NONFIX過去放送した番組

【番組概要】

 東京・新宿。絶えることなく人が行き交うビジネス街。その流れを邪魔せぬよう、けれども存在をアピールするかのような力強い声が聞こえる。

 「ビッグ・イシューいかがですか!」

 2003年9月に大阪で発刊された雑誌「ビッグイシュー」の販売員である。その販売員には共通していることがある。彼らは皆ホームレスだということ。「ビッグイシュー」は、1991年にイギリス・ロンドンではじまったホームレスの人々の仕事を作り、自立を応援する雑誌。

 ホームレス。
 人々は彼らの汚れた風貌だけで落ちぶれた象徴として扱ってきた。数年前に起きたホームレス暴行殺人事件でも犯人の16歳の少年はこう答えた。
「あんな人間のクズはいなくなっても何もかわらない」
ホームレスが社会に甘え、働かず、怠けながら生きていると、多くの人が考えている。確かに豊かな日本では、働かなくても食べていけるだけの支援(炊出し)が街に溢れている。しかしそれに頼ってばかりいると、いつまでたってもホームレスのまま。路上生活から抜け出したくとも、抜けられずにいるのが現実なのだ。
 いま、ホームレスが自分たちの力で未来をきりひらくため、「ビッグイシュー」を手に立ち上がった。はたして路上の未来はどこにあるのだろうか!?


【番組内容】

10万部を売り上げるストリートペーパー「ビッグイシュー」

『ホームレスはビジネスパートナーなのです。』 / 「ビッグイシュー」日本版編集長 水越洋子

 ホームレス問題を研究していた水越さんは、ロンドンで「ビッグイシュー」の存在を知る。社会に甘え、働かないと多くの人に誤解されているホームレスを本当の意味で支援することを模索していた水越さんは飛びついた。
 「ロンドンに行き、驚いたのが実物の雑誌が立派な雑誌だということ。歌手のビョークや女優のメグ・ライアンなんかのインタビュー記事も譲ってもらったものではなく、記者がインタビューしている。」
 ロンドンでは「ビッグイシュー」は週刊誌。週に18万部売れている。「ビッグイシュー」が起源となり、現在同様の雑誌は世界27ヶ国で販売。年間で2600万部売れている。その事実に驚いた水越さんは日本で発刊することを決意。ホームレスが日本で最も多い都市、大阪で会社を設立する。スタッフをボランティア団体、記者は新聞記者やフリーライターを集め、資本金2000万円で2003年9月に第1号を出版した。
 読者ターゲットは10代~30代前半。ただ他の雑誌との差別化は図った。「若者のエンターテインメントだけを扱っている雑誌はいろいろあるけど、彼らの意見や彼らの身近な社会問題をきちんと扱っているものはない」と水越さんは語る。表誌はほとんどがミュージシャン。「彼らほど若者に影響力を持つものはないでしょう」。第5号では矢井田瞳さんと自閉症との関わりを掲載し、話題になったこともある。今後もハードな記事を載せていくとのことだ。
 大阪で始まり、現在では京都、神戸、東京、横浜の街角で売られている「ビッグイシュー」。本当の意味でのホームレスビジネスが、初めて日本で始まった。

ホームレスが自立するための販売システムとは

 「最初、ホームレスを集めて販売員説明会をした時は大変でした。“こんな本売れるのか!”と怒鳴り、詰めよってきた人も多かったですし…」。
 ターゲットは10代~30代前半。記事の内容も若者向け。そのため売り手の彼らには内容がさっぱりわからない。怒るのは当然だった。しかし、内容が分からないため、売ることだけに集中する。結果として「ビッグイシュー」の狙いは正解だった。
 「ビッグイシュー」の定価は200円。販売員として登録すると、まず10冊無料で受取り、その売上げの2000円を元手に、以降は1冊90円で仕入れ、残りの110円が取り分となる。ノルマも目標もなく、自分が売れると思った分だけ仕入れる。そのため、自分のペースで仕事ができる。一方で、販売員にはルールが厳しくつきつけられる。割り当てられた場所で売る、酒や薬物の影響をうけたまま販売しないなど8つのルールがあるのだ。現在、販売員数は150名以上。発行部数は10万部。その順調な背景には月に1回行われる情報懇親会や販売員同士が自主的に開くミーティング、毎日朝8時に開かれる一斉仕入れなどがある。
 長いあいだ社会から離れていた人にとっては“話す”ことすら大変なのだ。
 今年9月から「ビッグイシュー」は月2回の発行。それにともなって販売員たちの収入も増える見積もりだ。しかしホームレスが自立するためには、まだまだ問題点が山積みである。平均日収が4000円のままでは完全な自立は難しいし、仮に貯蓄ができたとしても、日本社会には元・ホームレスを受け入れる土壌がないからだ。
「ニューヨークでは賞味期限切れ直前の食品を無償で譲り受け、ホームレスの人たちがコックになるための職業訓練コースもあるんです」
水越さんが目指すのはそれぞれの得意分野を生かした就職ができるための場を作り出すことだ。
 現在、日本のホームレスは3万人を超えるといわれている。当たり前だが、それぞれのホームレスにはそれぞれの人生が存在している。ホームレスが真に自立し、未来を夢見る時代は来るのだろうか…

貯金は1日500円。「ビッグイシュー」で夢を見るホームレス

『やっぱり働いていると、精神が落ち着くよね』 / 「ビッグイシュー」販売員 齊藤洋二郎さん

 齊藤さんは土木関係の仕事をしていたが5年前に不況のためリストラされた。現在はホームレス団体が運営する野営テントで生活する。現在58歳。毎朝8時に高田馬場の公園での仕入れは平均すると1日40冊。その後、仕事場の新宿駅西口の小田急前歩道橋まで30分かけて歩く。現場について、最初にすることは放置自転車をきちんと並べること。時間によってあいさつの言葉を変えたり、ゴミを拾うなどして、道行く人が気持ち良く歩けるようにすることが齊藤さんの戦略。
 『顔を覚え、通る度に声をかけてくれる人も多い。特に若い子たちが。それがすごく意外だったね。』
 現在の夢は家族と会うことだという。

『俺って根っからの商売人なんやろうね。』 / 元「ビッグイシュー」販売員 山中大吾さん

 山中さんは現在51歳。以前はうどん屋を経営していたが、店が潰れ、借りたお金を返せなくなり、ホームレスとなった。何度も就職活動したが、高年齢、住所不定などが原因で仕事がみつからなかった。「ビッグイシュー」の話を聞いて、飛びついた。元商売人の気質からか、たちまちカリスマ的販売員になった。平均して1日60冊売り上げた。そんな山中さんの仕事ぶりを見ていた、顧客の1人が土木現場への住み込みの仕事を紹介した。現在は朝から晩までしっかり働く毎日だ。「もう一度店を持ちたいね。小さくてもいいから」と山中さんは言う。まずは屋台を持つことを目標にしている。

 他に、ディスコに通うホームレスたち、スウェーデンで行われたホームレス・サッカーW杯に参加したホームレス、ホームレス予備軍ともいえる働かない若者“ニート”など、現代のホームレス最新事情を追いかけます!

■ プロデューサー 浅野直広
■ ディレクター 後藤訓久
■ 企画 吉田 豪(フジテレビ)
■ 制作 テレビマンユニオン