最高の離婚
インタビュー

【vol.3】上原諒役 綾野剛さん
Q諒というキャラクターを演じるにあたって、綾野さんの中で何か特別なテーマはありましたか?それとも、感じたまま、心のままに演じるという感じでしょうか?
基本的には後者ですね。こういう作品だからこそ、現場に行って共演者のみなさんとセリフという形で会話をするという部分を大事にしたかったんです。だから、家で予め何かを作っていく、ということはないですね。ただ、何となくなんですけど、いまいち何を考えているかわからないというか、「いま、何て言ったんだろう?」というようなトーンでなるべくやれたらいいな、とは思っています。流れるようにしゃべっているので、明瞭に何かを伝えるような感じではやっていません。のどを鳴らさずにしゃべっていますね。

Qかなりつかみどころがないキャラクターですよね。
大変ですね。しゃべるのも難しいというか…。抜いてしゃべっていると、口が回らなくなったりするんです。挑戦してみたはいいけど、なかなか板につかない。役の足を引っ張りたくないので、なるべく早く身につけたいと思っています。

Q激しい感情を乗せてしゃべる方が楽、ということもあるのでは?
そうですね。あと、キチンと話した方が(笑)。エンジンがかかります。そういう方が楽ですし、声も通りますから。ただ、今回はそれをやってしまうと、"フワフワしているけど足が地についている"という妙な感じが出せないというか。声は、与える影響が大きいんですよね。諒は、光生(瑛太)みたいに自分の信念や思想みたいなものがしっかりあってしゃべっているわけじゃない…というより、信念なんか必要ないとさえ思っているので、それを技術と言ってしまえばそうなのかもしれないですけど、そこに挑戦し続けているという感覚です。

Q坂元裕二さんの脚本に関しては?
非常に難しい本だと思います。考えれば考えるほど難しくなってくるので、「考えちゃいけないんだよ」って言われているような感じすらしてきて…。「もしかしたら隣人がそうなのかもしれない…」と思わせるほどいまの時代を象徴しているし、坂元さんが見て、感じたことが投影されている感じもします。オリジナルですし、現在進行形の話なので、なおさらそういう色が出ているんだと思うんですけど…。素直に凄い強度のある本だと思いますし、深読みせずに書いてあることを真正面から受けていこうと思える本なので、二の手三の手、みたいに考える必要はほとんどないですね。だからこそ難しいとも言えるんですけど。日常に密接につながっていて、その中に、人と人が生み出す、かみ合わない感じの面白さだとかシュールさだとかも描かれていますし。演じる側から言えば、何をやっても正解になってしまうというか、不正解がないだけに何をやっていいのかとても困りました。諒という役って、どこまで誇張すればいいのか、どこまでナチュラルにやればいいのか、その判断が難しいので、現場で共演者のみなさんとともに立ち向かっている、という感じですかね。

Q表現が適切かどうかわかりませんが、諒さんはまるで呼吸をするように女性と接しているというか、あの自然な感じは凄いですね。
とても素晴らしい例えだと思います(笑)。博愛というか、人に対して垣根みたいなものがないんでしょうね。それ自体は、人として豊かな部分でもあるとは思うんですけど、やっぱり"THE人たらし"ですね(笑)。

Qこの現場で、瑛太さん、尾野真千子さん、真木よう子さんと共演されてみての印象はいかがですか?
安心感があります。根拠のない信頼感を持っています。「何でそこに信頼があるの?」と言われても、理屈じゃないというか…。いろいろな経験をなさっている方たちだから、としか言いようがないです。まあ、言葉を重ねれば重ねるほど嘘っぽくなってしまうので、ただただ、根拠がない信頼感を持っている、としか言いようがないんです。

Q尾野さんがおっしゃっていたんですけど、瑛太さんは尾野さんに対して普段から光生として接していると。綾野さんは、瑛太さんを見てそういう風に感じたことはありましたか?
どうなんですかね?真剣に受け止められると困るんですけど、ネコのじゃれあいというか、小遊びというか、常にそこには神経をとがらせておきたいようなところもあるんじゃないですかね?ずっとそういう感じだと周りにも影響が出るから、ということも考えていると思うんですよ。尾野さんがそう感じているということは、きっと彼女に対してそうしている、ということなんじゃないかと思います。僕に対しては、もちろん普段から光生みたいな感じではないですけど、要所要所で、手の感じというか…何かを飲む時の手の添え方とかが「あ、光生の手だ」と。指が揃っていたりして。でもそれは、ON/OFFっていう次元じゃないと思うんです。光生を感じていたいというか…。多分それは、みんなそうだと思います。僕もこの現場に来ると、声がフワフワしてきて、上手くしゃべれなくなってくるんですよね。で、スタッフさんとかに「前髪切ったの?」とかつい言っちゃってるんですよ。「こっちの方が似合ってるよ。かわいいね」って。自分から、ということじゃなく、それが現場の力、キャストの力なんじゃないですかね?そういう意味じゃ、「じゃあ、いまからいきます!」「あ、ちょっと待って!気持ちが…」みたいなことは100%ないですね。

Q現場に来ればもう…。
衣装を着て、その辺にいればもう。だからといって、ずっと役のことを考えているわけではないので。多分、それくらいのことですよ、ふたりで話しているときも。活字とかになっちゃうと、常にそういうこと考えているみたいになっちゃうけど、尾野さんが言ってることも…軽はずみでがざつなコメントだと思っていいと思います(笑)。自分に似せようというよりも、自分が役に寄っていこうとしますからね。タイプ的には4人ともそういう気がします。自分を捨てていく時間の方が多くなってくるんじゃないですかね?少なくても僕はそうですね。

Q瑛太さんにも、今度聞いてみようと思います。
たまに面白いことがあるんですよ。ぎっくり腰の光生を諒がかついでいくシーンがあったんですけど、2パターンあるんですよね。腰を真っ直ぐにできないパターンと、真っ直ぐにしたらもう曲げられないパターンと。「俺は後者の方だけど、光生は前者のパターンだよね」って言ったら、「嘘だろ!お前、ぎっくり腰、なってねえだろ!」っていきなり噛みついてきたり。そういうのが面白いんですよ。多分、そういう気分だったからなんですよ。だから、理由なんてあんまりないんです。

Q最後に、今後の見どころを含め、視聴者のみなさんにメッセージをお願いします。
言い続けていることがあるんですけど、1話から3話まではいちいちクスクスしちゃう。で、4話から6話か7話くらいまでは、いちいちザワザワしだすんです。もう、笑えなくなってくるんです。多分、7話くらいから最後にかけては、ギラッギラッってしているんじゃないですか。その「ギラッ」っていうのが、輝きなのか、にらみなのかはわからないですけど…。最後がどうなるのかは想像できないんですけど、想像できないことが自分にとっては凄くラッキーなことだと思えるんです。だから、みなさんにはこのまま、隣人を覗くように、こっそり見続けていてほしい。だけど、まばたきするタイミングを間違えると、一瞬でその世界は終わっていて勝手に置いていかれてしまうものになっているので、何とかつながっていてほしいな、と思っています。…あ、あとひとつだけ。さっきの瑛太さんと尾野さんことで思い出したんですけど、たまたま僕のカーディガンについていた糸くずみたいなものを尾野さんが取ろうとしたんですよ。それを見た光生は…なんかちょっと嫌だったらしいです。見たことない光景だったんじゃないですか、光生からしたら。自分以外の男に、かなりナチュラルにそういうことをする姿は、見たことがなかったし、やってもらったこともないので、結構、衝撃だったみたいです。僕が2話の最後の灯里を見て衝撃だったように…。ということは、やっぱり彼は光生のままいるんです。

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