フジテレビパラスポーツ応援サイト
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vol.1
文=高樹ミナ
2016年5月12日
記念すべきインタビュー第1弾は「PARA☆DO!」サポーター・田口亜希さんの登場です! 射撃日本代表として、アテネ、北京、ロンドンと3大会連続でパラリンピックに出場。現在も企業で働きながら競技を続けるかたわら、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会アスリート委員を務めるなど多方面で活躍しています。そんな田口さんが伝えたいパラスポーツの魅力に迫ります!
前方の標的に集中する田口さん
―パラアスリートの中でも経験豊富な田口さん。ベテランの域に入ってきましたね。
射撃のことはともかく、他の競技についてはまだまだ知らないことばかりで。そういう意味では、パラスポーツ初心者です(笑)。特にパラスポーツ特有の体の障がいに応じたクラス分けは、競技によって違うのでさっぱり。射撃の場合ですと、下肢障がいの選手が自力で銃を支えて撃つ「SH1」と、上肢障がいの選手がスタンドを使って撃つ「SH2」とに大きく分かれていて、さらに障がいの程度によって6つのクラスがあります。これが陸上や水泳になるともっと細かく、たくさんクラスがあるんですよね。だから私も目下、勉強中。「PARA☆DO!」をご覧になっている皆さんと、これから幅広くパラスポーツのことを知っていきたいと思います。
実際の射撃の標的。右が10m用で左が50m用
―ぜひ、射撃の競技ルールを教えてください。
「射撃のルールは難しい」って、よく言われるんです。まず、種目は銃の種類によって分けられます。銃の種類にはライフルとピストルがあり、さらに空気銃と火薬銃とがあります。いずれの種目も決められた時間内に決められた弾数を撃ち、合計点を競います。私がやっているのは、エアライフルと火薬弾を使うスモールボアライフル。撃ち方も立射、伏射、肘撃ちがあって、私は伏射種目のほう。制限時間は50分で60発を撃ちます。標的までの距離も10、25、50mの3パターンあり、これも種目によって違います。
―ちなみに標的のど真ん中の円って、どれぐらいの大きさなんですか?
小さいものだと、10mのエアライフル種目で直径0.5mmです。そこに当たると10点もらえますが、種目によっては同じ10点でも10.0~10.9点があって、きれいにど真ん中に命中すれば10.9点になります。それが外側に外れるごとに0.1点ずつ減点されていくので、60発の合計点で争うと、最後はきわどい小数点勝負になるのです。
かなりの緊張性だと言う田口さん。銃を置いて呼吸を整える
―かなりメンタリティーが響きそうですね。
そうなんです! 特に私、かなりの緊張しいなので、パラリンピックのファイナルなんか手が震えて、弾がうまくつかめなくなるんです。手が震えると銃もぶれて狙いが定まりません。射撃では「銃は心臓の鼓動を拾う」と言いますけど、本当にそのとおりだと思います。あまりにも緊張が激しいときには一旦、銃を置いて、呼吸を整えるようにしています。
―ルーティンみたいなものはあるのですか?
あります、あります。私の場合、「銃に弾を込める」→「構える」→「目を閉じる」→「呼吸を3回する」→「目を開ける」→「息を吐いて撃つ」というのがおおまかな流れです。重要な局面になると、「この一発を外したらどうしよう」と不安になり、恐怖で撃てなくなることもあります。そんなとき、このルーティンで普段の自分を取り戻し、負の連鎖を断ち切るのです。
―その辺はオリンピック競技もパラリンピック競技も同じですね。
障がい者スポーツという大きな枠組みでは、リハビリテーションの意味合いが大きい場合もありますが、パラリンピックをめざすレベルでは、正真正銘、結果を追い求める競技スポーツです。高い目標を掲げ、そこに向かって挑戦するアスリートの姿は障がいの有無を問いません。
終始賑やかな中にも、凛とした人柄が伺えるインタビュー現場
―田口さんご自身は車いす生活になる前と後で、障がいに対するイメージはどう変わりましたか?
私は25歳のとき、病気で車いす生活になったんですけれども、それまで障がいのある方というのは、大変な思いをして頑張っている人というイメージでしたよね。実際、自分も車いす生活になった途端、何をやっても「頑張ってるね」って褒められますし。例えば、「ご飯の仕度はどうしてるの?」と聞かれて、「私が作ってるよ」と答えると、「えらいね」って。でも、みんなやってることですよね? そういう意味では環境さえ整えば、障がいがあってもできることはたくさんあるってことを知ってほしいし、パラスポーツはその良いきっかけになると思うのです。
―どんな部分でそう思いますか?
例えば陸上競技なら、「義足を履けば、片足でもあんなに速く走れるんだ!」とか、車いすバスケやウィルチェアラグビーでは「車いすでそんなに激しくぶつかっちゃうんだ!」とか、初めて試合を見た人の多くが競技性の高さにびっくりされるんです。障がいの度合いによって、できることは変わってきますけど、パラリンピックを発案したルートヴィッヒ・グッドマン博士の「失ったものを数えるな。残されたものを最大限に生かせ」という有名な言葉どおり、持てる体の機能を最大限に生かし全力で戦うアスリートの姿を見れば、純粋に人ってすごいなと思ってもらえるはずです。
インタビュー時間が大幅に過ぎてしまうほど、話は尽きなかった…
田口亜希さん(左) インタビュアーの高樹ミナさん(右)
―パラスポーツは普及してきていると感じますか?
私が2004年のアテネ大会で初めてパラリンピックに出た頃、まだパラリンピックといってもピンとこない人がかなりいました。その頃に比べれば認知は広がっていますよね。でも、普及にはもっと身近にスポーツできる環境や、そのための指導者を増やす支援が必要だと思います。現状ではバリアフルな体育館とか、会場までのアクセスの不便さとか、解決しなくてはならない課題がたくさんあります。民間企業の協力も募るなどしながら、障がい者が気軽にスポーツを楽しめる環境を整え、パラスポーツの裾野を広げていくことが、ますます必要ではないでしょうか。
―パラスポーツを通じて、何を伝えていきたいですか?
人間の持つ可能性です。私も過去3度のパラリンピックを経験し、いろいろな選手と出会って、それを肌で感じてきました。パラリンピアンは勝つために真剣勝負をしています。でも、最初は身近な目標を持ち、目の前のことを一つ一つクリアしてきた人ばかりだと思います。私もそうでした。できることを一つ一つやっていたら、パラリンピックという思いもよらない大舞台に立っていたんです。そんなふうに、人には自分でも気づいていない可能性があるってことを、見る人に伝えていけたらいいなと思います。
―2020年には東京でパラリンピックが開かれます。成功のカギは何でしょう?
会場をお客さんで満杯にすること、これが一番だと思います。日本の皆さんには日本人選手の応援だけでなく、ぜひ海外の選手の応援もお願いしたいです。2012年ロンドンパラリンピックではイギリスの試合に限らず、地元の人がほかの国や地域の試合も大勢見に来てくれて、会場は毎日にぎわっていました。東京もあんなふうに盛り上がってほしいです。東京パラリンピックの成功は、2020年以降のパラスポーツの普及と障がい者への理解につながっていくと信じています。