7両目までハンドブレーキをかけ、車体がとまっていることを確認。 そして午後11時30分、翌朝に交代の運転士が来ることになっていたため、ホテルに向かったという。
 
 
photo  列車はなぜ暴走したのか? 運転士と無線で交信した 運行指令員のリチャードにも話しを聞いた。 事故のあった日は、待避線に別の列車がとまっていたため、トーマスの列車を空いている本線に誘導したという。 過去に何度も同じように本線にとめていたので問題はないという。
 マネージャー、運転士、運行指令員、列車に関わった彼らの行動になんら問題はなかった。 しかし、確かに列車は暴走したのだ。 果たして、闇に隠れた事故の真相とは? このあと、調査は思いもよらぬ方向に突き進んでいくこととなる。
 
 
photo  カナダ史上最悪の被害をもたらした脱線事故。 当初、運転士のスピードの出し過ぎが原因かと思われたが、事故の直前、列車に運転士は乗っておらず、さらに停車場でブレーキをかけてとめられていたことが判明。 果たして、無人の列車が暴走した原因とは…? 運輸安全委員会の調査は難航した。
 列車がとめられていた場所は、人通りも少なく、特に夜になるとほとんど人は通らないという。 そして、列車の運転室の鍵は普段からかけていなかったという。 何者かが運転室に進入し、意図的に暴走させたテロの可能性もある。
 
 
photo  するとその時! 調査員が線路に白い粉を発見した。 その粉を調べてみると、それは消化剤だった。
 実は事故の夜、貨物列車でボヤ騒ぎがあったのだ! しかし、小さいボヤだったため、鉄道会社もあまり問題視していなかったのだ。
 それは、事故のおよそ1時間半前。 運転士が停車場を離れたわずか10分後、機関車の排気口から炎が上がっているのを近所の住民が偶然発見。 午後11時55分、住民からの通報を受け、消防隊が到着。 幸い、ボヤはすぐに消し止められたという。
 
 
photo  消火にあたった消防士によると、小さいボヤだったため彼らもすぐに引き上げたという。 しかしその前に、ボヤが鎮火されたあと、確認のために派遣された鉄道会社の職員と合流していたという。
 念のため、調査員2人はその職員からも話しを聞くことにした。 再度 出火の危険性もないことから、翌日に詳しく検査することにして、彼もその場を立ち去ったという。 そして…火災発生から約1時間後の午前0時45分には、列車は再び無人になったのだ。
 ボヤが鎮火されたあと、列車はしばらくの間、問題なく停車していた。 列車は午前0時45分に無人になり、午前1時15分に脱線… 脱線するまでの30分の間に一体何があったのか?
 
 
photo  そんなある日、調査員は子供がもっている空気の抜けた風船を見てあることをひらめいた! 翌日、2人は再び聴取を行なうため、運転士のトーマスを停車場に呼び出した。 実は、平坦だと思われていたナントの停車場にはわずかな勾配があったのだ! トーマスがとめたナントの停車場の勾配率は、平均およそ0.9%。 つまり、100メートルで90センチほど下がっていたのだ。
 事故の夜、トーマスがかけたハンドブレーキは7両。 だが、勾配があるところに総重量1万トンの列車をとめるには、最低でも26両にハンドブレーキをかける必要がある。
 だが、これまで列車は動いたとこはなく、事故があった夜も確かにとまっていた。 しかし それこそが、鉄道会社全員が犯したミスだったのだ!
 
 すぐさま、マネージャーのジョン、指令員のリチャードも集められ、事故の原因は重大なヒューマンエラーであることが伝えられた。
ー ヒューマンエラー① 列車誘導の落とし穴 ー
 
photo  それは、脱線から遡ることおよそ2時間半。 この時、すでに待避線には他の貨物列車がとまっていた。 そこでトーマスが運転する電車は、進行中の本線にとまるしかなかった。 そう、ラック・メガンティックの町に一直線に続く線路の上に…
 彼らの会社には、原油など危険なものを積んだ列車は待避線に誘導しなければならないという規定があった。 だが、過去に事故が起こっていないことから、他の列車がいた場合には本線にとめることが当たり前になっていたのだ。
 
 
photo ー ヒューマンエラー② ブレーキの誤解 ー
 のちの運輸安全委員会の調査では、勾配があるナント停車場にとめる場合、26両にハンドブレーキをかける必要があることが判明した。 だが、運転士のトーマスも、マネージャーのジョンも、停車場に勾配があることを知らなかったという。 体で感じることも困難な勾配であったため、トーマスは平地と思いこんでおり、いつもの通り、単独ブレーキと7つのハンドブレーキで充分だと思い込んでいたのだ。
 さらにトーマスは、列車の操作マニュアルさえ読んでいなかった。 そこには、車両数に対し 原則として必要なブレーキの数が書かれていたのだが、その数は7両よりも多かった。 もし読んでいたら、結果は変わっていたかもしれない。
 
 
photo ー ヒューマンエラー③ 安全教育の不備 ー
 本来、安全教育を徹底させるべきマネージャーのジョンが、これまで事故が起こっていないことに慢心し、全てを運転士任せにしていたのだ。 だが、いつもはとまっていた列車がなぜ動き出したのだろうか? トーマスがシフトの交代のため、停車場を離れた10分後…機関車の煙突部分から出火。 実はこのボヤにも重大なヒューマンエラーが関わっていた。
 
 
photo ー ヒューマンエラー④ エンジン修理の先延ばし ー
 ボヤは排気口に溜まったオイルが発火したものだったが、そのオイルはエンジンから漏れ出たものだった。 それは、トーマスの列車が停車場に置かれた直後、トーマスはエンジンの調子が悪いことをリチャードに報告していた。 さらに、排気口から煙も出ていることも気づいていた。 だが、煙は自然に収まるだろうと、重要視していなかったのだ。 そう、エンジンの調子が悪いことを2人が認識していたにも関わらず、確認を翌日に先延ばしにしていたのだ。
 
 
photo ー ヒューマンエラー⑤ エンジン修理への焦り ー
 実は問題の機関車は8か月前に 一度修理されていたのだが…鉄道会社が修理を急がせたことで作業員が焦り、結果的に不完全な修理となってしまったのだ! その結果、8か月後のこの日、不完全な修理が行なわれたエンジン部分が故障、オイル漏れを起こしたのだ。 しかし、このボヤと脱線事故と何の関係があるのだろうか?
 
 
photo  それは、住民からの通報を受け、消防士が現場に駆けつけた直後… エンジンに引火しないように、消防士によってそのエンジンが切られていたのだ!
 この貨物列車は、機関車5両の単独ブレーキと、機関車とタンカーにかけられた7両のハンドブレーキでとまっていた。 そのうち、運転席で操作する単独ブレーキは、エンジンから送られる空気で車輪に圧力を加えるもの。 だが、ボヤの際に消防士がエンジンを停止。 空気が提供されなくなった結果、車輪にかかっていたブレーキの力が弱まっていったのだ。 そう、子供のしぼんだ風船を見て調査員が気づいたのは、この空気圧の減少だった。
 
 そして 鎮火のあと、かけつけた鉄道社員のジーンに対し、消防士はエンジンをとめたことを報告。 だが…ここにも大きなヒューマンエラーが隠されていた。
 
photo ー ヒューマンエラー⑥ 火災現場への派遣ミス ー
 その夜、ボヤの報告を受けた運行指令員リチャードは、現場に一番近いジーンを派遣した。 元々現場には、知識のある整備士が呼ばれるはずだった。 だがこの日、たまたま休暇中で連絡がとれなかったため、リチャードは急遽、近くに住む線路作業員・ジーンを呼び出したのだ。
 しかし、線路作業員の仕事は、主に線路のメンテナンス。 車両に関する知識はなかった。 彼は、エンジンを再起動させなければならないことを全く知らなかったのだ。
 
 
photo  その結果、空気の供給がとまり、次第に単独ブレーキの力が弱まって行くことに。 本来、26両にかけなければならないハンドブレーキは、7両にしかかけられていない。 停車場にはゆるやかな勾配がある。
 そのため…午前0時58分、2種類のブレーキが車体を抑えきれなくなった次の瞬間。 とうとう、770万リットルの原油を積んだ貨物列車は、町に向けて坂をゆっくりと下り始めた。
 もしこの時、列車を待避線にとめていれば、万が一動き出しても、切り替え部分で乗り上げるだけ。 町まで暴走することはなかったのだ。
 
 
photo  町は深夜1時過ぎ。 町まで残り10キロ、坂を下りながら無人の貨物列車は徐々に加速。 町までの12キロの区間に司令室に繋がる信号や列車を感知する装置は1つもなかった。 そのため、指令員も誰1人気がつかなかったのだ。
 途中にカーブがあったものの、制限速度ギリギリで通過。 列車は、町に繋がる最後の直線にさしかかる。
 
 
photo  そして…時速101キロを越えた瞬間。 曲がりきれずに貨物列車は次々と脱線。 漏れだした原油に引火し、大爆発を引き起こした。
 これが、空白の30分間の正体だったのだ。 死者47名。 脱線現場から半径1キロ区域が非難区域となり、町の人口3分の1にあたる2000名に退避命令が出るという前代未聞の鉄道事故となった。
 
 
photo  流れ出た原油は10万リットルにも達し、近くのメガンティック湖にも流出。 生態系にも大きな影響を与えた。 そして、事故発生から実に13時間後、炎はようやく鎮火された。
 
 
photo  発生からおよそ1か月後、カナダ運輸安全委員会は調査結果をこう発表した。
「今回の事故は1人による過失だけが原因ではありません。様々な原因や要因が積み重なって起こったのです。それらの一つでもきちんと対処していれば 事故は引き起こされなかったかもしれません」
 もしあの時…指令員のリチャードが適切な線路に列車を誘導していれば。 もしも、リチャードや運転士のトーマスがエンジンの不調を先延ばしにせず、すぐり修理を呼んでいれば… もしも、トーマスが正しいハンドブレーキの数を把握していれば… そして、マネージャーのジョンがそれを確実に指導していれば、47名もの尊い命は奪われなかったかもしれない。
 
 
photo  事故から1か月後、膨大な賠償金を請求された鉄道会社MMAは、裁判所に破産法の適用を申請し、事実上破綻。 そして、今回の事故に関わった、マネージャーのジョン、運転士のトーマス、運行指令員のリチャードは、会社の旧経営者と共に過失致死罪に問われ、9月から始まる裁判を待っている。
 ほんの少しの油断と根拠のない自信。 そんな小さなヒューマンエラーと小さな偶然の積み重なり、それこそが時に、取り返しのつかない惨劇を生むことを忘れてはいけない。