フジテレビパラスポーツ応援サイト
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vol.5
文=田中ウルヴェ京
2016年8月15日
2016年8月10日(木) 開催
PARA☆DO!サポーターで、トークMCの
田中ウルヴェ 京さんによる対談後記をお届けします。
いつもは田中さんのリードでスタートするトークも、今回は鈴木選手のペース?で爽やかに進行
本番前の控え室。私は予定より早く着き、勢いよくドアを開けると、すでに鈴木選手が。「あ、田中といいます、はじめまして」と挨拶すると、「以前、田中さんのキャリアの講義に参加したことあるんですよ」と鈴木さん。そして間髪入れず、「あのですね、田中さん、今日の対談で変更したい部分があって、ページでいうと、、、」といきなり本題へ。今改めて思い出すと、私たちは名刺交換もしないまま、「今日は暑いですね〜」みたいな軽いジャブもないまま、「ドンと始まった」。そんな感じでした。いつもなら「選手が話しやすいように」と、私が雰囲気を作るような感覚がするのに、今回は、なんというか、鈴木選手と話すのは初めてなのに、あたかも何年も一緒の同僚に「おう、元気?」のような感覚がしました。
その理由は、対談中にわかってきました。この「無色の感覚」・・・。「そうだ。ナショナルトレセンでオリンピック選手と話してる感覚だ」でした。
競技用の義足に履き替える一連の動作を実施
印象深かったのは、事故前と事故後の「鈴木徹」のトランジション期間を言葉で表現してもらった時です。通常、パラアスリートは、いわゆる「乗り越えてきた感」を教えてくださったりします。「乗り越える」ということは、つまりは「いったん落ちた」という経験知があるということです。この「落ちた自分」を言語化できることがじつはメンタルタフネスだったりします。ウソの自分をまとい、「全然大丈夫ですー!」みたいな人の方が、「じつは乗り越えられてない」心理を潜ませていたりします。その点で、パラアスリートは、「乗り越えたこと」によって、新しい自分を再構築し、競技に専念されておられる様子が多く見受けられます。
しかし鈴木さんが使った言葉は「そうですね。乗り越えてないし、耐えてもない。前の自分から次の自分にスライドしたって感じです」と、手で「並行移動しているような身振り」をしました。そもそも、「スライド」と簡単に表現されておられる期間は、鈴木さんにとって本当に壮絶かつ過酷なリハビリだったのに、です。
「スライド」・・・。そうであれば、聞いていいだろうか・・・。心理屋の自分としては鈴木さんに聞きたくなってしまいました。言葉を選ぼうとしましたが、いやいや、鈴木さんには、まっすぐに聞くべきと決めました。
「もしや、、、事故はあってよかったと思っておられますか?」
鈴木さんは、私を両目でしっかり直視しておっしゃいました。「はい。よかったと思ってます。ハンドボールやってたころは、自分というものを頑張って作ってたんです」。事故によって、「足をなくすことで」、自分の出したくない部分ですら出さざるを得なくなり、結果的にそれこそが「もともとのご自身」であったというのです。
ああ。そうだ。オリンピックとかパラリンピックとか関係ないんだった。足があろうとなかろうと、もともとのご自身=アスリートでおられることは何にも変わってない。そんな理解をさせていただきました。
鈴木さんはこれからリオにご出発です。走り高跳びという競技は、「必ず最後は失敗で終わるんですよね」という言葉には重みがありました。一つ一つ自分が設定したバーの高さを跳び続ける。その経過を「人生と一緒なんですよね」とも教えてくださいました。
リオに向かう鈴木選手へ贈った言葉
The greatest thing in your life is being who you are
今回の対談での私がまとめたメンタルエッセンスは「The greatest thing in your life is being who you are(自分自身でいることが人生で最も大事なこと)」。鈴木さんが、あるがままのご自身「で」、リオでの「人生の課題」を跳び超えていかれますように・・・。今回もありがとうございました。