スピードに乗ったドリブルや、動き出しの速さでチャンスを作る
14日、なでしこジャパンはフランス女子W杯グループステージ第2戦のスコットランド戦に臨む。初戦でアルゼンチンとスコアレスドローに終わったため、もしこの試合で負ければグループステージ敗退も現実味を帯びる。
この重要な一戦でゴールが期待されるアタッカーの一人が、19歳の遠藤純だ。
167cmの恵まれた体格とスピードを生かした裏への抜け出しやドリブル突破に、左足の正確なキックを備える。
選出時は18歳で、チーム最年少だった。だが、そのプレーは日に日にたくましさを増しており、試合の流れを変える切り札として、確実に信頼を得つつある。
開幕戦で優勝候補のフランスが韓国を4-0で下した開幕戦を見た遠藤は、「このレベルが世界の基準なんだなと感じました」と、しみじみと話していた。
そして、初戦のアルゼンチン戦では74分に交代でピッチに立った。左サイドにボールが回ってくる回数が少なく、決定的なチャンスを作ることはできなかった。だが、この試合がW杯デビュー戦だった遠藤は、ポジティブな要素も見出していた。
「得点したり、得点に絡むプレーがしたかったです。ただ、少しでも試合に出たことによって(W杯で)戦える自信がつきました。攻撃の回数が少なかったので、それは(今後)増やしていきたいです」
その経験は、遠藤のステップアップを加速させるかもしれない。
4人兄弟の末っ子として福島県白河市で生まれた遠藤がサッカーを始めたのは3歳の時。父親が監督を務める「Vamos福島ホワイトリバーフットボールクラブ」でプレーした。
「小さい頃からネイマール選手に憧れていました」という遠藤は、小学生時代はドリブラーだった。卒業後は、全国から才能豊かなサッカー少女を選抜し、全寮制でサッカーの先端的な指導を受けられるJFAアカデミー福島に進学。アカデミーでも早くから逸材として期待されていた。そして、ドリブル少女はチャンスメイクもできるアタッカーへと変貌していく。
2013年と14年は2部、15年以降は3部に当たるチャレンジリーグで活躍した。
中学3年の時に飛び級でU-16代表に選ばれ、以後はU-17、U-19、U-20の年代でも、飛び級で選ばれ続けた。そして、昨夏フランスで行われたU-20女子W杯でブレイク。遠藤は、6試合中5試合にフル出場。ドイツやイングランド、スペインなどの強豪国相手に個で違いを見せ、2ゴール5アシストの活躍で、世界一に大きく貢献した。
この大会で転機となったのは、第2戦のスペイン戦だった。日本は0-1で敗れたが、遠藤はこの試合でたしかな手応えを得ていた。
「それまでは(先発で)出られない時期が続いたんですが、あのスペイン戦でスタメンを獲得できて自信がつきました。それまで緊張することも多かったんですが、変わりましたね」(遠藤)
同大会では、スピードを生かしたプレーに加えて、左足のキックも際立っていた。相手の急所を突く鋭い弾道は、スタジアムに詰め掛けた多くの観客を度々沸かせた。その活躍にFIFA(国際サッカー連盟)や海外メディアも注目し、大会中に特集されるほどだった。
そして、優勝から2ヶ月後の昨年11月のノルウェー戦でフル代表に初選出されている。当初は硬さも目立ったが、コンスタントに選ばれる中で徐々に実力を発揮。デビュー戦となった今年3月のアメリカ戦から2試合連続でゴールに絡み、4月の欧州遠征にも参加した。アメリカ、イングランド、フランス、ドイツなど、FIFAランク強豪国との対戦を通じ、遠藤はプレーの強度や間合いをW杯仕様にアップデートしていった。欧州遠征の後、こんなコメントを残している。
「直線のスピードは海外の選手には負けてしまいますが、フェイントを入れて裏に抜け出す一瞬の動きは勝てる可能性があると感じました」
周囲との連係を高める中で、その動き出しを生かすことができれば、なでしこジャパンにとって強力な武器になるだろう。
今季、国内王者のベレーザに入団した
遠藤は今季からリーグ4連覇中の日テレ・ベレーザに正式加入。1部ではルーキーイヤーだが、リーグ戦9試合で4得点と活躍している。国内トップクラスの選手たちと日々しのぎを削りながら、ボールの持ち方やタッチなど、海外勢との対戦もイメージしてトレーニングを重ねてきた。
また、今年4月からは早稲田大学スポーツ科学部に進学し、現役大学生になった。
W杯前、遠藤が目標とする選手の一人として名前を挙げていたのが、ベレーザでも代表でもチームメートになったMF長谷川唯だ。
「唯さんのプレーを映像で何回も見て、自分もこういう上手い選手になりたいな、と思いました」
飛び級で年代別代表に選ばれ、活躍を続けてきた長谷川のキャリアは遠藤と重なる部分もある。
中学生だった4年前、なでしこジャパンが準優勝したカナダ女子W杯をテレビで見ていた遠藤は「自分もあの舞台に立ちたい」と強く感じたという。そして、この4年間で心・技・体の土台をしっかりと鍛えながら、目標としてきた夢の舞台に立った。
アルゼンチン戦後、遠藤の表情には、切り札として投入されながら期待に応えることができなかった悔しさがにじんでいた。だが、冒頭にも書いたように、遠藤は試合に出たことで戦えるという手応えと自信も得ており、U-20女子W杯の時と状況は似ている。
しかし、年代別代表と違って、フル代表には様々な年齢や経験を持った選手がいる。その中で定着していくために、結果を出し続けることは重要だが、それだけではない。
「全てを年上の先輩に任せるのではなくて、自分からも(考えなどを)発信していくことが大切だと思っています。その上で結果を残して、チームの勝利に貢献したいです」
そう話す遠藤の表情は、以前よりも大人びて見えた。
今日のスコットランド戦、そして19日(日本時間20日)のイングランド戦と、なでしこジャパンにとって正念場の試合が続く。
果たして、若きスピードスターの活躍は見られるだろうか。その左足で、なでしこジャパンの未来を切り開いてほしい。
文・写真 : 松原渓
松原 渓 (まつばら・けい)
東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。
なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。