NONFIX過去放送した番組


「日本人なのに日本映画を見ることができない 」

日本映画が盛んに評価され始めている昨今。洋画は楽しめるけれど「邦画を楽しむことが出来ない」という日本人がいるということをどれだけの人が知っているだろうか。

異なる言語を使う洋画は、字幕や吹き替えという形でフォローされ、私たちは言葉の壁を越えて様々な映画を楽しむことが出来る。しかし邦画は「日本語だから、字幕を入れる必要がない」という健聴者の一般論からほとんど字幕が入っていない。

100万人以上いると言われている聴覚障害者にとって、「字幕のある洋画しか楽しむことが出来ない」という悲しい現状。日本映画という貴重な文化財産を分かち合うことができない日本人達。
「言葉の壁」には敏感に反応する日本社会。しかし「聴覚の壁」にはかなりの遅れを取っている。


アカデミー賞6部門にノミネートされた映画「バベル」。
『言語や人種を超えたコミュニケーション』をテーマにしており、女優・菊池凛子さんがろう者の役を熱演、さらに400人にも及ぶろう者が出演者として、また、エキストラとして出演している。そうして迎えた映画の関係者試写会。招待された多くのろう者が困惑する事実が明らかになった。

日本人俳優が出てくる日本語音声の部分だけ、字幕がなかったのである。



日本人なのに、字幕がない為に自国の言葉を使っている部分だけ理解できない。この問題を深く受け止め、有志が立ち上がった。
「耳が聞こえなくても映画「バベル」を楽しめるようにしてほしい」

謙虚になりがちなろう者たちが初めて世の中に問いかけた。
その「声」に共感した40,388人の署名を手に、3月15日、日本語の部分にも字幕を入れるよう懇願した。
「バベル」の配給会社であるギャガコミュニケーションズは、上映予定の全劇場、計327本の全てのフィルムに日本語音声字幕をいれることを約束した。洋画の日本語のシーンに字幕を入れるという前代未聞の善意ある行動に出たのである。
ようやく動き出した映画業界。この動きを「バベル」だけに留めてはならない。

「『DVDに字幕を義務付ける法律』を作ってください!」と彼らは次の目標に向って動き出した。

日本映画がクオリティーを増し、世界でも注目され始めた今だからこそ
“日本人なのに自国の映画を楽しめない”という現状を、打破しなくてはならない。映像制作者である我々も気付かなかった事実。
2007年3月から2008年1月まで「当たり前のこと」を静かに訴え続ける「忘れられた人々」を追いかけた。


■企画
大竹真二
工藤明日香
■プロデューサー
大竹真二
■演出
柳原秀年
■撮影
土屋武史
■編集
井上秀明