知られざる素顔を現地密着レポート なでしこ通信 from America

DF 4 熊谷紗希 (リヨン)

声でチームを動かし、背中で見せるリーダー。
「第二のホーム」で行われるW杯決勝へ、
強い思いを胸に

熊谷紗希

主将とディフェンスリーダーとして牽引する

2017年以来、なでしこジャパンのディフェンスリーダー、そして主将としてもチームを牽引してきたDF熊谷紗希。2011年FIFA女子ワールドカップでセンターバックのレギュラーとして全試合にフル出場し、決勝のアメリカ戦ではPKのキッカーとして日本の初優勝を決定づけた。当時、熊谷は20歳。
大会後はドイツのフランクフルトに渡り、その後、13年からはフランスのオリンピック・リヨンへーー。

各国の代表選手がしのぎを削り、リーグ12連覇中と驚異的な記録を更新しているビッグクラブで6年間レギュラーとして活躍を続け、史上初の女子チャンピオンズリーグ3連覇も経験。熊谷が海外で積み上げてきた重厚なキャリアは、男子で言えば香川真司、本田圭佑、長友佑都といった選手たちに匹敵する。
恵まれたフィジカルを生かした強さや、国境をまたいで各国の選手と対峙する中で身につけてきた的確な寄せで、ボールを奪うタイミングにミスが少ない。そして、勝つために何が必要かを知っている。
27日から始まるアメリカ、ブラジル、イングランドとの3連戦では、その経験を生かしてチームを牽引するプレーに期待したい。

「私たちがどんなに頑張っても海外の選手のようなスピードはつかないし、あの骨格は手に入らないので、どこで戦っていくのかということを、選手一人ひとりがこういう(強豪との)試合で見つけていかなければいけない。個だけでなく、チームとしてもどう戦っていくかをもっと考えなければいけないと思います」

熊谷紗希

ヨーロッパで長くプレーした経験を生かした
対人の強さは必見

今回、初めてアメリカやイングランドと対戦する選手にとっては、相手との間合いの取り方などについて熊谷から学ぶことが多いだろう。
「経験しなければ変われないこともあるし、新しい経験の中で、多くの判断材料を掴んでいってほしい」

以前、熊谷はそう話していた。そこにはチャレンジすることで道を切り開いてきた者が持つ説得力が備わっていた。

また、国際色豊かで強烈な個性が揃うチームで磨いてきた力の一つが、個を組織に生かすバランス感覚だ。
「味方の能力を知って、それをうまく使えるのも日本人の良さだし、バランスを取れるのも日本人の良さだと思います。そこはフランスでも成長できたところだと思います」
その感覚は、代表チームをまとめる主将の立場にも生かされている。
澤穂希、宮間あやと引き継がれてきたなでしこジャパンのキャプテンマークは重かった。だが、17年1月に初めてキャプテンに指名された時から、熊谷は「澤さんやあやさんのようなキャプテンにはなれない」と、はっきり口にしていた。

そして、ピッチでプレーと声で人を動かし、チームを動かしてきた。「紗希は声が大きいからどこにいてもわかります」と、高倉麻子監督は冗談交じりに話していたことがある。実際、大勢の観客が入ったスタジアムでも、スタンドから熊谷の指示が聞こえてくることがよくある。
その中で、自分の考えを伝えるだけでなく、しっかりと相手の主張を受けとめる度量も、熊谷をリーダーたらしめている部分だろう。

フランスで行われるW杯を、熊谷は心待ちにしている。

「準決勝、決勝の会場はリヨンで、自分のホームスタジアムでもあるので、すごく縁を感じるし、ヨーロッパでプレーしている分、知っている選手も多いので楽しみです」

残り100日を切った本大会に向け、組織としての底上げを図りつつ、新戦力の選手たちをいかに生かすのか。フランスはシーズン中のため、熊谷は1月の国内合宿には参加しておらず、今大会で初めて一緒にプレーする選手も少なくない。難しい状況であることは変わりないが、その経験でチームを支えてほしい。

文・写真 : 松原渓

松原 渓 (まつばら・けい)

東京都出身。女子サッカーの最前線で取材を続ける、スポーツジャーナリスト。
なでしこリーグはもちろん、なでしこジャパンをはじめ、女子のU-20、U-17 が出場するワールドカップ、海外遠征などにも精力的に足を運び、様々な媒体に寄稿している。

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