なでしこ通信 from France

FW 13 宝田沙織 (セレッソ大阪堺レディース)

W杯初戦のアルゼンチン戦で代表初出場。
稀有なキャリアで培った得点力で
なでしこの切り札に

宝田沙織

アルゼンチン戦で途中出場で代表デビューを飾った

フランスで開催中の女子W杯に参加しているなでしこジャパンは、11日に初戦のアルゼンチン戦に臨み、結果は0-0のドロー。アルゼンチンはFIFAランキング37位で、スコットランド(20位)、イングランド(3位)と同居したこのグループでは順位が最も下。同7位の日本は、グループステージ突破の可能性を高めるためにも勝ちたかったが、自陣にブロックを敷いたアルゼンチンの堅守を最後まで崩せなかった。
25055人の観客が入ったスタジアムは、地響きのような応援やブーイングがあちこちで起こっていた。その独特の空気感の中で、慎重になった部分もあったように思う。W杯初戦の難しさを痛感する結果となった。

後半、高倉麻子監督は攻撃的なポジションで3人の選手交代を使い、ゴールを目指した。そして、試合終了間際の90分には、19歳のFW宝田沙織がピッチに立った。開幕の一週間前に、ケガでチームを離れることとなったFW植木理子に代わって追加招集された宝田は、なでしこジャパンは今大会が初選出だ。そして――なんとW杯初戦が、宝田にとっての代表デビュー戦になった。

「今まで体験したことがないほどたくさんのお客さんがいて、すごい雰囲気でした。緊張はあまりしませんでしたが……(与えらえれた)時間が少ない中で、シュートの意識を高く持って試合に入りました。流れを変えるゴールを決めたかったです」

宝田は試合後にそう振り返った。冷めやらぬ興奮と、悔しさが混じりあったような表情だった。

ピッチに立ったのはわずか5分弱だったが、アディショナルタイムにはスピードを生かした裏のスペースへの動き出しから、FW岩渕真奈の絶妙のパスを引き出し、クロスまで持ち込むプレーで会場を沸かせた。
宝田は大会前、「動き出しで相手を剥(は)がして得点チャンスを生み出したい」と話していた。最後のクロスは相手にブロックされてしまったが、W杯の舞台で一つ、自分らしさの片鱗を示せたことは今後に繋がるはずだ。

宝田沙織

代表経験は浅いが、ブレイクの可能性も秘める

宝田の魅力は、169cmの高さとスピード、そして決定力だ。
昨夏のU-20女子W杯で5ゴールを決めて日本の初優勝に大きく貢献し、シルバーボール(MVP2位)とブロンズブーツ(得点王3位)を受賞。同年のアジア年間女子最優秀ユース選手にも輝いた。
高倉監督は、宝田のなでしこジャパン選出にあたってこうコメントしている。

「今年に入ってリーグで得点を重ねていますが、国内で実際に見てかなり調子が良く、点を取る感覚も上がってきていると感じました。スピードも高さもあるので、攻撃面で(他の選手と)違ったアクセントになると感じ、彼女のそういった良さがを引き出したいと思って選出しました」

今大会のメンバーでは唯一、リーグ2部で戦っている。宝田が所属するセレッソ大阪堺レディースは下部組織からの生え抜きの選手たちで構成されており、平均年齢が約18歳と若い。宝田は一昨年、18試合で22ゴールを決めて得点王になり、1部昇格に貢献。1部では守備の時間が長くなって宝田の得点チャンスが少なく、結果的にチームは1年で2部に戻ることになってしまった。だが、今年は再び2部で9試合9得点と好調だ。経験を重ね、決定機での落ち着きは着実に増しているように思える。

宝田の経歴はユニークだ。

富山県立山町で生まれ育ち、小学生の頃は地元の立山ベアーズやFCひがしジュニアでプレー。卒業後は大阪府のエリート養成校であるJFAアカデミー堺に一期生として入学し、C大阪堺にも入団。フィールドに加えてGKとしての資質も評価されていたという。ここから、宝田のポジションは変遷していった。
2014年、14歳の時に将来の代表GKを発掘・育成する「スーパー少女プロジェクト」に選出された。その後、15年にはディフェンダーとしてAFC U-16女子選手権(準優勝)を戦い、2ゴールを決めている。翌16年にはミッドフィルダーとしてU-17女子W杯(準優勝)に出場し、この時も2ゴール。17年10月に中国で行われたAFC U-19女子選手権(優勝)ではフォワード登録になり、5ゴール2アシスト。そして、前述した昨夏のU-20女子W杯で5ゴールを決めて、世界一になった。

FW経験のある選手が、守備的なポジションにコンバートされて活躍する例は少なくない。だが、宝田の場合は逆だ。求められる役割を柔軟にこなしながら、FWとしての才能を開花させていった。どのポジションでもファーストタッチにこだわり、シュートの意識を高く保ってきたという。
宝田は、
「それぞれのポジションで、どんなプレーをされたら相手が嫌か、ということが分かってプラスになりました。それが今にも生きていると思います」
と振り返った。

U-20女子W杯のチームメートで、今大会でもなでしこジャパンでともにW杯を戦う
DF南萌華は、
「大事なところでしっかり得点を決めてくれるFWです」
と、宝田への信頼を口にした。
普段はおっとりとしてシャイな一面もあるが、ゴールを決めた時には弾けるような笑顔を見せる。

宝田は昨年12月のなでしこチャレンジキャンプに招集され、今大会の国内直前合宿にはトレーニングパートナーとして帯同。追加招集が決まった時には開幕まで1週間を切っていたが、周囲のサポートもあり、チームに馴染むのは早かった。
C大阪堺では年上がほとんどいない。その点でも、代表で受ける刺激が大きいようだ。

「(なでしこジャパンは)ほとんどが先輩で年も離れているのですが、チームとは違う雰囲気の中で、なかなか聞けないようなことが聞けます。こういう機会にたくさんのことを吸収したいと思います」

今大会前には、そう話していた。
10代最後の大舞台で未来への第一歩を踏み出した宝田が今後、どんなキャリアを積み上げていくのかが楽しみだ。今大会では新人だからと遠慮することなく、その能力を見せつけてほしい。

文・写真 : 松原渓

松原 渓 (まつばら・けい)

東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。
なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。

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