なでしこ通信 from France

FW 11 小林里歌子 (日テレ・ベレーザ)

なでしこの攻撃を活性化するオールラウンダー。
大ケガからの復活を経てつかんだ夢の舞台

小林里歌子

期待の新星がいよいよヴェールを脱ぐ

フランスで開催中の女子W杯で、なでしこジャパン。11日の初戦で、アルゼンチンとドロー発進となった。残すスコットランド戦とイングランド戦は、絶対に落とせない試合が続く。14日に対戦するスコットランド戦は初戦でイングランドに敗れているため、積極的にゴールを奪いにくることが予想される。勝たなければいけない状況は日本も同じで、試合展開はオープンになるだろう。
この試合で、切り札の一人として期待されるのがFW小林里歌子だ。

小林は、メンバー発表後の5月のリーグ戦で足を痛めて途中交代。その後、大会直前の国内合宿から別メニューでの調整が続いていた。だが、フランス入り後は着実に回復していた。小林自身も、「痛みがなくなれば思い切ってプレーできるし、(ケガ明けでも)怖さをあまり感じないタイプなのでいけると思います」と、復帰を仄めかしていた。
そして11日、高倉麻子監督は複数人いるケガ人の回復状況について聞かれた際に、「小林はいけると思います」と、ゴーサインを出した。

彼女が復帰すれば、日本の攻撃は厚みを増すだろう。繊細なタッチでボールを動かし、丁寧なプレーの積み重ねでゴールへの筋道を作り出す。ドリブル、パス、シュートと、いずれも高水準のプレーができ、状況判断が的確だ。

Jリーガーの小林成豪を兄にもつ小林は、兵庫県神戸市で生まれ、小学一年生の時にサッカーを始めた。地元の若草少年サッカークラブでプレーし、 小学校高学年の時にはU-13日本女子選抜にも選ばれた。なでしこジャパンには子供の頃、「ドリブルが大好きだった」という選手が多いが、小林は違う。

「もともと、ドリブルで抜いていくタイプではなく、周りを生かしながらプレーしていました」(小林)
それは、今のプレースタイルに通じている。

あまり、目立つのが好きではなかったんですーー。以前、小林がそう話すのを聞いて妙に納得したことがある。FWの中には、佇まいから強烈な自己主張が伝わってくる選手もいるが、はにかんだ笑顔と穏やかな口調で話す彼女から、そういった主張の強さは感じられず、むしろ柔らかい雰囲気の持ち主だ。
それは、「周囲を生かすことで自分も輝く」プレースタイルに通じる気がする。

中学時代は地元神戸のクラブでプレーし、卒業後は宮城県仙台市の高校女子サッカーの名門、常盤木学園高に進学。3年間で高い得点能力を示し、全国的に注目された。年代別代表では13年のAFC U-16女子選手権(優勝)で得点王になり、14年のU-17女子W杯で、初の世界一に貢献した。15年のAFCU-19女子選手権では4得点を決め、大会MVPになった。同大会でチームを率いていたのが、現在なでしこジャパンを率いる高倉麻子監督だ。シュートを打てる場面でもパスを選択しがちだった小林に対して、こう声をかけたという。

「エースが点を取らなければ誰が取るの?里歌子が『点を取る!』って思わなかったらチームは勝てないんだから、自分で点を取りなさい」(高倉監督)
その後、小林は重要な試合でゴールを決めて日本を優勝に導き、15年のアジア年間最優秀ユース選手賞を受賞した。

小林里歌子

リハビリを支えたくれた人々への感謝をプレーに込める

15年にはチャレンジリーグ(3部相当)で得点王とMVPに輝くなど、順調にキャリアを重ねた。しかし、同年9月の国体で、前十字靱帯断裂の大ケガを負ってしまう。翌年、日テレ・ベレーザに加入したが、重いケガが重なって復帰が長引き、リハビリ生活は結果的に2年半もの長期に及んだ。最初は「さらに強くなって復帰しよう」(小林)と、前向きにリハビリに励んだという。だが、大きな目標だったU-20女子W杯にも出場は叶わなかった。打ちのめされた経験は一度や二度ではなかったはずだ。

リハビリを続けていた当時、練習を取材に行くといつも、日が落ちたグラウンドで小林が一人黙々と外周を走っていた。その背中に、隠しきれない物哀しさが漂っていた。この時期について、こう振り返る。

「もう一回サッカーをしたい、という気持ちは変わりませんでした。心が安定している時は『早くみんなの練習に入りたいな』とか『そこまで(コンディションを)戻せるかな』と想像もしましたが、リハビリがうまくいかない時期は(辛いので)練習を見ないようにしていましたね」

長い長いトンネルを抜け、公式戦に復帰したのは昨年4月。与えられたポジションは、本職のセンターフォワードではなく、サイドハーフだった。ベレーザの永田雅人監督は、意図をこう明かしている。

「小林はボールタッチがしなやかで、急激に角度を変えたり、ドリブルで突破する能力が高い選手だと思います。その資質を見込んで、サイドで起用しています」(18年11月)

それは、小林の新たな一面を引き出した。昨年9月のアルビレックス新潟レディース戦で、3点リードで迎えた終盤に3人を抜いて決めた鮮やかなゴールは印象的だった。

なでしこジャパン入りの転機となったのは、昨年12月上旬の「なでしこチャレンジキャンプ」だ。フル代表のスタッフが見守る中、小林は紅白戦でハットトリックを決め、男子高校生との練習試合でも得点。アピールは実り、1月にフル代表に引き上げられた。
そして、今年3月のアメリカ戦(2-2)でA代表デビューを飾ると、第2戦のブラジル戦(3-1)で初ゴール。4月のフランス戦(●1-3)では優勝候補のフランスの堅守をコンビネーションプレーで完璧に崩し、代表でも十分に戦えることをプレーで示した。

一緒にプレーする選手の特徴をいち早く掴む「観察力」も小林の武器だ。味方の動きをよく見ているから、自分がシュートを打てる場面でパスを選択することは少なくない。だが、以前に比べて「味方とうまく連係しながら、最後は自分が点を取る」という貪欲さも見られるようになった。

長いリハビリ期間を支えてくれた両親、トレーナー、そしてチームメートへの恩返しも、小林が戦う原動力になっている。積み重ねてきた努力とその強い想いを、小林が初のW杯でどう表現するのか、注目している。

文・写真 : 松原渓

松原 渓 (まつばら・けい)

東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。
なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。

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