#47 栃木県 足利
2004年6月22日放送

  • 笛吹坂

  • 昔、足利市明月院という寺に「信光」という修行僧がいた。京都から明月院に預けられていた彼は寂しくて仕方なく、故郷の家族を思い出しては毎晩得意の笛を吹いていた。彼が吹く美しい笛の音は、明月院の近くに住む豪族の娘「菊江姫」の耳に届き、姫はいつからかこの笛の音に合わせて琴を弾くようになった。ふたつの音は一つに溶け合い美しい調べとなって山の麓に流れた。
    そんな夜が続いていたある日、笛の主に逢いたくなった姫は、明月院に通じる坂まで来ると坂の中ほどにある松の木にもたれて笛を吹く美しい少年と出会った。それから姫と信光は毎晩その坂で逢瀬を重ねた。
    しかし、二人の恋の噂が明月院と姫の両親の耳に入ってしまう。この時代、豪族の姫君と修行僧が恋するとはもってのほか。ふたりは強引に引き離されてしまった。信光が毎夜いくら笛を美しく吹こうとも二度と姫は姿を現すことはなかった。姫が心配でならなかった信光は食事も喉を通らず、重病にかかり、ついには息絶えてしまった。
    信光に逢う事を禁じられていた姫の耳にその悲報が入る。泣き崩れる姫の耳にはあの愛しい信光の笛の音がずっといつまでも聞こえていたという。
    その後、ふたりが毎夜逢瀬を重ねた坂を「笛吹坂」と呼ぶようになり、この悲恋が語り継がれた。

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    (C)フジテレビジョン