2019.02.20更新
フジテレビ今季の月9として放送中のドラマ『トレース~科捜研の男~』。警視庁科学捜査研究所(科捜研)を舞台に、錦戸 亮さん演じる法医研究員・真野礼二が鑑定結果から真実を見つけ出し、新人法医研究員・沢口ノンナ(新木優子)、ベテラン刑事・虎丸良平(船越英一郎)らと共に事件を解決に導いていく一話完結のドラマです。
第6話からは新章に突入し、かつて陰惨な事件に巻き込まれた真野の過去も徐々に明らかに。ますます見逃せない展開ですが、毎回リアリティーあふれる現場が再現されているのも見どころ。ふだん知られることのない科捜研の活動は興味深く、見入ってしまいますよね。そんな緊迫感ある事件現場や、真野たちの捜査のリアリティーを裏側から支えているのが、ドラマの美術セットなんです。
今回は、これらの美術セットを作る上でのこだわりや、美術スタッフの裏話をお届けします。
ドラマの舞台となる科捜研。一般の人には立ち入ることができない、謎に包まれた場所です。
存在感がある、こちらのレンガ造りの柱。材料はなんと発泡スチロールとのこと。大道具スタッフが塗装による汚しや剥がしの技術で、歳月の経過が感じられるように加工しています。
監督から「ダークな世界観で、レンガも欲しい」と要望があり、視聴者から「こんな科捜研ないだろ~」とツッコまれるのを承知で、あえてブルックリンスタイルにしたそう。あくまでもフィクションですから、作品の世界観を伝えることを意識されているんですね。
通路を挟んだラボスペースには、本物の最新分析機器が多数置かれています。
事件の謎を解くカギは科学による鑑定結果にあり。ラボスペースでの鑑定シーンにはリアリティーが何より求められます。
たとえば1話では「花」が事件を解くヒントの1つに。シーンが進むにつれて少しずつしおれていきましたが……。
実は、舞台裏ではアートコーディネーターが同じ花をたくさん仕入れ、その場面ごとにふさわしい状態の「花」を準備していたのです。
さらに、ドラマを盛り上げるリアルなビジュアル表現も。この「手」は、特殊造形スタッフが作った本物そっくりの作品。材料は通常シリコンで、泥汚れや傷、爪の表現など、緻密な作業を要します。
そして、事件現場につきものなのが「血」。動脈から噴き出した鮮血、時間がたって凝固した血など、場面ごとにふさわしい色を選んで表現しているんです。
赤だけでなく、黄色や青い染料の配分で絶妙な色合いを作り出す特殊効果スタッフ。壁には手作りマシンで血しぶきを吹き付けます。
1話限りの事件現場でも、スタジオにセットを建てて撮影。これだけ血まみれになる上に、たとえフィクションでも「殺人事件の現場」になるので、建物を借りてのロケは難しいんだそう……。
さて、ここで番組の美術を手掛けたデザイナーの坪田幸之さんにお話を伺いました。
――今回のセットは実際の科捜研を模したものですか?
「科捜研は、警察の本部内にあるということ以外、一切の情報を公開していないので、内部の構造がまったくわからないんです。ただ、原作者の古賀 慶さんが科捜研の元研究員ということで、唯一のリアルな参考資料として、ひたすら原作を検証しました。あとは、民間の科捜研の方に話を聞いて、デザインを積み上げていきました」
――苦労した点はありましたか?
「部屋の位置関係をどうするかですごく迷いましたね。事務室、検討室、前処置室、DNA鑑定室、クリーンルーム……と1つのスタジオ内に部屋をいくつも作らなくちゃならないので。それに、毎回の事件現場に加えて真野の実家のセットも置くので、科捜研のメインセットにはスタジオの2分の1しか使えない。その中でいかに広く見せるかが課題でした」
――具体的にはどのような工夫を?
「研究員達のデスクが並ぶ事務室と、虎丸刑事と話をする検討室は芝居が多いので広くして、それ以外は合体させて1部屋に入れました。あとは奥行きを長く見せるため、廊下の天井に付けたダウンライトの間隔を奥にいく程狭くしています。ほかにも、鑑定室側の並びの床を少し高くして天井を低くすることで、鑑定や処置をする部屋に圧迫感を出して、逆側の事務室など会話が多い部屋には開放感が出るようにしています」
――特にこだわったところはありますか?
「光の色味です。暖色系の光は和やかな空気感や人物の味わいを醸し出すので、事務室や検討室にはアンバー(オレンジ)系のライトを使って、照明の数も多く入れています。逆に、鑑定をする部屋などにはブルー系の光を。そちら側の並びの部屋には“続き窓”を付けて、夜のシーンでは真っ暗、明け方は光を差し込ませて時間の経過を表します。光とセットのコラボで織りなす世界観をぜひ見てください」
このように、フジテレビのドラマのリアリティーは、美術スタッフさんの努力や工夫に支えられているんですね。「フジテレビジュツのヒミツ」では、ドラマやバラエティなど、さまざまな番組の裏側を公開中。ぜひ一度、チェックしてみてください。
文=小林麻美
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