#62 長野県千曲市
2004年10月12日放送
小石の湯
昔、千曲川のほとりにお政という可愛く賢い娘がおりました。ある夏のこと、娘は往来で腹痛に苦しんでいる若者を見つけ、心をこめ看病したお陰で若者は元気を取り戻しました。その若者は米吉といい、たちまちお政に心を奪われてしまいました。実はお政も同じ気持ちでした。やがてお政に縁談がもちあがり、孝行娘のお政は米吉のことを胸に秘めたまま同意したのですが、何と縁談の相手は米吉だったのです。二人に異存のあるはずがありません。結婚を間近に控えた米吉は所用で江戸に出掛けましたが、予定を過ぎても戻ってきません。心配したお政は近在の霊験あらたかな十一面観音様に願をかけ日参しました。
ある日、お政の夢に一人の老人が現れました、老人は米吉の無事を告げ、「そちは『信濃なる千曲の川のさざれ石も』という歌を知っておるかな。」と尋ねました。お政は「はい、存じております。万葉集の東歌『(後歌)君し踏みてば玉と拾はむ』と教わりました。」と答えました。老人はほほ笑んで「この歌のように米吉の踏んだ千曲の川石、それも角のとれた赤い小石を百個拾い上げるなら米吉は帰ってこよう。」と言って去りました。
観音様のお告げと、お政はそれから毎日河原に出て角のとれた赤い小石を探しました。九十九個になりましたが、最後の一個がなかなか見つかりません。身体をこごらせながらある朝も出かけますと、一つの人影が右手で河原を指差します。そしてそこからは湯気がたちのぼり温かい湯が流れ出しているではありませんか。その湯で手足をあたためつつ探すうちに図らずもお政は百個目の小石を見つけたのでした。夢のお告げのごとくその日のうちに米吉は江戸から戻りました。以来、このいで湯は「小石(恋し)の湯」と呼ばれました。
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