2019.5.20 MON. UPDATE INTERVIEW #06 黒羽たまき役 山口紗弥加さんインタビュー

最初にこの企画を聞いた時の印象からお願いします。
「私たちが検査でレントゲンを撮ってもらっている方たちってお医者さんじゃなかったんだ。スペシャリストの方たちに撮ってもらっていたんだな」と思ったのが正直なところです。放射線技師は医師ではない、ということに驚いたというか。お話を伺うと、技師さんの技術によって見えるもの・見えないものが出てくることもあって、それによって読影する医師の判断が変わってくるということで…。私が日頃お世話になっている医師の先生は、読影の際に必ず技師さんの意見を聞くとおっしゃっていました。たまきのセリフで、「患者さんを治せるのは医者だけで、私たちは検査したら終わり」というのがありましたけど、縁の下の力持ちどころか、技師さんなくしては病気を見つけることはできないわけですよね。だから、これまでクローズアップされていなかったことが不思議でならないというか。今後、病院を選ぶ基準が、「この技師さんに撮影してもらいたい!」という方もいらっしゃるかもしれませんね。知らなかったことがたくさんで、勉強になります。さまざまな分野の専門家に直接お話を伺えるのは、この仕事の醍醐味ですよね。
職業ものとしてもとても面白いです。
医療ものは、花形といわれる外科医のイメージがすごく強くて、インパクトのあるオペシーンとかを求めがちだと思うんですけど、このドラマは放射線科のチーム医療をメインにしつつ、医療ミステリーであり、ヒューマンドラマでもあり、そこにキチンと“月9”的な恋愛要素も含まれていて、こんなにいい題材ってないんじゃないかな、何でもっと早くドラマにならなかったのかな、と思いました(笑)。
公式サイトにも、現役の技師さんたちや、病院で技師さんにお世話に
なった方からのメッセージが寄せられています。乳ガンの疑いが
あったたまきさんのお話(第3話)もとても反響が大きかったです。
それは本当に有難いことです。作品を世に発信するという仕事に携わっている以上、何かが確かに伝わっているという実感を得られるのはうれしいです。この仕事の意義というか…。「私たちがやっていることって何の意味があるんだろう?」、「私、何やってるんだろう?」みたいな気持ちに陥ることもないわけじゃないんですけど、今回の作品に関しては…先日、バラエティー番組でご一緒したある女優さんに、「3話の乳ガンのお話を見て、こういうことがあるからキチンと検査を受けないといけないんだよ」ということを娘さんに伝えられた、と、思いがけずお礼を言われて感激してしまって。この仕事の意義を、改めて感じることができました。
たまきというキャラクターを演じるにあたって、特に意識されたことは?
キャラクターの人物紹介そのまま、ドSで男勝りで…ということですかね(笑)。初日の現場で監督から言われたのは、「たまきさん、やるよね!?」って(笑)。「やるよね、ってどういうこと?」って思ったんですけど、まあ、台本に書かれてなくてもドSっぷりを正しく発揮してくれるよね、みたいな…?  わからないから自問しながら、色々悩みながら、プレッシャーを感じながら、演じています。悪目立ちはよくないし、裏ボスとしての存在価値も高めておかないといけないし…裏ボスということは全員の仕事、人間性を把握して、チームをコントロールできる仕切り役ということでもありますからね。たまきへの信頼を、まずは勝ち取らなきゃと。浜野謙太さんと私の二人だけ、監督から「君たちは、やるよねー?  頑張ってねー?」と言われてしまいましたから、ふたりでこそこそ、「こうした方がいいんじゃない?」、「ハマケン、それやる?  じゃあ、私はこうしようかな」みたいなやり取りをしています(笑)。でも、たまきのドSっぷりって、ただ単純に強く出る性格ということだけではなくて、例えば裕乃(広瀬アリス)に対して「技師は検査したら終わり」っていうことを何度も繰り返し言ってるんですね。そこまで強く言うのは、多分、若かりし頃のたまきも、裕乃と同じように情熱の塊で。一生懸命に患者さんと向き合ってきた中で、技師として侵してはいけない領域があるということを学んだんだと思うんです。もしかしたら…自身の情熱が原因で、何らかの悲しい結末を経験したことがあるのかな、って。過去の苦い経験の中からの言葉だと思うんです。そのドSの裏にあるもの、たまきをドSたらしめるものは何なのか、ということを忘れないように、演じています。
たまきも患者に思い入れを抱くことで、自分自身が傷ついた経験が
ある、ということなんでしょうね。
そうですね。だから、シニカルな感じで意地悪ばかり言っているようにも聞こえるんですけど、実はその裏に、たまきなりの優しさが隠されているんじゃないかと。ただ、先輩として後輩を指導しているつもりが、3話では裕乃から患者さんとの向き合い方を学び直したり、一歩踏み出す勇気をもらったりして…結果、裕乃がいろんな人を触発して、段々と「チーム」にしてくれているような気がしています。この間、遠藤憲一さんが、長い時間を一緒に過ごしていく中で、すごくいいチームになっていってるよね、とおっしゃっていたんです。バラバラなようでいて、それぞれがプロフェッショナルとして適正距離みたいなものを測りながら、保ちながら、ある時はひとつの目標に向かってガッと集中、良い仕事して、終わればしれっとすましてて。すごくカッコいいなと思うんです。私、現場にいるときに何故かカレーを食べたくなるんですけど、「何でこんなにカレーを欲しているんだろう?」って考えた時に、この人たちってひとりひとりがスパイスで…カレーって、スパイスの調合次第でレシピは無限に広がるわけで、「このチームもそういうことなのかもしれないな」って。チームにとって良いスパイスでありたい。私なりの願いを込めて、カレーを食べたくなるのかもしれないなって。それぞれ1話ごとにどのスパイスが顔を出すかで、作品の印象がガラリと変わっていくんです。全体の雰囲気は、院長の渚先生(和久井映見)の優しくて、やわらかい、温かい空気に包まれていて。だからこそ、その優しさの中で、私たちは安心して、思いっ切り暴れることができるというか。上手いことできてるなー、と思いました(笑)。
たまきさんがインスタントラーメンを食べている姿もカッコいいです。
カッコ良いっていうか、完全におっさんですよね(笑)。軒下のセリフにもありましたけど。「これ、絶対当て書きだよな」って思いました。もう、たまきのデスクの上は飛び散ったラーメンのスープだらけ。衣装もシミだらけになって、衣装さんにも申し訳ないなと思いながらも、豪快に(笑)。
結構、食べさせられていますね。
それが、本当に美味しいんです。だから、おかわりしちゃうんです。「えっ、もうないですか?」って言われちゃったり、麺がゆであがらなくて“ラーメン待ち”になることもしばしばです(笑)。
唯織役の窪田正孝さんとお芝居されてみての印象は?
さすが、の一言です。安心感しかないです。一歩引いたところから全体を見ていて、出るところは出ていって、という。あの年齢で、というのも変ですけど、本当に素晴らしくて。杏(本田翼)から褒められて大喜びしているあの姿を演じようとすると、完全に漫画になっちゃうと思うんですけど、ちゃんと「人」なんですよね。すごくリアリティーがあって、自然。「どうしたらあんなことができるんだろう?」と思って、何か盗めるものはないかと観察しているところです。欠点がないんですよ。ひけらかさないし、弱音を吐かないし、努力を見せない人。何事においてもスマートなんですよね。しかも、座長として、「ここをこうしたら面白くないですか?」という方向性を見つけて引っ張っていってくれるし。誰一人悪い気分にさせることなく、いい気持ちにさせながら、いつのまにか、光の方に導いてくれるというか。人の器も、仕事も、年齢では量れませんね(笑)。
先ほど、裕乃さんのお話もありましたので、広瀬アリスさんとの
お芝居についても伺いたいのですが。
人を愉しませる天才です。何なんでしょう?  あのベテラン感(笑)。ホントに頼りになるんです。遠藤さんがアリスちゃんに「で、芸歴何年なんだっけ?」ってよく振るんですけど、「47年です。エンケンさんと同じです」って(笑)。それがホントにリアルに聞こえるくらいですから。3話の超音波検査のシーンで、悪性じゃなく良性腫瘍だったことがわかる場面がありましたけど、正直、テストまでは涙がでるような雰囲気では全然なくて。 でも、本番で、頰を紅潮させながら破顔するアリスちゃんを見た瞬間に、「あれ?  私はひとりじゃないのかも…」という思いと、何だかものすごい安心感がこみ上げてきて、完全にアリスちゃんに泣かされました(笑)。たまきは、年老いた母親を抱えていて、彼女自身を支えてくれるパートナーもいなくて、仕事の上でも、やっぱり技師には技師の領分があるということで、ある種の諦めの中で何とか折り合いをつけていたようなところがあって。孤独で、底なし沼の不安に押しつぶされそうになっていたと思うんです。でも、裕乃のあの笑顔で一瞬にして救われた。何かが弾けて、動き始めた瞬間ですよね。そこからたまきの行動が変わってくるんですけど、それは、アリスちゃんのあの笑顔があったからこそだと思います。窪田君をはじめ、アリスちゃん、翼ちゃん、若手と呼ばれる世代から、日々たくさんのギフトをもらっていて。ラジハの現場では、良い意味で “年齢の壁” がとり払われて、みんながそれぞれに楽しそうで、私自身、演じているという感覚がないんです。すごく気持ちがいいです。
普段から仲がいい感じも、きっと伝わっていると思います。
みんな前室に集合して、誰一人控室に帰ろうとしない現場はなかなかないな、と思います。それぞれが何かに集中している時もあるんですけど、誰かが「あれ?  これって何でしたっけ?」なんて独り言みたいにつぶやいても、誰かが必ず反応する、という。こんな幸せな現場って珍しいですよ。茨城で撮影していたときも、控室でひとつのテーブルを囲んでみんなで待っていたんですけど、ちょうど威能(丸山智己)の回が終わった直後で、誰かが「威能さんのあのシーン、よかったですよね」って言い始めたら、また誰かが「あそこもよかったよね」って続けて。そうしたら、「だったらさ、○話のあのシーンもめちゃくちゃよかったじゃん」なんて言い始めて。みんなが恥ずかしげもなく褒めたたえ合うんです(笑)。そこで励ましてもらって、「じゃあ、ここをこうしたらもっと良いかもね」っていうアイデアがポン、ポン、ポン、と生まれたり。とても愛情に満ちた現場だと思います。
最後に、視聴者のみなさんへメッセージをお願いします。
チーム医療のドラマですが、ひとりひとりの人間と、その人間たちが紡ぎ出すチーム感を描いたヒューマンドラマでもあると思うので、それぞれのキャラクターにも注目しつつ、チームとしての一体感を楽しんでいただけたらうれしいです。

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