なでしこ通信 from France

FW 20 横山久美 (長野パルセイロ・レディース)

突出した2つの能力で日本を導くゴールハンター。
世代間の「つなぎ役」としても重要な存在

横山久美

シュートレンジが広く、どの角度からでもゴールを狙える

フランスで、7日に女子W杯が開幕した。なでしこジャパンは日本時間11日の午前1時に、初戦のアルゼンチン戦を迎える。イングランドとスコットランドが同居する激戦区のグループを勝ち抜くために、初戦の重要性は言うまでもない。この試合で、日本の勝利を引き寄せるゴールが期待されるのが、FW横山久美だ。現代表では、30試合で13ゴールを決めてきた。

横山は、2つの傑出した能力で違いを見せる。まず、どの距離や角度からでもゴールの枠を捉える技術だ。小さなモーションで強烈なシュートを打てるため、相手GKは反応しきれない。彼女が尊敬するサッカー選手として挙げる、元イタリア代表のFWロベルト・バッジョのプレーを見て技術を磨いたという。

代表の練習後には決まってシュートの自主練習に励み、コーチからタイムアップを告げられても「もう1本だけ」と、納得のいくゴールが決まるまで粘るーーそんな光景を、よく見かける。代表の大橋昭好GKコーチは、横山によく新しいシュートパターンを伝授していた。

「選手に任せると(同じ)パターンのシュート練習になってしまうことが多いので、GKから見て、実際の試合で起こり得るアクションを考えながら練習することが必要だと思って(提案して)います。横山が『シュート練習をやりましょう』と言いに来て、やっていると3人、4人、5人と集まってくるんです」(大橋GKコーチ)

高倉ジャパンでのベストゴールは、昨年4月のアジアカップ(W杯アジア予選)決勝のゴールだろう。0-0の残り20分でピッチに立った横山は、84分に豪快なミドルを決め、チームの初タイトルに大きく貢献した。
相手陣内ではフリーキックを蹴ることも多い。GKの立ち位置や壁の位置を見ながらの駆け引きは、日々の練習からこだわってきた部分だ。

もうひとつの特長が、ドリブルだ。2010年に行われたU-17女子W杯で、横山の名は全国区になった。準決勝の北朝鮮戦で決めた「6人抜きゴール」が、バルセロナのメッシと並んでその年のFIFA年間最優秀ゴール賞にノミネートされたのだ。
今回のW杯に、最年少の19歳(選出時は18歳)で選出されたFW遠藤純は、横山のプレーについて聞かれた際、
「久美さんはどこからでもシュートを打つし、相手を背負っていてもターンができるので、(FWとしてタイプの異なる)自分も学ベることが多いです」と、熱く答えていた。

横山久美

足に吸い付くようなドリブルで相手ゴールに迫る

東京都多摩市で生まれた横山は、小学1年生の時に本格的にサッカーを始めた。地元の多摩を拠点とする複数のクラブでプレーした後、中学生時代はスフィーダ世田谷FC(現なでしこリーグ2部)で2シーズンプレー。卒業後は東京の強豪校である十文字高校に入学し、年代別のキャリアを重ねた。10年のU-17女子W杯で、シルバーボール(MVP2位に相当)と、ブロンズシューズ(得点王3位)を受賞し、12年に日本で開催されたU-20女子W杯では大会3位に貢献した。
高校卒業後は、なでしこリーグ1部の岡山湯郷Belle(現チャレンジリーグ/3部)で2シーズンプレー。その後、14年に当時2部の長野パルセイロ・レディースに移籍すると、得点力が爆発した。
1年目にリーグ戦21試合で30ゴールを決め、15年3月のアルガルベ杯でなでしこジャパンに初招集された。そして、2年目は25試合で35ゴールを決める活躍で長野の1部昇格を牽引。3年目の16年にはプロ契約を結び、公式戦27試合で27ゴールと、1部でも変わらない決定力の高さを示した。しかし、同年のリオデジャネイロ五輪予選では、2得点を挙げる活躍を見せながら、日本は五輪への出場権を得ることができなかった。

その後、現体制ではチームのスタート時から呼ばれ、コンスタントにゴールを決めてきた。17年のアルガルベ杯での活躍が海外のクラブ関係者の目に留まり、同年7月から約1年間、ドイツ・女子ブンデスリーガ1部のフランクフルトに移籍。各国代表クラスが集まる環境で、欧州サッカーの間合いやパススピードに順応し、ボランチでも起用されるなどプレーの幅を広げた。

「以前はボールを持ったらとにかくゴールに向かう感じでしたが、今は『ゴールを狙いつつパス』という選択肢もあります。でも、なでしこジャパンでは点を取ることがメインの仕事になると思うので、チームのために頑張ります」

初めて出場する今回のW杯前に、横山は力強く語った。

高倉ジャパンは20代前半の若手世代が過半数を占めており、次いで、経験豊富な20代後半から30代の選手が多い。25歳の横山が入る中堅世代は最も少ないが、世代間の“つなぎ役”として重要な存在だ。

経験のある選手は若手が伸び伸びとプレーできる雰囲気を作り、若手選手はチャレンジを重ねながら殻を破ってきた。横山は双方の立場や、それぞれの選手の個性を理解した上で、チームとして最大限に力を発揮できるように考えているようだった。

「昨年の(W杯)アジア(予選)は、(阪口)夢穂さんとかルー(宇津木瑠美)さんがグラウンドで体を張ってチームの方向性を示してくれていました。でも、今はそういう選手が(先発を占める割合が)以前よりも少なくなった。だからこそ、もっとみんながチームのことを考えて行動しないとな、と思います」(横山)

それは、なでしこジャパンで台頭してきた若い選手たちへの熱いメッセージにも聞こえたし、自分自身の新たな立場を受け入れた覚悟にも聞こえた。

アルゼンチンとの初戦はきっと、難しい戦いになるだろう。だが、初のW杯の舞台でも横山はきっと、堂々としたプレーを見せてくれるはずだ。重要な試合で決めてきた数々のゴールを思い起こせば、今回も期待せずにはいられない。
豪快な一撃で、日本に勝利をもたらしてくれることを――。

文・写真 : 松原渓

松原 渓 (まつばら・けい)

東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。
なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。

Yahoo! ニュース個人 Kei-Channel
https://news.yahoo.co.jp/byline/matsubarakei/
オフィシャルブログ Kei Times
https://ameblo.jp/kei-matsubara/