#58 青森県 横浜町
2004年9月7日放送
十符の浦風
昔、野辺地にスガヅチという男がいた。小船を操って魚を採っていたスガズチはふとしたことから、この地に流れてきた女と知り合う。毎晩、男は時間になると小船でひっそりと女に会いに来ては逢瀬を重ねていた。ある晩、別れ際に女が何か、小さな紙包みを男に渡した。男は大切に懐にしまい、別れを惜しみながら船を出す。
その晩、遅くなって大嵐となった。海はみるみる近くの集落を飲み込んでいった。女が住んでいた集落も飲み込まれ、男は何度も女の名前を呼び探したが、その声も濁流にかき消されてしまった。男は涙ながらに、昨日貰った紙包みをほどいてみた。それは美しい短冊で、細い字で歌が書かれていた。
「見し人は 十符の浦風音せぬに つれなくすめる 秋の夜の月」
[0]もどる
(C)フジテレビジョン