なでしこ通信 from France

DF 23 三宅史織 (INAC神戸レオネッサ)

スペイン戦で柔軟な対応力を見せた伸び盛りのDF。
初のW杯でさらなる飛躍を期す

三宅史織

スペイン戦でサイドバックで出場。攻撃面で良さを発揮した

女子W杯開幕を5日後に控えたなでしこジャパンは、6月2日にフランスのル・トゥケでスペインと大会前最後の親善試合を行い、1-1で引き分けた。
この試合で、後半途中から右サイドバックで出場したDF三宅史織は、1点ビハインドの状況から試合の流れを日本に引き寄せるのに貢献した。

「負けている状況で投入されたので、右サイドで得点チャンスを作るプレーや、ビルドアップに積極的に関わることを意識しました。後半はスペインの守備も足が止まってきていたし、チームとしても、誰がどのポジションで試合に出ても戦えることを見せたいと思っていました」

試合後、三宅はそう振り返っている。本職はセンターバックだが、この試合では右サイドバックで持ち前の攻撃力を発揮し、選手層の厚さを示した。

三宅は国内リーグで3年連続2位の強豪、INAC神戸レオネッサで不動のセンターバックとして活躍している。1対1の強さもさることながら、正確なフィードや鋭い縦パスなど、ビルドアップの巧さも魅力だ。

オフザピッチでは、周囲に笑いが絶えないムードメーカーだが、サッカーに関しては「絶対に、目の前の相手に負けたくないんです」と、「超」がつく負けず嫌いでもある。

北海道札幌市で3人兄弟の末っ子として生まれた三宅は、兄の影響で、小学校1年生の時に地元の真栄サッカースポーツ少年団に入団した。冬はグラウンドに雪が積もってサッカーができないため、スキーやスノーボードも楽しんだという。小学校卒業後は、中高一貫でサッカーの先端的な指導を受けられるエリート教育機関、JFAアカデミー福島に進学。 中学生だった11年には東日本大震災で被災し、静岡に拠点を移した。

三宅史織

世界に通用する『強い』センターバックを目指す

12年にU-17女子W杯で8強入りに貢献するなど、年代別代表でも頭角を現した三宅は、13年の夏に、特別指定選手としてINACに入団。当時のチームは澤穂希を筆頭に、11年のW杯で世界一になった選手たちが中心にいた。加えて、INACはこの年、韓国代表の大黒柱であるMFチ・ソヨンや、同年のなでしこリーグ得点王に輝いたアメリカのFWゴーベル・ヤネズら、国際色豊かなメンバーを揃え、リーグ3連覇を果たし黄金期を迎えていた。当時、まだ高校生だった三宅は周囲のレベルについていくのに苦労したのだろう。練習や試合後に、悔し涙を流す姿をよく目にした。

三宅は当時のチームメートで、代表のレギュラーだったDF近賀ゆかり(現オルカ鴨川FC/2部)からもらったアドバイスを今でも大切にしている。

「後ろの(守備の)選手がちょっとしたミスをして落ち込むと、それだけで相手に付け込まれる。ハッタリでもいいから自信を持つことが大事だよ、と近賀さんから言われたんです。過信は良くないですが、ピッチに立っているときは堂々とプレーしようと思いました」
三宅は佐々木則夫前監督が率いていた13年のなでしこジャパンに、当時17歳で初選出されている。13年9月のナイジェリア戦(○2-0)にフル出場。先制点の起点になり、話題になったが、定着には至らなかった。

だが、INACに正式に加入した14年以降、三宅は国内リーグで守備力に磨きをかけ、1対1でも強さを増していった。そして、17年末のスイス戦で高倉ジャパンに初選出され、メンバーに定着。昨年のアジア2冠にも貢献している。
昨年夏にアメリカで行われた4ヶ国対抗戦は、三宅に大きな衝撃を与えた。

「アメリカ(●2-4)とブラジル(●1-2)とオーストラリア(●0-2)と戦って、フィジカルをもっと強化しなければいけないと強く感じました。特にアメリカの攻撃の威力はすごくて、これまでにない速さと強さを体感して……本当に悔しい思いをしました」

世界トップクラスの強さを体感し、自信を打ち砕かれた。だが、それから三宅は厳しく自分の弱さと向き合ってきた。INACの鈴木俊監督は今季のリーグ戦で、「特にヘディングやボールの動かし方が良くなってきており、パフォーマンスは上がってきています」と、手応えを口にしている。

三宅には、自分の気持ちを駆り立てる言葉がある。それは、15年から3シーズン、INACを率いた松田岳夫監督(現・福島ユナイテッドFC監督)の言葉だ。
「松田さんから、『ビルドアップや足下の技術がうまくても、俺はセンターバックは(守備面で守りきれる)強いやつしか使わない』と言われて、メンバーから外されたとがあります。そこで考え方が変わりました。今でも、自分の中で一番大切にしているのは『失点しない』ことです。以前に比べて1対1で粘り強く戦えるようになったので、その上で自分の(攻撃面の)良さも出していきたいです」(三宅)

W杯は初めてだが、「23人が一丸となって戦わないとW杯では勝てない」という先輩のアドバイスも、いつか自分がW杯に出る時のことを想像して心に留めてきた。だからこそ、チームのためにできることを全力でやろうと決めている。

一週間後の10日に、日本はいよいよ初戦のアルゼンチン戦を迎える。
スタジアムの雰囲気も、張り詰めた試合の緊張感も、すべてが未知の世界だ。その大舞台で、三宅は新たな自分に出会うことができるだろうか。

文・写真 : 松原渓

松原 渓 (まつばら・けい)

東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。
なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。

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