『わが家の歴史』
[プロデューサー ここだけの話]

vol.02 キャスティング〜3つの不安〜
脚本の初稿を待ってたら間に合わなくなるので、三谷さんのプロットをもとにキャスティングを進めていきました。三谷さんと打ち合わせして決めたキャスト案をもとに役者さんの事務所に当たっていく作業です。今回はトータル8時間枠ですから、これまでにお付き合いがない方も多くて、タレント名鑑で電話番号を調べて「はじめまして、お時間いただけますか…」と、飛び込みセールス?みたいなこともよくありました。プロットをお渡ししてご説明したいとお話しすると「フジテレビに行きましょうか?」と言って下さるマネージャーさんも多いんですけど、できるだけこちらから出向きたい。自分なりのジンクスなんですけど、その方が成功率が高いんです。それから一週間、人によっては数週間、不安で不安で祈るような気持ちでお返事を待ってるんですけど「お受けします」を聞けると、神に感謝!脳内にロッキーのテーマが流れてくる感じです(笑)。その後しばらくは自分に悪いことが起きてもヘッチャラ!な感じ。
2009年秋からの撮影に向けて、春にはメインキャストが固まって来ました。知り合いのプロデューサーに会うと「映画何本分?ドラマ何本分?のキャストを押さえるんだ。そんなに押さえるからうちはキャスティングに困ってるんだ」と言われたりしました(笑)。まだ発表になっていない方も含めると、このドラマには主役級40人以上が出演しています。三谷さんの企画に魅かれてお受けいただいたわけですが、日本の映画・ドラマ史上、こんな豪華キャストはかつてない、そしてもう二度とないと言い切れるものになっていきました。
それはとてもありがたいことのハズなんですが、クランクインが近づくにつれて私の中で新たな不安が頭をもたげました。レアル・マドリードが必ずしも世界最強にならないように……主役級だらけのこのギャラクシー軍団はシーンとして成立するのか? 現場はうまくいくのか? 不安はどんどん膨らんでいきました。でも、ギャラクシー問題(笑)は撮影が始まるとすぐに解決しました。普段は主役でフレームのド真ん中にいることに慣れている方が、今回はフレームに入っているかどうか、ピントも合っているかどうか、そんな存在になってしまうこともある。でも、そんな場合でもみなさんテストの段階から脇に回った時の演技に真摯に取り組まれる、One for Allに徹して下さる。後々お話しして知ったのですが、皆さん今は主役級だけどそれぞれにご苦労なさった時期もあった。謙虚さが根づいた方々だったからうまく行ったんだと思います。
でも、まだまだ解決しない大きな不安もあって。すごい役者さん達がこのドラマを信じて参加して下さった。その方々のキャリアに傷をつけるようなことに決してなってはならない。それは放送が終わって、放送を見た世間の方がこのドラマをどう評価するか、それを聞くまでは消えない不安です。私は根っからの小市民気質ですし、すごい重圧です。
けど、この不安に耐える鎮痛剤みたいなものもあります。それは1年前に出演をお願いして神に祈る気持ちでお返事を待っていた役者さんやそのマネージャーさんが今は「このドラマに声をかけてもらえてよかった」と言って下さる。言葉にすると照れくさいけど絆みたいなものに出会えた。そういうことは、生きててもそんなにない気がします。もちろん役者さんにとって長いキャリアの中では刹那の出来事なのかもしれないし、そして自分自身も思いがけず出会えたことではあるけど。でも、目には見えないけど真実の瞬間が確かにあった。だから、強い気持ちを持てる。身に余る重圧、最後の不安の中、進んでいける気がしています。

(プロデューサー・重岡由美子)

もどる
0.わが家の歴史 TOP

(C)フジテレビジョン