なでしこ通信 from France

MF 6 杉田妃和 (INAC神戸レオネッサ)

中盤で光るテクニック。
圧倒的なポテンシャルを秘めた
新世代のブレイク候補

杉田妃和

軽やかなボールさばきで相手をかわす

フランスで7日に開幕した女子W杯。10日に初戦のアルゼンチン戦を迎えるなでしこジャパンで、ボランチのMF杉田妃和が存在感を増している。

特に目を引くのは1対1のテクニックだ。足裏を使った軽やかなタッチでボールを奪いにくる相手をかわし、次の瞬間、ボールをぐっと前に持ち出して日本の攻撃にスイッチを入れる。懐の深いボールキープや“両利き”と言えるキックの精度の高さも魅力だ。
年代別代表で活躍してきた才能豊かなボランチは、22歳で迎える今回のW杯で、MF長谷川唯やGK平尾知佳ら、同世代の選手たちとともにチャンスを掴んだ。

杉田は若手選手の中でも突出したキャリアを持つ。
福岡県北九州市で生まれた杉田は、兄の影響で小学2年生の時にサッカーを始めた。地元の二島藤木フットボールクラブや、県内のFCグローバルでプレー。男の子に混じって、得意のドリブルに磨きをかけたという。足裏を使うボールタッチは、その時代にルーツがある。杉田はその独特のボールタッチについて、こんな風に明かしてくれた。

「足裏を使う練習をしていたわけではないのですが、小さい頃から『プレーがちょっと変』とは言われていましたね(笑)。(細かいタッチが必要な)フットサルをしていたの?と聞かれることもありますが、そうではないんです。ただ、駆け引きをする時に足の裏だとボールの軌道を変化させやすいので、よく使っていました」

中学卒業後は、女子サッカーの名門である静岡の藤枝順心高校に進学し、着実に実績を重ねていった。
15歳の時に、飛び級で12年のU-17女子W杯(ベスト8)に出場。優勝した13年のAFC U-16女子選手権は主将として出場し、6得点の活躍でMVPを獲得している。同じく主将として出場し、優勝した14年のU-17歳女子W杯でも大活躍を見せた。コスタリカで行われたこの大会で日本は23得点1失点と圧倒的な強さで頂点に立ち、5ゴールを決めた杉田はゴールデンボール(MVP)を受賞。表彰台の上で高々と黄金のカップを掲げた。16年のU-20女子W杯でチームは3位だったが、杉田はこの大会でもMVPを受賞している。いずれのチームも、率いていたのは(現在なでしこジャパンを率いる)高倉麻子監督だ。
高校卒業後は、INAC神戸レオネッサに入団。入団2年目の16年にリーグ(1部)の新人賞を受賞した。

だが、当時INACを率いていた松田岳夫監督は、杉田のパフォーマンスに波があることをよく指摘していた。高校時代は圧倒的なボールキープとドリブルなどの「個」で違いを見せてきたが、なでしこリーグでは周囲のレベルが上がった中で壁にぶつかったようにも見えた。
その中で杉田は自分と向き合い、ゆっくりと、着実にプレーの幅を広げてきたように思う。周囲との連係の中で持ち味を発揮する場面が、数多く見られるようになった。
17年からはなでしこジャパンのレジェンドでもある澤穂希さんがINACでつけていた背番号「8」を継承し、チームの主軸として活躍している。
 コーチ時代も含めて杉田を3年間指導してきたINACの鈴木俊監督は、彼女が守備面で成長していると明かし、「体の強さが、守備で力を発揮できている要因です」と話す。杉田は一見細身だが、大柄な外国人選手に当たられても軸がブレない体幹の強さがある。

杉田妃和

日本に流れを引き寄せるプレーに期待

フル代表に初選出されたのは、昨夏アメリカで行われた4ヶ国対抗戦だ。この時は追加招集だったが、第3戦のオーストラリア戦で、途中出場で代表デビューを飾った。その後もなでしこジャパンの候補合宿に継続して呼ばれ、初先発を飾った3月のアメリカ戦では好パフォーマンスを見せ、世界ランキング1位の強豪相手に2-2と健闘した。

その後、杉田は4月のフランス戦(●1-3)とドイツ戦(△2-2)、そして6月2日に行われた、本番前最後のスペイン戦(△1-1)でもフル出場でプレー。ここまで4試合連続フル出場中で、W杯本番でもボランチのファーストチョイスになりそうな気配を見せている。
今大会のチームには、INACのチームメートに加え、年代別代表でともに戦ってきた選手が多い。

「もともとカテゴリー(年代)別から一緒にプレーしてきた選手たちも多く、連係面でうまくできるところがたくさんあります。人数をかけたプレーや連係プレーで、良いところを見せたいです」(杉田)

小柄な選手が多い日本の中盤で、162cmの杉田は大きく見える。常に背筋が伸びて顔が上がっており、すらりと伸びた長い脚でボールを操るプレーが絵になる。

11年大会でMVPと得点王に輝いた澤さんは15年に現役を引退したが、杉田はINACのチームメートとして1シーズン、プレーをともにしている。今大会、フジテレビの中継で解説を務める澤穂希さんは、杉田への大きな期待をこう語っていた。

「妃和とは練習(の紅白戦)で対戦相手になることが多かったのですが、独特のタイミングでパスが出てくるので、彼女が持つボールを取るのは難しかったです。その頃は単純なミスもありましたが、最近の試合を見ていると、パスの質が確実に上がっていると感じました。危ないときにスライディングでボールを奪って次に繋げるプレーも多く、少し見ない間にすごく成長していましたね。今回のW杯で、彼女のプレーを世界中の人たちに見てもらいたいです」(澤さん)

ボランチの組み合わせは高倉監督がずっと探ってきたポイントだが、その一角で杉田がカギになる可能性は高いのではないだろうか。
世界が注目する大舞台で、杉田が魅力的なプレーで日本に流れをもたらしてくれることを期待している。

文・写真 : 松原渓

松原 渓 (まつばら・けい)

東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。
なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。

Yahoo! ニュース個人 Kei-Channel
https://news.yahoo.co.jp/byline/matsubarakei/
オフィシャルブログ Kei Times
https://ameblo.jp/kei-matsubara/