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歌子の部屋

vol.29

特別対談企画 ゲスト:田中刑事選手

全日本選手権で2位となり平昌オリンピック、世界選手権への出場を果たした田中刑事選手、2017-18シーズンについてのお話を聞きました。

2018.4.16

田中刑事選手
田中 刑事(たなか けいじ)
田中 刑事(たなか けいじ)
岡山県倉敷市出身、倉敷芸術科学大学所属。関西大学のリンクで練習を行っている。全日本選手権二年連続2位、平昌オリンピック出場。世界選手権2年連続出場。

世界選手権を振り返って

田中刑事選手にとって今回の世界選手権は昨シーズンに引き続き2度目の出場でしたが、どんな大会になりましたか?

昨シーズンの世界選手権は、オリンピックへ向けてのアピールの場だと思って、ただがむしゃらにやりました。今回はオリンピックの後という事もあり、前回以上に頑張ろうという気持ちが強かったのですが、それでも今までに体験したことがないくらい過酷なシーズンでしたし、疲労もあり身体がついてこなかった感じがしました。コンディションの悪い中で厳しい戦いだったと思います。

ミラノへの出発前には、それまで履いていた靴が壊れてしまうハプニングがありましたね。さらに会場に入ってから、その変えた靴も一挙に慣らそうと無理やり急激に力を加えたせいか壊れてしまいました。そういうことも演技に影響しましたね?

そうですね。靴が壊れたのは出発の5日前でした。ミラノについてからの練習の時に変えていた新しい靴が壊れたときは、靴と一緒に心も折れそうになりました。

林(祐輔)先生から、現地の練習で靴が壊れたと連絡を受けた時、私も2人の気持ちを考えると、心が折れそうでした。私は連絡をもらった日の夜にミラノに向かう予定だったので、出発までの短い時間の中で田川(裕士)さんに大急ぎで古い靴を直してもらい、私が手運びで空輸するという総力戦になりました。しかし運んだ靴を公式練習で履いてみたらやっぱり柔らかすぎて使えず、林先生が短い公式練習の間にまた新しい靴にエッジを付け替えて残りの公式練習も続行したり、林先生も刑事君も苦しんでいるのが見えたので、私も本番中はしんどかったですね。それでも、必ずこういう経験は今後生きてくると思うので、来シーズンへ向けて頑張っていってもらいたいと思います。競技生活での経験は、一つとして無駄なものはありませんから。

今シーズンを振り返って

今シーズンは、4年に一度のオリンピックシーズンということで、特別だったと思いますが、振り返っていかがでしたか?

僕はオリンピック代表に選ばれるかどうかもわからない位置にいたので、どうしても結果を出さなければいけなかったですし、色々な試合で自分をアピールしなければいけない一年だったと思います。本当に結果に追われる一年だったと思います。

その中でも足を痛めてしまってGPシリーズのロシア大会に出場できなかったり、その他にもアクシデントもあったりしましたね。

はい。本当に色々ありました。アクシデントの度にもちろん不安になりましたし、出遅れてしまったと落ち込むこともありました。

そんな中で全日本選手権では素晴らしい演技を見せてくれましたね。事前には身体を限界にまで追い込むような非常に過酷な練習も行いました。よく耐えて成長してくれたと思います。

全日本選手権前のGPシリーズでは、まったく自分自身をアピールすることができませんでした。だから僕には全日本選手権しかなかったんです。事前の練習もすごく苦しかったのですが、これ位やらないとダメだと思ってやりました。

本当にフラフラになりながら、頑張っていたと思います。

結果としてオリンピックにも出場できましたし、今考えても絶対に必要な練習だったと思います。

平昌オリンピックを振り返って

初めてのオリンピックでしたが、大舞台はいかがでしたか?

コンディションの調整など、事前準備はしっかりできていたと思うのですが、本番で力を出すことができず、非常に難しい場所だという事を知りました。

最初は団体戦のフリーに出場しましたが、いつもと違う感じはありましたか?

団体戦では選手たちのショートプログラムの演技を見ていて、思った以上に荒れていたので、自分は頑張らないといけないと思いました。それで気負ってしまったというか、もっと思いっきりやれば良かったと思いました。

その後シングルが始まるまでの間、数日あったと思いますが、どんなことを考えていましたか?

そうですね…。団体戦が終わった後、正直一回落ち込みましたよね。決して調子が悪いわけではなかったので、どう立て直そうかと悩みましたし、プレッシャーをすごく感じていました。

改めてオリンピックを戦い終えてみて、いかがでしたか?

あっという間に終わってしまったというのが一番の感覚ですね。団体戦も緊張しましたが、個人戦が特に緊張しました。会場に入った瞬間から周りの空気も今まで味わったことがないものでしたし、お客さんの熱を強く感じました。

オリンピックはスケートのファンだけではなく、オリンピックを楽しみに来ているお客さんもいるので空気が少し違いますよね。本当にすごく良い経験になったんじゃないですか?オリンピアンになったんですよ!

はい。良い経験になったのは間違いないと思います。

4年に一度というチャンスも掴んだわけですから、その経験を次の人たちに是非伝えていって欲しいと思います。

おっしゃる通りだと思います。

長光歌子(ながみつ うたこ)
長光歌子(ながみつ うたこ)