初戦のアルゼンチン戦でW杯デビューを果たした
フランス女子W杯に参戦中のなでしこジャパンは、14日に第2戦でスコットランドと対戦する。初戦でアルゼンチンと0-0で引き分けた日本にとっては、グループステージ突破に向けて何としても勝利したい一戦だ。だが、それは初戦でイングランドに敗れたスコットランドも同じ。
ゴールを奪わなければ勝てないが、早い時間帯の失点はなんとしても避けたい。立ち上がりは、スピードとパワーを兼ね備えたサイドアタックやクロスを封じることで、守備を安定させることがカギになりそうだ。
その上で、守備の要となる両センターバックの存在が非常に大きい。主将のDF熊谷紗希がキーマンになることは言うまでもないが、相方には、W杯前の親善試合も含めて6試合フル出場中のDF南萌華が有力だ。
昨夏、フランスで行われたU-20女子W杯では主将としてチームを牽引。20歳以下のアメリカやスペイン、ドイツやイングランドといった強豪国を組織的なサッカーで撃破し、世界一になった。堅守を支えた南は、MVP3位となるブロンズボールを受賞。南が紙吹雪の中で黄金のワールドカップを高々と掲げたシーンは、日本女子サッカー界に新たな栄光を刻んだ。
そして、今回のW杯では年齢制限のないフル代表の一員として、新たなキャリアの第一歩を踏み出した。
171cmの高さを生かした空中戦や、冷静な駆け引きで1対1を制し、正確なフィードで攻撃の起点になる。代表デビューからわずか3ヶ月で、南は最終ラインのファーストチョイスに上り詰めた。
25,000人を超える観客の中でプレーしたW杯初戦を、南はこんな風に振り返っている。
「あれだけの観客の中、素晴らしい環境でプレーができることに感動しました。ただ、いつも通りのサッカーができないW杯の舞台の難しさを実感しました。試合の中でもっと修正できればよかったと反省しています」
埼玉県吉川市出身の南は、ジュニアユース時代から浦和レッズレディース一筋でプレーしてきた。そして、年代別代表ではAFC U-16女子選手権とAFC U-19女子選手権でアジア王者になり、U-17女子W杯とU-20女子W杯で世界一になった。
今回のW杯には、年代別代表ですべてのタイトルをともにしてきたDF宮川麻都も選ばれている。学年は宮川の方が一つ年上だが、U-20女子W杯では、リーダーの南を宮川が支えていた。
「萌華は(主将として)人前で話すのが上手だし、みんなを引っ張ることができる。年下ですが頼りにしています」
大会中、宮川はそう話していた。
南はいつも自然体で、プレーに力みがなく、その佇まいがチームに与える安心感も大きいように感じた。また、さりげなくチーム全体への目配りを欠かさない細やかさも、チームの一体感を高めていた。
フル代表に初選出されたのは、U-20女子W杯の3ヶ月後に国内で行われたノルウェー戦だ。
「南は育成年代からずっと見ていますが、高さがあり、安定した守備を見せます。(U-20女子W杯で)キャプテンを務めたことでリーダーシップが高まり、メンタル的にも上がってきているので、期待を寄せています」
選出の理由について、高倉麻子監督はそのように明かしていた。
年代別代表で多くのタイトルを勝ち取ってきた
南が、なでしこジャパンに馴染むのに時間はかからなかった。今年3月のアメリカ遠征で代表初出場を飾り、ブラジル(○3-1)イングランド(●0-3)、フランス(●1-3)、ドイツ(△2-2)と、強豪との連戦で実力を発揮。けが人が多く、流動的だったセンターバックのポジションで、熊谷紗希の相方候補に急浮上した。相手を見る冷静さや、自分の間合いに引き込む駆け引きの巧さは、同じく20歳の日本代表、DF冨安健洋を彷彿させる。
「17歳以下や20歳以下で世界一になった選手たちは自信と野心があり、強い思いを持っています。強豪国にも物怖じしていないし、気が引けていません」
そう話す高倉監督にとって、南が高い期待を寄せる一人であることは間違いない。
所属チームの浦和で、FW安藤梢やFW菅澤優衣香ら、実力派のストライカーと駆け引きを重ねてきた経験も対人の強さに生かされている。浦和の先輩で、南にとってずっと憧れの存在だったのが熊谷だ。4月の欧州遠征では初めて実戦でセンターバックを組み、フランスやドイツのクロスに粘り強く対応。世界ランク2位のドイツに2-2で引き分けた試合後には、次のように語った。
「(熊谷)紗希さんと一緒にプレーすることを目標にしてきましたし、W杯前に組んでいろいろなことにチャレンジできたことで、目標に一歩近づけたと感じます」(南)
11年の女子W杯を制した当時、熊谷は今の南と同じ20歳だった。その後、欧州のビッグクラブでキャリアを重ねた先輩の背中は、今大会で南の大きな支えになるだろう。
南はスパイクに、これまで自分を支えてくれた人たちへの感謝を込めて「報恩謝徳」という文字を入れている。ユース時代からともに戦ってきた仲間たちも、W杯で戦う気持ちを奮い起こさせてくれる存在だ。
「自分が今この場にいられるのも、一緒にプレーした選手たちのおかげなので、感謝しています。その仲間たちの思いも背負いながら戦って、いい報告ができるようにしたいと思います」(南)
W杯の厳しい戦いを勝ち抜くためには、幾つものハードルを乗り越えなければならない。一試合ごとに選手、そしてチームが課題を修正しながら一体感を高め、サッカーの質を上げていくことが、そのハードルを越える唯一の方法と言ってもいい。
南は初戦で、高揚感を味わいながら、同時にいつも通りのプレーをすることの難しさを知った。第2戦のピッチに立った時、どんなプレーを見せてくれるだろうか。
文・写真 : 松原渓
松原 渓 (まつばら・けい)
東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。
なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。