
- 虎丸良平役のオファーを聞いたときのお気持ちからお願いします。
- 伝統ある月9からお話を頂けたというのが、まず驚きました。実は今まで月9とは縁がなくてね(笑)。僕が若い時は月9がメインストリームというイメージがありましたが、残念ながらこの枠には崖は出てきませんから(笑)。今回ついにご縁を頂けて渋い大人のラブストーリーみたいなものに挑戦できるのかな!と思いきや、世の中そんなに甘くないですね(笑)。今回はサスペンスということで、僕にはライフワーク、フィールドワークですが、月9があまりやってこなかったジャンルなので、どうなるのだろう、どんな新しい味を持ったサスペンスができるのだろう、と胸を躍らせています。スタッフ、キャストの皆さんと、僕自身も新しい地平を見る冒険の旅に出られるのではないかな、と思います。
- 月9とサスペンスドラマの現場の違いは?
- 現場での感触でいつもはだいたいこういう感じの仕上がりになるだろう、だいたいこういう完成形になるだろう、と見えるのですが…今回はどんなテイストのドラマになるのか全然見えないんですよね(笑)。これは怖くもあり、本当に楽しみでもあります。

- サスペンスドラマのやりがい、愛着について伺いたいのですが。
- 2時間ドラマに特化するとしたら、そこにはさまざまなドラマの要素が凝縮されているんです。犯人探しをするミステリーの王道、人間ドラマもしっかり描いているので、見るのも苦しい人の闇など犯人側にも胸をえぐるような事情もあります。また、ホームドラマの要素や作品によってはコメディーの要素も、当然ラブストーリーも絡んできたり。
サスペンスドラマというひとつのカテゴリー、ジャンルではあるのですが、全てのドラマの要素が凝縮されている、多角形の楽しみ方があるのが魅力です。さらに、2時間というのは、映画が一番心地よく見られる時間ということで割り出された時間だと思うので、2時間ドラマは一本の読み切りの、封切り映画みたいなものですよね。
- 今回の『トレース~科捜研の男~』にもそうした要素もありますね。
- もちろんです。色々な事件を3人で追いかけていくわけですから。そこには親子や家族、男女の切ない話があったりします。それらは『トレース~科捜研の男~』にしっかり盛り込まれていると思います。
- 定年間近の虎丸刑事というキャラクターに関する印象は?
- ついに、こういう役が来たか!と。いつかはやってみたい、と思っていたんです。僕も58で実年齢ですからね。きちんと会社務めをしていたら再来年ですよ!定年(笑)。ひとつの区切りだと思いますよね。大きな転機だったり岐路だったり。職業人としてひとりの男として人生の岐路が見えている…そこには人生の悲哀があり、それを背負った刑事役は初挑戦です。定年がぶらさがっている刑事像を演じたことはなかったです。
でも、想像に難いことではないですね。人間が積み重ねてきたものには、残念ながらタイムリミットがあるわけで、僕たちも俳優に定年はないにしても、ひとつの役柄を演じるということについては当然時間の限りが見えてくるわけです。僕もまさに虎丸を演じながら、現職の刑事を僕が演じる時間もそんなに長くはないのだろうというのを味わっているんです。虎丸は枯れた老刑事ではないし、まだギラギラしていたい。たたき上げで本庁まで来たが、これ以上の出世はないとわかっているんですよね。限られた時間で何が自分を突き動かすモチベーションなんだろう、と考えています。虎丸はある意味奇跡に近いような道を歩んできたはずなんですね。交番勤務から本庁まで到達したわけですから。

- 虎丸と船越さんと共通するところ、共感するところは?
- 虎丸は絶対に誰にも負けたくないと歯をくいしばって刑事人生を送っています。そこは僕の役者人生においても共通することだと思います。そうでないとね、なかなか40年近くもできる商売ではないですからね。
- 虎丸は昭和の刑事という印象です。今まで演じてきた役の集大成とも言えるのでは?
- おっしゃる通りですね。ある意味、虎丸というのは僕の集大成です。「ギラギラした熱血漢」というのが、自分の演じてきた役の共通点だと思います。非常に大きな熱量を持った刑事像、ヒーロー像をたくさんやらせていただきましたからね。今後自分の年齢を照らし合わせていくと、熱い刑事を演じる機会がそうないのかも。もしかしたら、今回の役が僕の最後のスタイルになる様な気もします。話しているとだんだん寂しくなるね!(笑)。
- 真野礼二役の錦戸 亮さんが「虎丸と真野の距離が近い!」と現場のエピソードを話してくれました。
- 昭和の人間って、熱くなると距離感を見失うんですよ(笑)。距離感を見失いがちなのを、虎丸の特徴にしようと最初から決めていまして。自分の集大成のひとつとして、距離感を見失った人間の大きな熱量を感じて頂ければと。

- 錦戸さんとは2回目の共演ですね?
- 映画(「県庁おもてなし課」2013年公開)のときの彼は、青春の残像が見える青い魅力にあふれていたんですよね。久しぶりに会ってみたら色気をまとう非常につややかな男になっていた印象ですね。ただ今作では、僕は彼のペースを乱そう!と思っています(笑)。真野(錦戸)は何か仕掛けるタイプではないので、僕の方から真野=錦戸 亮を揺さぶってみようというアプローチですね。
- 崖のシーンがあったら面白いのでは?
- まだ出てきませんね!(笑)。なかなか難しいかもね!