NONFIX過去放送した番組

 「6人に1人」。これ、何のことかわかりますか?
 実は外国に出かけた日本人の海外トラブル経験者数です(2003年2月外務省による世論調査)。年間1700万人が海外に出かけ、90万人が海外で暮らす今、日本人がトラブルに巻き込まれる件数は想像を遥かに越えています。たいていが不注意から生じる、スリ、置き引き、強盗などの被害が、中には逆に、加害者となってしまうケースの被害もあります。
 ここにひとりの日本人死刑囚がいます。1994年12月7日、麻薬不法所持でフィリピン初の日本人死刑囚となった男。男の名は鈴木英司(スズキヒデシ)。しかし男は無罪を主張。彼に突然おとずれた転落の人生とは? そして彼が目にした驚くべきフィリピンの刑務所の実態とは? この話を他人事だと思っているあなた!
 あなたのすぐ後ろにも魔の手は忍びよっているのです!!

 「麻薬の運び屋」
 日本の友人に渡してほしいと現地の人間からお土産を渡される。
 だがその中には麻薬が隠されていて、空港のセキュリティで気付いた時には後の祭り。
 現行犯逮捕となり、実刑判決となる。麻薬保持は国によっては無期懲役、さらには死刑という場合もある。

転落

 1994年4月、バコロイドという田舎の飛行場で、鈴木氏は突然、逮捕された。空港のセキュリティを通るとき、「お土産に」と渡されたお菓子の箱の中から、なんと大麻が1500グラムも発見されたのだ。土産を渡したのは、前夜、抱いた娼婦。実は鈴木氏は、金を返すというA氏に呼ばれフィリピンを訪問していた。しかし貸した金は、びた一文もどらず、揚げ句の果てに麻薬捜査官によって身柄を拘束。自由の身にしてやると、逆にA氏に金をせがまれ、気が付いた時には死刑判決を受けていたという。
 収監されてから10年、48歳になる鈴木氏は、今なお、獄中から無罪を主張しつづけている。

フィリピンの刑務所(モンキーハウス)

モンキーハウス

 フィリピン人たちは刑務所のことを「モンキーハウス」と呼ぶ。なぜならそこは、人間という名のサルが金とボスという地位を求め、卑劣にうごめいているからだ。囚人ばかりでなく看守までもがそう呼ぶ。1995年6月6日、鈴木氏はバコロドから首都マニラのあるルソン島のモンテンルパ刑務所に移送された。そこは、第二次大戦後、山下奉文大将ら80人の日本軍人が処刑された場所だ。フィリピンの刑務所が日本の刑務所と大きく違う点は、面会人がガラスで隔てられることなく、直に堂々と会えることだ。
 だが、違いはこれだけではない。

掟(オキテ)

 モンテンルパは国が運営する刑務所であるにも関わらず、囚人たちは家賃を払わなくてはならない。さらに衣類、食事、電気、水道…すべての生活必需品が有料である。
 ここでは金の無いものは野たれ死にするしかないのだ。しかも外国人は金がありそうだということで自動的にVIP待遇になる。ところがVIP待遇とは名ばかりで、まず外国人は、部屋を買うところからスタートする。モンテンルパの囚人は6300人。その監視をわずか50人の看守で行わなければならない。
 そこで看守と囚人たちとの間で不思議な協力関係が生まれた。モンテンルパには13のギャング団があり、そのボスを「コマンダー」と呼ぶ。各「コマンダー」が中心になって縄張りにしている棟や房の治安維持に務めているのだ。

 金がかかるのは生活費だけに留まらない。
 ギャングへの上納金が毎週50ペソ(150円)。
 看守のタバコ代として毎週100ペソ(300円)。
 さらにカンパという名目の交際費が週に2、3回要請される。
 ちなみに主な生活費のお値段は、扇風機付き部屋60,000円、電気代(月)600円、水道代(月)600円。


フィリピン初の日本人死刑囚となった、鈴木英司(スズキヒデシ)さん

食事

 刑務所から唯一配給されるのが日々の食事。コーヒーカップ1杯の茶色のご飯とめざし1本。コーヒーカップ1杯の具なしスープ。これでなんと1日分。足りない分は所内のコンビニで買う。ここは刑務所であるにも関わらず、小さな町を形成しているのだ。
 売店には公営と私営の2種類ある。公営といっても実は所長が経営する「PX」という売店が所内に3箇所。私営の売店は「ティンダハン」といい、囚人たちが個々に経営している。違いは「PX」では売られていない肉や魚、野菜などが置いてあることだ。
 売り買いされるものは生活用品だけでない。マッサージや靴磨き、手紙の代筆にネイルアート、さらにマリファナ、売春婦まで…表の世界以上に無法地帯なのだ。
 塀の外のギャング団や外国人のシンジケートが買い付けにくることも珍しくないらしい。

ビッグタイム

 金がすべてを支配するモンテンルパ。では超大金持ちは?
 彼らは通称「ビッグタイム」とよばれ、その刑務所暮らしは別荘で休日を楽しんでいるようである。レンタルビデオを生業とするティー・ハンキー。彼は元最高裁判事を父に持つ殺人犯。権力を発揮して、上映前の最新映画を借しだしている。元フィリピン遊戯・娯楽協会の会長アンベッドは高額ギャンブルを取り仕切る。彼が主催するギャンブルはプロバスケットの勝敗やバカラ、1回で何万ペソもの大金を動かす。人気アクション・スター、ロビン・パディリアは刑務所内で映画撮影をやってのけた。このニュースはフィリピンのワイドショーの格好の話題となり、揚げ句の果てにマスコミを利用し恩赦を勝ち取った。
 そして最大の「ビッグタイム」がロメオ・アロスホス下院議員。罪は少女強姦。
 所内に自前のテニスコートとバスケットコート、付帯施設の喫茶店とレストランを作り、歯痛を起こした際には歯科治療室まで作った。また刑務所オフィスビル内に個人事務所があり、議員としての執務をそこでとり行った。

獄中結婚

 モンテンルパには時間的な制約があるほかは、厳しい規則がない。集団生活の掟さえ守っていれば、生活費はかかるが自由の身だ。実は鈴木氏は、刑務所慰問のボランティアの女性と獄中結婚し、2歳になる子どもまでいる。

日本大使館

 こういった犯罪に巻きこまれた時、日本大使館はどう対処してくれるのだろうか?
 鈴木氏の場合はこうだった。「事情は分かりました。しかし失礼ながら、この国やタイなどの東南アジアでは、そうした事件を起こした全ての人が“知らなかった”と言います。無実と言われるのなら弁護士を雇って裁判で勝てばいいと思いますが…」
 有罪無罪の真偽は問わず、大麻不法所持で海外に収監されている日本人は74名いるという。もしあなたに無実の悲劇がおとずれたら、一体どう対処しますか?
 あなたが鈴木氏の立場だったら、モンテンルパの生活に耐えることはできますか?
 日本人初の死刑囚、鈴木氏をとおして刑務所の驚くべき実情をドキュメントすると同時に、いつ訪れるか分からない、日本人観光客に迫る恐怖を描く。

■ プロデューサー 竹村 香(テレビマンユニオン)
■ ディレクター 鬼頭 明(テレビマンユニオン)
■ 編成 吉田 豪(フジテレビ)
■ 制作 フジテレビ
テレビマンユニオン