なでしこ通信 from France

MF 17 三浦成美 (日テレ・ベレーザ)

個性を調和させる抜群のバランス感覚。
高倉ジャパンのカギとなる21歳

三浦成美

攻守の要となるボランチで活躍が期待される

6月7日の女子W杯開幕に向け、なでしこジャパンが27日に現地フランス入りした。

今大会の日本は、W杯経験者がわずか6名と少なく、約7割が25歳以下と、若手選手が多くを占めている。上位進出に向けて、彼女たちの活躍は欠かせない。その中で、攻守の要となるボランチの大役を務める一人が、MF三浦成美だ。

156cmと小柄だが、ポジショニングと状況判断に優れ、常に良い距離感を保ちながら周囲の選手を生かす。高いテクニックと組織力を身上とし、選手同士が豊かな発想力で攻撃を組み立てていく日本のサッカーは、三浦が入ることでテンポアップする。
好きな選手にバルセロナのセルヒオ・ブスケッツを挙げる21歳は、「運動量を多くしてボールにたくさん関わりながら、チームのリズムを作っていきたい」と話す。試合の流れを見ながらスペースを埋め、全体をコンパクトに保つバランス感覚は抜群だ。

だが、実は三浦はボランチのポジションでプレーしてまだ1年しか経っていない。

神奈川県川崎市で生まれた三浦は、4人兄弟の2番目として生まれた。サッカーをしていた兄の影響で少年チームに入り、紅一点でプレー。「試合に勝つ面白さとか点を取る面白さでのめり込んでいきました」(三浦)。ドリブルが大好きだった少女は、カカ(元ブラジル代表)に憧れ、試合を観たり、カカの本を夢中になって読んだという。

小学校卒業後は、日テレ・ベレーザの下部組織であるメニーナに入団。走力、テクニックなどの基礎技術をさらに高めた。プレースタイルはドリブラーから、相手と駆け引きしながら味方を使ってゴールに迫るチャンスメーカーへと変化していった。
トップのベレーザに昇格したのは16年。年代別代表では常連メンバーだった三浦だが、ベレーザではチームメートのほとんどがフル代表候補。当時、ポジションはサイドアタッカーだったが、クラブが新たな黄金期に入り始めた時期とも重なり、出場機会を得るのに苦労した。

そんななかで転機は昨年、訪れる。ベレーザに新監督として迎えられた永田雅人監督は4-1-4-1システムを導入し、アンカーに三浦を抜擢。このコンバートが見事にはまり、今回のW杯にも選ばれているMF長谷川唯、FW籾木結花らとともに、中盤で強固なトライアングルを形成。三浦はポジショニングの新しい概念を学ぶなかで、新境地を切り開いていった。

ボランチという難しいポジションに短期間で適応できた理由ついて、こう振り返る。
「元々、自分が前に出ていくよりも、周りの状況を見て、味方が考えていることを優先しながらチームのために戦いたいタイプなので、(ボランチは)性格的に合っていると思います。守備面でも、(相手の攻撃を)潰さなければいけないところで頑張れます。(初めてプレーする選手は)まず、相手の言うことを受け入れて、何を考えているのか聞いて理解してから、その選手の特徴を見て合わせるようにしています」

三浦成美

個性を調和させるバランス感覚は絶妙だ

メニーナ時代はその優しい性格が試合中に出てしまい、恩師である寺谷真弓監督から「人の良さはピッチの外だけにしなさい」と言われたこともある。だが、その類い稀なバランス感覚は、ベレーザの強烈な個性を調和させる重要なエッセンスとなった。

試合に出続けて急成長を遂げた三浦は、昨年6月にフル代表に初招集されると、7月のアメリカ遠征と11月のノルウェー戦で好パフォーマンスを見せている。それでも、4月のフランス戦(●1-3)では、 男子(18年)とのW優勝を狙う開催国の地力を見せつけられ、自分の良さを出すことができなかった。16年のU-20女子W杯(3位)でフランスに敗れた経験を持つ三浦は、年代別代表との違いも感じていた。

「フランスは(16年のU-20女子W杯から)体格やスピードも一段階上がっていたし、戦い方も覚えていた。成長スピードの速さにも驚きました。これまでに対戦した(フル代表の)アメリカやブラジルと比べてもスピードがあって足下の技術が高く、衝撃的な試合でした」

しかし、テストマッチでの敗戦はステップアップのチャンスでもある。W杯本番に向けて、普段のトレーニングから国際試合を意識してきた。
今年から本格的に取り組んでいることの一つが、「認知トレーニング」 。片目を隠した状態でテニスボールをキャッチしたり、ブラインドで基礎練習をするなど、独特の練習法で反応速度や予測力を高める取り組みも続けてきたという。

今大会には、1年ぶりにMF阪口夢穂が代表復帰を果たす。三浦はベレーザで昨年、ケガで離脱した阪口と入れ替わるように試合に出るようになったため、代表入りしてから一緒にピッチに戦った経験は少ない。だが、同じチームでプレーを何年も見てきた。

「夢穂さんは本当に上手いです。時間を作る技術があるというか、夢穂さんの周りはちょっと時が止まっている感じがするので、周りの選手がすごくプレーしやすいんです」

以前、三浦は言葉に力を込めてそう話していた。リーグ戦でうまくいかない場面があると、「夢穂さんならどうしますか?」と聞いた。阪口は自分がケガで試合に出られない中でも、毎回、自身の経験から丁寧なアドバイスを送ってくれていたのだという。
三浦はそのアドバイスを大切にしてきた。だからだろう。優れたバランス感覚という点で、2人のプレーには共通点も感じられる。

普段は穏やかで、「日常生活は平和が一番、というタイプです」とにこやかに言う三浦。
様々な個性が集う高倉ジャパンが、その良さを最大限に発揮するために、三浦のパフォーマンスがカギを握っている。

文・写真 : 松原渓

松原 渓 (まつばら・けい)

東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。
なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。

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