2019.08.27更新
三雲家のシーンより(第6話)
上のシーンの舞台となるセット
深田恭子主演で、代々泥棒一家の娘と代々警察一家の息子の許されない恋愛を描くラブコメディ『ルパンの娘』。
深田が演じるのは泥棒一家“Lの一族”の娘で、家族の誰よりも盗みの才能を持つものの、家業を継ぐことを拒む三雲華(みくも・はな)。そして、警察一家に生まれ、華と結婚するために奮闘する恋人、桜庭和馬(さくらば・かずま)を瀬戸康史が演じている。
2人は、華が“図書館司書”、和馬が“公務員”と表向きの職業を告げ交際を続けるが、ついに、素性がバレてしまう!それでも結婚を誓った2人だったが…。
深田の図書館司書として働く“昼間の顔”と、泥棒スーツ姿でアクション満載の“夜の顔”の演じ分けや、ストイックな役作りで10キロ増量して警察官役に挑む瀬戸の演技にも注目が集まるが、今回はそんな俳優陣の芝居を引き出す美術セットの世界を紹介。
番組の美術を手掛けたデザイナーの棈木陽次に話を聞いた。
※(棈は、正しくは木偏に青)
Q.“泥棒一家の家”のセットデザインでは監督からどのような要望がありましたか?
監督からは「リビングだけのセットにしたい」と言われました。通常、連続ドラマでは、登場人物の個室を作って、その部屋の雰囲気でその人の性格を表現するのですが、今回はリビングのみ、一人一人の部屋は要らない、と。
そこで、リビングの中で各人のエリアを作ろうと考えました。それぞれのエリアで個々のキャラクターを際立たせるためと、またそうしなければ、広いリビングに大量の“盗品”を置くのに、どこに何を置けばよいのかイメージしづらいし、揃える物にも偏りが出てしまうからです。
泥棒一家・三雲家のデザイン画
家にあるものすべてが盗んできた物という設定の中で、お父さん(渡部篤郎)エリアは銃や刀、野球盤、蓄音機といった“お父さんの趣味”的な物、お母さん(小沢真珠)エリアにはゴールド系の宝飾品、美容グッズや派手めの絵画、おばあちゃん(どんぐり)エリアは台所ですが、大小のざる、梅干しの瓶、盆栽、日本人形など和テイストの小道具で埋め尽くしました。
そしてリビングのセンターには『モナ・リザ』や大きくて値が張りそうな絵画、流木アートの馬、船の大きな模型など、家族皆が好きであろうクラシックな美術品を置いています。ここには華のスペースはありません。泥棒をやめたいと思っている以上、リビングに盗品を置いたりはしないという意味で。
アイデアや指示が事細かく書き込まれている
唯一、華の部屋へ続く廊下に見立てた動線の傍らに、ピンクのカーテンを掛けています。平面構造的には、普通のマンションではありえませんね(笑)。高級クラブに近いかな。全くリアリティのない、架空の住まいです。
Q.引きこもりのお兄さん(栗原類)の部屋もありますよね。
あれは個室ではなくて、ウォークインクローゼットなんです。ドアも観音開きで、入り口の左右に棚やハンガーがあって、広いクローゼットをオタクの兄が占拠しているという設定です。なぜかリビングの近くに引きこもっているという…(笑)。
華の兄・渉の部屋のデザイン画
Q.一方、和馬の“警察一家の家”は“泥棒一家の家”とは正反対の日本家屋ですね。
はい、こちらは昔ながらの日本家屋にしました。あるのは畳、縁側、床の間で、ソファーなどの“洋”を感じさせるものは何も置いていません。また色味をほとんど使わず、家具は茶系色、襖はほとんどが白の無地、カーテンすらベージュで柄なし。自宅でも黒スーツを着ているカタブツの人たちが住む、趣味的要素を一切排除した家にしています。普通でいうと「つまらないセット」ですね(笑)。
警察一家・桜庭家の平面画
桜庭家のシーンより(第1話)
Q.泥棒一家のダミーの家は、“普通の一軒家”といった印象ですが、コンセプトは?
こちらはセットではないのですが、現場に“うさんくささ”がにじみ出るような小道具を置いています。例えば、玄関の門柱の上に植木鉢をわざとらしく載せて、いかにも「本当に住んでますよ」と言わんばかりの不自然さを出したり。
華と和馬の『ロミオとジュリエット』シーンで毎回登場するベランダには花を多めに置いていますが、すべて造花です。誰も住んでいない家ですから。リビングに飾ってあるのも造花にして、生活感のなさを表しています。
Q.最も苦労した点は?
デザイナーよりも、特に大変だったのは装飾スタッフだと思います。泥棒の家が骨董品店に見えないようにするには、装飾の“盗品感”が大事(笑)。光ものなどが“金目のもの”に見えるかもその要素ですし、さらに家具なら様式が揃っていない、ちぐはぐな、“買ったように見えない品々の集合体”がテーマです。
ソファーもクラシックとモダンの両方を置いて、バラバラでありながら一つ一つの物が高級品に見えないとダメ。かつ、盗みたくなるような、どこかに目を引くポイントが欲しい。そういう物を大量に揃えるのは相当大変だったと思います。今回、映像に装飾の効果が大きく表れていて、画を見ると装飾スタッフの奮闘ぶりが伝わってきます。
デザイナーとしては、揃った品々を見て、この家具でいくなら壁や天井に貼るクロスはどんなものが合うかな…と、次はマッチングで悩むわけです。限られた時間でこうして進めていくのに焦りを感じながらも、同時にこの考え迷うところがやりがいでもありますね。
三雲家の平面図
細部までこだわり抜かれたドラマの美術セットにも注目しながら、現代版「ロミオとジュリエット」の行方を見守りたい。フジテレビの美術の仕事をまとめた「フジテレビジュツのヒミツ」では、ほかにもドラマ、バラエティなど、さまざまな番組の裏側を紹介している。
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