なでしこ通信 from France

DF 22 清水梨紗 (日テレ・ベレーザ)

各国のスピードスターと対峙するキーポジション。
国内屈指の走力を持つ若きサイドバックが挑む
初のW杯

清水梨紗

豊富なスタミナでアップダウンを繰り返す

なでしこジャパンのサイドバック、DF清水梨紗。
6月7日に開幕するフランス女子W杯で、日本の守備の行方を左右する一人だ。

色白で、160cm、47kgと細身の体格から、一見お姫様的な雰囲気を漂わせているが、実は頼もしいファイターだ。豊富な運動量で90分間アップダウンを繰り返して攻守を活性化。粘り強くボールにアプローチし、ピンチでは身体を投げ出して守る。

W杯に出場する強豪国は、サイドにスピードのある選手を配置するケースが多い。サイドで先手を取れば、試合の流れをぐっと引き寄せることができるからだ。スペースの奪い合いになることは必至。そこで機先を制するために、サイドバックの役割が重要だ。清水は言う。

「(国際試合では)サイドバックがボールを持った時に相手が守備のスイッチを入れることが多いです。そこで自分が(駆け引きに勝って)うまく抜け出すことができたら、いい攻撃につながります。逆に、そこでうまくプレーできなければ守備に回ることが多くなる。自分次第でチームが楽になるかどうかが決まると思うので、その駆け引きを楽しみながらプレーしています」

清水のプレーを支える土台でもある走力が培われたのは10代の頃だ。兵庫県で生まれた清水は、姉の影響で小学校1年生の時にサッカーを始めた。2年生の時に横浜に転居後、FCすすき野レディースに入団。当時のポジションはFWで、チームのエースとして活躍していた。
「小さい頃から走ることが好きだった」という清水。神奈川県内のマラソン大会に参加して上位になるなど、当時から走力は際立っていたが、サッカーの試合の中で生きる走力については「(日テレ・)メニーナ時代の積み重ねがあったから」と話す。

小学校卒業後に日テレ・ベレーザの下部組織であるメニーナに入団した清水は、持久力とスピードを買われてサイドバックにコンバートされた。当時のメニーナの監督で、数多くの代表選手を輩出してきた寺谷真弓監督(現東京ヴェルディ・アカデミーダイレクター)の指導は、とにかく厳しかったという。だが、基礎技術やスタミナに加えて、精神的な強さも鍛えられた。

「あの頃は毎日のように走っていたので、すごくきつかったですね。一日グラウンドを20周走るトレーニングが1週間続いた時もあります。当時は上の人たちに必死で食らいついていく感じでした。なでしこジャパンを目指すという思いよりは、ベレーザに上がりたいという気持ちが強かったです。ベレーザにはアリ(有吉佐織)さんをはじめ上手い選手がいたので、一緒にプレーできることを目標に、少しずつステップアップしてきました」

同年代にはFW籾木結花やMF長谷川唯など、その後、ともにベレーザで新たな時代を築く仲間がいた。そのような環境で頭角を現した清水はその後、年代別代表で活躍。体力テストでは常に上位だった。
ケガの影響もあり、フル代表デビューは長谷川や籾木に約1年遅れたが、昨年2月のアルガルベ杯で初出場を果たすと、安定したパフォーマンスで、すぐに右サイドバックのレギュラーに定着。デビューから1ヶ月後のW杯アジア予選では、W杯出場を決めたオーストラリア戦と韓国戦で相手の決定的なシュートを防ぐなど、W杯出場に大きく貢献した。

ベレーザでは16歳から試合に出ており、現在のリーグ4連覇は主力として支えてきた。17年にはベレーザでセンターバックを経験したことで、守備面のリスクマネジメントやポジショニングなどの意識もより高まったように見える。

清水梨紗

機を見た攻め上がりも魅力だ

今回のW杯でDF登録の選手は8名いるが、所属クラブは6チームに分かれており、各チームで守備のやり方はそれぞれ違う。そのなかで、清水はレギュラーとして、DF熊谷紗希やDF鮫島彩ら、経験のある選手たちと密にコミュニケーションを重ねてきた。

「選手同士の距離はすごく意識しています。国際試合では、距離感が開くと相手のプレッシャーを受けやすくなるので、全員がいいポジションについて、サポートし合える位置を取りたいですね。それが、日本の良さでもあると思います。ボールが逆サイドにあるときは自分が一番見えているので、声も出すようにしています」

清水は2016年のU-20女子W杯(3位)でメンバー入りしていたが、大会直前のケガで参加を断念。テレビの前で、ともに戦ってきた仲間たちの活躍を見ながら、悔しい思いも噛み締めた。だからこそ、W杯には特別な想いがあるという。

今年、大学を卒業してプロ契約選手になった。
「自分がサッカーに向き合える時間はすごく増えたと思います。サッカーの技術面や試合映像を見る時間も増えて、一日中サッカーと向き合っている感じです。華奢なので、全体的な筋力アップと疲れが出やすい腰の筋肉を鍛えて、ケガ防止にも取り組んでいます」

目標とする選手には、パリ・サンジェルマンのDFダニエウ・アウベスやバルセロナのDFジョルディ・アルバとともに、代表とベレーザの先輩でもあるDF有吉佐織の名前を挙げた。清水にとってはメニーナ時代から目標にしてきた存在だ。以前の代表でも実績がある有吉は、高倉ジャパンで新たに台頭した若い選手たちと積極的にコミュニケーションを図り、世代間融合を支えた功労者だ。

今大会に出場している23名は、候補入りしながらメンバーに選出されなかった選手たちの分も含めて、様々な思いを背負ってピッチに立つ。その想いも、清水が最後の瞬間まで、勝利のために走りきる原動力になるだろう。

文・写真 : 松原渓

松原 渓 (まつばら・けい)

東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。
なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。

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