2019.08.16更新
上野樹里が『のだめカンタービレ』以来、13年ぶりに月9主演を務め話題の『監察医 朝顔』。上野が演じている万木朝顔(まき・あさがお)は、事件で命を落とした遺体の“生きた証”を見つけ出すため、遺体と真摯に向き合う新米法医学者だ。
朝顔の父親の万木平(まき・たいら)を演じるのは時任三郎。父としてだけでなく仕事相手としても娘に寄り添うベテラン刑事を演じている。朝顔は解剖で、平は捜査で遺体の謎を解き明かし、遺体から見つけた“生きた証”で、残された人たちの心を救っていく。しかし、父娘も悲しい過去を抱えていて…。
今回はそんなドラマを支える美術セットの世界を紹介。番組の美術を手掛けたデザイナーの宮川卓也に話を聞いた。
Q.前クールの『ラジエーションハウス』に続く医療ものですが、法医学ドラマのセットならではの特徴的なところはありますか?
法医学ドラマを担当するのは初めてだったので、このドラマに決まってからまず、都内の病院の解剖室などの取材に行きました。普通は病院といえば治療をする場所ですよね。ところが法医学研究室は人を治すところではないので、病院とは雰囲気がまるで違いました。部屋の中に金づちやざる、虫よけテープなど、病院では目にしないものがたくさん置いてあって…。ですから、セットにもそういったもの、ナイフ、バケツ、掃除機などを置きました。
興雲大学・法医学教室、研究室
Q.特にこだわったデザインは?
メインセットとなる解剖室のクロス型デザインです。四角いスペースの真ん中に大きく、十字架のような形で解剖スペースを設けて、四隅に保冷庫や、隣接する設定の警察官控室などを置きました。クロス型にすることで、単純な四角形の広くてゆるんだ空間では出せない、締まった空気感を作って、同時に、撮影で使えるスペースと映って見える奥行きもとれるようにしています。芝居の動線も、直線でなくぐるりと回り込むことになるので、単調でない深みのある動きになるかな、と。
保冷庫は実際には解剖室の中にありませんが、解剖室の画を引き立てる強いアイテムとして、同じ部屋の中に入れ込みました。また警察官控室は、対角線上から撮ったときに映り込ませて奥行きを見せる役割もあるし、そこからガラス越しに解剖の様子が見えるようにして、警察官と監察医たちとのやりとりの芝居もできるようにしています。
Q.朝顔の自宅セットのデザインで意図したものは?
自分の中でのコンセプトは「夏を感じる、懐かしさを覚える家」。そこから、古い家の象徴ともいえる縁側と庭を設けて、朝顔と父親が向き合う、メインスペースとなる居間のすぐ後ろに置きました。それともう一つ、古い民家にあるような回り廊下も、庭を囲む形で取り入れました。古い家屋の雰囲気を出すためと、物理的にも庭越しに回廊のこちら側と向こう側とで会話ができるし、庭からのアングルで回廊を歩くシーンを撮ることもできます。
万木家
1階の居間~台所
Q.“懐かしさ”以外に、家のセットでこだわった部分は?
「行方不明になっている母の帰りを待ち続ける家」として、居間に鏡台や藤のたんすを置いて、母親の面影が随所に感じられるようにしています。朝顔の部屋は、女性が好むような小物の装飾を極力省いて、おしゃれでない、まじめさを強調したセットにしました。ピンクなどの暖色もほとんど使わず、白木を見せて素朴な空気感を出したりもしています。
朝顔の部屋
実際の朝顔の部屋
Q.セットデザインにあたって配慮したことは?
主張しすぎるセットにならないように気を付けました。ドラマのセットは、内容によって独特のデザインを求められることもありますが、このドラマではロケ(撮影)とセット(での収録)の画の境界が明白に出ないように気を配りました。今回、セットはあくまでも空間の一つ、人間模様をしっかりと見せるためのツールだという意識をストッパーにして、やりすぎないようにしました(笑)。個性を出しすぎない、それでも味わいがある。そういうセットを悩みながらデザインしていくのはこの仕事の苦労でもあり、楽しさでもありますね。
ドラマの世界観を彩るだけではなく、俳優陣にとっては芝居を引き出す場でもある美術セット。デザイナーのこだわりを聞くと、見る目も変わってきそうだ。フジテレビの美術の仕事をまとめた「フジテレビジュツのヒミツ」では、ほかにもドラマ、バラエティなど、さまざまな番組の裏側を紹介している。
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