なでしこ通信 from France

MF 14 長谷川唯 (日テレ・ベレーザ)

機知に富む若きゲームメーカー。
違いを生むテクニック、アイデア、
スタミナ、メンタル。

長谷川唯

多彩なテクニックで相手を翻弄する

女子W杯に出場するなでしこジャパンは、10日に迎える初戦のアルゼンチン戦に向け、会場のパリで調整を続けている。

優勝した2011年ドイツ大会、準優勝だった15年カナダ大会で一時代を築いたチームが一つのサイクルを終え、16年に新監督に就任した高倉麻子監督は、多くの選手に機会を与えて競争を促し、その中で世代交代を進めてきた。今大会で選ばれた23名の平均年齢は約23.9歳(メンバー発表時)で、全24カ国中2番目に若い。

新たに台頭してきた世代は、14年のU-17女子W杯や18年のU-20女子W杯で世界一になった経験を持つ選手が多い。その中で、攻撃のキープレーヤーとして注目されてきたのがMF長谷川唯だ。

156cm、46kgと、23名のメンバーでも特に小柄な体格だが、卓越したテクニックで大柄な相手をひらりとかわし、時に大胆なアイデアでスタジアムを沸かせる。
宮城県で生まれた長谷川は、幼少時に埼玉県戸田市に移り住み、戸田南FCスポーツ少年団でサッカーを始めた。その後、戸木南ボンバーズに入団。ドリブルが大好きだったという長谷川は、ロナウジーニョに憧れた。

高倉監督は、まだ小学生だった長谷川のプレーを見たことがあるという。
「彼女は(体が小さいので)ユニフォームがぶかぶかで、ボールは膝まであったけど、上手でした。楽しそうにサッカーをやっていましたね」(高倉監督)

小学校卒業後は、日テレ・ベレーザの下部組織メニーナに入団。メニーナで中学・高校と長谷川を指導した寺谷真弓さん(現東京ヴェルディ・アカデミーダイレクター)によると、当時の長谷川は体格がひときわ小柄で、身長、体重ともに小学3年から4年生ぐらいの平均値だったという。だが、当時からサッカーセンスは光っていた。

「試合中に予想もしないところにパスを出すことがあったので、『あのパスはたまたまなの?』と聞いたら『(パスのコースが)見えていました』と。そういうことが何回かあって、この子にはそういう(遠くを見る)力があるんだな、と感じていました」(寺谷さん)

指導は厳しかったが、長谷川はその中で技術だけでなく戦術的なスキルも高め、持ち前のセンスを開花させていった。

「小学生の頃は感覚でプレーするタイプで、メニーナに入ってサッカー(の奥深さ)を知りました。中1の時に高校生の中でプレーしていたので頭を使って、他の選手が(寺谷監督から)言われたことも自分に言われている感覚で聞いていたんです。その頃から考えてプレーするようになりました」(長谷川)

そして、年代別代表でも着実に頭角をあらわしていった。12年のU-17女子W杯(ベスト8)で、長谷川はMVP3位に当たるブロンズボールを受賞し、優勝した14年のU-17女子W杯では準MVPに当たるシルバーボールを受賞した。3位になった16年のU-20女子W杯でも中心選手として活躍。
国内リーグでは13年、16歳の時にベレーザで試合に起用されるようになり、15年からはリーグ4連覇の原動力になった。
クラブと年代別代表で10年以上ともにプレーしてきたMF籾木結花とは、時々、想像もできないようなコンビネーションから点を取る。

「唯とはタイプもプレースタイルも違いますが、感覚が合うんです。メニーナに入った時は2人とも小柄でしたが、体が大きな選手に対してどう戦っていくかを考えながら自分のスタイルを確立してきました。その経験が重なるので、お互いにしかわからないプレーにつながっているのかもしれません」(籾木)

2人のコンビネーションは、今大会でも日本の武器になるだろう。
昨年から、長谷川のプレーはスケールアップした。ドリブルや周囲とのコンビネーションで相手の裏を取るプレーが増えた。また、フィジカルトレーニングに力を入れ、1対1に強くなった。
今年、大学を卒業し、ベレーザでチームメートのDF清水梨紗とともにプロ契約選手になった。サッカーに集中できる時間が増え、パフォーマンスのさらなる向上が期待される。

長谷川唯

籾木とのコンビネーションプレーは意外性があって楽しい

11年の女子W杯でMVPと得点王に輝いた澤穂希さんは、今大会で長谷川を注目選手に挙げ、次のように話していた。

「頭のいい選手だと思います。体は小さいけれど、メンタルが強いし、(攻守の能力を)なんでも兼ね備えている。日本が苦しい時間帯に点を取ったり、体を張ったり、チームのリズムを変える選手になってほしいと期待しています」

自身の性格について聞かれたときの長谷川の返答には、その強靭なメンタルがよく表れていた。

「ポジティブです。サッカーの試合はすべて勝つイメージで、負けることやうまくいかないイメージが浮かびません。試合前に緊張したことはないです。試合が楽しみなので、むしろ平常心じゃないかもしれません(笑)。こういうプレーがしたい、といつもイメージしています」

今年4月の欧州遠征で、日本は開催国のフランスに1-3で敗れた。内容面でいいところがなかったが、長谷川は結果をしっかりと受け入れて前に進んだ。また、6月2日のスペイン戦(△1-1)も、長谷川自身はあまり良いプレーを見せられず、試合後は個人としてもチームとしても、うまくいかなかった原因や改善点をしっかりと分析した。
フランスもスペインも、優勝候補の一角だ。だが、長谷川はW杯で対戦することを恐れてはいない。「相手の戦い方を知り、駆け引きできる材料が増えた。だから、勝てる可能性が増えた」と、言外にほのめかす。なんとも頼もしい。

なでしこジャパンの未来を担う若きファンタジスタは果たして、フランスの地でどんなプレーを見せてくれるだろうか。

文・写真 : 松原渓

松原 渓 (まつばら・けい)

東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。
なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。

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