なでしこ通信 from France

FW 9 菅澤優衣香 (浦和レッズレディース)

際立つ「強さ」と「高さ」。
なでしこの戦略に幅をもたらす
前線のターゲット

菅澤優衣香

オンとオフのギャップも魅力のストライカー

フランスで行われる女子W杯開幕まで、あと7日に迫った。
5月27日に現地入りしたなでしこジャパンは、6月2日に行われるスペイン女子代表との親善試合に向けて調整を続けている。

今大会の23名の中で、中盤から前線の攻撃的なポジションは小柄な選手が多い。そのなかでひときわ目立つのが、168cmのFW菅澤優衣香だ。ポストプレーと空中戦で強さを見せ、セットプレーやカウンター攻撃の際には前線でターゲットになれる貴重な存在だ。

所属する浦和レッズレディースでは今季、リーグ戦9試合で8得点とハイペースでゴールを量産しており、浦和はリーグの折り返し地点で首位の日テレ・ベレーザと勝ち点で並び、得失点差で2位。菅澤自身も得点ランクで2位につけている。

「点が取れているのは、チームメートが私のプレースタイルを理解してくれているおかげです。代表でも少しでも早く、みんなに自分のプレーを理解してもらえるようにしたいですね」

オフザピッチや取材エリアで見せる柔らかな笑顔や優しい語り口は、ピッチ上で見せる野生のライオンのような迫力からは想像がつかない。だが、その人柄も菅澤が多くの選手やサポーターに愛され続けてきた理由だろう。

菅澤は、今大会に臨む6名のFW陣では岩渕真奈とともに前回15年のカナダ女子W杯に出場している。前回大会ではグループリーグ第2戦のカメルーン戦で豪快なヘディングシュートを叩き込み、スタジアムを沸かせた。だが、悔しい思いもした。

「カナダ大会は(流れの中で)シュートまで行けなかったので……今大会ではシュートまで行く回数を増やしたいし、『決め切る』ことが目標です」

菅澤優衣香

若手選手とのコンビネーションにも期待

初めて代表に選ばれてから今年で10年目になる。
千葉県千葉市で生まれた菅澤は、兄の影響で幼稚園の頃にサッカーを始めた。小学生の頃は男子に混じってFC幕西でプレーし、幕張西中学時代も男子サッカー部でFWとして活躍したという。中学卒業後は全寮制でサッカーの先端的な指導を受けることができるJFAアカデミー福島に一期生として入団。卒業後はなでしこリーグ1部のアルビレックス新潟レディースに加入し、入団1年目の09年になでしこジャパンに初選出されている。ジェフユナイテッド市原・千葉レディースに移籍して2年目の14年と15年に2年連続で得点王になり、代表にも定着。17年に浦和レッズレディースに移籍し、得点ランキングは常に3位以内をキープしてきた。

高倉ジャパンには16年6月のスタート時から呼ばれており、昨年4月のW杯アジア予選と8月のアジア競技大会のタイトルに大きく貢献した。
高倉麻子監督は、W杯までに戦ってきた43試合の中で、チームのターニングポイントとなった試合に、W杯アジア予選・グループステージの韓国戦(△0-0)とオーストラリア戦(△1-1)の2試合を挙げている。

「(アジア予選では)W杯出場権を取るだけでなく、(出場権が5枠あった中で)5位では意味がないと思っていました。特に予選の韓国とオーストラリア戦の2試合は戦い方が難しく、選手、スタッフを含めてものすごい緊張感があり、それを超えた時にチームが一つになった感じがありました」(高倉監督)

菅澤はこの時の韓国戦で後半からピッチに立ち、日本に流れを引き寄せた。結果はドローだったが、好パフォーマンスでアピールすると、次のオーストラリア戦では高倉ジャパンで初めてのフル出場を果たし、W杯出場権獲得に貢献した。
そして決勝のオーストラリア戦でも先発に抜擢され、得点こそなかったものの、0-0で終盤に交代でFW横山久美にバトンタッチ。その横山が劇的な決勝ゴールを決め、日本は頂点に立った。菅澤は大会の主役にはならなかったが、重要な2試合でたしかな存在感を示した。

そして、4ヶ月後のアジア競技大会では主役になった。アジアのライバル国を相手に1点差の接戦を勝ち抜いていったこの大会で、菅澤は準決勝の韓国戦(○2-1)と決勝の中国戦(○1-0)で決勝ゴールを決め、優勝の原動力になっている。結果が求められる2つの大会の重要な試合でしっかりと結果を残した。

「W杯はアジアとは違うので、厳しい戦いになると思います」と、菅澤は言う。欧米の強豪国に対しては、168cmの高さがアドバンテージにならないことを経験からわかっているからだ。
だからこそ、ジャンプのタイミングを工夫したり、シュートレンジを広げるためのトレーニングを重ね、同時に「強さ」も追求してきた。

「(W杯で)まずはフィジカルで相手に勝つことをイメージしています。コンタクトプレーに勝って点を決めたいし、(ポストプレーで)周りの選手も生かしたい。そのために、体幹がブレないようにするトレーニングも続けてきました」

24歳だった4年前のW杯では若手だった。だが、今大会は年上が4人しかいない。

「自分がプレーで伝えられることを伝えていきたいし、逆に、自分も若い選手たちから教わることがあると思うので、お互いに情報を共有してチームを活性化させていきたいですね。一戦一戦成長していけるチームだと思うので、楽しみです」

28歳で迎える2度目のW杯で、菅澤はどんな輝きを見せてくれるだろうか。
これまで菅澤が代表でゴールを決めた試合は、13勝1分で無敗を継続している。また、今季は浦和でも菅澤がゴールを決めた試合は6戦全勝だ。フランスの地でもそのジンクスを継続させ、チームを勝利に導いてほしい。

文・写真 : 松原渓

松原 渓 (まつばら・けい)

東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。
なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。

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